日本の不動産を買いあさる「アジア最大の犯罪組織」の幹部たち…その真の狙いは 独自調査で判明した一等地の豪邸や億ション…即金で購入、すぐ転売 マネロン疑惑のプリンスグループに迫る(3回続きの①)

プリンス・ホールディング・グループの幹部が短期転売した東京都杉並区・善福寺の住宅=1月

 2025年秋ごろ。東京都内の不動産会社社長、山田仁(仮名)は、30代後半とみられる男性客と会っていた。
 カンボジア国籍を持つ中国人の富豪というこの男が目を付けたのは、杉並区善福寺の豪邸。金額は土地だけで8億円超とされる。
 「家族で住む」
 そう説明され、すぐに契約。ローンを組まず、全額を支払った。そのわずか1か月後、山田が知らないうちに物件は別の中国人に転売されている。説明は虚偽だったのだ。
 男はカンボジアの中国系巨大複合企業「プリンス・ホールディング・グループ」のメンバー。グループはオンライン詐欺や人身売買の容疑で「アジア最大級の犯罪組織」とアメリカやイギリス政府から名指しされている。
 取材班は以前から、こんな噂を聞いていた。
 「プリンスグループが日本で高級不動産を買いあさっている。彼らにとっては日本が『安全』だからだ」
 取材を続けると、彼らが想像以上に日本社会に食い込んでいることが判明した。日本に「上陸」した目的は何か。(共同通信=武田惇志、角田隆一、北藤稔道)

身柄を拘束されたカンボジアの華人系企業「プリンス・ホールディング・グループ」のチェン・ジー会長(中央)。中国国営中央テレビが8日放映した(同テレビの電子版から、共同)

 ▽トップは逮捕されたが…
 はじめにプリンスグループの現状を整理しておきたい。カンボジアに本部を置き、特殊詐欺やオンラインカジノ人身売買で得た巨額の資金を手に入れたとみられ、ここ10年内でカンボジア最大級の企業に。傘下に不動産開発や銀行、投資ファンドなどを持ち、民間企業として振る舞っていた。
 しかし、2025年10月14日にアメリカ・イギリス両政府が経済制裁を発動。台湾や香港、韓国、シンガポール、タイなどアジアでも強制捜査や資産没収に踏み切る動きが続いた。2026年1月には首領のチェン・ジー(陳志)会長がカンボジア当局に拘束され、中国へ引き渡された。グループ中核のプリンス銀行も解体に追い込まれているが、他の幹部の行方やチェン会長の中国での消息は伝わらず、謎が残ったままになっている。
 取材班は以前、日本でもプリンスグループの関連会社3社が設立され、チェン会長が東京・北青山の高級マンションに登記上の住所を置いていたことを突き止め、報道している。
 しかし、それらは氷山の一角に過ぎなかったことが判明する。きっかけは2025年11月、台湾当局による幹部の一斉拘束だ。幹部らの足取りを追うと、日本でも経済活動をしていた形跡が浮かび上がったのだ。

プリンス幹部による高額物件の購入履歴

 ▽「日本では違法なことはしていない」
 最初に注目したのが、プリンス傘下の企業「台湾太子不動産」の代表だった王昱棠被告。台湾で一斉拘束された1人だ。台湾プリンスの資金を管理していたとされている。
 「台湾太子不動産」は、台北で一般客向けに日本への不動産投資を勧誘するイベントを頻繁に開催。オンライン詐欺などで得た金と、顧客への不動産販売や仲介で得た収益を混ぜ、資金の出所を不透明にするマネーロンダリングの役割を担っていたようだ。
 王被告は大阪市にも会社を設立していた。「太子国際地産」(大阪市浪速区)。登記によると設立は2017年。2022年6月に現在の社名に変更した。資本金は100万円。会社目的には不動産売買や管理がある。
 現地へ向かうと、中国系とみられる人々が雑貨のダンボールを運ぶなどしていた。場所は4、5階建ての古びた雑居ビル。話しかけたが「責任者がいない」と取材に応じなかった。ビルには他にもプリンスがらみの会社があった。アメリカの制裁対象となった台湾企業「博居」の男性代表が設立した日本法人だ。登記は2020年。大阪がプリンスの進出先の一つになっていたとみられる。
 さらに、王被告の名義で大阪市内のタワーマンションの一室を購入していたことも判明。訪れると、被告の家族数人が居住している。王被告の母親と名乗る女性に取材目的を伝えると、女性は興奮気味に英語でまくし立てた。
 「あれは台湾の事件だ。息子は日本では違法なことはしていない。私たち家族は無関係だ。何も話すことはない」

大阪・日本橋で台湾のプリンス・グループ幹部が会社を登記した事務所= 2025年12月

 ▽謎のゲーム開発会社
 台湾当局が拘束・起訴した幹部の中に、台北のソフトウエア開発会社「天旭国際科技」で人事部長だった辜淑雯被告がいる。天旭は台湾で違法のオンライン賭博ソフトの開発や関連サービスの支援を担っていたという。彼女を調べていくと、東京都北区のゲーム開発会社「カデア」が浮上した。辜被告は代表取締役。雑居ビルにあるこの会社は、表向きソフトウエア開発をしていたとされる。
 さらに、別の幹部・李守礼被告が代表取締役を務めるゲーム会社も見つかった。横浜市中区のゲーム開発会社「ソラエン」。オフィスビルの一室に入っている。この会社サイトのドメイン管理者を調べるとカデアだった。両社は事実上、一体とみられる。
 2社の設立は2025年4~5月。東南アジアの中国系犯罪集団はクラウドコンピューティングやAIを駆使し大規模な詐欺を展開しており、必要なエンジニアの採用に利用しようとしていた可能性がある。いずれの事務所にも人の気配はなかった。

