「戦争ゆるさんほんとにやだいいかげんにしろブックフェア」選書とエッセイ
藤岡拓太郎
石油危機の中、不安はたくさんあるけれど忘れちゃならないと思うのは、こうなる過程ですでに人間が殺されているということ。たとえば2月28日、イスラエルとアメリカがイランの小学校に爆弾を落とし、児童を含む160人以上を殺した。多くの人が、そんなことはもう忘れてしまったみたいだ。どうしていつもこうなんだろう? シンプルに「知らない」からなのだと思う。イランのことを知らない。イランに生きる人びとのことを何も知らない。イとラとンの、カタカナ3文字でしかない。
自分は映画だけは無駄にたくさん観てきたから、イランの映画もいくつか観たことがあった。マジッド・マジディ監督の『運動靴と赤い金魚』。アッバス・キアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』。どちらも子どもが主人公の映画だ。言語や文化は違えど、日本に住む子どもとおんなじだ。嬉しい時は私たちとおんなじような顔で笑い、悲しい時はおんなじような角度で肩を落として歩いてる。小学校空爆のニュースを聞いたとき、ああ、あの子どもたちが殺されてしまった、と思った。
知る、ということ。幼稚園時代のある日、交流会的な催しで、園に韓国人の女性がやってきた。韓国の伝統的な衣装を着てみせてくれた。その服の名前、チマ・チョゴリという不思議な響きを今でも覚えている。ただそれだけ。
ただそれだけのことでも、こういう「知る」を積み重ねていくことが、差別と戦争をなくすことや、相互理解、平和に繋がっていくと思っている。
私たちは知らない国の人の命に興味がなさすぎる。義務教育の中でも、もっとできることがあるはず・・・たとえば給食でたまに外国料理を出すのはどうだろう。歴史の授業と連動させて。
思想強いですか? 嫌な言葉だ、「思想が強い」。まぁ弱いよりマシ(by SIRUP)。あと誰かが言っていた返しで、いいなと思ったのがこれだ。
「思想強いね」
「鍛えてますから」
どこから怒ればいいのやら、毎日毎日、最悪なニュースが届く。そればかりか、最悪なニュースがまともに報じられないことも多くて、それも最悪だ。本を読み、思想を鍛えてデモに行こう。わしらもっと自分の言葉で怒らんとあかん。
子供を殺すな、人権守れ、憲法守れ、外交をやれ、報道しっかりしろ、戦争ゆるさん、ほんとにやだ、いいかげんにしろ。
藤岡拓太郎(ふじおか・たくたろう)
ギャグ漫画家、絵本作家。1989年大阪生まれ、大阪在住。著書に『夏がとまらない』『大丈夫マン』『たぷの里』『ぞうのマメパオ』(いずれもナナロク社刊)がある。
藤岡拓太郎のBOOK LIST
1 従順さのどこがいけないのか
将基面貴巳/ちくまプリマー新書/840円
「みんなそうしているよ」「ルールだからしかたがない」と言われ、理不尽な出来事に見て見ぬふりをしていないだろうか。誰かの言うことに従っていても、世の中は解決しない問題だらけ。この発想がいかに危険なものなのか、政治、思想、歴史から解明し、「服従」と「不服従」をめぐって思考を整理し、「政治」との関わり方を見直すきっかけとなる本。
2 図解 はじめて学ぶ みんなの政治
アレックス・フリス他 著 ケラン・ストーバー イラスト 浜崎絵梨 訳 国分良成 監修/晶文社/2,000円
日本における政治のイメージは、「自分とは関係ない」「つまんない」など、ネガティブなものばかり。それでいいのだろうか。小学校高学年以降を対象に、厳選されたテーマごとに古今東西のさまざまな政治や社会のしくみとそれにまつわる面白いエピソードを、豊富なイラストで解説。教科書には載っていないトリビアもいっぱい、子どもから大人まで楽しめる政治入門書の決定版。
3 日本人は民主主義を捨てたがっているのか?
想田和弘/岩波ブックレット/620円
橋下現象とは何だったのか。安倍政権の狙う改憲の本質とは。市民が政治の当事者となり、権力の暴走を抑えるはずの民主主義のシステムが形骸化しようとしている。いま必要なことは、当たり前に享受してきた「自由」や「権利」の意味を私たちが自ら問い直すことではないか。気鋭の映画作家が、日本社会の直面する危機を鋭く描出する。
4 戦争するってどんなこと?
C. ダグラス・ラミス/平凡社/1400円
戦争ってどんなことするの?日本が戦争できる国になったら?軍隊があるほうが危ない? 軍隊は国や人々を守れるのか、それともかえって危険な存在なのか?戦争をすること、しないこと、それぞれについて元米国海兵隊員の著者が中学生向けにわかりやすく解説する。沖縄戦を生き延びた元県知事・大田昌秀へのインタビューも収録。
5 国境って何だろう? 14歳からの「移民」「難民」入門
内藤正典/河出書房新社/1540円
どこで生きるかは、他人事ではないから。移民と難民の違い、難民条約、分断、紛争、ヘイト……。世界が大きく揺れる今、「ガザの人はなぜ避難しない?」「日本で難民が少ないのはなぜ?」「日本人も将来は移民に?」そんな疑問にイスラム地域研究・国際移動論の専門家である著者が自らの経験をもとに、世界の移民・難民の動きと歴史をやさしく紐解く。
6 たのしい知識――ぼくらの天皇(憲法)・汝の隣人・コロナの時代
高橋源一郎/朝日新書/890円
生きのびるためには、気持ちよく生きるためには、きちんと考えることが大事だ。明仁天皇のビデオメッセージと憲法9条の秘密とは?隣国「韓国・朝鮮」への旅では「宗主国」と「植民地」の小説を読み解く。ウイルスの災禍をデフォー、カミュ、スペイン風邪に遡り、たどりつく終焉、忘却、記憶、ことば。政治・社会のゆるがせに出来ない問題をもう一歩、深く考えるための3つの旅。
7 沖縄について私たちが知っておきたいこと
高橋哲哉/ちくまプリマー新書/900円
沖縄の基地問題を理解し、その解消を目指すためには、まず、沖縄が日本に併合された経緯やその後何度も本土のために犠牲になった歴史を知らなければならない。沖縄への過剰な負担と、それを強いる本土の無関心にはどんな歴史的、構造的な理由があるのか。琉球処分、人類館事件、沖縄戦、アメリカによる統治、基地問題……本土と沖縄の関係を読み解くための大事な一冊。
8 ドキュメンタリーで知るせかい
宇多丸・伴野智/リトルモア/2800円
映画評論で人気の著者がドキュメンタリー映画のキュレーターとともに、世界の時事に強くなれるドキュメンタリー映画作品31本を語り尽くす。ガザの虐殺、クルド人弾圧、SDGsの現実、中国の急成長と葛藤、難民増加……「情報」として聞き流してしまいがちな日々のニュース。しかし優れたドキュメンタリーには、それらを立体的な「生身の声」として実感させる力がある。身近な、血の通った「自分事」だと思わせる。「知る義務」がある。すでに我々は「当事者」だ。
9 へいわとせんそう
たにかわしゅんたろう ぶん Noritake え/ブロンズ新社/1200円
くらべてみると、みえてくる。「へいわのボク」と「せんそうのボク」では、なにが変わるのだろう。同じ人や物や場所を見開きごとにくらべると、平和と戦争のちがいがみえてくる。これまでになかった平和絵本!
10 世界のあいさつ
長新太 作 野村雅一 監修/福音館書店/1500円
世界にはさまざまなあいさつがあります。一口に「あいさつ」といっても、普段するあいさつ、目上の人にするあいさつ、男の人だけがするあいさつなど、あいさつするタイミングも色々あります。あいさつの方法も、抱き合って懐かしい相手のにおいをかぐ、舌をペロリと出す、うれしくて手をふるわせワーンと泣き出すなど、不思議で楽しいあいさつがいっぱい!
