3909275d No.3320
午前二時。
オフィスビルの冷たい空気は、俺の神経を逆撫でし続けていた。
過労死ラインギリギリの残業を終えた今の俺には、もはや常識的な思考など残っていない。
「あー、やってらんねぇ」
誰もいない街角で、俺は独りごちた。あの宇宙人どもに拉致され、改造されてから半年。
彼らが俺に植え付けたこの能力――『想像した姿への完全変身』――は、もはや俺のストレス解消の手段になり果てていた。
理不尽な上司、終わらない納期、そして消えない孤独。
そんな現実を一時的に忘れるには、これ以上の劇薬はない。
俺は閉じた瞼の裏に、一枚の絵を浮かべた。
透き通るような白銀の髪。深く慈愛に満ちた瞳。
地面を擦るほどの純白の聖職者の衣。
そして、理不尽なまでに強調された豊満なプロポーション。
脳内でイメージが完成した瞬間、全身が熱を帯びる。
骨が軋み、筋肉が再構築され、衣類が縫い合わされる心地よい感覚。
――ポン。
小さな音と共に、俺の姿は変わった。
アスファルトの照り返しの中に立つのは、聖域から舞い降りたかのような、銀髪のシスターだ。
「よし」
俺は低いおじさんの声でそう呟くと、そのまま深夜のコンビニへと歩み出した。
この格好で歩く恥ずかしさ? そんなものは残業後のハイテンションでとっくに蒸発している。
むしろ、この圧倒的な美貌が、冴えない中年男の自分を覆い隠してくれることが痛快でならない。
『カランコロン』
自動ドアがのんびりとした電子音を鳴らした。
店内には、品出し中の若いバイト店員が一人だけ。
彼は商品棚に手を伸ばしたまま、俺の姿を見て完全にフリーズした。
「いらっしゃいませ……えっと」
店員は困惑していた。
無理もない。
真夜中の住宅街にあるコンビニに、突然、ファンタジーから抜け出してきたような絶世の美女が現れたのだから。
俺はシスターの柔らかな微笑みを完璧に再現しつつ、心の中では(悪いな、夜勤ご苦労さん)と完全に中年サラリーマンの思考で頷く。
「コーヒーを一つ」
俺は店内に響くような優雅な声で言いながら、店内を闊歩した。
聖なる衣がわずかに揺れ、胸元が豊かに跳ねる。
すれ違うたびに、自分の視線ですらどこを見ていいかわからなくなるほどの破壊力だ。
俺はあえて大股で、かつ淑やかに歩いた。
このギャップこそが、俺の、俺だけの小さな復讐なのだ。
ホットコーヒーを手に取り、レジに向かう。
店員は未だに俺の顔を直視できず、挙動不審にスキャナーを動かしている。
「袋は、いりますか?」
「いえ、不要ですわ。ありがとうございます」
俺はしなやかにウィンクして見せた。
会計を済ませ、店を出る。
冷たい夜風がシスターのヴェールを優しく揺らした。
街灯の下で、俺はふと足を止める。
カップコーヒーから立ち上る湯気を見つめながら、俺は小さく溜息をついた。
(明日も朝から会議か……)
中身はただの疲れたサラリーマンだ。
だが、この格好をしている間だけは、どんな理不尽な現実も、どこか遠い場所の出来事のように思える。
俺はシスターの姿のまま、誰もいない路地裏へ向かって歩き出した。
家に着くまでは、もう少しだけこの「聖女」を楽しんでから解くことにしよう。
深夜のコンビニの灯りが、後ろで遠ざかっていった。
5c14440d No.3338
コンビニの温かいコーヒーを片手に、私は深夜の公園へと足を踏み入れた。
銀髪のシスターの衣装が、街灯の光を浴びて、どこか幻想的に輝いている。
この姿で深夜の街を歩くのは、まるで別の人間になったような不思議な感覚だ。
公園のブランコに、若い男性が一人、うなだれて座っていた。
その背中は寂しげで、何か深い悩みを抱えているようだった。
私は彼に近づき、そっと声をかけた。
