SBI証券の【謎の警告】を調査したら…現在進行形の純金ETFの【乖離】というヤバい実態がわかった話
はじめに: 「重要なお知らせ」の意味がわからない...
先日、SBI証券にログインしたところ、こんな「重要なお知らせ」が表示されました。
【重要】貴金属関連ETFのお取引についてのご注意
平素はSBI証券をご利用いただき厚く御礼申し上げます。
現在、東京証券取引所に上場している貴金属関連ETF(金・銀・プラチナ等)の市場価格が、基準価格(一口あたりの純資産額)と比較して大幅に高い状態で推移する傾向が続いており、日本取引所グループから複数の貴金属関連ETFに対し、注意喚起や基準価額に関する情報が継続的に発表されています。
お客さまにおかれましては、日本取引所グループから発表されるニュース等にご留意いただき、慎重な投資判断をお願いいたします。
正直なところ、最初は全く意味が分かりませんでした。
「市場価格が基準価格と比較して大幅に高い」とはどういうことなのか?ETFって指標に連動するはずでは?なぜこんな警告が出ているのか?
疑問だらけだったので、調べてみることにしました。
この記事では、私が理解するまでのプロセスと、そこから学んだETFの仕組みについて共有します。同じ警告を見て「?」となった方の参考になれば幸いです。
データで見る異常事態
まず、三菱UFJ信託銀行が公開している純金上場信託(証券コード:1540)のヒストリカルデータをダウンロードして分析してみました。
そのデータから市場価格と乖離率の推移をグラフ化したのがこちらです。
オレンジ線(左軸):市場価格、緑線(右軸):乖離率
このグラフから、2つの重要な事実が読み取れます:
◆金価格の上昇トレンド(オレンジ線)
2010年~2019年:3,000円~5,000円台で推移
2020年~2023年:緩やかに上昇し、5,000円~8,000円台へ
2024年~2025年:急加速して2万円を突破
◆乖離率の異常な拡大(緑線)
CSVデータ(2010/7/2-2025/10/22)を分析したところ、乖離率が3%を超えた日は以下だけでした:
2020年2-3月:3日間(コロナショック時の一時的混乱)
2020年12月:1日のみ
2024年3月末-4月:約3週間継続(過去最長)
2025年9月16日以降:40日以上ほぼ毎日継続中(記録更新中)
注目すべきは、継続期間の違いです:
2025年の状況は、過去の事例を大きく上回る規模と期間で乖離が続いており、金価格の上昇に伴って投資需要が殺到し、ETFの供給が構造的に追いつかなくなっていることを示しています。
ちなみに、CSVデータから乖離率については以下がわかりました。最大で16%を超えていますね。
平均値:0.21%
中央値:0.08%
最大値:16.24% (2025/10/20)
最小値:-2.04%
◆具体的な数字で見ると...
2025年10月16日時点で、日本取引所グループが発表した数字は以下の通りです:
純金上場信託(1540)
基準価額:19,604.9円
市場価格:22,395円
乖離率:約14.2%
純プラチナ上場信託(1541)
基準価額:7,957.13円
市場価格:9,326円
乖離率:約17.2%
つまり、本来の価値より15%前後も高い価格で取引されているということです。
これは、1万円の価値があるものを1万1,500円で買うようなものです。
過去を振り返ると、2024年4月にも約3週間乖離が続きましたが、その後は解消されました。しかし今回は9月中旬から40日以上も高い乖離が継続しており、2024年4月を大きく上回る規模と期間です。これは一時的な需給のズレではなく、構造的な問題であることを示しています。
最初の疑問:なぜデータの「乖離率」では分からなかった?
実は、最初にCSVデータを見たとき、「乖離率」という列があったのですが、その値はほとんどゼロでした。
「あれ?警告が出ているのに乖離してないじゃん?」と思ったのですが、これには理由がありました。
◆データの「乖離率」の本当の意味
三菱UFJ信託銀行が提供しているCSVファイルの「乖離率/Daily Deviation Rate」は、実は「前営業日からの変動率の差」を示しているのです。
計算式はこうなっています:
乖離率 = (一口NAVの前営業日比 - 指標価格の前営業日比) × 100(%)
これは「今日の値動きが昨日と比べてどうずれたか」を示すだけで、絶対的な価格の乖離は分からないのです。
◆本当に見るべき数字
CSVデータで見るべきは:
「取引所終値/Closing Price」 ← 実際に市場で取引されている価格
「一口NAV/Net Asset Value per Share」 ← ETFの本来の価値
この2つを比較すると:
実際の乖離率 = (取引所終値 ÷ 一口NAV - 1) × 100(%)
これで計算してグラフ化したところ、冒頭の衝撃的なグラフが出来上がったわけです。
基礎知識:そもそもETFはどう価格調整しているのか
ここで一つ疑問が湧きました。
「ETFって株式市場で取引されてるんだから、需要と供給で価格が決まるはず。それなのに、なぜ通常は指標価格とほぼ一致するの?」
これは私がずっと理解できていなかった部分でした。調べてみて初めて、ETFの巧妙な仕組みが分かりました。
◆ETFの二重構造
ETFには実は2つの市場があります:
①一次市場(発行・償還市場)
「指定参加者(Authorized Participant)」という特別な機関投資家だけが参加
ETFの新規発行(設定)と償還ができる
一般投資家は参加できない
②二次市場(取引所)
私たち個人投資家が売買する場所
株式と同じように需給で価格が決まる
◆裁定取引という自動調整機能
ここが最も重要なポイントです。
ケース1:ETFが割高になった場合
市場価格 22,000円 > 基準価額 20,000円
このとき、指定参加者はこう動きます:
原資産(株式や金など)を市場で集める
それをETF運用会社に渡して、ETFを新規発行してもらう(20,000円相当)
そのETFを取引所で売却する(22,000円)
差額2,000円の利益!
