なぜ柳田悠岐は不調でも打てるのか? 超一流が実践する「集中力を育てる」3段階
「集中の技術」にはいくつかの段階がある
最初の段階は、自分にとっての「戻り先」がどこにあったのかに気づく段階です。あとから振り返ってみると、その場では「何もできなかった」と感じていても、時間の流れは完全には途切れていなかった、あるいは身体のどこかにかすかな感覚が残っていたなど、注意のすべてが失われていたわけではなかったことに少しずつ気づき始めます。 この段階では、何かを立て直した感覚はありません。それでも、完全に崩れていたと思っていた状況の中に、次につながる手がかりが残っていたことに気づき始めます。 次に見られるのが、注意がズレたときに、意識的に戻り先へ戻そうとする段階です。どこかに戻れる場所があるとわかってくると、人は自然と、そこに注意を戻そうとします。視線を戻そうとする、リズムを整えようとするなど、頭の中では「今はここに注意を戻すべきだ」という理解がはっきりしています。 ただ、この段階では、思った通りに戻れないことも多くあります。戻そうとした瞬間に、「本当にこれでいいのか」「まだズレているのではないか」と確認が入り、注意が再び忙しくなる。戻れないこと自体が問題なのではなく、戻そうとする操作に意識が向きすぎることで、注意が散りやすくなる段階でもあります。 さらに、注意を「戻そう」とする操作そのものが、あまり意識にのぼらなくなる段階があります。ズレたことに気づいても、それを問題として扱わず、評価や確認を挟まずに、出来事の流れにそのまま注意が向き続ける時間が増えていきます。 この場合、注意は特定の戻り先に引き戻されるというより、行動や出来事と同調したまま動いていきます。ここでは、「集中している」という感覚すら、あまりはっきりしません。ただ、行動が途切れず続いている。あとから振り返ったときに、「あの場面は、何も考えていなかった」という言葉が出てくるような状況です。 これらの段階は、一度到達したら、そこから先に進む一方というものではありません。先ほど触れたように、柳田選手でさえ調子が悪いと感じたときは、意図的にゾーンを絞るなど、意識的に注意を特定の戻り先に向けようとする段階に戻ることもあります。 この整理が意味を持つのは、「わかっていても戻れなかった」という経験の捉え方が変わる点にあります。戻れなかったことは、失敗でも、集中力の欠如でもありません。そのときも、戻す技術を育てている過程にいただけなのです。
伴元裕(福岡ソフトバンクホークスメンタルパフォーマンスコーチ)