約束の行方
土方さんお誕生日おめでとうございますな土銀小話。
お誕生日なのに完結篇ですが、ちゃんと穏やかな方向で落ち着いております。
細かいことは気にしない方向けです。この話(novel/6634402)と多分繋がっていますが、読んでなくても問題ありません。
素敵な表紙お借りしました。 illust/37410932
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その日は新八はお通ちゃんのライブだと張り切って出掛け、神楽は定春を連れてそよ姫のところに遊びに行ってそのままお泊まりしてくるというので、銀時は一人で暇を持て余していた。パチンコにでも行くか、と立ち上がったところにちょうど電話が鳴り響く。
「はい、万事屋銀ちゃ、」
「万事屋か」
名乗り終えるより先に、聞き慣れた声が受話器の向こうから聞こえてくる。合間に、煙草の煙を吐き出す音も。
「早く上がれそうなんだが、今夜行っていいか?」
「はいはい分かりましたよ、と」
「じゃあまた夜にな」
最低限の連絡事項だけ確認して受話器を置く。その足で台所へ向かうと、夕飯の材料と酒の肴は二人分あったっけ、と冷蔵庫を覗き込んだ。南瓜の煮付けに、枝豆、少し残ってる豚の小間切れで肉豆腐。あとはまあ、適当に。一昨日依頼があったから、中身が空っぽじゃなくて良かったなあ、まあもし空でもやってきたそいつを財布にしてコンビニにでも繰り出しただろうけど。そんなことを考えながら、銀時は夕飯の下ごしらえを始めた。
電話の相手である土方がやってきたのは夜七時を過ぎた頃で、迎えに出た玄関で「酒飲む?」と聞くと、「飯がいい」と隊服の上着を脱ぎながら欠伸混じりに答えた。そのまま部屋に入って手に持っていた上着をソファに掛けると、土方が腰を下ろす。銀時はそれを横目で見ながら台所に向かって、作っておいた料理を温めだした。
美味しそうな匂いがしてきた頃に、土方がふらりとやってきて、欠伸を噛みしめながら台所を覗く。銀時に指示されるよりも先に棚から適当に取り皿や箸などを取って、また戻っていく。土方の手助けもあり、てきぱきと準備を終わらせると、二人で食卓を囲んだ。
土方といえば、特別に美味いなどとは言わないが、食卓に一応置いてあるマヨネーズに手を伸ばすことなく、銀時の味付けのそれらをもぐもぐと食べている。一言二言他愛もない会話をしながら、箸は進んでいく。
「今日はやけにお疲れじゃねぇか」
なんとなく疲労の色を読みとって、そう投げかけると、図星を突かれた土方が少しだけ視線を泳がせた。
「昨夜は真選組の連中と日付が変わるまで飲んでたからな」
「はあ?今日も仕事だったんだろ、何でまた……」
「誕生日だからって近藤さんが張り切っちまってな。俺はいいって言ってんのに聞きやしねえ」
呆れと疲労の色が濃い表情にも声音にも、確かに隠しきれない喜びと嬉しさが含まれていることが傍目にも分かって、そりゃ良かったじゃねぇか、と返す銀時まで少し笑ってしまった。しかし、そこで少し考える。
「…………あれ、ちょっと待て、お前昨日誕生日だったの!?」
つまりはそういうことである。明確に付き合うという形になって半年は経とうとしているが、そういえばそういう話をしたことは一度もなかった。特別に何か、というような歳ではないのは確かなのだが。
「言えばいいだろー」
「誕生日がこどもの日だなんて言いにくいだろ」
「そんなもんかねぇ」
「そんなもんだよ、こっちは毎年総悟の奴にからかわれてんだぞ」
土方のいらついた声音から、沖田とのやりとりが容易に想像できて銀時が笑った。それを土方が睨みつける。悪い悪い、と返しながら、土方の誕生日の様子を考えてみる。けして自分と土方の関係を卑下するわけではないが、誕生日にむさ苦しい真選組の連中と連んでいる方が土方らしい。安心感さえある。
「でも、そうだな……来年は俺も祝ってやるよ。どうせ仕事だったり連中と騒いだりだろうから、適当に隙間を見てよ」
「……そうかよ」
ぷいと顔を背けてそう呟く土方は、喜んでいるのがダダ漏れで、おかしいような、いとおしいような。あふれそうな笑いを水と一緒に飲み込む。
「……まあ、一日遅れだけど、何か欲しいもんとかある?」
「……お前」
「却下。本当は眠いんだろ、今日はさっさと寝ちまえ」
