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【土銀/デコ魘?】こわれた世界に咲く向日葵【腐向け】/Novel by 橘みずき

【土銀/デコ魘?】こわれた世界に咲く向日葵【腐向け】

5,787 character(s)11 mins

プライベッターからの再録です。
誤字脱字や文体のおかしな処を気付いた範囲で修正しましたが、話の流れ等は一切変わっておりません。

銀時との一戦後、何故か命拾って続いてしまった世界の中で記憶喪失になった魘魅ちゃんと、甲斐甲斐しく看病する土方の話。
以前行った診断メーカーのアンケートで『記憶喪失』と『看病』で票をいっぱい頂いたので調子に乗りました……

表紙はこちらからお借りしています⇒illust/58454569

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暦は8月。夏真っ盛りだ。暑い。
こんな日にはさすがの土方も上着を着ている気にはとてもなれず、手に提げた西瓜を器用に足で挟むように持ち上着を脱いだ。

ある日を境に、この地球からあっさりと白詛の根源――ナノマシンウィルスが消え去り、感染・発症している者の中にいるウィルスも体内で弱体化しているそうだ。そのため、現在感染及び発症してしまっている者を最後に白詛は消えるだろうとの見通しが、お役所から正式に発布された。

特効薬もなく、発症すればただ死を待つだけだった病に怯え震えた生活は間もなく終わりを迎える。だが、すっかり荒廃してしまった街の中が突然元通りになる訳ではなく、緩み切った治安はそのままだし荒くれ者が街の中を荒らしている日々は変わらない。
通りを北○の拳のようなモヒカンがバイク唸らせて走り回っているのも相変わらずだし、路地に蹲り襤褸を纏い死んだ目をした子供が道行く誰かが何か落としていかないかと待ち構えているのも相変わらずだ。こんな処で足元に荷物を置いてみろ、数秒後には持ち去られている。
土方がそんな隙を見せる程落魄れている訳ではないし大した物を持ち歩いている訳でもないのだが、さすがに気分の良いものではないし警戒するに越したことはない。

あちこちの路地の物陰から、土方の提げた西瓜をじっとり見ている視線が飛んできているのだ。してやられる気はしないがガキをぶっ飛ばす趣味はないので一番キツい目を向けてきている方を見遣ってガンくれてやったら、其処には真っ白い髪になった10歳そこそこの子供が、5歳いっているかという子供2人――恐らく弟達だろう――に支えられ蹲っていた。どうやらもう、あの子供は座っている事も出来ない状態であるらしい。嗚呼、あの子供は『間に合わなかった』のだと少しばかりの感傷が生まれ、道に落としたフリをして飴玉を幾つか転がしておいた。上手い事拾えていればいいのだが。

元々柄のいい街じゃなかったが、今は昔の面影をすっかり消して荒廃してしまった行き慣れた街――かぶき町に足を踏み入れる。数年前までは繁華街であり歓楽街でもあった此処は、今ではすっかり道行く人をなくしたシャッター街である。……そのシャッターも一部破壊されて強盗にでも遭ったような所もあるが。

そんなかぶき町を暫し歩くと見えてくるのが、今尚同じ場所で同じ店構えを保ち続ける『スナックお登勢』だ。まだ真昼なので店は開いていないが、中では店主の老女と従業員らが夕方の開店準備を始めた頃だろう。
手前の脇道を入りその裏手にあるやや寂れた階段の踏面に足を乗せる。初っ端の一段目からギシギシいい始めているので、うちの誰か手が空いてるやつがいたら今度修理に来させようと思いつつ、踏み抜いてしまわないよう細心の注意を払い階段を上がった先が目的地だ。

渡されている合鍵を使い、相変わらず立て付けの悪いままの玄関引戸をガンガンと押し込みながら開ける。建て付けが悪く鍵を閉めるのも一苦労なので、これもそろそろ修理せねば。
もし住人が1人だった場合、呼び鈴を鳴らすと住人が無理して起き出してしまうので鳴らさずに上がり、一番奥の和室に繋がる襖を開けると。

「邪魔すんぞ」
「……ああ、土方さん。こんにちは」
「よお。……今日も暑いな」

一組敷かれた布団の上には、儚い笑みを湛えた住人――坂田銀時が、静かに座っていた。


夢でも見ているのかと、その時は思った。胸を貫かれて虫の息だった『魘魅』……銀時の前にターミナル跡地で立った時は、夢と現実の境界線をガチで探した程だった。

「起きてて平気なのか」
「ええ、今朝は少し調子が良かったので起こして貰ったんです」

激動の過去、壮絶な人生、白詛とナノマシンウィルス、行方不明になった銀時。

万事屋が息せき切った慌てた様子でターミナル跡地へ向かったと聞き、何かあったかと駆けつけた土方が其処で銀時と珍宝――過去から来た『銀時』が向かい合い語るのを見て、聞いてしまったものは。

