秘密漏洩等を理由とする懲戒解雇(令和2年3月25日大阪地裁)
概要
大学の教授であった原告2名が、学校法人から懲戒解雇されたことをめぐる地位確認等請求事件です。発端は、同大学チアリーディング部の元コーチが、元顧問職員によるセクハラ行為や、その後の学内対応・口止め等を問題としてキャンパス・ハラスメント申立てを行ったことでした。その後、調査委員会の報告、懲戒委員会での審議、元職員の依願退職、元コーチによるセクハラ訴訟・人権救済申立てへと展開しました。被告法人は、原告らが元コーチをそそのかして訴訟を提起させ、マスコミ報道を画策し、学院の名誉信用を毀損したほか、理事会・防止委員会・懲戒委員会等の内部情報を外部に漏えいしたなどとして、平成27年10月25日付で懲戒解雇しました。原告らは、懲戒解雇は不当であるとして、地位確認、未払賃金、賞与、慰謝料等を請求しました。
結論
一部認容、一部棄却、一部却下
要旨
被告学校法人は、原告らがチアリーディング部元コーチをそそのかし、セクハラ訴訟や人権救済申立てを提起させ、さらに記者会見や報道を利用して学院の名誉信用を毀損しようとしたと主張しました。しかし裁判所は、この点を認めませんでした。裁判所は、元コーチが当初からセクハラ行為そのものだけでなく、その後の学内対応、口止め、処分の軽さ等に強い不満を持っていたことを、メールの経過等から詳細に認定しました。そのうえで、元コーチは弁護士との相談を経て、自らの意思で訴訟提起や人権救済申立てを決断したのであり、原告らが不当にあおり、そそのかしたとはいえないと判断しました。
原告らがマスコミ報道を期待し、理事らの退任につながることを考えていた事情は認められるとしました。たとえば、報道がなされれば大学に問い合わせが殺到し、理事会側が責任を問われる可能性があるという趣旨のメールも存在しました。しかし、実際には記者会見は行われず、報道もされていませんでした。さらに、本件セクハラ訴訟や人権救済申立てによって、被告の学内運営に具体的な混乱や損害が生じたことを示す的確な証拠もないとされました。そのため、これをもって学院の名誉信用毀損に当たる懲戒事由とは認められないと判断されています。
一方で、裁判所は、原告らの行為すべてを正当としたわけではありません。原告Aについては、防止委員会における外部専門家選任に関する議論状況、懲戒委員会の審議内容、理事会等の審議内容を外部に伝えた点について、職務上知り得た秘密を他に漏らしたとして懲戒事由該当性を認めました。また、理事会資料を弁護士に提供していたにもかかわらず、理事会資料流出に関する調査で、理事以外に見せたことはないと回答した点についても、職務上の義務違反に当たると判断しました。
原告Bについても、防止委員会の議論内容、心理学部教授会のやり取り、理事会・評議員会の審議状況等をメールで外部に伝えたこと、また元監督名義の文書作成に関与し、懲戒委員会等の内部情報を含む内容を評議員らに送付したことについて、懲戒事由該当性が認められました。裁判所は、原告Bが理事会や委員会の構成員ではなかったとしても、大学教授として職務に関連して得た情報である以上、一定の守秘義務違反またはこれに準ずる行為になり得ると判断しています。
裁判所は、これらの懲戒事由があるとしても、懲戒解雇は重すぎると判断しました。理由として、漏えい先は主に大学関係者、評議員、理事、弁護士など限定された範囲にとどまっていたこと、実際に委員会や理事会の自由な議論が阻害されたとか、被告に具体的損害が発生したことを示す証拠がないことが挙げられています。また、原告Aは約40年間、原告Bは30年以上にわたり大学に勤務し、それまで特段の懲戒処分を受けていなかったことも重視されました。さらに、原告Aについては、学生自死事件をめぐり、理事会から均衡を失した辞任勧告を受け続けていた事情も考慮されています。
そのため、裁判所は、原告らに一定の非違行為はあるものの、直ちに懲戒解雇とすることは客観的合理性を欠き、社会通念上相当とはいえず、懲戒権の濫用として無効であると判断しました。
普通解雇についても、裁判所は無効としました。本件懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が含まれていたとは認めませんでした。懲戒委員会の手続や通知書、説明書はいずれも懲戒解雇を前提としたものであり、普通解雇を検討した形跡がなかったためです。また、後に予備的にされた普通解雇についても、原告らの行為は、勤務状況が著しく不良で職責を果たし得ないといえるほどではなく、教戒や減給等で将来を戒めることなく直ちに労働者としての地位を奪うのは重きに失するとして、解雇権濫用により無効と判断されました。
賞与については、給与規程上、基準日に在職する職員に対し、支給基礎額に支給月数を乗じて支払う仕組みであり、実際にも原告ら以外の教職員には一律に支給されていました。原告らが就労できなかったのは無効な解雇により就労を拒まれたためであるとして、未払賞与請求も認められました。
慰謝料請求については、裁判所は否定しました。懲戒処分が無効である場合でも、地位確認や未払賃金・賞与の支払により通常は精神的苦痛も慰謝されるとし、本件ではそれを超える特段の事情は認められないと判断しました。原告らにも一定の懲戒事由該当行為が存在したことも、慰謝料を否定する事情として考慮されています。


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