■ヴァンガード誕生秘話 ― あの現場のリアル(第一回・木谷社長の決断)
ヴァンガードの企画が始まるより前。
まだ誰も「カードゲームを大ヒットさせる方法」を知らなかった時代。
僕は、ある“仮説”をずっと持ち続けていました。
この連載ノンフィクション記事は、その仮説に木谷社長が社運をかけた瞬間から始まります!
こんにちは。池っち店長です。
これから数話にかけて、僕が「カードファイト!! ヴァンガード」の企画に深く関わらせて頂いた時期の話を、備忘録的に記録したいと思います。
読み物としても、当時本当にあった熱いドラマとして、お読みいただけるものと思います。
カードファンだけでなく、業界の人達全員にとって、一次資料としても役立つ記事だと自負しております。
当記事はノンフィクションですが、セリフなどに多少の演出があります。
そして、関係者の誰かを貶めたり、傷つけたりしないよう、留意します。
また、僕の功績のみを喧伝するものでもありません。とはいえ僕にとっての思い出話ですから、自然と僕の出番が多くなるのは、ご容赦ください(笑)
言うまでもなくヴァンガードは、当時の多数の人々の才能と努力によって生み出された奇跡的な産物です。僕はその一人になることができたことを誇りに思っており、最初期から関わったメンバーとして、ヴァンガードを愛すべきコンテンツだと考えています。
特に、ニコニコ動画で盛り上がった当時は、なんというかコメントとの一体感がありましたね。
当時は関係者もニコニコのコメントネタを拾って遊んでいました。
テツコ?……テツコじゃないか!!
そんな空気が、作品の外側にも広がっていた時代でした。
さて。どこから話しましょう。やはり時系列がわかりやすいですね。
■2008年、夜のカーキン練馬春日店に木谷氏が飛び込んでくる。
飛び込んでくるなり、木谷社長はおっしゃいました。
「池田さん、アンタが正しかった。僕もやりますよ、子供向けカードゲームのアニメ!」
「ファッ?! どうしました、いきなり?!」
あれは2008年9月末でした。夜歩くには涼しくてちょうどよい時期で、木谷社長はご自宅から普段着のままのお姿で、僕の勤務していたカードキングダム練馬春日店に現れたのです。
「池田さんは、お会いしたときから、
『子供向けカードゲームをヒットさせる方法は唯一つ。それは、カードゲームプレイヤーが主人公のアニメを作ることだ!』
と僕に話してましたよね?」
「ええ。遊戯王もデュエル・マスターズもそうなんですから、自明の理だと。」
「条件が揃いました。僕もやりますよ!カードゲームアニメ!」
「本当ですかマジですか!ブシロードが、ついに!」
踊り狂う僕。
さて、狂喜のダンスに身を委ねる僕のことは一旦置いといて、ちょっとだけこの話の前提を説明させてください。
この、
「カードゲームを売るために、カードゲームアニメを作る」
という話、今の皆さんからすると、
「何いってんだ、アホか。当たり前の販促方法やろ」
と思われる話でしょうが……
実はこの時点では、「カードアニメの主人公がカードをプレイする」のは、
“常識”では無かったんですよ!
カードゲームを売ろうとして作られたアニメなのに、カード要素がない!そんなアニメはゴロゴロしてました。
ドラゴンドライブ、レジェンド、ブルードラゴン(これらはメディアミックス作品でしたが、TCGを売るのも大きなテーマでした)。
牙TCGなんて、100%カードを売るための企画だったのに、アニメは異世界バトル物でカードの要素がありませんでした。
メーカーの方は、
「おっかしいなぁ。ちゃんと予算かけて販促アニメを作ったのに、どうしてTCGが売れないんだろ?ガッシュもシャーマンキングもちゃんとカードが売れたのに?」
と考えてたんですね。
それに対して僕の意見は、2000年代にすでに固まっていました。
「ガッシュやシャーマンキングはそもそも漫画に人気があって、それのコレクショングッズとしてカードが売れていただけです。ポケモンカードと一緒です。
カードIPを作って最初からカードを売りたいんなら、『カードをプレイするアニメ』にしないといけない。
スラムダンクを見てバスケをやりたくなる。ヒカルの碁を見て囲碁を始める。
人はごっこ遊びを求めるんです。武藤遊戯がカードをプレイする姿を見てそれを始めるんです。
だから遊戯王の漫画を見て、デュエマのアニメを見て、カードを始める。
最初からカードを売るのが目的なら、主人公はカードゲーマーでなければならない!これしかないんじゃあああ!!」
当時、僕と同じ考え方を持っている人間はごく少数でした。
2000年代初頭のブロッコリー時代に木谷社長と出会った僕は、事あるごとに、この話をしていました。
その時の木谷社長の回答は、起業家として実に真っ当な意見でした。
「池田さんの言うことは筋が通っているが、実証例は遊戯王とデュエマ、2つしか無い。そんな企画に数億円も使うことはできない。同じ方法で3つ目のヒットが出たら考える。」
これは本当に、真っ当で冷静な考え方でした。
……夜の、カードキングダム練馬春日店に戻ります。
突然来訪した木谷社長の決断に踊り狂う僕。
そうか、アレが成功したからか!
「池田さん、3つ目の成功例がでましたよね。バトルスピリッツ!