宇多丸(RHYMESTER)
「戦争になる」とは、実際どういうことなのか。「戦争に行く」とは、実際どういうことなのか。そして、いま現在我々を取り囲んでいる「それでも戦争をやめられない」世界とは、実際どういうものなのか・・・・・・。
そんな「戦争の実際」たちを、端的に体感できるような選書を心がけてみました。こうした悲惨で不条理な歴史や現実にしっかり向き合わぬまま、やたらと好戦的に強がってみせたりする姿勢こそ、真の意味で「平和ボケ」と呼ぶべきものであるように、私には思われます。
幸いにも今の日本社会は、まだまだ比較的自由かつ安全に、さまざまな意見の表明ができる段階にあります(このブックフェア開催も、まさにその一端でしょう)。その一方で、情勢的にも法的にも、我々末端の国民に出来ることがすでに大きく制限されてしまっていて、もはや後戻りはできなくなっている状態、というのも、意外と簡単に到来しうる(それこそ半藤一利さんの『昭和史』が教えてくれることです)。もちろんそうなってからでは、遅いのです。
そうなる前に、なんとかしたいものですよね・・・・・・!
宇多丸(うたまる)
1969年東京都生まれ。ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパー、ラジオパーソナリティ。1989年、大学在学中にグループを結成し、日本ヒップホップの草創期からシーンを開拓し牽引。現在も第一線で活躍。2007年にTBSラジオで番組を持つと、映画評コーナーなどが人気に。現在は『アフター6ジャンクション2』担当。近著に共編著『ドキュメンタリーで知るせかい』(リトルモア)。
宇多丸のBOOK LIST
1 昭和史 1926–1945
半藤一利/平凡社ライブラリー/1200円
授業形式の語り下ろしで「わかりやすい」と絶賛を博した半藤一利さんの「昭和史」シリーズ戦前・戦中篇。日本人はなぜ戦争を繰り返したのか――。すべての大事件の前には必ず小事件が起こるもの。国民的熱狂の危険、抽象的な観念論への戒めなど、本書に記された警鐘は、現在もなお生きている。日本が同じ過ちを繰り返さないために、今こそ読み直すべき一冊。
2 無名兵士の戦場スケッチブック――砲弾と飢餓と鎮魂
砂本三郎 著 渡辺考 解説/筑摩書房/2800円
これこそ戦争に投げ出されたときの、名も無い兵士のリアルだ――世に知られることなく眠っていた130枚のスケッチには陸軍一兵卒としての過酷な戦場体験が鮮烈な絵で描き残されていた。漫画チックでユーモラスですらあるが、その一枚一枚が切迫感を持ちながら問いかけてくる「何か」。本書は発掘されたその130枚の絵に綿密な解説を収める。
3 パレスチナ実験場――世界に輸出されるイスラエルの占領技術
アントニー・ローウェンスティン 著 河野純治 訳/岩波書店/3600円
イスラエルは、占領下のパレスチナを兵器や監視技術の実験場として利用し、それらを各国に輸出して世界の紛争・弾圧に加担している。秘密文書、貴重なインタビュー、現地取材を通じてベールに包まれた究極的な支配モデルの実態を暴き出し、イスラエル式のエスノナショナリズムが拡散しつづける恐るべき未来への警鐘を鳴らす。
川中だいじ
2026年。日本は、戦後81年、日本国憲法公布80年という大きな節目を迎えている。
ロシアによるウクライナ侵攻では「法による支配」を求め続けたアメリカは、トランプ大統領が誕生したことによって、自らそれを手放すこととなった。我が物顔で他国籍者を迫害し、気に食わない国には当たり前のように砲弾の雨を降らせている。
東京大空襲などを指揮したカーチス・ルメイは「相手が銃口を突きつける前に徹底的に相手を攻撃する」というアメリカ的平和主義をつくり上げた。これがトランプ政権によって色濃く生き返っているのだ。
――いま、こうしている間にも、世界の情勢は日に日に悪くなっている。
日本は、日本国憲法第9条のもと「平和主義」「戦争の放棄」を掲げてきた。
日本にとっての平和主義とは何なのか?
憲法9条第2項に明記されている「交戦権を認めない」とは、たとえ他国から攻め込まれても攻撃をしないということ。しかし、1952年に憲法解釈が変更され個別的自衛権が認められた。自衛の戦争は認めるということだ。
殺されそうでも殺さず非暴力でいることから、殺されるならば殺し暴力を許すこととなったのだ。
権力者による勝手な解釈改憲に振り回されるのはまっぴらごめんだ。だから思う、市民が求める憲法の姿とは何なのか。憲法9条の条文に従って、自衛隊は持たず、戦争に巻き込まれても反撃しないという日本の平和主義を貫き、自衛の戦争も認めないと、憲法にはっきりと明記することだってできる。だけど、大切な人が目の前で殺されていても、本当に非暴力を貫くことができるのだろうか。ぼくは、自問自答している。
自国をまもるとはどういうことなのか。何が良い選択なのか、自分の態度はどうなのか、覚悟はあるのか、簡単に答えにありつけるものではない。だからこそ歴史を学び、戦争体験者の声を聴く。
いま、この時も世界のどこかで殺されている人々がいるかもしれない。
殺されないために殺すのか――、それでも非暴力を貫くのか――。
川中だいじ(かわなか・だいじ)
2010年、大阪市生まれ。「日本中学生新聞」記者。小学3年生のころから選挙や政治に関心を持ち始め、2023年に「日本中学生新聞」を創刊。「誰にも遠慮せずに書きたいことを書く」をモットーに、選挙をはじめ大阪・関西万博や森友問題などを取材し、SNSやさまざまな媒体で発信している。現在は高校1年生。著書に『こちら日本中学生新聞』(柏書房)。
川中だいじのBOOK LIST
1 ハマスの実像
川上泰徳/集英社新書/1050円
2023年、ハマスがイスラエルに対し大規模な攻撃を仕掛け、世界は驚愕した。しかし日本ではハマスについてほとんど知られておらず、単なるテロ組織と誤解している人も多い。ガザの市民の多数が支持するこの組織は一体どんなものなのか。何を主張し、何をしようとしているのか。そしてパレスチナとイスラエルの今後はどうなるのか。中東ジャーナリストの著者が豊富な取材から明らかにする。
2 平和主義とは何か
松元雅和/中公新書/940円
平和を愛さない人はいないだろう。だが平和主義となるとどうだろうか。今日では単なる理想論と片付けられがちだが、実はその思想や実践は多様である。本書は、「愛する人が襲われても無抵抗でよいのか」「正しい戦争もあるはず」「平和主義は非現実的だ」「虐殺を武力で止めないのは無責任」といった批判に丁寧に答え、説得力ある平和主義の姿を探る。感情論やレッテル貼りに陥らず、戦争と平和について明晰に考えるために。
3 アイヒマンと日本人
山崎雅弘/祥伝社新書/950円
ナチスのユダヤ人大量虐殺において大きな役割を果たしたアイヒマン。戦後は南米に逃亡するも捕えられ、イスラエルでの裁判の結果、死刑に処せられた。本書は、法廷で「命令に従うしかなかった」と述べ、自らを正当化したアイヒマンの生涯を追い、従順さが内包する危険性について警鐘を鳴らす。上位者の命令に対して従順な国民性を持つ日本人こそ必読の1冊。
4 アートで平和をつくる
佐喜眞道夫/岩波ブックレット/660円
沖縄県宜野湾市にある佐喜眞美術館は、普天間基地に食い込むように建っている。この美術館は本書の著者が、米軍基地に接収されていた先祖代々の土地を取り戻して建てたもので、その最大のコレクションは丸木位里、丸木俊の「沖縄戦の図」である。美術館の歩みを通して戦後沖縄の一断面と、アートの持つ力が見えてくる。
5 手塚マンガで憲法九条を読む
手塚治虫 著 小森陽一 解説/子どもの未来社/1500円
手塚治虫の永遠のテーマ「生命の尊さ」が貫かれた珠玉の七編。「ブラックジャック」「アトム今昔物語」からも収録された作品群は、戦争の悲惨さ、そして人生を台無しにされた怒りと悲しみに満ちて、まさに今読むべきテーマばかり。反戦を掲げ、未来を見つめ続けた手塚治虫の確かな眼差しが、憲法九条を問い直す。作品解説は全国「九条の会」事務局長の小森陽一氏。
6 一戔五厘の旗
花森安治/暮しの手帖社/2300円
「一銭五厘の旗」とは、ぼろ布をつぎはぎした庶民の旗。『暮しの手帖』創刊編集長である著者が、満州出征中に上官から「貴様らの代わりは一銭五厘(当時の葉書一枚の値段)で来る」と罵られたことから「見よぼくら一銭五厘の旗」という文章のタイトルとなった。「よこしまなもの、横暴なもの、私腹をこやすもの、けじめのつかないもの、そういう庶民の安らかな暮らしをかき乱すものすべてに対する著者の怒り」が詰まった自選エッセイ集。
7 沖縄戦新聞:沖縄戦60年 当時の状況をいまの情報、視点で
琉球新報社/琉球新報社/800円
琉球新報が2004年7月から2005年9月にかけ、14回にわたって沖縄戦の全体像を伝えた特集紙面。沖縄戦60年企画として琉球新報社の記者が戦時中当時の報道を検証し、新たな事実や貴重な証言などを加え、現代の視点で当時の報道を再構成した。