「ガキ共はどうした、いねぇのか」
「2人共仕事だって言って、今朝早くに出掛けました」

朽ちて錆だらけになった階段に座り、胸から夥しい量の出血をしながらも辛うじてまだ息をしていた銀時を、あの重そうな羽織物を全部取っ払って病院に運んだ。病院といっても闇医者だが。
銀時はこんなだし、自分も今では幕府に仇成す攘夷組織の一員だ。連れて行かれる病院は闇しかないので設備等は総合病院とは雲泥の差だが、まだ生きてくれている以上は死なせる訳にはいかない。放っておけば確実に死ぬ傷だ、一刻を争う事態に土方は迷わなかった。
こんなご時勢でもまだ闇医者として細々やっていた心当たりの中では一番腕のいい奴の処へ、己の上着で傷口を縛り車で運ぶ。行った先でその闇医者には「期待はするな」と言われても諦めきれず、神仏に祈る思いで昏睡状態の銀時を見守り続け。

数日間死線を彷徨った末に奇跡的に命を拾った銀時だったが、目を覚ました彼は、綺麗サッパリと記憶の全てを失っていた。

「昼飯はどうした」
「お登勢さんに頼んでいくって、新八君が」
「そうか。――今日は西瓜が出てたんで買って来た。風呂桶借りるぞ」
「いつも有難う御座います」

銀髪だった銀時の髪は見事に白髪になっており、文字のようなものが這うように入っていた身体は昔の面影など何処にもない華奢なものだった。……それでも一般人と比べれば充分に立派な身体ではあるのだけれど。
髪の色は戻らないが、身体に入っていた文字のようなものは日を追う毎に薄れていって、今では左頬と首筋、右腕に少し残っている程度である。

記憶喪失の原因は定かではない。ナノマシンウィルスが『消えた』時にそいつらが余計な事をして一緒に持っていきやがったのか、それとも胸にぽっかり開いていた穴から流れ落ちた血の量が多すぎた所為なのか。
自分の名前すら何処かに置き忘れてきた、寄る辺なく頼りない顔をした男が『あの』坂田銀時と同一人物であると、土方は最初信じられなかった……否、信じたくなかった。しかし現実は現実、この男が坂田銀時である事は間違いようのない事実である。

目を覚まして土方を見た第一声が「どちら様ですか」だった時は、本当に本気で殴ってやりたかった。誰かとお間違いではないですかとふざけた事を言われた時には、こんな天パ頭の奴間違う筈ねぇじゃねぇかと言い返してやりたかった。本当に言ってやったら、いつものように「お前はサラッサラストレートだから天パの苦しみがわからねぇんだ死ね」とでも返してくれよと詮無いことを、少し思った。

行方不明以降、どんな生活をして何処にいたのかすら定かではなく、彼がこの状態である以上、それはもう知る者は誰もいない闇の彼方に消えた事実だ。
現在の住まいがわからない以上、退院後の住まいを新たに用意する必要がある。こんなご時勢に何の身分証もない銀時に部屋を貸してくれるような奇特な大家は、相変わらずあの女傑だけであり、5年以上経ってまだ室内に『万事屋銀ちゃん』の看板を仕舞ったままにしてくれていた彼女を――お登勢を頼るしか、住まいの確保は難しかった。

5年分の家賃いつか請求してやるからね、などと言っていたが、つまり裏を返せば5年間もこの部屋を銀時の住まいのままにしておいてくれたという事である。皆で揃ってお登勢に五体投地の気分で頭を下げて、綺麗に掃除をして家財道具を運び込み、『スナックお登勢』の2階での生活が再開した。その在り様は5年前とはかけ離れたものではあったが、戻るべき者が此処に戻ったのはとても大きい。
現在は、銀時の住まい兼『万事屋銀ちゃん』の事務所としての機能を取り戻し、社長以下従業員2名と一匹で、事務所の家賃と社長――銀時の薬代を稼ぐ日々を送っている。

土方が申し出た経済的援助は断られた。
もう既に万事屋のガキ2人はガキではなくなり、大人としてのプライドを持って、それぞれが『万事屋』の名を背負って仕事をしている。援助してくれる気があるのなら僕らが仕事に行っている間に銀さんの相手をしてあげていてください、と新八に言われ神楽も其れに大きく同意した事も在って、現在勤め人ではなく何処にいても『ある程度の仕事』は出来る土方が、銀時の日常の世話をしている格好だ。

すっかり身体から力が抜け落ち、1人で起き上がるのも辛い銀時には、日常の介助が必要だ。いつぞや目を離した隙に横になろうと1人奮戦し失敗して頭を強かに打ってから、銀時も1人で無理をする事がなくなり素直に土方を頼ってくれている。
三度の食事は新八がいれば支度をし、いない時はお登勢に頼んでいってくれて、たまが持って来てくれる。その時に、頼まずとも土方の分も一緒に用意してくれるのは、もう此処に土方がいるのが当然で当たり前になっている証拠だった。

