【土銀/デコ魘】悲恋華・純愛華【腐向け】
完結篇・魘魅ちゃんが3周年と聞いて、リクいただいて昨年12月にべったーに投げ込んだやつを誤字修正して此方に再録します。
何か書きたかったんですけどそんな時間は何処にもありませんでした……無念。
デコ方×魘魅ちゃんです。幸せなのか否かと言われるとお読みくださった方それぞれにお任せしますって内容になっていてアレなんですが、書いた本人は魘魅ちゃんがちょっとだけでも報われたっていうか、そんな気持ちで逝かれたらいいなぁっていう思いを込めて。
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自分の人生って一体何だったなろうな、と今更ながらに常々思う。
親の顔も知らず、戦場で仏さんの懐から遺品やら携帯食やら剥ぎ取って糧にして、そういや当時持ってた刀もそんな入手経路だったような違ったような。もうよく覚えていない。
先生に拾われてやっと人間らしい生活になったかと思ったら、その先生は『奴等』に捕縛され連行されて、終いには自分の手で斬る事になるとかどうよ。笑えたらそいつ絶対気が触れていると思う。例えば高杉とか。
「……そういやあいつ、何してんだろうなぁ」
噂話も耳にしなくなって随分経つ。別に生きていようと死んでいようとどっちだっていいが、まぁ、生きてたらそれはそれで良かったんじゃないの?くらいの友情……とはちょっとどころか大幅に違うような気がしなくもない……もうよくわからない。
まぁ、ざっくり割れば昔馴染みだ。幼馴染なんて可愛く呼べるものならまだ良かったのに。
「……っあ、」
げほ、と咳込んだら赤いものがごぼっと出た。そりゃそうだ、貫通してるもの。身体に穴が開いちゃってるもの。
木刀なんて、普通は人体に刺さる筈のないもので風穴を開けてくれやがって。こっちが一瞬意識失った間に今度は抜いていくとか、大概にして鬼畜である。
「遠慮なくやりやがってなぁ。さすが過去の俺だよ」
そして、それでこそ過去の俺だとも銀時は思う。この程度躊躇うような、可愛い根性はしていない。寧ろ腐っている。
まともじゃないのは高杉だけではない、銀時だって似たようなものだった。壊れ方がちょっと違っただけで、自分がまともだと思っていた分、銀時の方が痛々しさは上だっただろうか。
小さく自嘲が零れた。
「俺も、堕ちたもんだなぁ」
まさかの魘魅堕ち、まさかの人体乗っ取られ。15年前に斬った筈の『存在』にまさか自分がなろうとは。泣くに泣けない、泣いても事態は変わらない。
江戸の街が崩壊していくのをただ見ている事しか出来ず、最後の自我で源外のジジイにタイムマシン――時間泥棒、とかいう名前がついていただろうか――の作成を頼み、何も知らない5年前の平和面にボケていた自分をこの世界に呼んで。
全てを知った5年前の銀時は、己が何故呼ばれ何をすべきか心得た筈だ。
これでこの切ないだけの未来は、少しでも変わってくれるのだろうか。変わってくれないと色々無駄骨という、それこそ泣くに泣けない悲劇になるだけなのだが。
「……イイ男になってたな」
数日前、幾年振りかで姿を見た以前の情人。当時から相当な色男ではあったのだが、経年による人としての熟成が進み、色男振りに落ち着きと少しだけ渋みも入ってきていて本当に。
「一緒に、年が食えたら良かったんだけど」
堪らなかった。何故5年前の自分があそこにいて、自分はその様を雨に打たれながらただ見ているだけなのだろうかと。
志も生き様も銀時とは全然違う路を往く男だったから、一緒に生きていられる奴じゃない。だが、姿もまともに見られないような最期になろうとは5年前まで予測もしていなかった。
「やってらんねぇ、馬鹿馬鹿しい」
自分の身体に風穴を開けていった過去の自分が、そろそろ時間泥棒に誘われ過去に――ナノマシンなんぞ食らってしまったあの頃に行く時分だ。上手くいけば、この生も、この世界も間もなく崩壊する。この腐れ切った、ナノマシンに巣食われ食らい尽くされようとしている壊れた世界が。
壊れた世界を壊れた男が壊しに行く。洒落にもならない安い三文芝居のようだ。