「迷える子羊よ、何かお悩みですか?」
男性はビクッとして顔を上げた。私の姿を見て、驚きと戸惑いの表情を浮かべる。
「えっ……シスター?」
「ええ、そうですわ」
私は優しく微笑んだ。
「何かお辛いことがあったのなら、私にお話ししてみませんか? きっと、心が軽くなるはずですよ」
男性はしばらくためらっていたが、やがてぽつりぽつりと話し始めた。
「実は、仕事で失敗してしまって。上司にこっぴどく怒られたんです。自分はダメな人間なんじゃないかって、落ち込んでしまって……」
「それは大変でしたね」
私は彼の隣に座り、優しく肩をたたいた。
「誰だって、失敗することはありますよ。大切なのは、そこから何を学び、どう立ち上がるかです」
私はシスターとしての慈愛に満ちた言葉で、彼を励まし続けた。男性は私の話を聞きながら、次第に表情が和らいでいく。
「ありがとうございます。シスターに話を聞いてもらえて、少し元気が出ました」
「それは良かったです」
私は微笑んだ。
「でも、まだ元気が出ないんです……」
「え?」
男性は突然、変な主張をし始めた。
「元気を出すために、おっぱいを揉みたいんです」
「は、はぁ?」
私は思わず絶句した。何を言っているんだ、この男は。シスターの前で、おっぱいを揉みたいなんて……。
しかし、彼の真剣な眼差しを見て、私はふと考えた。
この能力は、誰かを幸せにするために使うべきではないか。
彼の悩みを解決し、元気づけることができれば、それはそれで意味のあることではないだろうか。
「仕方がないなぁ」
私はため息をつきながら、彼に胸を貸すことにした。
「本当に……?」
男性は驚きと喜びの表情を浮かべた。
「ええ、ただし、少しだけですよ」
私は照れくさそうに微笑んだ。
男性は恐る恐る私の胸に触れた。その温もりと柔らかさに、彼の表情は次第に穏やかになっていく。
「……あったかい」
彼はそう呟くと、私の胸に顔を埋めた。
しばらくして、彼は顔を上げた。その表情は、先ほどとは打って変わって、明るく元気なものになっていた。
「ありがとうございます、シスター! おかげで、本当に元気が出ました!」
「それは良かったです」
私は微笑んだ。
「明日からは、また頑張れます!」
「ええ、応援していますよ」
私は彼を見送ると、再び家路についた。
今回の出来事は、私にとっても大きな経験となった。
この能力は、単なるストレス解消の手段ではなく、誰かを幸せにするために使うことができるのだと。
私は銀髪のシスターの衣装を着たまま、夜空を見上げた。満天の星空が、私を優しく見守っているような気がした。
c714dbf6 No.3345
カチャリ、と鍵の回る音が静かな部屋に響いた。
ようやく帰ってきた。
誰もいない、生活感の薄い、いつものアパート。
私はため息をつきながら壁のスイッチを押し、電気をつけた。
蛍光灯の白い光が、見慣れたリビングを照らし出す。
ふと、自分の姿が鏡に映るのが目に入った。
「えっ!」
反射的に肩を跳ねさせた。
そこには、神々しいほどの銀髪に、慎ましやかながらも肉感的なシスター服を纏った見知らぬ美女が立っていた。
「ああ、そうか。まだ変身したままだったな」
安堵と共に苦笑がこぼれる。
自分自身のはずなのに、いまだに鏡を見るたびに心臓が跳ねる。
洗面所へ歩み寄り、冷たい水で手を洗おうと蛇口をひねった。
鏡に映る自分――いや、このシスターの顔をまじまじと観察する。
陶器のように滑らかな白い肌、濡れたような瞳、そして衣装の隙間から覗くライン。
客観的に見て、とんでもなくいい女だ。
(こんな姿で夜道を歩いてたのか、俺は)
理性を保つのが難しいほどの美貌。
中身は生活に疲れた中年のおじさんだというのに、外見とのこのギャップがたまらない。