8 日本人が知らない戦争の話――アジアが語る戦場の記憶
山下清海/ちくま新書/880円
かつて、私たちは何をしたのか。中国、マレー半島、東南アジアへの侵攻、華人への強制献金と皇民化政策、そして軍事裁判、中国に残された日本人のこと……。アジアの人たちは当時をどう語り継いでいるのか。長年アジア各地で人びとの声に耳を傾けてきた地理学者が、日本人がけっして忘れてはいけない戦争の理不尽な現実を明らかにする。
岸本佐知子
戦争怖い。戦争反対。と口では言っても、私たちは本当の戦争を知らないから、爆弾、特攻、防空壕、焼け野原、ぜんぶ映画の中のクリシェとしてしか思い浮かべることができない。
だから戦争は、いっそ角度を変えて見たほうが肌身に感じられるのかもしれない。『いちご戦争』では少女兵たちが甘いお菓子の世界でバースデーろうそくに貫かれて玉砕し、『忘却についての一般論』では遠くアンゴラのマンションの一室で、孤独な女がひとり内戦を壮絶にサバイブする。
何より哀切なのは『御馳走帖』だ。食いしん坊の百間先生、戦争で食料が手に入らなくなって、食ひたきものたちを思い浮かべてひたすらメニューみたいに書き連ねる。鯛の刺し身、アワビ、牛肉網焼き、このわた、馬鈴薯コロッケ、シュークリーム、汽車弁当・・・。かわいくて、かわいそうで、涙が出る。
戦争は、爆弾特攻焼け野原もちろんそう、でも何より普通の、私たちみたいな人たちが明日のごはんにも事欠くようになることなんだ。戦争反対。絶対反対。
岸本佐知子(きしもと・さちこ)
翻訳家。訳書にルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』、ショーン・タン『セミ』、アリ・スミス『五月 その他の短編』など多数。編訳書に『変愛小説集』『居心地の悪い部屋』など。著書に『気になる部分』『なんらかの事情』『ひみつのしつもん』『死ぬまでに行きたい海』『わからない』『あれは何だったんだろう』などがある。『ねにもつタイプ』で第23回講談社エッセイ賞を受賞。
岸本佐知子のBOOK LIST
1 増補版 いちご戦争
今日マチ子/河出書房新社/1800円
少女はフォークを携え敵地へ――。戦争について多数の作品を発表し続ける著者が、学徒隊の少女を主人公に描いた『cocoon』は2025年にアニメ化もされ、話題となったが、本書は「少女と戦争」というモチーフを『cocoon』と対になる形で、別の角度から描いた作品。日本漫画家協会賞大賞受賞作。
2 忘却についての一般論
ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 著 木下眞穂 訳/白水社/2600円
稀代のストーリーテラーとして知られるアンゴラの作家による傑作長篇。27年間にわたる泥沼の内戦下を孤高に生きた女性ルドの人生を描く。ポルトガルの支配下にあったアンゴラでは解放闘争が激化し、独立を宣言後もアンゴラは27年間にわたる泥沼の内戦状態に陥る。その間、誰からも忘れられて孤独に暮らすルド。一方、独立の動乱を乗り越えた人々は、運命に手繰り寄せられるようにしてルドのもとへと引き寄せられていく……。
3 御馳走帖
内田百閒/中公文庫/857円
朝はミルク、昼はもり蕎麦、夜は山海の珍味に舌鼓をうつ百閒先生の、窮乏時代から知友との会食まで食味の楽しみを綴った名随筆。戦前・戦中・戦後の食糧難の日々についてもページが割かれている。
酒井啓子
「すでに戦争は始まっている(のに目を瞑っている)」
テレビ画面に戦争が映ったとたん、声が上がる。「戦争反対!」と。
戦争で石油が手に入らなくなったとたん、文句が出る。「戦争に、巻き込まれたくない!」と。
いや、戦争はずっとあるのよ。
巻き込まれているのではなくて、カタンし続けてきたのよ。
戦争を止めよう、という声は、戦争の前に撒かれ続けてきた戦争の種にも上げられてきたか。「私たちの戦争」には敏感だが「彼らの戦争」には無関心だったのではないか。
テロリストのハマースが手を挙げた、非民主的なイランが核開発をしている――。イスラエルがテロリストを片っ端から逮捕するのも、核兵器を大量に保有しているのも、イスラエルは「民主的」で私たちと同じ「西側先進国」の仲間だから、いいのだ――。
ガザ戦争が始まったとき、SNSの動画で、相手をバシバシ叩く猫に対して、100回くらいやられっぱなしだった猫が最後に相手をはたく様子が上がっていて、100回叩いた猫がイスラエルで、最後の一発がパレスチナ、とコメントが付いていたが、最後に手を挙げた国や団体が「開戦の責任」と見なされてしまう。
イスラエル占領下のパレスチナ人たちが置かれた環境を、「戦争」として光が当てられる前にいかに抑圧され非人間視されてきたかを、現状(南部『エルサレムのパレスチナ人社会』)と歴史的背景(藤田他編『世界史の中の「ガザ戦争」』、ハーリディー『パレスチナ戦争』)から説明する書物は、少なくない。国民的詩人(ダルウィーシュ『パレスチナ詩集』)や小説家(カナファーニー「ハイファに戻って/太陽の男たち」)の作品も、早くから翻訳され紹介されてきた。
それだけの本が書かれていても、日本の政治家はイスラエルから武器を買おうとしている。ええっ。ローウェンスティン『パレスチナ実験場』で描かれていることを読んでもなお、そんな血まみれの、しかもつい最近使われたばかりの武器を、舌なめずりして買おうなんて。それとも、他の欧米諸国同様、「実戦でその性能を試した兵器は安心」とでも思っているだろうか。
その精神こそが、怖い。太平洋戦争だって、一部の軍人が突っ走って起こしたわけではなく、高揚した世論が戦争を後押しした(益田『人々の社会戦争』)。
日本は、れっきとして戦争に加担している。イラク戦争を巡り激しく論じられた対外派兵の問題を扱った本が、次々に忘れられないよう、ちゃんと記憶に留めなければならない。
酒井啓子(さかい・けいこ)
千葉大学国際高等研究基幹特任教授、同グローバル関係融合研究センター長。専門は中東地域政治(イラク)、国際関係論。アジア経済研究所、東京外国語大学を経て2012年から現職。単著に『イラク――戦争と占領』(岩波新書 2004年)、『9.11後の現代史』(講談社現代新書 2018年)、『春はどこにいった』(みすず書房 2022年)がある。
酒井啓子のBOOK LIST
1 パレスチナ実験場――世界に輸出されるイスラエルの占領技術
アントニー・ローウェンスティン 著 河野純治 訳/岩波書店/3600円
イスラエルは、占領下のパレスチナを兵器や監視技術の実験場として利用し、それらを各国に輸出して世界の紛争・弾圧に加担している。秘密文書、貴重なインタビュー、現地取材を通じてベールに包まれた究極的な支配モデルの実態を暴き出し、イスラエル式のエスノナショナリズムが拡散しつづける恐るべき未来への警鐘を鳴らす。
2 エルサレムのパレスチナ人社会:壁への落書きが映す日常
南部真喜子/風響社/800円
東エルサレムの通りを歩いていて目をひくのは、色とりどりのスプレーで壁に落書きされた数々のアラビア語の文字、グラフィティだ。その多くは、占領に反対するスローガンである。「闘え」「エルサレムはアラブだ」「自由とは日々の実践である」。国際政治の狭間に置き去りにされながら、理不尽な立場を生き抜く人びと。壁の落書きからは、彼らの叫び声が聞こえてくる。
3 ハイファに戻って
ガッサーン・カナファーニー 著 黒田寿郎 訳 奴田原睦明 訳/河出文庫/980円
二十年ぶりに再会した息子は別の家族に育てられていた――時代の苦悩を凝縮させた「ハイファに戻って」、密入国を試みる難民たちのおそるべき末路を描いた「太陽の男たち」など、不滅の光を放つ小説集。作者は1936年、パレスチナ生まれ。12歳で難民となり、1972年、車に仕掛けられた爆弾により暗殺された。
4 パレスチナ詩集
マフムード・ダルウィーシュ 著 四方田犬彦 訳/ちくま文庫/1400円
「世界の果てに辿り着いたとき、われらはどこへ行けばよいのか。/最後の空が終わったとき、鳥はどこで飛べばよいのか。」詩を喪失したとき、敗北した国はさらに敗北する。ホメロスに始まる西洋文学がつねに勝者の側から語られてきたとするならば、今こそ敗者の声を詩に結実させなければならない。本書はパレスチナの亡命詩人の、生涯を懸けた絶唱である。
5 世界史の中の「ガザ戦争」
藤田進 編 世界史研究所 編/大月書店/2800円
なぜハマースはイスラエル攻撃に踏み切ったのか。なぜイスラエルはジェノサイドといえる殺戮を続けるのか。なぜアメリカを筆頭に西欧諸国は「自衛戦争」としてイスラエルを支持するのか。その根源を世界史的にたどり、変化の兆しを読み解く。
6 人びとの社会戦争――日本はなぜ戦争への道を歩んだのか