横浜市中区で台湾のプリンス・グループ幹部がゲーム開発会社を設立したビル=2025年1月

 ▽要塞のような杉並区の豪邸
 意外なことに、「ソラエン」の代表取締役には日本人がいる。冒頭で登場した不動産会社社長の山田だ。
 理由を尋ねると、こう答えた。
 「知人から『日本でもゲーム開発事業をやりたい』として台湾の李被告を紹介された」 昨年、法人登記の際に依頼されて名義を貸したという。「報酬はもらっていません。副業的に不動産業で協力するつもりでしたが、途中で連絡が途絶えたんです」
 山田は前出の杉並区の物件を仲介していた。
 まるで古代ギリシャの神殿のような白い柱が特徴的な、建物面積約430平方㍍、敷地面積約1600平方㍍の大豪邸だ。登記簿によると、2025年10月10日、中国系とみられる男性チェン・ボが購入していた。
 チェンは千葉市緑区の通称「チバリ-ヒルズ」に敷地面積2300平方㍍の豪邸も所有しているが、登記上の住所はカンボジア・プノンペンのプリンス本部近くとなっている。カンボジア商務省のデータベースで調べると、この男は「プリンス・ビジネス・オペ-レティング・マネジメント」など複数の会社の役員。確認できただけで現在はすべてアメリカとイギリス政府の制裁対象になっている6社の役員を務めている。また、チェンは英国政府がプリンスのマネロン、金融サービスを担っていたとして、2026年3月に追加制裁した金融プラットフォーム「Tian Xu テクノロジー」の役員も務めている。

 杉並区善福寺の豪邸へ向かうと、周囲は高い壁や鉄格子で覆われ、至る所に監視カメラが設置されている。まるで要塞だ。
 ガレージにはメルセデス・ベンツの限定仕様の高級車が車庫にあった。20代後半から30代前半くらいの清潔感のある短髪の男性が1人、住宅から出てきた。
 「こんにちは!」と声をかけると、かなりつたない日本語で「日本語は話せない」と繰り返した。中国語で「中国人ですか」と尋ねると、肯定したが、取材に来たと打ち明けると警戒するように「何も答えられない」。
 ここはあなたの家かとの質問には、「友達の家だ」とのみ短く答え、「急いでいるから」と足早に去った。
 周辺に住む人々に尋ねたが、外国人が出入りしていることはまったく知らなかった。
 チェンの「チバリーヒルズ」の豪邸も「平屋の豪邸、プール付き!」などと4月初旬まで3億円で売り出されていた。ただ共同通信が事実を報じると、不動産仲介サイトから販売のページは消えた。

リンス・ホールディング・グループの幹部が住宅を購入した千葉市緑区の一角=2月

 ▽「うかつだったかもしれない」
 このチェンという男は、一体どういう名目で不動産を購入したのだろう。
 山田によると、きっかけは中国人富裕層の代理人を名乗る人物からの紹介だった。山田の不動産会社は外国人富裕層を主な顧客としているため、契約を結ぶ際は反社会的勢力でないかどうかを調べているという。
 タンについても外部の調査会社を通じて調べたが、反社との接点は見つからなかったという。
 「家族との居住が目的だと聞きました。カンボジア出身と聞きましたが、プリンスグループの関係者とは思いませんでした。私もうかつだったかもしれない。ただ、民間で調べるには限界があるんですよ」
  チェンはアメリカやイギリスがプリンスを制裁した直後の2025年11月、この物件を別の中国系とみられる人物に売却している。不動産会社社長の山田は、短期間での転売の事実を知らなかった。
 プリンス関係者による物件購入は、まだ他にもある。渋谷区の新築高級マンションだ。登記簿や関係者によると、2025年4月、カンボジア出身の中国系の男が即金で購入している。
 この男もカンボジアのプリンス系列の複数の会社で役員を務めている。不動産会社関係者によると、分譲価格は10億円以上。購入後、男は一度も入居していないという。
 公認会計士と不動産鑑定士の冨田建氏はこう語る。
 「極端な高値を提示する不動産購入希望者の中には、法的にグレーな人や法人がいる場合がある点に注意してほしい。結果的に犯罪や国際的な資金洗浄に関与する恐れもあり、都市インフラの弱体化につながる。国益にも沿わない」

「プリンス・ホールディング・グループ」が本社としていたプノンペンのビル=2025年11月14日(共同)

 ▽日本は「安全な国」
 今回の取材を通じ、日本国内でも次々に見つかったプリンスグループの爪痕。ただ、これでもまだ氷山の一角だ。日本で高級物件を次々に購入した目的は、アジア各国で不動産を買いあさったのと同様、マネーロンダリングの一環とみられる。気になるのは、最近になって日本で高級不動産を購入した目的だ。各国の当局による経済制裁や身柄拘束の危険性を感じた幹部たちが、資産を没収されることを恐れ、日本に隠すためだったのではないか。
 関係者はこう語る。「中国やカンボジアでは、彼らの命や財産はいつ奪われるか分からない。彼らにとって、日本は『安全な国』だのだろう」
 中国に首領が移送された後、消息は伝わっていない。カンボジアではグループ解体が進むが、今、全容解明が待たれている。
 (続きは明日4日午前10時半に配信予定です)

※第2回はこちら→「日本がゆるいから」巨大犯罪組織が目を付けたその“魅力” アジア・マネーが不動産を爆買い…専門家が指摘する深刻な「不備」(3回続きの②)https://www.47news.jp/14248818.html

 ※読者からの情報提供を募集しています。こちらのメールまでお寄せください。
investigativereporting@kyodonews.jp

© 一般社団法人共同通信社

あなたにおすすめ