興味本位で、私は自分の胸元に視線を落とした服の上からでもはっきりとわかる、その豊満さ。
「ちょっと、どんなもんか確認してみるか」
誰に見られるわけでもない、密室。
私は少しだけ悪戯っぽく口角を上げると、恐る恐るその柔らかな膨らみに手を添えた。
――指先が、信じられないほど柔らかい感触に沈み込む。
「っ、うわ」
自分の体なのに、他人を触っているかのような奇妙な背徳感と、自分の体だからこそ味わえる絶対的な支配感。
中身のおじさんとしての自意識が、この肉体の感度をダイレクトに脳に伝えてくる。
指を動かすたびに、布地越しに伝わる感触が妙に生々しく、背筋に電流が走るような感覚があった。
「すげぇな、これ!」
鏡の中の美女もまた、頬をほんのりと赤く染めて、自分を見つめ返している。
本来ならあり得ないはずのシチュエーション。
このアパートの静寂の中で、私はただのサラリーマンから、鏡の中のシスターへと意識を没入させていった。
残業の疲れなど、とっくにどこかへ飛んでいっていた。
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洗面所の鏡に映る銀髪のシスターは、不思議なほどに美しかった。
少しだけ火照った頬。濡れたような潤んだ瞳。
俺は自分の手で、その柔らかい膨らみをゆっくりと揉み解していく。
「うわ、本当に、信じられない感触だな」
指先が沈み込み、押し返してくる弾力。男の体では決して味わえない、この圧倒的な質量感と柔らかさ。
自分の手なのに、まるで魔法の果実を愛でているような倒錯した気分だ。
「試してみるか」
俺は喉を鳴らし、少しだけ高い、女性らしい声を意識してみる。
「あ……んっ、くぅ……」
鏡の中のシスターが、甘く吐息を漏らす。
自分の声帯から出ている音なのに、まるで別人の声が響いているようで、背筋がゾクリと震えた。
「ははっ……なんだこれ。可愛い顔して、声だけ色っぽいな」
俺は思わず吹き出した。鏡の中のシスターも同じように口元を手で覆って笑っている。
この「ギャップ」がたまらない。シスターという神聖な存在が、自分という中年男の欲望を体現している。
私は意地悪く、聖職者が口にするはずのない言葉を吐いてみることにした。
「迷える子羊たちよ、懺悔なさい……なんてな」
鏡に向かって、わざと気だるげにポーズをとる。
「『主よ、どうかこの迷えるシスターに……今夜の夕食代と、あと三連休を恵んでください。無理なら宝くじを当ててくれ、マジで頼む』」
鏡に映る神々しいシスターが、そんな世俗的な願いを口にする違和感。
俺は自分で言っておいて、また笑いが止まらなくなった。
「ああんっ、ダメですわ……」
少しだけ声を裏返して、わざとらしく媚びた声を出してみる。
「『聖なるお祈りもいいけど、今はキンキンに冷えたビールが飲みたい気分……。これ、ヴェールの中に隠して一杯飲んでも、バレないかしら?』」
鏡の中の美女は、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべて、豊かな胸元を強調するように両手を添えた。
「『お叱りなら受け付けますわ。でも、説教をするならその前に、残業続きの私の腰をマッサージしてくれないと……罰として、このシスターにおいしいおつまみを作らせますから』」
自分で言いながら、鏡の中の姿と、シスターという衣装のミスマッチさに腹を抱えて笑い転げそうになる。
誰もいない深夜のアパート。
シスターの格好をした中年のおじさんが、鏡の前で自分の胸を揉みながら、神に向かって「ビールと宝くじ」をねだる。
「……はぁ。最高に頭がおかしい夜だな」
鏡の向こうのシスターに向かって、俺はウインクを飛ばした。