益田肇/岩波書店/4300円
近代化を成し遂げた大正期以降、解放と引締めをめぐる「戦い」が、人びとの日常のなかで激化し、ついには本当の戦争へと至るまでを描く。軍部が起こした戦争に巻き込まれた国民、という視点からは抜け落ちる、人びとの「社会戦争」のダイナミズムから、近現代日本の実像を追う。大佛次郎論壇賞、毎日出版文化賞受賞者の渾身の大作。
7 イラク戦争を知らない君たちへ
イラク戦争の検証を求めるネットワーク/あけび書房/1600円
過ちだらけのイラク戦争を止めようとした市民、政治家、ジャーナリストたちの思いを次世代に。2021年3月20日のイラク戦争18年のイベント「イラク戦争を知らないキミたちへ」で語られた20人のイラク戦争にまつわる個人的体験とともに、テーマに関連した寄稿文や日本の若者の対談録も加えられた1冊。
8 パレスチナ戦争:入植者植民地主義と抵抗の百年史
ラシード・ハーリディー 著 鈴木啓之 山本健介 金城美幸 翻訳/法政大学出版局/3600円
アラファートらPLO幹部やサイードなど知識人たちと親交のあったパレスチナ研究大家の初邦訳。膨大なインタビューと、確かな知識に裏打ちされた歴史叙述をベースに、イギリス委任統治政府に追放された伯父や国連に勤務していた父親の話、イスラエルのレバノン侵攻で娘を抱えて逃げた自身の経験など家族史を織り交ぜ、強大な権力に翻弄されてきた民族の一世紀を描き出す。彼らの自決権が否定されてきた先に現在の混迷がある。
武田砂鉄
「戦争反対」を表明すると、「そんなこと言っているだけでは変わらない」なんて言われます(SNSに投稿するたびにそんなのが来るんです)。でも、思います。「そんなこと言っているだけでは変わらない」とか言っているよりは変わるよ、と。なので、そういうことを言っている人はもしかしたら変えたくないのかもしれません。戦争でどんどん人が死んでいるのに、街が壊されているのに、変えたくないってどういうことなんでしょうか。いや、そういうことじゃねぇよって返されたり、呆れた顔をされたりするのだと思いますが、では、どういうことなんでしょう。いや、だからね、と、こっちに突っ込むんじゃなくて、一緒に反対してくれればいいのに、と思います。下記、戦争について考える本を選びました。でも、どんな本であっても、これからどうやって生きていこうかとの思いに付き合ってくれる本だと思うので(ヘイト本除く)、このフェアに並んでいる本でもいいし、別のコーナーにある本でもいいので、なんかを手に取ってください。
武田砂鉄(たけだ・さてつ)
1982年、東京都生まれ。ライター。著書に『紋切型社会』(第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞)、『偉い人ほどすぐ逃げる』『マチズモを削り取れ』『「いきり」の構造』『そんな気がする』などがある。TBSラジオ『武田砂鉄のプレ金ナイト』、文化放送『武田砂鉄 ラジオマガジン』パーソナリティ。
武田砂鉄のBOOK LIST
こちらのリストの書籍紹介文は武田砂鉄さんによるものです。
1 フランクル『夜と霧』への旅
河原理子/朝日文庫/950円
強制収容所での経験を綴った『夜と霧』はなぜ読み継がれてきたのか。フランクルは、人間には決して奪われないものが二つあると記しており、それが、「運命に対する態度を決める自由」と「過去からの光」。この二つの自由を消さずに、いつまでここにいるかわからない日々を耐え抜いたそう。今、戦時下の暮らしを想像することしかできない局面もあるわけですが、その時、この二つの自由を思い出します。
2 帰還兵はなぜ自殺するのか
デイヴィッド・フィンケル 著 古屋美登里 訳/亜紀書房/2500円
イラク・アフガン戦争で生還した200万人の兵士のうち、50万人が精神的な障害を負い、毎年250人を超える兵士が自ら命を絶っている事実を問うたノンフィクション。戦場を耐え抜いた自分は強い人間なのだから、病むはずがないと考える。その結果、自分の弱さを認められなくなり、近しい人に暴力を振るうようになってしまう人も出てくる。「戦争に行く前はいい人だったのに、帰還後は別人になっていた」と戦地に送り出した妻が言う。戦争は、戦いが終わっても終わらないことがよくわかります。為政者が「停戦した」「勝った」と言い切っても、それでは終わらないのです。
3 ずばり東京
開高健/光文社文庫/760円
1960年代前半、東京オリンピック開催に向けて、興奮状態にあった東京。敗戦から立ち直っていく様は果たして本当のものなのか。東京を歩き回ったルポルタージュ作品です。「〝戦後〟がよどむ上野駅」と題した一編があります。上野駅の地下道は「〝戦後〟が蒼黒くよどみ、にじんで、荒んでいる」。どんな戦争も、もうだいぶ前に終わった話だとさせられるとわかるし、その物語作りにすっかり乗せられてしまってきたのです。
4 容赦なき戦争
ジョン・W. ダワー 著 斎藤元一 訳 猿谷要 編/平凡社ライブラリー/1600円
自分たちは正しい、あいつらが間違っている、間違っている連中を正すのが自分たちの役割なのだから、と正当化して始まる戦争。正当化した者たち同士が戦うからいつまでも続いてしまう。正しくないのではないかと自己点検できるのならば、そもそもこんなことにはならなかった。たとえば、太平洋戦争下で、日本人がどのように形容されていたか。「アリ塚」「ちっぽけな猿」など、散々な言われようだった。しかし、この蔑視も正当化の一種であって、無論、日本は、日本人は、それ以外の人々に対して、同じような下劣な言葉を投げてきたわけです。
5 からゆきさん 異国に売られた少女たち
森崎和江/朝日文庫/750円
戦争はまず男の語りに溢れます。女の語りは後回しにされるか、潰される。残念ながら変わらない。そこでは、殺戮の他に、主に女性に対する性暴力が起きる。女性が外の国に売られ、そしてまた、外の国から売られてくる。その実態は見えない。本書が刊行されたのは日本の男性たちがアジア諸国へ「買春ツアー」に出かけていた70年代後半のこと。戦争と性暴力の問題は放置され続けてきたし、すぐに消そうとする動きがある。そうならないようにするための、支えとなる本です。
6 時刻表昭和史 完全版
宮脇俊三/中公文庫/1000円
鉄道紀行作家・宮脇俊三の作品群は、戦後を車窓から活写しています。そこには市井の暮らしが見えます。敗戦の日、日本全体の動きが止まって、打ちひしがれていた・・・・・・と伝えられる。その日、宮脇は山形県にある米沢線の今泉駅で玉音放送を聞いた。鉄道はどうだったか。動いていた。呆然とするなか、鉄道はやって来た。時刻表から昭和史を問う本書は、戦争が終わったと知らされた民たちが、どのように一歩を踏み出したのかを記す本にもなっています。
ぬまがさワタリ
もしアメリカで学校が爆撃され、160人以上の子どもが死亡したら、9.11自爆テロにも匹敵するような歴史的大惨事として語り継がれるはずだ。なのになぜ、イランでアメリカ軍に学校が爆撃され、同じだけの生徒が死亡した事件は、なんとなく日々のニュースに埋もれてしまうのだろう。
その最大の理由の一つは、認めたくはないが、誰の中にもあるレイシズム(人種差別)ではないだろうか。欧米圏の白人や日本人に、同じ規模の悲劇が降りかかれば大騒ぎになる事件でも、イランやパレスチナで起こったことは「別の話」となってしまう。本来なら、そこに何の違いもありはしないというのに。
戦争を起こす側は、人々の中に潜むレイシズムを計算に入れている。戦争へと踏み切った独裁的・権威主義的なリーダーが、ほぼ例外なく自国民に向けて排外主義や民族主義を煽っているという事実には、悪い意味での必然がある。
現代の戦争や暴力は、人種差別と深く結びついている。逆に言えば人種差別を解体し、弱体化することができれば、戦争や暴力を封じ込めることにも繋がるはずだ。
戦争に反対し、差別に反対し、科学を尊重したい者として、特にオススメしたい新書が『ダーウィンの呪い』だ。
ダーウィンが提唱した「進化論」は科学に革新をもたらす一方で、政治や文化や思想に甚大な影響を及ぼし、「優生思想」という災いを解き放つことにもなった。本書はその過程を、自身も進化生物学者である千葉聡先生が解説する。
ダーウィンの提唱した進化論が、さまざまな勢力に悪しき形で利用され、人種差別や優生思想が「科学」の名のもとに強化されていく様はまさに「呪い」と呼ぶにふさわしいが、その「呪い」を解く鍵もまた、科学に代表される理性のプロセスの中にある。地道な試行錯誤のレンガを一つ一つ置いて人類が築いてきた道こそが、一見まどろっこしくても、まだ見ぬ平和に続く唯一の道なのかもしれない。