即答で断ると、土方が不満そうに眉を寄せた。だがそれ以上食い下がらないのは図星だからだ。目の下のクマがそれを証明している。
「来年は日付が変わる前に切り上げて、てめぇを貰うからな」
なんて不穏な宣言だ。貰うも何も、付き合う前にやることなんてとっくに済ませているのに、なんだかんだと誕生日というものは特別なもんなんだなと思う。はいはい、と返しながら食べ終えた食器を重ねていく。
「ああ、そうだ。遅くなっちまったが、誕生日、おめでとさん」
「……ああ」
土方が目が丸くして、そして少しその瞳を輝かせてから、照れ臭そうに頷く。たまにはこういうものも悪くはない。少し微笑んでから銀時が食器をまとめて流し台へと向かう。先ほどの嬉しそうな土方の様子を思い浮かべると自然と口元がゆるむ。まだまだ先の一年後のことを思いながら、銀時は洗剤を含ませたスポンジをくしゃりと泡立てた。
坂田銀時が皆の前から姿を消したのは、それからしばらくしてからのことだった。思うように足取りがつかめないまま一年が経ち、二年が経ち、いつの間にやら墓を建てるなんて話まで持ち上がり、気が付けばすっかり変わり果てた世界に土方たちはいた。
「来年は、」そんな話をしていたのに、銀時のいない誕生日が今年もまたやってくる。だが、今年は誕生日を気にする余裕なんて無かった。自分たちの大将を取り戻す算段で五月五日は何もないまま慌ただしく過ぎ去った。
そして、銀時のいなくなった夏が、また。ただ、五年目の夏は違った。違ったのだ。
「よお、いらっしゃい」
真白な髪をした銀時が玄関で土方を出迎えて笑った。白い髪に白い肌の出で立ちは昔よりも少し弱々しく感じる。
去年の夏、土方たちは世界を壊すために過去へ渡り、戦った。そして、その戦いを終え、気が付くと元の世界に戻ってきていた。ターミナルがそびえ立ち、白詛も存在しないその世界に。理屈は分からないが、そこに坂田銀時は帰ってきたのだ。色素の落ちた白い髪に、長らく日の光に触れていない不健康そうな白い肌。それでも、その日確かに、銀時は皆の元に返ってきた。
そして、今日は約束から六回目の五月五日だった。二人の関係を知った近藤は、折角なんだから一日一緒に過ごせばいいだろうと気を利かせようとしたが、土方はそれを聞き入れなかった。宴会をしてからじゃないといけねぇんだ、と。そう言う土方の穏やかな顔を見ると、近藤もそれ以上は何も言わずに真選組で宴会を開くことを決めた。結局真っ昼間から宴だ無礼講だと騒ぎ、土方が万事屋を訪れたのは夜の七時を過ぎた頃だった。
土方が玄関をくぐると、美味しそうな匂いがふわふわと漂ってきた。ちょうどできたところでさぁ、そう言いながら銀時が台所に消える。土方も付いていって、食器を運びはじめると、座ってりゃあいいのに、と銀時が苦笑した。
二人で動いたおかげで、すぐに食卓にはいつもよりほんの少し豪勢で、いつもよりずっと品数の多い料理が並べられた。
「誕生日、おめでとさん」
「ああ」
料理の湯気の向こうで銀時が笑うと土方もつられて笑う。料理を食べながら、今日の宴会で近藤が一番ハメを外して大騒ぎしたことだとか、昨日新八と神楽が色々と食材を買い込んできてくれたことだとか、ここ数日の近況を話していると存外早く時間が流れていく。
一応甘さ控え目のつもりなんだけど、とデザートに出てきたケーキは、確かに土方には少し甘いような気もしたが、年を経て色々と丸くなったのか、気になるほどではなかった。
食事を終えると、銀時が土方のすぐ隣へと移動した。ソファが小さく音を立てる。
「宴会を早めに切り上げて、俺を貰うんだったっけ?」
からかい混じりに銀時が笑う。その身の内に魘魅はいなくなり、白詛ももう消え去った。そう自覚はしていても、滅多に自分からそういうお誘いめいたことを言わないくせに、今日は機嫌が良いのか、それとも律儀なのか、あるいはその両方か。
「もう貰ってる」
そう言いながら抱き締めると、腕の中の銀時が笑った。土方の背中に腕を回しながら、そっか、と返すその声は穏やかだ。
「……土方、誕生日、おめでとう」
「……ありがとよ」
置き去りにされたあの日の約束が果たされる。過去と現在がようやく一本の糸で繋がった気がした。そしてその糸は、現在から未来へ、今度はきっと、途切れることなく続く。それがただ嬉しくて、土方は銀時を抱き締める腕に、少し力を込めた。