今の俺は、間違いなく世界で一番聖なる外見をしていて、世界で一番俗っぽいことを考えている。
この日常からの逸脱こそが、宇宙人に改造されてから手に入れた、唯一無二の贅沢なのかもしれない。
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洗面所の鏡の中で、銀髪のシスターが自らの胸に両手を添えた。
片手だけでは味わいきれなかった質量感、そして温かみが、両手で包み込むことでより鮮明に意識の深淵に流れ込んでくる。
「あ、ぅっ、あぁ……っ!」
思わず口から、自分でも驚くような可愛い吐息が漏れた。
中身は疲れ切ったおじさんだというのに、この体が反応してしまう。
鏡に映る自分は、驚きと興奮に瞳を揺らし、頬を朱に染めている。
そのあまりの「女の顔」ぶりに、俺の自意識は奇妙な浮遊感を覚えた。
両手で揉みしだくたびに、指先から胸の奥まで、甘い電流が駆け巡る。
服の摩擦が、まるで直接神経に触れているかのように敏感だ。
「っ、なにこれ。すげぇ、敏感……」
弾力のある膨らみを指先で転がすと、胸の先がツンと硬く逆立っていくのが視界に映った。自分の身体の変化なのに、まるで生き物のように別の意思を持っているみたいだ。
たまらず、親指と人差し指でその硬くなった部分を軽くつまんでみる。
「ひゃうっ!?」
ビリビリッ! と、背中を電撃が駆け抜けた。
シスターという清廉潔白な外見とのギャップに、脳がバグを起こしそうになる。
「ぁっ、あぁ、やだ、こんな……」
鏡の中の美女は、恥じらいに震えながらも、その手つきは止まらない。
さらには、胸への刺激と連動するように、下腹部の奥、股間のあたりが熱を帯びてむずむずと疼きだした。
体の中の「男」としての感覚が、外側の「シスターの体」の快感に塗りつぶされていく。
「くそっ、これ……中身はおっさんだってのに、体がっ!」
俺は必死に理性を保とうとするが、突き上げてくる快楽の波は容赦ない。
鏡に映るシスターは、恍惚とした表情で自分の胸を愛撫し続けている。
外見は聖女、中身はおじさん、そして身体は極上の快楽に支配されている。
「はぁ、はぁっ、あぁ……っ」
洗面所の鏡の前で、俺は自分の胸を揉みしだきながら、身もだえするしかなかった。
深夜の誰にも見られない場所で、シスターの姿をした「俺」は、自分の体と対話するように、深く、深く堕ちていく。
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まぶたの裏を突き刺すような光で目が覚めた。
カーテンの隙間から差し込む陽光は、昨夜の狂乱が嘘だったかのように白々しく、部屋の惨状を暴き出している。
身体を動かそうとして、思わず「うっ」と低い声が漏れた。
(痛ぇ。いや、痛いっていうか……全身が溶けたみたいに重いな)
30歳の頃に経験した「二日酔いの朝」とは次元が違う。
筋肉の奥底まで、まるで鉛を流し込まれたような倦怠感。
それでも、どこか満たされたような熱が残っているのは、二十歳の身体ゆえの代謝か、それとも昨夜のあの激しさゆえか。
隣を見ると、千田くんがまだ深い眠りについていた。
背中をこちらに向けて、静かな寝息を立てている。
(あんなに獣みたいに暴れておいて、今は随分と無防備な顔して寝やがって)
シーツはぐしょぐしょに濡れたまま、ところどころで乾きかけて白く跡になっている。
俺たちはあれから、どれだけの時間を、何回繰り返したんだ? 記憶の断片は、千田の必死な表情と、自分の喉から出た覚えのない高い悲鳴ばかりで埋め尽くされている。
「ん……」
カレンダーを確認しなくてもわかっていた。今日は土曜日だ。
市役所の仕事は休み。
月曜日まで誰にも会わなくていい。その事実に、心の中で小さくガッツポーズをする。
