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死魚の目を抜く/Novel by みずさわ

死魚の目を抜く

18,647 character(s)37 mins

なんかそれっぽいこと書いてるけどぜーんぶフィクション。
目が見えない状態でも戦えるって滾るよねって話。

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「新、八……なんでっ……なんで、こんな……!」
 万事屋にあるデスクの前に、目に涙を浮かべた神楽が立ちすくんでいる。その手の中には、ひび割れた眼鏡が一つ。“壊れ物を扱うよう”とは、今この状況を指すのかもしれない。微かに震えた掌に、そっと置かれたそれ――。ただ悲しいかな、上からポタポタと落ちてくる、彼女の雫には無防備だった。
「神楽、そんなに自分を責めるな。お前のせいじゃない」
 隣に立つ銀時は、優しく神楽の肩に手を置いた。神楽はブンブンと首を横に振りしゃくり上げる。
「でも銀ちゃん! 私、私っ……何も気付かなくて、ちょっとした悪ふざけのつもりでっ……新八が無理してたなんて、少しも……」
「ああ、わかってる。新八だって、お前に心配かけたくなかったんだ。もう、現界な身体引きずってでも……お前といつもと変わらないやり取り、したかったんだろうさ……っ」
 自分で口にしておきながら、銀時は耐えきれなくなったように唇を噛んだ。その様子を見た神楽は、ついに堰を切ったように泣き出してしまう。
「新八ィ! 帰ってきてよぉ……っ!」
「いや普通に帰ってきましたけど。何してんですかあんたら」
 事務所の入り口に佇んだ新八が突っ込んだ。そのツッコミに振り返った銀時は「おう、おけーり」と、あっさりいつもの死んだ目に戻る。
「ほら神楽、新八帰って来たぞ」
「嫌アル! あんな外面だけ同じ新八なんて新八じゃないネ! 私たちがずっと一緒にいたのはこの新八ヨ!」
「いや“この新八”ってそれ眼鏡! 何壊れた眼鏡を前に悲壮感漂うドラマ始めてんの!! 何紛らわしい演出してんの!! 外面も何も僕が新八! 本体こっち!」
「気持ちはわかるよ神楽。でも俺たちが新しい新八を受け入れてやんなきゃ、そっちの新八も浮かばれねえよ?」
「眼鏡を指すな!! 新しいも何もこれは元からあった予備だわ!」
「新八そんな……“私が死んでも代わりはいるもの”みたいな、悲しいこと言うなよ」
「ごめんなさい、こんな時どんな顔すればいいか、わからないネ」
「いい加減にしろよお前ら。笑えばいいと思うよ」
 ことの発端は今朝。朝食の席で新八が「そろそろこの眼鏡も替え時みたいなんですよね」と口にしたことだった。その時点ではひび割れではなく、細かな傷とフレームの歪みが気になる、という話をしていた。しかしそう言われても、普段眼鏡を使わない銀時と神楽にはピンと来なかったらしい。銀時は興味なさげに「新調する金なんかあるのか?」と(万事屋の給料をまともに払わない元凶でありながら)言い放ち、神楽は「まったく最近の子は、すぐそうやって新しいものに替えたがるんだから!」と(万事屋の家計を圧迫する食費の要因でありながら)お母さんみたいなことを言った。そこまでは……新八としてはイラっとしたものの、そこまでは良かった。問題は、如何に今の眼鏡が見えづらいかを説明する過程で、眼鏡本体が神楽の手に渡ったこと。
 ――バキッ。
「「「あ」」」
 まあ、当然といえば当然である。怪力の夜兎が、繊細な眼鏡の扱いなど知る由もない。うっかり渡した自分にも責任はあると、新八は神楽を責めなかった。とはいえ、新たな眼鏡を買いに行っている間に、反省の様子もなくアホな寸劇をやっているとは思わなかったが。
「ていうか、まだ予備なの? 新しいの買って来たんじゃないわけ?」
 ようやく寸劇をやめた銀時の問いに、新八は溜め息を吐きながら答える。
「買いましたよ。ただ僕乱視入ってるんで、レンズがすぐ用意できないんです。だからまた二、三日後に受け取りに行ってきます」
 今回新八が行った眼鏡屋は、至って普通のチェーン店だ。なお、その“普通”に辿りつくまでに、また別の騒動があったのは余談である。
 ――二年以上前、眼鏡を新調するため訪れた個人店で、一つの眼鏡を買ったことが全ての始まり。その名も、ノロワ・レター・メガネ。ぶっちゃけ守護霊が見えるただの呪われた眼鏡である。しかもそれは、一度かけるとはずれなくなった。おかげでアスラマン(銀時の守護霊。幼少期の頃、彼がガシャポンで購入したギン肉マン消しゴムの霊)とか、アルチュウ(神楽の守護霊。子供に大人気のポ○モンの霊)とか、とにかく見えなくていいものまで色々見る羽目になり、本当、えらい目に遭ったのだ。
 以来、行きつけはもっぱらどこにでもあるチェーン店。近場の店舗はもうすっかり行き慣れており、レンズの調達に少し時間がかかるというのも、前もってわかっていたことだ。(そもそも視力検査もせず、いきなり度の合う眼鏡を渡してきたあの個人店がおかしかった)
「というわけで、これから二、三日、僕にはこの予備の眼鏡しかないんで。これなかったら僕マジで日常生活に支障が出るんで!」
 もう絶対壊さないでくださいね! と念を押せば、神楽が呆れたように、でもどこか気まずそうに答える。
「大袈裟アルな。そもそもこの眼鏡しんぱちだってわざと壊したわけじゃないアル」
「だからそれ新八違う、新八こっち。……うん、神楽ちゃんがわざとじゃないのはわかってるんだけどさ。こういうのって続くというか、フラグってあるじゃない?」
 いっそわざとであれば回避のしようもありそうだが、不慮の事故だから怖いのだ。物が壊れる、怪我をする……そうした不運は、なんとなく続きそうな気がしてしまう。そんな新八の発言に、今度は銀時が溜め息を吐いた。
「新八ィ、お前それ自分でフラグ立ててっぞ」
「うっ……それ言われると余計怖い……とにかく! 銀さんも神楽ちゃんも、この眼鏡でふざけるとかは絶対しないでくださいね。フリじゃないですからねこれ! お願いしm」
「わふっ」
「「あ」」
 途端、新八の視界が真っ暗になった。
「定春ぅ、やっぱりお前も外面だけの新八は受け入れられないアルか。それは仕方ないネ」
「久しぶりに俺じゃなくて新八に行ったな。いいぞ定春、そのままフラグ回収だ」
「――!! ――!!」
 僕が一体何したっていうんだ!! という新八の叫びは、定春の口の中だけに響いて消えた。

Comments

  • るおまに

    あぁww最後のエヴァネタかwwww

    Mar 7th
  • まるちーず🧀

    疲れが吹き飛ぶくらい笑わせていただきました!!!とても面白かったです!

    Feb 11th
  • MIЯAI

    エヴァファンでもあるのでシンのゲンドウだ!で腹筋崩壊しました🤣 目の説明がわかやすい😂

    July 24, 2025
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