戦争や差別や暴力が絶えない世界で、絶望せずに歩いていくための本として、よくオススメする本が、レベッカ・ソルニットの『暗闇のなかの希望』だ。イラク戦争に踏み切ったブッシュが再選した直後、絶望的なムードに覆われていた当時のアメリカで、「希望」を持ち続けるために書かれた本であり、個人的にも(失望するような選挙結果が出た日などに)何度も読み返している一冊である。
だが今回はあえて、同じソルニットの書いた別の随筆『オーウェルの薔薇』を紹介したい。
戦争に一度反対するだけではなく、戦争にずっと反対し続けるためには、「なぜ戦争に反対するのか」という信念を自分の中にもつ必要がある。もちろん「戦争反対に理由などいらない」という正論も一理あるが、世界そのものの美しさを大切に思うことが、世界を破壊から守るための原動力になる。そのことを美しい筆致で教えてくれるのが本書『オーウェルの薔薇』だ。
ジョージ・オーウェルは『1984』を筆頭に、独裁や監視社会の恐ろしさを世に知らしめた作家として有名だ。だがオーウェルには、そんな重厚なパブリックイメージとは裏腹に、薔薇を植えて庭づくりに情熱を注いだりと、自然の繊細な美を愛する面があったとソルニットは語る。そうした世界の美しさに対するオーウェルの鋭敏さは、全体主義を描いた『1984』の中にさえ鮮烈に現れ、むしろ本作の結末を(ただ小市民が独裁に敗北するだけの物語ではなく)より奥深く力強いものに変えている、という。薔薇はオーウェルの人生にとって単なる飾りでも暇つぶしでも現実逃避でもなく、核心だったのだ。
ここでいう「薔薇」が何にあたるかは、まさに人それぞれだろう。絵かもしれないし、音楽かもしれないし、本かもしれない。(私なら鳥だろうか・・・。)「薔薇」は必ずしも「美しい」ものである必要はない。「美味しい」ものでもいい。「花より団子」なんていう揶揄もあるが、食べ物も立派に「薔薇」の一つである。本書ではファシズムに打ち勝つ上で美味しい食べ物が果たした(かもしれない)役割についても語られている。戦場で兵士が「こっちにはバタートーストがあるぞ!」と敵に声をかけるくだりを読んでみてほしい。
差別と戦争の脅威が渦巻き、世界が危機にある時に、自分が大切にするもの=「薔薇」の美しさに浸り、「なぜ大切なのか」を改めて思い返すことは、現実から逃げることではなく、現実に立ち向かうための重要なプロセスなのだ。
日々の悲惨なニュースを前に、「世界を良くするなんて無理だ」と打ちひしがれそうになったら読んでほしい本が、ハナ・リッチー『これからの地球のつくり方 データで導く「7つの視点」』だ。大気汚染や気候変動や食料問題など、実はエネルギー情勢などを経由して戦争とも結びついている様々な問題において、「人類はそれでも世界を良くしてきた。もっと良くできる」と理知的かつ情熱的に諭してくれる一冊である。『暗闇のなかの希望』でソルニットも語るように、未来は「暗闇」であり、予測不可能だ。しかし暗闇は、絶望を意味しない。勇気と薔薇を携えて、闇へと踏み出そう。
ぬまがさワタリ
いきものとカルチャーと平和をこよなく愛する作家/イラストレーター。著作に『ゆかいないきもの超図鑑』『いきものニュース図解』など多数。国立科学博物館「特別展 鳥」でイラスト図解「鳥のひみつ」を担当(名古屋・大阪に巡回)。ブログ「沼の見える街」では映画や本のレビューも更新。尊敬する鳥はカワセミ様。
ぬまがさワタリのBOOK LIST
1 ダーウィンの呪い
千葉聡/講談社現代新書/1200円
進化学は、生物とその進化の理解に多大な貢献をした。一方で「進化論」は政治・経済・文化・社会・思想に多大な影響をもたらし「優生思想」という怪物を生み出した。そしてついにはナチスの反ユダヤ思想とつながり「ホロコースト」という悲劇を生み出すことになる。進化論は「進化の呪い」「闘争の呪い」「ダーウィンの呪い」という3つの「呪い」を生み出したと分析する著者が、ダーウィンの後継者たちがいかにして呪いにかけられていったのかという謎に挑む。
2 暗闇のなかの希望 増補改訂版
レベッカ・ソルニット 著 井上利男 東辻賢治郎 訳/ちくま文庫/1000円
2003年、イラク戦争が始まった時期に、「希望を擁護する」ために本書は書かれた。あの時代は過ぎ去ったが、あらたな戦争が生じ、破壊的な気候変動が到来している。絶望と冷笑主義が残りつづける現代に、希望をもつことはいかに可能なのか。「希望は光を浴びた舞台の真ん中ではなく、周縁の暗がりにある」(本文より)
3 オーウェルの薔薇
レベッカ・ソルニット 著 川端康雄 ハーン小路恭子 訳/岩波書店/3300円
ジョージ・オーウェルが1936年に植えた薔薇の生き残りとの出会いから、見過ごされてきた彼の庭への情熱に光をあて、精神の源を探るソルニット。豊かな思索の旅は、オーウェルの人生とその時代から、化石燃料としての石炭、帝国主義や社会主義と自然、花と抵抗をめぐる考察、薔薇産業のルポ等を経て、未来への問いへと続く。
4 これからの地球のつくり方
ハナ・リッチー 著 関美和 訳/早川書房/2700円
「CO2排出量は想像以上に速いペースで減っている」「私たちはここ数世紀でもっともきれいな空気を吸っている」――新鋭のデータサイエンティストがファクトと数値を手に気候変動、食糧問題、生物多様性などの難題に切り込み、希望に満ちた未来を描き出す。
春ねむり
目の前の文字列が世界に傷をつけ彫り起こした風景や精神の内へと引き摺り込まれ、皮膚という境界が溶け出し、瞬く間にわたしはここから居なくなる。熱源そのものを中心に渦巻いている濁流に翻弄されるかのように、または、鳥の囀りに誘い込まれ、来た道がわからなくなった森の内側で運命を受け入れるかのように、わたしはその〈いま・ここ〉ではない時空間で、傷つき、泣き、喜び、叫び声をあげ、慄き、震え、生きる。〈いま・ここ〉のわたし、ではない誰かやなにかを生きるその世界線において、わたしは未知の視座や感情を経験し、一冊の本を読み終わる頃、〈いま・ここ〉に存在しているわたしはその経験と共に生まれ直す。
本を読むということはわたしの人生においていつもそのように機能してきた。そして、それは〈あなた〉を想像するちからを育んだ。目の前のあなた。もう死んでしまったあなた。二度と会うことのないあなた。すれ違っただけのあなた。遠く離れた地に居るあなた。未来で出会うあなた。そのすべて。〈あなた〉。
戦争の前提には虐殺があり、虐殺の対極には共感がある。虐殺を可能にする論理は対象の非人間化であり、共感はそれと真逆の機能だからだ。想像力に基づく共感がこと「弱さ」として棄却されつつある世界で、わたしは改めてその「弱さ」のちからを信じてみたいと思う。
春ねむり(はる・ねむり)
アナキストでフェミニストのミュージシャン。全楽曲の作詞・作曲・編曲を自ら手がけ、世界各地で100公演超の海外ツアーを敢行。『春と修羅』『春火燎原』を経て、2025年にはDIYかつアナーキーな表現の追求を掲げ自主レーベルを設立し、最新作『ekkolaptómenos』を発表。
春ねむりのBOOK LIST
1 葉っぱのフレディ:いのちの旅
レオ・バスカーリア 作 みらいなな 訳 島田光雄 画/童話屋/1500円
わたしたちはどこから来てどこへ行くのだろう。生きるとはどういうことだろう、死とは何だろう。変わることは自然なこと、死もまた変わることの一つ。春に他の葉とともに生まれ、日々を楽しみ、冬に命を終えていく葉っぱの一生を通して、いのちの循環について私たちに語りかける絵本。世界中で愛され、出版累計121万部を超えるベストセラーとなっている。
2 魔王
伊坂幸太郎/講談社文庫/740円
魔王とは何者なのか?魔王はどこにいるのか?世の中の流れに立ち向かおうとした兄弟の物語。会社員の安藤は弟の潤也と2人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、1人の男に近づいていった。何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。
3 虐殺器官
伊藤計劃/ハヤカワ文庫JA/1000円
9・11以降の、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……。彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?ゼロ年代最高のフィクション。
4 同志少女よ、敵を撃て
逢坂冬馬/ハヤカワ文庫JA/1250円
モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍に母親や村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、一流の狙撃兵になることを決意する。復讐のために。スターリングラードの前線へと向かい、おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵”とは?
