止まらない「戦争インフレ」がトランプに強いる出血…アメリカには「不吉なサイン」が
<イランで不安定な情勢が続くなか、エネルギー価格の上昇が実体経済と米政権にじわじわダメージを与えている>
ついさっき、エストニア行きの飛行機のチェックインが始まったというメールが届いた。ワシントンを出発してアムステルダムで乗り換え、エストニアの首都タリンに到着する便だ。その手続きをしながら、イランでの戦争が世界経済に(そして私に)もたらしたダメージを、苦々しく思い出した。 ■【画像】日本は意外にも...「世界で嫌われている国」ランキングを示す地図、2位はアメリカ エストニアで開かれる会議への登壇依頼が届いたのは2月のこと。アメリカとイスラエルがイランへの攻撃を開始する1週間前だった。取りあえず航空運賃と大まかな必要経費を調べて、主催者側が負担してくれる金額と照らし合わせた。ふむふむ、これなら旅費は控えめに抑えられそうだ。そこで私は、登壇を承諾する返事を書いた。 痛恨なのは、そこで安心してしまい、実際の旅の手配を先延ばしにしてしまったことだ。2月28日に戦争が始まったため、慌てて航空券を購入しようとしたところ、値段は1週間前の1.6倍になっていた。これでは私の持ち出しが増えて、全体として赤字になってしまう。 翌週、イランがペルシャ湾岸諸国に報復攻撃を仕掛けると、娘たちのためにほぼ1年前にチケットを購入していたドバイでのKポップのコンサートが中止になった(私たちは中東にも住居がある)。 妻と私のニューヨーク出張のための飛行機を予約するのも大変だった。中東に駐在する(または旅行中の)アメリカ人が、パニック気味で帰国便を押さえようとしたため、残っているのはファーストクラス(料金はいつも使っているクラスの5倍)か、戦争を理由に手荷物料金をつり上げた会社のフライトしかなかった。 わが家はこの12年間、戦争によってリアルな苦しみを味わってきた。ロシアのウクライナ侵攻により、妻はおじを数人失ったほか、戦争の影響で何人かの親戚が命を落とした。だから、経済的なダメージくらいで文句を言うのは贅沢のような気がずっとしていた。 だが、経済への影響が積み重なり、家計が厳しくなれば、一般的な有権者は、「この戦争は支持する価値があるのだろうか」と考えるようになる。だから戦争が長期化すると、ほぼ必ずと言っていいほど有権者の支持は低下する。最初は一致団結して政府を支持していても、物価が上昇すると熱狂は冷めていく。 今回のイラン戦争は、最初からアメリカで人気がなかった。そもそも道義的に支持できない上に、アメリカとイスラエルによる爆撃が始まると、すぐに経済が打撃を受け、ホルムズ海峡封鎖でそれが一段と悪化したことが大きな原因だ。 私は今回、アメリカの中西部と南部、そしてワシントンでいろいろな人と言葉を交わしたが、みな二言目には新たな値上がりの話をしていた。 輸送コストの上昇により、食料品の価格が高騰(戦争開始以来既に3%上昇)し、今年末までにもっと上がると予想されている。私のある友人は会社を売却して、残りの人生は農業をやるつもりだったが、戦争で肥料代が4割上昇することは想定していなかったため、今は会社に復帰することを考えている。 昨日、アマゾンでランニングシューズを購入したところ、今回の戦争に関連した燃料費の上昇を受け、出品者に対して3.5%の追加料金を課す方針であることが分かった。また、米郵政公社(USPS)は、小包などの配送料金を8%引き上げる方針であることを発表した(米政府の承認待ち)。一般家庭の光熱費も高騰し、レストランでの外食費も1〜3月期(実質的には3月の1カ月だけ)で4%上昇した。 だが、有権者の最大の不満の種はガソリン価格だ。車社会のアメリカでは、人々はガソリン価格の変動にとりわけ敏感だが、今はその上昇を示す数字が赤く点滅している。戦争前は1ガロン当たり3ドル以下だったガソリンの小売価格は、現在平均4.10ドルと、約40%も上昇した。 これは長年、「アメリカはエネルギー大国だ」と(特にドナルド・トランプ大統領によって)聞かされてきた国民にとって、困惑する状況でもある。実際、アメリカはしばらく前から産油量で世界第1位であり、確認埋蔵量でもサウジアラビアやロシアを上回る。シェール革命はその地位を一段と強化した。 ではなぜ、アメリカのガソリン価格はこんなに高騰しているのか。 最も一般的な説明は、石油は国際市場で取引されており、供給が逼迫すれば価格が上昇する。そして、いかに石油大国であっても、アメリカもその影響を避けられない、というものだ。だが、問題の核心はほかにある。アメリカは原油精製能力に構造的な問題を抱えており、各製油所の精製能力に合ったタイプの原油を輸入しなければならないのだ。 例えば、アメリカ産原油の多くは軽質だが、国内の製油所の多くはサウジアラビア産などの重質原油を精製するように設計されている。こうしたギャップは、季節要因によって一段と悪化する。春から夏向けのブレンドに移行するときは、外国から輸入する原油を増やす必要がある。 また、ガソリンスタンドの店頭価格は、在庫補充コストに基づき決まるため、仕入れコストが急上昇すると、ほぼすぐに店頭価格に反映される。世界の石油の20%が、そして液化天然ガスの場合はさらに多くの割合がホルムズ海峡で足止めされるなか、戦争が続けば、ガソリン価格上昇の影響はもっと広がるだろう。 イランのプロパガンダも、戦争コストに対するアメリカの有権者の不満を狙い撃ちしている。最近、拡散されているAIが生成したレゴ・ブロック風の動画は、トランプや側近をあからさまに挑発する。コメント欄をのぞいてみるとアメリカからの支持や称賛が目につく。