俺はゆっくりと身体を起こし、ベッドの縁に腰掛けた。
シーツが肌に張り付く感覚が、昨夜の残滓を思い出させて、思わず赤面する。
三十歳の男が、二十歳の女の姿で、同僚の男にここまでボロボロにされるなんて。
(我ながら、とんでもない夜だったな)
俺は少しだけ髪をかき上げ、寝顔を見つめる。
千田くん。
福祉課の真面目な彼が、まさかあそこまでの「送り狼」だったとは。
いや、誘ったのは俺か。いや、どっちもどっちか。
私は、昨夜の「淑女」のスイッチをもう一度、ゆっくりと入れ直す。
指先で千田くんの肩を、つんつんとつついた。
「ねぇ、千田くん。起きて」
「ん……」
彼が薄目を開ける。
寝ぼけ眼でこちらを見た瞬間、昨夜の記憶が蘇ったのか、彼の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
「あ、おはよう……舞さん」
声が裏返っている。
昨夜のあの雄々しさはどこへやら、今はただの、初体験を終えたばかりのうぶな少年に戻っている。
「土曜日だよ。今日は、ゆっくりしてていいんだよね?」
私はわざと少しだけ首を傾げ、甘えるように微笑んでみせた。
窓の外には、清々しい土曜の朝の空が広がっている。
昨夜の地獄のような熱狂が嘘のように、今はただ、気まずさと少しの甘酸っぱさが残る朝だった。
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洗面所の鏡には、火照った身体を抱きしめる銀髪の美女が映っている。
胸への刺激から始まった快楽の波は、止まることを知らず、さらに深い場所へと伝わっていった。
「あぁっ、うそだろ……」
自分の身体の反応に、思わず声が漏れる。
布地越しに触れた指先が、妙に熱い。先ほどまでの胸の興奮とはまた違う、ドロリとした熱気が下腹部に溜まっているのがわかる。
恐る恐る、シスターの質素なスカートの下、秘められた場所へと手を滑らせた。
指先が触れると、そこはすでに熱く濡れていた。
「あぁっ、あ、んっ……!」
自分でも驚くような、か弱くて愛らしい吐息が、洗面所に響く。
中身はしがない中年のおじさんだ。それなのに、指先で優しくなぞるだけで、全身の毛穴が開くようなゾクゾクとした震えが突き抜けていく。
「こんなの、ダメだ。男がこんな……あぁっ!」
指先でその柔らかな場所をそっとなぞると、身体がビクンと大きく跳ねた。
鏡の中のシスターは、恍惚とした表情で自分自身を見つめている。
聖職者の装いをしているのに、その手つきは淫らで、瞳は熱っぽく潤んでいた。
「んっ、あ、ぁ……っ。あぁん、そこ……っ!」
自分自身で自分を慰めているというのに、まるで誰かに愛撫されているかのような錯覚に陥る。
この身体は、脳が記憶している「男の自分」の常識を、いとも簡単に破壊していく。
「いけないっ、シスターが、こんなこと……ああんっ!」
鏡の中の自分に向かって、わざとらしい、けれど心からの喘ぎ声が漏れる。
中身のおじさんが、必死に理性を保とうとしながらも、抗えない快楽に溺れていく姿。
このシスターの身体は、まるで私という男を誘惑するために設計されたかのように、過剰なほどに敏感だった。
「だめ、あぁ、くるっ。ねぇ、私……こんなにトロトロになって……あぁっ!」
指先を滑らせるたびに、甘い蜜が布地を汚していくのがわかる。
鏡に映る銀髪の美女は、恥じらいと快楽が入り混じった、言葉では形容しがたい美しい表情を浮かべていた。
「っふぁ……あぁっ、んっ! 待って、そんな、あぁぁん!」
我慢しようとすればするほど、身体の芯が熱く疼く。
鏡の中の自分自身と見つめ合いながら、私はその甘美な誘惑に、ただ身を委ねるしかなかった。