5 ぼくの村は壁で囲まれた
高橋真樹/現代書館/1500円
子どもたちの視点から伝える、パレスチナ問題の新しい入門書。何世代にもわたり、故郷に帰れないパレスチナ難民。700キロにも及ぶ巨大な壁に囲まれ、軍隊に脅されて暮らす子どもたち……。パレスチナの子どもをめぐる状況は、日増しに悪化している。占領とは何か? エルサレム問題とは?パレスチナで誕生した新しい非暴力ムーブメントとは?中東と世界情勢を知るための必読書。
6 沖縄について私たちが知っておきたいこと
高橋哲哉/ちくまプリマー新書/900円
沖縄の基地問題を理解し、その解消を目指すためには、まず、沖縄が日本に併合された経緯やその後何度も本土のために犠牲になった歴史を知らなければならない。沖縄への過剰な負担と、それを強いる本土の無関心にはどんな歴史的、構造的な理由があるのか。琉球処分、人類館事件、沖縄戦、アメリカによる統治、基地問題……本土と沖縄の関係を読み解くための大事な一冊。
7 沖繩ノート
大江健三郎/岩波新書/940円
米軍の核兵器をふくむ前進基地として、朝鮮戦争からベトナム戦争にいたる持続した戦争の現場に、日本および日本人から放置されつづけてきた沖縄。そこで人びとが進めてきた苦渋にみちたたたかい、沖縄をくり返し訪れることによって、著者は、本土とは何か、日本人とは何かを見つめ、われわれにとっての戦後民主主義を根本的に問いなおす。1970年刊行のベストセラー。
疋田香澄
なんで戦争に反対しなきゃいけないんだろう。戦争があってもなくても、いずれ人間は死ぬのに。なんで虐殺に反対しなきゃいけないんだろう。私が殺しているわけでもないのに。「戦争反対」「虐殺反対」という言葉はフレンチトーストのような存在で、ふわふわして綺麗なんだけど、毎日の食卓には並ばないもの。このエッセイを読んでいる中にも、そんな風に遠く感じている方もいるかもしれません。
私は神戸で2年半、虐殺に反対する路上スタンディングをしています。そこでは毎回、イスラエルによって殺されたガザの方々のお名前を読み上げます。身元が判明しているだけでも7万人以上。犠牲者のリストは2000ページを超えます。一人ひとりに名前があり、大切な人がいて、毎日の営みやささやかな食卓があった。そう想像しながら、白い紙に黒いインクで印字されたお名前を読み上げています。
私自身も子どものときに殺されそうになったことがあるのですが、その経験はそんなに特別なものではありませんでした。日々の生活のなかに黒いシミが突然降ってきて塗りつぶされていくような「ただ起きたこと」でした。
この世界に「殺される人」という特別なポジションがあるわけではなく、戦争や虐殺では私たちと同じように食卓で朝ごはんを食べていた人たちが、殺されます。
私たちはただ生まれて、ただ生きて、ただ死んでいきます。けれど、「人間によって殺される」ことは全く違います。私の場合は「ああこうやって何かに巻き込まれて、わけが分からないまま殺されるんだ」と思いました。思考というより感覚でした。黒いシミに押しつぶされて自分は小さな点になり、「意味」や「言葉」や「物語」がぼろぼろと落ちていきました。そして自分は殺されるに値する人間なんだという不思議な罪悪感を抱きました。「人間が人間を殺すこと」に反対するのは、私自身にとっては失った意味を拾う作業です。本を読むことは、言葉や物語を人と共有してつくりなおす試みです。
「人間が人間を殺すこと」を許容すると、私もあなたもまた殺されてもいい存在であると認めることになります。だから自分自身のためにも許容しないでほしい。
そして、この世界には「殺す」立場 − 「殺される」立場だけが存在するのではなく、「殺させない」ことが可能な立場があります。私たちには今、それができます。
一緒に本を読んで、「殺させない」という物語をつくりましょう。
疋田香澄(ひきた・かすみ)
1986年、南九州出身。東日本大震災直後から8年間、当事者のニーズをもとに様々な支援活動を行う。2023年10月より神戸にて、パレスチナへの暴力に反対する活動を継続。ガザ「人道危機」全国国会議員アンケート、スタンディング、イベント、zine等を運営。4歳児を育てながら、小児領域の言語聴覚士として働いている。著書に『原発事故後の子ども保養支援――「避難」と「復興」とともに』(人文書院)がある。
疋田香澄のBOOK LIST
1 へいわとせんそう
たにかわしゅんたろう ぶん Noritake え/ブロンズ新社/1200円
くらべてみると、みえてくる。「へいわのボク」と「せんそうのボク」では、なにが変わるのだろう。同じ人や物や場所を見開きごとにくらべると、平和と戦争のちがいがみえてくる。これまでになかった平和絵本!
