止まらない「戦争インフレ」がトランプに強いる出血…アメリカには「不吉なサイン」が
この戦争はどのように終わるのか?
「Blockade, Blockade」という動画では「簡単だと思っていた/だがMAGAもメラニアも去る/降伏は受け入れない」といった歌詞があり、「Hormuz Hustle」では「ガソリン価格は上昇し同盟国は混乱/こちらは笑って見ているだけ」と歌う。 アメリカでは戦争に対する不支持が圧倒的に多い。民間人が攻撃される大規模なテロのような外的ショックが起きない限り、不支持は広がり続けるだろう。 現在、60%以上のアメリカ人がイランとの戦争に強く反対し、66%が早期終結を望んでいる。地上軍投入には74%が反対している。民主党支持者の90%が戦争に反対、共和党支持者の71%が支持しており党派間の溝は相変わらず大きいが、無党派層は憲法改正に必要なレベルに近い割合で戦争に否定的だ。 上院は4月15日、大統領の対イラン戦争の遂行権限を制限する決議案を52対47で否決した。同様の決議案はこれで4回、阻止されている。 しかし、開戦直後から国内でこれほど戦争の不支持が高い状況で中間選挙を迎え、その後はトランプがレームダック化することを考えれば、立法府が戦争継続を支持するのは今回の採決が最後になりそうだ。経済的負担も、軍の人的被害も、抗議活動も増え続ける一方で、戦争への支持はさらに低下するだろう。 では、この戦争はどのように終わるのか。軍事史家のフィリップス・ペイソン・オブライエンは、長期戦の勝敗は戦場での勝利や同盟の戦略的重要性だけでなく、むしろ兵站や産業力に左右されると指摘する。そして最後は、指導者の粘り強い意思決定が帰趨を決める。 これはアメリカにとって不吉な警告だ。ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)のバリ・ナスル教授によれば、イランは自らを、西側覇権への抵抗、非対称の抑止、現実主義、イデオロギーの修辞(殉教)という4つの原則で定義している。 近年のアメリカの戦争外交における大きな失敗の1つは、敵も自分たちと同じように世界を見ているという誤解だ。経済を封鎖して指導部を排除すれば、イランがアメリカの要求を全てのんで無条件降伏に応じると思っている。 確かに、ホルムズ海峡の全面封鎖はイラン経済に壊滅的な打撃を与える。年間約1100億ドルの貿易の約90%が海峡を通過している。原油を陸上で貯蔵できなくなれば数週間で石油の生産停止に追い込まれ、将来の生産能力も損なわれる恐れがある。 しかし、あるジャーナリストが指摘するように、この戦略は「イランがワシントンの考える合理性に従って圧力に反応する」という前提に立っている。だが「近年の歴史が示すとおり、イラク、アフガニスタン、ロシア、リビアといったアメリカの敵対国は、自国の国益に関して必ずしも西側の計算どおりに動かない」。 イラン革命防衛隊が地域全体でアメリカの同盟国を激しく攻撃したり、フーシ派が紅海航路を封鎖して世界的な景気後退を招くといった展開も十分に考えられる。イランがサウジアラビアの海水淡水化施設を攻撃すれば、水供給が崩壊して多くの都市が居住できなくなるかもしれない。 さらに、アメリカが今回の軍事衝突を維持する経済的コストは極めて高い。イランの自爆ドローン(無人機)「シャヘド」は数万ドルで製造できるのに対し、迎撃するアメリカの防空ミサイルは有効性を維持するだけで数百万ドルかかる。全てを迎撃できなければ、被害は最大で5億ドル規模に達するともみられる。 もっとも株式市場は、トランプが数週間のうちに何らかの形で停戦に持ち込むとみているようだ。米市場は最高値を更新しており、欧州で航空燃料が底を突く、原油価格が1バレル=200ドルに達するといった悲観的な予測を振り払っている。 表面的には、アメリカとイランが持続的な合意に達することはほぼ不可能に思える。そもそも今回の戦争は、イランの核開発をめぐる両国の交渉の最中に始まった。イランは2015年に米英独仏中ロの6カ国と合意に署名したものの、18年に新しい米政権(つまりトランプ)が一方的に離脱した。 それでも期待できる2つの事実がある。まず、トランプが実際には勝利していなくても勝利を宣言したがること。そして、イランにもジャバド・ザリフ元外相のように現実主義的な穏健派が存在することだ。この2つがうまく結び付けば事態が動くかもしれない。 あるいは、最終的に鍵を握るのは2人の真逆のプリンス、米メディア界のジョー・ローガンとサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子かもしれない。 保守系ポッドキャストを運営するローガンは、24年の米大統領選でトランプの支持拡大に貢献したが、開戦後はトランプの決断を批判している。米メディアで大きな影響力を持つローガンの動向は、中間選挙で政治にあまり関心がない層の動きを占う材料になりそうだ。 一方、サウジアラビアはこの戦争の最大の受益者の1つとされている。長年イランの代理勢力の脅威にさらされてきた同国は、イラン指導部の排除を支持し、その軍事力が壊滅することを期待していたが、アメリカによる海峡封鎖には反対している。 アメリカのメディア王子とサウジアラビア皇太子の支持を失いかけていることは、アメリカの軍事作戦が終わる兆候なのかもしれない。
サム・ポトリッキオ