アンタが正しかった。私も作りますよ、子供向けカードゲームアニメを!!」
バトルスピリッツはこの年の9月中旬に放映されたばかり。
最初からTCGも好調で、売上データが出たところでした。
その途端に、電光石火の如き木谷社長の決断。
ずっと僕の言葉を「アリか無しか?」と、脳内で検討してくださっていたんだな、と胸が熱くなりました。
■僕の立ち位置
コンテンツの多くは、
「こういう物を企画し、このような物を販売して利益化しよう」
という「企画する人」から始まります。
今回の場合、それは木谷社長です。
僕は「無料奉仕のブレーン」という立場になりました。
あくまで非公式のアドバイザーであり、契約書もNDAもありません。しかし呼ばれたらブシロードにすっ飛んでいき、何の経費も請求せずに必要な会議全てに参加しました。
なぜか?
楽しかったからです。木谷社長の大きな企画に関われること自体が、人生を豊かにする経験でした。人によっては「利害関係があったはずだ」と考えるかも知れませんが、ぶっちゃけマジで、楽しかったから、だけです。
そりゃあ、カードキングダムが困った時に助けていただいたりはしました。ですがそれは、他のお店も同様で、木谷社長がカードショップを助けるのは、普通のことです。
もしそうした恩義がなくても、僕は協力していたでしょう。
要するに僕は、肩書きのないまま現場に入り込み、全力で関わっていた人間でした。
わかりやすく言えば、僕はカードゲーム業界における、木谷社長の弟分のようなものです。色々教えていただきました。
兄弟だから兄貴のやることには普通に協力します。兄弟だから遠慮なく意見を言って、だからこそガチの喧嘩もします。
ブロッコリー/ブシロードの社長室から僕と木谷社長の怒鳴り合う声が聞こえて、僕が飛び出して帰る。
「またか……」と社員が思う。
最初の頃は驚いていた社員さんも、そのうち慣れる。そんな感じでした。
まあ、こういう距離感なので、後になって皆さんも御存知の、
「うぉお、オイラに対してそこまでやるのかい兄貴ィ?!」
と思うような出来事もありましたが。
当時の僕らにとっては、それも含めていつもの関係でした。
なんか任侠物みたいになってきた。ふむ。間違ってない気がする。止まるんじゃねぇぞ。
■伊藤彰氏の登用
話をヴァンガードに戻しましょう。
というわけで、「企画者」「アドバイザー」と、ブシロード社員さんからプロデューサー(しまむー)が決まりました。
しまむーはご存知ですよね?カードゲームのために徳島で開発されたマダムキラー型アンドロイドで、カードキングダム練馬春日店の初代店長であり、ブシロードの幹部です。
ゲームデザイナーは、僕が木谷社長に紹介して、ブロッコリー時代から実績のあった中村聡氏です。僕としても文句なしですが、「デザイナーはこの方で文句なし」と言えるのは、実は本当に幸運なことなんですよ。
だってそれまでに、デザイナーで失敗したTCGを幾つ見送ってきたことか……
僕のTCG業界における功績の一つは、
「中村聡氏と木谷社長を会わせたこと」
なのではないかと、今でも思っているぐらいです。
ここまではすぐに決まった。営業などのその他実務メンバーをブシロード社から選ぶ前に、もっと基礎部分のキーマンを埋めなければなりません。
そう。原作者です。
原作者が居なければ、タイトルも物語の世界観もキャラクターも何も決まりません。
木谷社長は、
「遊戯王の高橋先生のお弟子さん」
である、伊藤彰氏に話を打診しました。僕は大賛成しました。
◯当時すでに「遊☆戯☆王R」を完結させてモンスターやキャラクターデザインの実績があった。
◯カードゲーム・マンガとはなにか?を理解している数少ない人材。
◯連載が1年前に終わり、ちょうどよい時期だった。
◯絵が遊戯王の系列なので、カードゲームだと認識されやすい。
僕と伊藤彰氏が会うための席もセッティングされました。
要は木谷社長としては、「池田さんから見てどう思いますか?」という面接的な意味合いもあったのだと思いますが、僕はこの方で大丈夫だと思う、と木谷社長に伝えました。木谷社長も同意見だったと思います。
伊藤彰氏と僕が出会った時のエピソードも色々ありますが、そこは割愛します。
という訳で、企画会議が始まりました。
このTCGは、まだタイトルも決まっていません。
しかも、単に「漫画の内容をどうするか」というだけの企画ではなく、
「漫画はどうするか。アニメではどう描くか。そして作品内のバトルシーンを表現するゲームシステムはどうするか?」
という、漫画、アニメ、ゲームシステムの同時進行企画会議です!
こんなの、遊戯王もデュエマもやってない。
◯遊戯王は「面白い漫画」を目指した結果、途中からカードゲームバトルになったもの。
◯デュエマは、小学生向けTCGゲームシステムの企画があって、その開発時間のつなぎにMTGのマンガ連載が始まり、途中からデュエマにバトンタッチされたもの。
漫画、アニメ、ゲームシステムが同時に検討される企画会議は恐らく、史上初!
しかし僕は、
「TCGアニメは最初からこうでなければならない。原作者とゲームデザイナーとスポンサーが完全に三位一体となって作らなければ、奇跡の作品である遊戯王やデュエマに追いつく事はできない!」
とずっと確信していたので、企画会議の場は、
「想像していた現場が実現した」
って感じでした。
さて。始まります。
僕が長年持ち続けていた“仮説”が、現実になる瞬間でした。
「カードファイト!!ヴァンガード」が生まれようとしています!
続いて第二回、「ヴァンガード、ボツになる」(?!)に続きます!
(当連載は最終話まで、これから毎日更新予定です!)
https://note.com/ikettitencho873/n/n70fea239c0df?app_launch=false
※本記事は当時の記憶に基づいており、表現には一部演出が含まれます。
(実際に僕が踊り狂ったかどうかもシュレディンガー。)


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