2 夕凪の街 桜の国【新装版】
こうの史代/コアミックス/660円
昭和30年、灼熱の閃光が放たれた時から10年。ヒロシマを舞台に、一人の女性の小さな魂が大きく揺れる。最もか弱き者たちにとって、戦争とは何だったのか、原爆とは何だったのか。文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞作。著者による広島のスケッチ、秘蔵エッセイ、カラー漫画なども収録。
3 イスラエル・パレスチナ紛争をゼロから理解する
イラン・パペ 著 早尾貴紀 監訳 広瀬恭子 茂木靖枝 訳/河出新書/1000円
イスラエルによるガザへの大規模攻撃。この世界史的悲劇の根本的な原因はどこにあるのか?イスラエル・パレスチナ現代史研究の世界的第一人者であり、イスラエル生まれのユダヤ人であるイラン・パペ氏が、この問いに正面からシンプルに答える。膨大な公文書・資料に基づき、シオニズムが当初から内包してきた植民地主義性と、イスラエルによるジェノサイドの歴史を批判的に検証し、パレスチナ/イスラエルの基礎的な歴史をコンパクトにまとめた一冊。
4 戦争トラウマを生きる
蟻塚亮二・黒井秋夫/泉町書房/1800円
PTSD日本兵の家族会を作った黒井秋夫と、沖縄・福島で戦争・原発事故のトラウマ治療に取り組んできた蟻塚亮二。ともに両親が戦争トラウマを抱えており、苦難に満ちた自分と家族の戦後の歩み、兵士や戦争被害のPTSDを語り、今も続く戦争の真の残酷な姿を明らかにする。行き詰まる反戦の動きを「痛みを知る」民衆の側から実現しようと試みる、読み継がれるべき平和論対談集。
5 沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか
林博史/集英社新書/1130円
1945年、激しい地上戦が繰り広げられた沖縄戦。軍民あわせ県民の4人に1人にあたる約20万人もの命が失われた。戦後も沖縄は米軍の軍事支配に委ねられ、今なお多くの米軍基地が存在している。狭い国土の日本が戦場になるとどうなるのか?過去の悲劇に学び、教訓を未来に生かすために、国土防衛戦の実相を第一人者が膨大な史料と最新の知見を駆使し編み上げた、沖縄戦史の決定版。
6 平和に生きる権利は国境を超える
猫塚義夫・清末愛砂/あけび書房/1600円
世界最大の「天井のない監獄」ガザの人道危機が進む今、パレスチナとアフガニスタンの支援活動を続ける医師と法学者が現地訪問の経験から、〝平和的生存権〟と〝法の支配〟と、日本人の私たちがなすべきことを問う。
7 国際法からとらえるパレスチナQ&A イスラエルの犯罪を止めるために
ステファニー・クープ/岩波ブックレット/630円
多数の子ども・民間人が殺される事態は犯罪ではないのか?事態の見方をあいまいにしてイスラエルに利する政治家の発言や報道がある中で、国際法の専門家が明快に解説する。国際法での重大犯罪とは?歴史的にみて現状は?法は無力なのか?事態を国際法で捉える私たちの声が、力の支配を終わらせる。用語解説・年表付き。
安田菜津紀
「戦争」という言葉をどのようにとらえるべきか、不条理に直面する人々を取材するほど、より繊細に考えるようになった。たとえばパレスチナで今起きていることを「戦争」とはとらえていない。国際法を踏みにじる占領のもと、西岸でもガザでも、イスラエルの行いは民族浄化としか言いようがない。力の不均衡を考えれば、武力「衝突」という不平等を覆ってしまう言葉さえ用いたいとは思えない。
今回のこのフェアにあたり、「戦争ゆるさん」を、植民地主義やレイシズム、特定の人々を周縁へと追いやる暴力への抵抗ととらえ、選書することにしたい。これらすべてが人間の尊厳を奪い、侵略や「力の支配」へと社会を吸い寄せるものだからだ。
藤原辰史さんの『食権力の現代史』では、「食」を用いてパレスチナ人を追い詰めるイスラエルの姿とナチスの「類似点」が浮き彫りになるほか、大日本帝国の朝鮮支配についても触れられている。
『韓国人権紀行 私たちには記憶すべきことがある』は、軍事独裁政権下での弾圧などを記憶する地を朴來群さんが巡っているが、これらが日本の植民地支配下で植えつけられた構造と地続きであることを踏まえて読み進めたい。
『私の愛するロシア』は、ロシアのジャーナリストでLGBT活動家であるエレーナ・コスチュチェンコさんの視点からプーチン政権を鋭く見つめたものだが、エレーナさんが直面したファシズムの脅威は、果たして今の日本社会から「遠い」ものだろうか。
日本の現政権は加害の歴史と向き合う素振りさえ見せないが、その過去と向き合わずして、現代の「戦争」を止める力を持つことはできないだろう。むしろ日本政府がイスラエルの軍事品を購入し続けてきたように、積極的にその暴力システムの一部に成り下がってしまう。私は一人の市民として、それに目いっぱいの「NO」を突き付けるため、その軸足を確かなものにするために「学ぶ」のだ。本を通して、そこに刻まれた声を通して。
安田菜津紀(やすだ・なつき)
認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。
安田菜津紀のBOOK LIST
1 食権力の現代史 ナチス「飢餓計画」とその水脈
藤原辰史/人文書院/2700円
史上最大の殺人計画「飢餓計画フンガープラン」。ソ連の住民3000万人の餓死を目標としたこのナチスの計画は、どこから来てどこへ向かったのか。その世界史的探究の果てに、著者は「飢餓計画」と現代世界の飢餓を結ぶ重要人物を探り当てる。飢餓を終えられない現代社会の根源を探る画期的歴史論考。第一次大戦から第二次大戦を経て、イスラエルのガザの虐殺までの現代史を、食を通じた権力の歴史、そして「施設化」した飢餓の歴史として描く。
2 韓国人権紀行 私たちには記憶すべきことがある
朴來群 著 真鍋祐子 訳/高文研/3000円
光州虐殺の責任者処罰を要求して焼身自殺した弟の遺志を受けた人権活動家が、済州島・光州・ソウルなど帝国日本と軍事独裁政権の加害の現場を歩き、犠牲となった人びとの哭声に耳を澄ます。「過去の国家暴力――国家犯罪が可能だったのは、その時代に多くの人々が沈黙したからである。」(本文より)。共犯者とならぬために、日本の「私たち」にも傾聴し、記憶すべき言葉がある。
3 私の愛するロシア:プーチン政権から忘れ去られた人びと
エレーナ・コスチュチェンコ 著 高柳聡子 訳/エトセトラブックス/3000円
プーチン政権批判の最先鋒「ノーヴァヤ・ガゼータ」紙のジャーナリストによる、渾身のルポルタージュ。戦争にひた走るロシアにおいて、モスクワから遠く離れた地方の自動車道で〈身を売る〉女性たち、廃墟で暮らす未成年の子どもたち、国営の障害者施設、忘れられた公害、隠蔽された学校占拠事件、迫害される少数民族、性的少数者……政権下において周縁に追われ隠されてきた人びとの声を伝える記事と、真実を語る記者としてそしてLGBT活動家として戦ってきた自らの半生を交互に綴る。
4 「混血児問題」の歴史社会学――戦後日本の人種的境界
有賀ゆうアニース/新曜社/3900円
戦後日本は「日本人」と「混血児」の境界をいかに設定してきたか。ある歴史的・社会的文脈のもと、人種が他の属性や制度と結びつくことで、「混血児」はいかに包摂/排除されてきたのか。人種という境界が人々の経験を形づくる仕組みを明らかにする。
5 [新装改訂版]沖縄戦場の記憶と「慰安所」
洪玧伸/インパクト出版会/3800円
沖縄に146カ所の日本軍「慰安所」が作られ、軍によって運営されていたことを、膨大な陣中日誌や聞き取り調査などから歴史的に明らかにした大著。地域住民の沖縄戦の記憶に、戦時性暴力の空間がよみがえる。2017年沖縄タイムス出版文化賞正賞、2020年オランダの国際的な出版社Brillより英語版が刊行された。
6 南洋と私
寺尾紗穂/中公文庫/840円
サイパン、沖縄、八丈島――。ミュージシャンで作家、寺尾紗穂が、戦争の痕跡をさがしもとめ、十年を費やし、生きた証言を拾いつづけたノンフィクション。サイパン戦。かつて日本が統治していた地で繰り広げられた、日米の戦争。日本は甚大な犠牲を出し、バンザイクリフの名は今も知られる。しかし私たちは、そこで巻き込まれた島民、生き抜いた者のその後を、想像することがあっただろうか。戦争を知らない世代に届けたい、声がある。
蟹ブックス
34年の自分の人生史上、一番政治に怒っているかもしれません。現在進行形で世界の戦争や侵略に関与しながら、日本国内で暮らす様々な人たちに恨みでもあんのかと思うような政策を連発する政府。不安で弱気になったり、正常性バイアスで気づかないふりをしたくなったりするけど、それだけだと事態は悪くなる一方。一人ひとりが本を読み学んだことを誰かに伝えたり、デモに参加してみたり、少しずつでも行動することが大切だと思っています。