「笑えねぇ」
「全くだな」
素で驚いた。もう飛び上がってやるような余力は残っていないので顔を上げただけで終いだったが、相手は苦虫を100匹は纏めて口の中に突っ込んでしまったので泣きたいんですけど、と言い出しそうな顔をしていた。色男が台無しだ。
いる事には先程から気付いていた。だが、出てくるような様子は見受けられなかったので、そのまま踵を返していくものだろうと思っていたのに。
「……まさか出てくると思いませんでしたよ」
「そーかよ」
「あ、それ凄い久し振り。……5年振りだね」
土方くん、と名前を呼べば、口に咥えた煙草のフィルター部分を噛み潰して苦い顔をする。そんな顔もやっぱり5年振りで、銀時は懐かしさに小さく笑んだ。
「テメェ」
「つか、此処をどうやって」
「うちの奴が、万事屋が泡食った様子でターミナル跡地に行ったって連絡して来たんでな」
何かあったのだろうかと駆けつけてみた、というところだろうか。
単独行動はしない警察のクセの抜けていないであろう土方にしては、お供を誰も連れていないとは珍しい。余程慌てていたのだろう。
「だからってお前さんまで来ちゃう事ないのに」
「お前、」
「随分詳しくナノマシンの事調べてくれたみたいで。さすがだね、副長さんは」
一縷の望みなんてあやふやなものを懸けて、コンビニの便所に態と落としていったメモ帳。それが万事屋の子供らの手に渡り、其処から真選組――土方の手に一度でも渡ってくれればと願ったが、その通りになってくれて何よりだった。
そのお蔭で自分を……魘魅という存在を、ナノマシンウィルスの実態も含め彼が認識するに至ってくれたのだ。狙い通りだった。
「やっぱ出来る男は違うねぇ」
「俺ぁもう副長じゃねぇよ」
「いやいや、お前もう死ぬまで副長でしょ」
「……あんま嬉しくねぇなそれ」
「そうなの?土方くんの事だから喜ぶかと思ったのに」
階段に座りもう立ち上がる気力もない銀時の目の前に、土方が膝をついて腕を伸ばす。銀時の頬に土方の手が触れそうになって、銀時はその手を気力を振り絞り叩き落とした。
「触るな」
「銀時、」
「伝染る」
もう間もなく終わる命だが、この身体はナノマシンウィルスの発生源である。傍に寄られるだけでも感染させてしまいそうなのに、触ったりなどしたら絶対に伝染ってしまうではないか。
「治療法、ねぇんだから」
「だから何だ」
「土方くん」
「……どうせもう、『間もなく』なんだろ」
どうやら土方は事態を察しておられるようだ。過去の銀時との話を立ち聞きしていたらしい、さすが地獄耳である。
「土方くん、」
「あと何分くらいだ。あれが過去とやらに言って何やらやらかしたら『今』が変わるんだろ」
「だからって」
「だったら、ナノマシンウィルス程度大したことはねぇよ」
どうせ変わる世界だ。
そう言って、土方はもう指一本動かす事の出来ない銀時を腕の中に抱き締めた。覚えのあった身体とは全然違う厚みに、土方の眉間に皺が寄る。
「何だ、随分うっすい身体になりやがったな」
「土方」
「どうせなくなる『今』なら、後悔しねぇようにしておかねぇと」
「ひじかた」
「俺ぁ気が利かねぇし情緒もねぇし、風情なんて言葉が裸足で逃げ出す程度に学もねぇが」
「なに」
「……『お前』を独りで逝かせる程、落魄れてねぇつもりだぜ」
涙が零れた。もう何年も忘れていた涙が、目尻に浮かび頬を伝い落ちて土方の肩を濡らしている。
「……ひじかた、くん」
「もうすぐなんだろ。それなら」
「ひじかた、とし、」
「一緒に還ろうぜ、銀時」
土方が『其れ』を悟っている事を、銀時も悟っている。
銀時が過去の自分に何を伝え何をさせようとしているのか、その結果、何が起こるのかも。悟っていて何も言わない……止めようとしない土方は、土方なりに事態と事実を悟り受け止めているのかも知れない。
「あ、」
「――そういや、何遍も寝たっつーのに一度も言った事なかったな」
「なにを」
愛してる、という言葉と共に唇に触れた懐かしいあたたかさは、瞬きをする間のような一瞬で、銀時の頬を伝い落ちた涙のように弾けて消えた。
あれ?涙が……止まらないです……