結果:ETFの供給が増える → 市場価格が下がる → 乖離が解消
ケース2:ETFが割安になった場合
市場価格 18,000円 < 基準価額 20,000円
このとき、指定参加者はこう動きます:
取引所でETFを安く買う(18,000円)
ETF運用会社に持っていって償還する
原資産を受け取る(20,000円相当)
差額2,000円の利益!
結果:ETFの需要が増える → 市場価格が上がる → 乖離が解消
◆なぜこれが有効なのか
この仕組みの素晴らしい点は:
指定参加者は利益のために動く(インセンティブがある)
価格が乖離すればするほど、利益が大きくなる
だから自動的に価格が調整される
通常の株式型ETF(日経225連動ETFなど)では、この仕組みが完璧に機能しており、乖離率は0.1%未満に収まります(今回の純金ETFにおいてCSVで提供された期間では平均値は0.21%程度でしたね)。
今回はなぜ価格調整が機能しないのか
では、なぜ今回の貴金属ETFでは、この自動調整機能が働いていないのでしょうか?
◆現物保管型ETFの特殊性
純金上場信託(1540)は「現物保管型」のETFです。つまり:
本物の金地金を実際に保管している
紙の上での取引ではなく、物理的な金が必要
ETFを新規発行するには、実際に金を調達しなければならない
◆機能不全の4つの理由
1. 金地金の調達が困難
株式なら電子的に大量購入できますが、金地金は:
供給自体が限られている
すぐに大量調達できない
価格も高騰している
2. 物理的な制約
金地金の輸送が必要
保管場所の確保が必要
すべてに時間とコストがかかる
3. 需要が強すぎる
グラフを見ると分かるように、金価格は2020年以降急上昇しています:
2020年:約5,000円
2024年:約10,000円
2025年:20,000円超え(4年で4倍!)
この急激な価格上昇により:
安全資産としての金への需要が急増
特に日本国内での投資需要が高まっている
インフレや地政学リスクへの懸念
「割高でも買いたい」投資家が多い
4. 設定プロセスに時間がかかる
株式ETFなら数日で設定できるが、現物金ETFは:
金の調達に時間がかかる
保管手続きに時間がかかる
裁定取引が追いつかない
◆結果として...
15%の乖離 = 裁定取引の利益機会
しかし...
物理的制約 > 利益機会
→ 価格調整が機能しない
指定参加者も「利益になるから」といって、無限に金を調達できるわけではないのです。
通常のETFとの比較を整理してみました。
投資家への教訓:何に注意すべきか
この異常事態から、私たちは何を学ぶべきでしょうか?
1. 「基準価額」と「市場価格」を必ず確認
三菱UFJ信託銀行のウェブサイトで毎日公表されています
ETFを買う前に、必ず両方の価格を確認しましょう
10%以上の乖離がある場合は要注意
2. 現物保管型ETFの特性を理解する
便利だが、制約もある
需給が逼迫すると乖離が発生しやすい
株式型ETFとは異なることを認識する
3. 割高でも買う価値があるか冷静に判断
15%高くても買うべきケース:
長期保有で、将来の値上がりを期待
他の投資手段がない(海外口座を持っていないなど)
他の選択肢を検討すべきケース:
短期投資
コスト重視
→金CFD、海外ETF、金地金の直接購入なども選択肢に
4. ETFは「完璧な商品」ではない
便利で優れた商品だが、万能ではない
特殊な状況では問題が発生する
仕組みを理解した上で利用することが重要
5. 公式の警告を軽視しない
SBI証券や取引所からの警告には理由がある
「なぜこの警告が出ているのか」を調べる習慣を
データを自分で確認する姿勢が大切
まとめ:仕組みを理解して投資する
今回、SBI証券の警告をきっかけに、以下のことを学びました:
貴金属ETFで15%もの異常な乖離が40日以上継続している(過去最長)
ETFの価格は裁定取引によって調整される仕組みがある
現物保管型ETFでは、物理的制約により調整機能が働かないことがある
データを自分で確認し、理解することの重要性
最初は「なんのこっちゃ?」だった警告メールですが、調べてみると、ETFの本質的な仕組みを学ぶ絶好の機会でした。
投資において大切なのは、商品の仕組みを理解することです。
「みんなが買っているから」「便利そうだから」という理由だけで投資するのではなく、どういう仕組みで動いているのか、どういうリスクがあるのかを理解した上で判断する。
今回の経験は、そんな当たり前だけど大切なことを改めて教えてくれました。
参考リンク
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免責事項:この記事は個人的な調査と理解に基づくものであり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。



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