インド政府が国内で販売されるすべてのスマートフォンに、政府が開発したセキュリティアプリ「サンチャル・サーティ(Sanchar Saathi)」の強制的なプリインストールを命じた。

政府はサイバー犯罪の予防と紛失したスマートフォンの回収を目的とする政策だと説明した。しかし野党と市民団体は「国民を監視しようとする『ビッグブラザー』法であり、憲法上の基本権を侵害する」と強く反発した。アップルなどグローバルメーカーも技術的・セキュリティ上の理由を挙げ、この法に強く対抗している。12億人を超えるモバイル利用者を抱える世界最大の民主主義国家で起きた前例のない事態である。

インド政府が開発したセキュリティアプリ「サンチャル・サーティ(Sanchar Saathi)」。/聯合ニュース
インド政府が開発したセキュリティアプリ「サンチャル・サーティ(Sanchar Saathi)」。/聯合ニュース

2日(現地時間)、タイムズ・オブ・インディアやヒンドゥスタン・タイムズなど現地メディアによると、最近インド通信省(DoT)はスマートフォンメーカーと輸入業者に対し、90日以内に出荷する新規端末にサンチャル・サーティをプリインストールするよう指示した。サムスン電子、シャオミ、ビーボ、アップルなどインド市場でスマートフォンを販売するすべてのメーカーが対象だ。インド通信省は、すでに販売され使用中の旧型端末についてもソフトウエアアップデート方式でアプリのインストールを促すよう求めた。

サンチャル・サーティはヒンディー語で「通信の伴走者」を意味する。主な機能は盗難・紛失した携帯電話の追跡と遮断である。スマートフォンの住民登録番号に相当する端末固有識別番号(IMEI)を認識し、これに基づいて作動する。インド通信省は2024年5月にこの名称でポータルサービスを公開し、その後アプリ形態へ改良した。政府はこのシステムを通じ、これまでに紛失携帯を70万台以上見つけたと宣伝した。

インド通信省によると、メーカーは今後120日以内に本アプリに関する履行報告書を作成し、関係部署に提出しなければならない。従わない場合は2023年に制定された通信法に基づき制裁を受ける可能性がある。通信省はまたメーカーに送った公文で「アプリの機能を無効化したり制限したりできないよう設定すべきだ」と釘を刺した。利用者がこのアプリを任意に削除したり、機能をオフにできないようにせよという意味である。

インド・ノイダのラバ・インターナショナル製造工場で、作業者がモバイル端末のプリント基板に配線をはんだ付けしている。/聯合ニュース
インドのノイダにあるRava Internationalの製造工場で、作業員がモバイル端末のプリント基板に配線をはんだ付けしている。/聯合ニュース

インド野党と市民団体は即座に反発した。個人情報侵害への懸念のためだ。サンチャル・サーティは通話記録、テキストメッセージ、位置情報はもちろんカメラへのアクセス権限まで要求する。機能制限の設定がない限り、政府がその気になればいつでも個人のスマートフォンを覗き見できる構造である。

第1野党の国民会議派(INC)はこのアプリをスヌーピング(盗み見)アプリだと非難した。同党所属のシャシ・タルール議員は「民主主義国家で何かを強制するのは問題の余地が非常に大きい」と述べ、「政府が命令を出すのではなく、国民が納得できる説明をすべきだ」と語った。

市民社会は今回の措置が憲法違反だと主張した。インドのデジタル人権団体であるインターネット自由財団(IFF)は、この措置がプライバシー権を侵害するとした。プライバシー権はインド憲法第21条に明記された生命と自由の権利から派生する基本権の本質的部分である。アパル・グプタIFF理事は「このアプリは言ってみれば家の玄関ドアの内側に政府専用の錠を付けるのと同じだ」と述べ、「サイバーセキュリティという目的は正当かもしれないが、このようなアプリを手段とするのは比例原則に反し、利用者の自律性も損なう」と評価した。

インド・ムンバイのサムスン電子のスマートフォン販売店。/聯合ニュース
インド・ムンバイのサムスン電子のスマートフォン販売店。/聯合ニュース

インド政府がこのような強引な手を打つ背景には、デジタル統制権を強化しようとする意図があると専門家は分析した。インドは12億人を超えるモバイル利用者を擁する世界2位のスマートフォン市場である。サイバーセキュリティ企業セキュリテ(Seqrite)が発刊した2025年インド・サイバー脅威報告書によると、インドでは1分当たり平均702件に達する潜在的なセキュリティ脅威が検知された。同時に毎年840万件を超えるトロイの木馬や感染を通じて3億6900万件以上のセキュリティ事故が発生したと集計された。振り込め詐欺や金融詐欺はインド現地でも大きな社会問題として浮上した。このように広範なデジタル詐欺被害を防ぎ、端末の盗難事例も減らすことが、政府の掲げる核心的な論理である。

インドに先立ちロシアも2021年から国内で販売されるすべてのスマート機器に国家開発ソフトウエアのプリインストールを義務化した。ウクライナとの戦争を本格的に展開していた今年8月には、国営メッセンジャーアプリ「マックス(MAX)」のインストールを強制した。同アプリは「利用者データを要請時に当局へ提供する」と公式に明記した。強制インストールされたアプリが政府の監視ツールだという批判を免れない措置である。

さらに、現在インドを率いるナレンドラ・モディ政権は過去にスパイウエアを用いた査察疑惑の中心に立ったことがある。イスラエル製スパイウエア「ペガサス」を使い、野党政治家、ジャーナリスト、人権活動家を監視したという説である。政府はこれを否定したが、当時インド最高裁は調査委員会を解散するにあたり「政府が(調査に)協力しなかった」と明記した。専門家はこの前例を踏まえ、今回の強制アプリインストールは単なるサイバーセキュリティ強化が目的ではなく、「デジタル独裁」へ向けた意図的な動きだと懸念した。

ナレンドラ・モディ印首相が22日、ヨハネスブルクのナスレク・エキスポセンターで開かれたG20首脳会議の全体会合に出席している。/聯合ニュース
ナレンドラ・モディ印首相が22日、ヨハネスブルクのナスレク・エキスポセンターで開かれたG20首脳会議の全体会合に出席している。/聯合ニュース

論争が拡大すると、ジョティラディティヤ・シンディア通信相が火消しに動いた。シンディア氏は「このアプリは完全に自発的で民主的だ」とし、「利用者が望めばいつでも削除できる」と述べた。しかしグローバルなスマートフォンメーカーですら、セキュリティと利用者保護を最優先の価値として掲げ、インド政府と対立の構えを見せている。とりわけアップルが最も断固として抵抗しているとされる。ロイターなど海外メディアによると、アップルはインド政府の命令に従わない方針を社内的に固めた。アップルはこれまで世界のいかなる国でも通信事業者や政府アプリのプレロードを許容してこなかった。

ロイターは専門家の話として「オペレーティングシステムの深部にアクセスするこの種のアプリは、ハッカーに悪用され得るバックドアというセキュリティホールを生む危険がある」とし、「12億人のインド国民データを単一のアプリに結び付けるのは、ハッキングの観点から致命的な『単一障害点(Single point of failure)』を作ることだ」と警告した。

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