だから、多くの市民が連携しながら横暴な権力に立ち向かう姿を記録した2冊を選びました。一冊は、「非常戒厳」宣布による混乱の中、大統領弾劾を達成した韓国。もう一冊は、突然の軍事クーデターに徹底して抵抗し、今も闘い続けているミャンマー。どちらも2020年代の話。普通の人々が勇気と知恵を持って路上に出る姿に、「やるしかない」「この人たちに会っても恥ずかしくない自分でいたい」という気持ちが湧いてきます。
(小沼理)
小沼理(おぬま・おさむ)
一九九二年、富山県生まれ。文筆家。著書に『1日が長いと感じられる日が、時々でもあるといい』(タバブックス)、『共感と距離感の練習』『悲しい話は今はおしまい』(ともに柏書房)。
私は普段、テレビドラマなどの批評を主に執筆しています。その中で観た安達奈緒子さん脚本の『サギデカ』というドラマは特殊詐欺を描いた作品です。主人公の刑事は、特殊詐欺犯に向かって「あなたたちは、高齢者(騙す人たち)とひとくくりにしてその顔を見ていない」と語りかけるセリフがありはっとしました。戦争も、戦地で危険に晒されている個人の顔が見えていないからこそ、民間施設を襲撃したりできるんだなと思いました。今回、気になって手に取ったのは、どちらも個人の「顔」の見える本です。『戦中派 死の淵に立たされた青春とその後』は、ものごころついたときに戦争のなかにいた世代の人たちがどんな思いで死の淵にいたかという「顔」が見える本。反対に『増補 普通の人びと――ホロコーストと第101警察予備大隊』は、ポーランドに住む平凡な人々がホロコーストへと向かったその「顔」を書いています。戦争には正反対の「顔」があることを思うのでした。
(西森路代)
西森路代(にしもり・みちよ)
愛媛県生まれ。フリーライター。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、『韓国ノワール その激情と成熟』(Pヴァイン)、『あらがうドラマ「わたし」とつながる物語』(303BOOKS)などがある。
戦争反対ってあたりまえのことじゃなかったの? だって学校でも本でもテレビでもみんなそう言ってたのに、みんなで原爆ドームも見に行って火垂るの墓も観て、「ね、ぜったいダメだよね」ってことになってると思ったのに、いったいいつの間に、戦争反対って言うことが「勇気ある」みたいなわけわからない世界線になってしまったんでしょうか。もちろん少しずつ空気が悪くなっていることは気づいていたけれど、最悪の現政権は戦争まっしぐらで、このまま行ったら81年前みたいに、勇敢で美しい戦死なんかではなく、そもそも戦死以前の餓死とか上官からの暴行とか、何のために死んでるのかもわからないような犬死にをまたさせられそう。こんな不安が大袈裟で考えすぎで言いがかりで馬鹿らしいものだったらいいなって毎日思っています。
社会が急に悪くなってしまったことはとても悲しいけど、もしかしたら同じくらい、次の10年で急によくなることもあるのかもと希望を持っています。もちろん悪くなるのは簡単で、よくなるほうが難しいのは何でもそうだけど、少なくとも勝手に良くなることはなさそうだからみなさんといっしょに抗い続けていきたいと思います。
蟹ブックスでは2025年夏の「差別と戦争めちゃくちゃ反対ブックフェア」に続き、二度目の反戦ブックフェアの開催となりました。フェアが終了したときには「また来年の夏もやりましょう」などと共同企画者の藤岡拓太郎さんと話していましたが、急遽時期を早めて開催することになりました。急なお願いにも関わらず、フェアにご賛同いただき、素晴らしい選書とメッセージをくださった選者のみなさまに心から感謝いたします。
(花田菜々子)
花田菜々子(はなだ・ななこ)
蟹ブックス店主。2003年より20年間、書店員として働き、いろいろな土地や会社を渡り歩いたのち、2022年に蟹ブックスをオープンする。著書に『出会い系サイトで70人と~』など。
蟹ブックスのBOOK LIST
(小沼 選)
1 弾劾可決の日を歩く “私たちはいつもここにいた”
岡本有佳/タバブックス/1000円
2024年12月3日、尹錫悦大統領による突然の「非常戒厳」宣布から始まった韓国の混乱。大統領弾劾を求め200万人規模のデモが行われ、大勢の若い女性たちが参加した。多くの市民が立ち上がり声を上げる根底にあったのは、尹政権の言論弾圧や不正、アンチフェミニズム政策への怒り。現地を取材し、抵抗する人々の声を聞いた記者による、韓国の現実。
2 ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか
西方ちひろ/集英社/1800円
ミャンマーの軍事クーデター後の1年間、日本人の著者が目の当たりにした民主化闘争を、市民の声を丁寧に掬い上げ、リアルタイムで綴った稀有な記録。市民は最初、徹底した非暴力で抵抗を示した。しかし軍はそんな市民たちを虐殺し始める――。自由と民主主義を取り戻そうと奮闘する人々のひたむきな想い。闘いはまだ終わらない。軍に抵抗する民主派の武装組織の兵士たち、日本で働く人たちの言葉なども掲載。ミャンマー市民たちの今を伝える一冊。
(西森 選)
3 戦中派 死の淵に立たされた青春とその後
前田啓介/講談社現代新書/1500円
戦没者が最も多かった1920~1923年生まれの若者たち。青春を戦争に翻弄され、戦場で死の淵を覗いた彼らは、戦後、「なぜ死ぬのか」から「なぜ生きるか」への転換を強いられることとなる。山田風太郎、水木しげる、司馬遼太郎、山口瞳、遠藤周作、三島由紀夫、吉村昭、吉本隆明、鶴見俊輔、岡本喜八、島尾敏雄、庄野潤三、北杜夫……、彼ら戦中派が見た戦争、そして戦後とは?
4 増補 普通の人びと――ホロコーストと第101警察予備大隊
クリストファー・R・ブラウニング 著 谷喬夫 訳/ちくま学芸文庫/1700円
薬剤師や職人、木材商などの一般市民を中心に編成された第101警察予備大隊。ナチス台頭以前に教育を受け、とりたてて狂信的な反ユダヤ主義者でもなかった彼らは、3万8千人ものユダヤ人を殺害した。ごく平凡な人びとが、無抵抗なユダヤ人をひたすら銃殺しつづける――そんなことがなぜ可能だったのか。限られた資料や証言を縒り合わせ、凄惨きわまりないその実態を描き出すとともに、彼らを大量殺戮へと導いた恐るべきメカニズムに迫る戦慄の書。
(花田 選)
5 戦争まで
加藤陽子/朝日出版社/1700円
日本の、戦争までの歴史を決めた三つの交渉を、高校生たちへの6日間の講義録の形のまま収録。満州事変とリットン報告書/日独伊三国軍事同盟/日米交渉。国や個人は、どのように自らの立場を選択したのか、すればよかったのか。そこで悩み、考え抜いた人間から生みだされるものとは何か。当時の人間に見えていた世界を再現し、最適な道を見つけるにはどうすればよかったかを高校生たちとともに考えていく。
6 戦争と漫画(全3巻)
山田英生 編/ちくま文庫/940円~960円
「戦争と戦後」を描いた漫画を集めたアンソロジー集。「戦地の物語」「銃後の物語」「焦土の記憶」の3冊からなる。つげ義春、水木しげる、赤塚不二夫、楳図かずお、伊藤潤二、大島弓子、近藤ようこ、今日マチ子、こうの史代など多彩な作品を収録。どの作品からもこれを書き残さなければならない、伝えなければならないという強い思いが溢れている。
7 悲しい話は今はおしまい
小沼理/柏書房/1700円
今だけは「明るい話」をしよう。絶望しないで話し続けるために。LGBTのための運動やガザ支援を続けることで、著者は徐々に疲労ややりきれなさを感じ始めていた。「悲しい話」に覆われてしまう日々から抜け出すために必要なのは、友達とのパーティー、植物の世話、韓国語の勉強、そして犬の動画!?対話と抵抗を続けていくためのヒントがつまった実践的エッセイ集。
企画 蟹ブックス、藤岡拓太郎
メインビジュアル 藤岡拓太郎
紙版冊子の本文レイアウト 高井愛
※BOOK LISTの書籍紹介文は出版社サイトの情報を元に蟹ブックスがまとめたものです。
(ただし武田砂鉄さんのリストのみご本人による解説となっています)
戦争ゆるさんほんとにやだいいかげんにしろブックフェア
in 蟹ブックス(高円寺)
2026年5月8日~6月21日
フェア参加書店さまを募集中です!
詳しくは蟹ブックスHPをご覧ください。
https://www.kanibooks.com/



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