「夕方には冷えてんだろ。あいつら帰ってきたら切って出してやる」
「有難う御座います、西瓜なんて久し振りで楽しみです」
「起きてて大丈夫か」
「ええ」

此処での生活が再開し、そろそろ半年。銀時が魘魅の呪縛から開放されてからは1年になる。
またあの暑い夏がやってきて、紅葉の秋が来て寒い冬がやってくる。季節は当たり前のように巡るのに、銀時の頭の中身は相変わらず『空っぽ』のままで何も動きはない。土方に対してだけではなく、子供らに対してもまだ他人行儀なところが抜けないままだった。

自分では何も出来なくてすみません、お世話になりっぱなしでごめんなさい。

二言目には謝り出す銀時に子供らがとうとう泣き出してしまってからはしなくなったが、恐らく心の中では銀時はずっと、すみませんごめんなさいと言い続けているのだろう。

「……辛くねぇか」
「実は腰が少し」
「ジジ臭ぇ」
「すみま、じゃない、仕方ないじゃないですか。じゃあ肩でも貸してくださいよ」
「仕方ねーな」
「ごめ、……有難う御座います」

すみませんごめんなさい、を言うと土方に怒られる事を漸く学んだ銀時は、咄嗟に出ても言い直す事が出来るようになり、土方にやっと慣れたのか甘えてくれるようになってきた。
本音を言えばとろとろに甘えさせてやりたい土方ではあるのだが、銀時には土方と情人であった記憶が一切ない。その為か、いい年をした成人男子が同年代の同性に寄り掛かり無条件に甘やかされる事には少しの抵抗を見せるので、甘えたい顔を見せた時に『仕方ないから』の体を装って甘えさせてやっていた。
やっていたが、時々は普段必死に堪えている分の役得が欲しいのも本音であって。

「いえ、あの土方さん」
「何だよ」
「これは肩を借りるってレベルじゃないと思うんです」
「いいから、寄り掛かってろ」
「でも」
「まだ横になりたくねぇんだろ。だったらせめて、少し身体休めろ」
「……お手数お掛けします」

銀時の後ろに回り、開いた足と腕の間に銀時を囲い込むように座って寄り掛からせる。少々遠慮気味に体重を掛けてくるのが何だかイラッとしてつい抱き寄せてしまったら、銀時は嫌がるどころか耳まで真っ赤にして恥ずかしそうに顔だけそっぽを向いた。しまった、これはちょっと。
おかしな息を吐きそうになったタイミングを見計らったようにポケットに突っ込んであった携帯が震え、メールの着信を知らせてくる。フラップを開いて内容を確認していると、銀時が顔はそっぽを向いたまま少しずつ尻をずらしつつ身体を寄せてくるものだから、土方は病人の前だったが物凄く煙草が吸いたくておかしくなりそうになった。煙草でも吸っていないと理性が飛び出していってしまいそうで、血の涙が出てきそうで。

ぎり、と銀時には悟られぬように土方は唇を噛み締める。土方にとって銀時は変わらず『恋人』であるが、銀時にとって土方は自分の世話に通ってくれる『優しい知人』だ。支えるために抱き寄せても、それ以上の手は許されていない。
このまま、このすっかり細くなった身体をかき抱いて押し倒してやれたら、俺とお前は恋人だったのだと言ってやれたのなら、どんなに。

「……不思議ですよね」
「なに、何が」
「土方さんの傍にいると、とても落ち着くんです」
「…………ぎん、」
「皆さんの傍が落ち着かないって話じゃないんです。ただ、土方さんがいてくれると、何だか『違う』なぁって」
「それ、は」
「もしかして、記憶を失う前、……ごめんなさい、何でもないです」

何でもなくはない。言って欲しかった。土方からは決して言えないその言葉を、銀時から言って欲しかった。
そんなに頬を染めているのなら、もう答えは銀時の目の前にあった筈なのだ。それなのに、銀時はまた其れを見失って前を通り過ぎていく。

「…………なあ、銀時」
「なんですか」
「身体、戻ったら……また飲みに行こうな」
「はい、是非」

完全に身を預けてきた銀時の腰に回した土方の腕に、そっと銀時の手が乗せられる。つい思い出したクセで銀時の髪に頬を摺り寄せてしまったが、銀時はちょっと驚いたのか肩を揺らした程度で嫌がる素振りは見せてこない。其れをいい事に、土方は腰を抱く腕にもう少しだけ、力を込めた。

簾を掛けて開け放った窓からは夏の日差しは遮られたが、風は心地良く通り銀時の真っ白になった髪を揺らす。
何処かで鳴いている蝉の声が微風と共にやってきて、「夏の花が欲しい」と珍しく銀時が寄越したリクエストに応えて昨日土方が持って来て花瓶に飾った向日葵の花は、微風に揺れてくるりと回り、満開まで開いた花を2人の方へ向けてくる。

微風が運んだそれらが真夏本番を――土方が銀時を失い取り戻し、まだ『失ったまま』の季節が巡ってきた事を、知らせてきやがるようだった。



【向日葵の花言葉】
『私はあなただけを見つめる』『愛慕』『崇拝』

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