深夜のアパートの洗面所で、シスターの姿をした中年男は、自分の身体が奏でる初めての悦びに、ただひたすら溺れ続けていた。
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洗面所の蛍光灯の明かりが、私の視界で小刻みに揺れていた。
「あぁっ、ダメ、もう……限界……っ!」
自分の指先が、シスターの純白の衣の下で、熱を帯びた蜜で濡れそぼっているのがわかる。
中身はただのしがない中年のおじさん。
本来なら、こんなに簡単に高揚するはずなんてない。
なのに、この身体はまるで「快楽」を享受するためだけに最適化されたかのように、過剰なほど敏感だ。
鏡の中の銀髪の美女は、恥じらいを通り越して、恍惚の表情で自分自身を見つめている。
指先が最後の一押しをしようと、一番敏感な場所を優しく、けれど執拗になぞった。
「っ、あぁあああっ!?」
全身の神経が、一本の弦のように張り詰め、次の瞬間、頭の芯まで痺れるような快感が弾け飛んだ。
脳裏に白い光が走り、喉の奥から自分でも聞いたことのないような、甘くて淫らな喘ぎ声が漏れる。
「あ、あぁっ、ぁああ……っ!」
脚の力が抜け、洗面台に両手をついて崩れ落ちそうになる。
鏡に映るシスターは、長い銀髪を乱し、肩で息をしながら、濡れた瞳で鏡の中の自分を――いや、中身である「俺」を――見つめていた。
しばらくして、荒い呼吸が少しずつ静まっていく。
鏡に映るシスターの顔には、やり遂げたあとの気だるげな艶っぽさと、どこか神聖な空気が混ざり合っていた。
俺は洗面所に寄りかかりながら、力なく笑った。
「ふう。……まったく、ひどいありさまだ」
鏡に映る美しいシスターに向かって、俺は語りかける。
「懺悔しなきゃな。神様も、こんな姿を見たら頭を抱えるぜ」
しかし、口元は自然と緩んでいた。
誰にも見られないこの部屋で、俺はたった今、自分自身という存在の新しい扉を開いてしまったような気がした。
この身体は、日々のストレスや理不尽な現実を、この上なく甘美な快楽へと変換する装置。
俺は鏡の中のシスターの頬を、そっと指先でなでた。
彼女もまた、俺の指を頬で受けるように、少しだけ身を乗り出す。
「また明日も、仕事か」
俺は鏡から目を離し、洗面所に手を伸ばして顔を洗った。冷たい水が、火照った肌を少しずつ現実に引き戻していく。
鏡を一度だけ振り返ると、そこにはいつもの、疲れ切った中年男の顔が戻ってきそうな……気がした。
だが、ヴェールを脱ぐ前に、俺はもう一度だけ、その美しい姿を焼き付けた。
この背徳の時間が、明日を生き抜くための、俺だけの秘密のガソリンになる。
「さて……そろそろ、おじさんに戻るか」
そう呟きながら、俺はシスターの姿を解くため、もう一度、深く目を閉じた。
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オフィスビルの照明が消え、静まり返ったフロアを後にする。
時計の針はとうに深夜を回っている。四月が終わろうとしているのに、仕事はまるで減る気配を見せない。
「また残業か。いい加減にしてほしいよ」
溜息をつきながら駅へと向かう道すがら、俺はいつもの公園に立ち寄った。
昨夜のことが、まるで夢のように、それでいて鮮烈に記憶に焼き付いている。
あのアパートで過ごした背徳の数時間が、今の俺にとっては唯一の精神的な支柱になりつつあった。
公園の公衆トイレ。
古びたタイルの壁に囲まれた、誰もいない空間。
ここなら誰にも邪魔されない。
「……やるか」
重い鞄を足元に置き、俺は目を閉じた。
呼吸を整え、脳内にあの姿を鮮明に描く。
透き通るような白銀の髪。
慈愛と妖艶さが同居する、理不尽なまでに美しいシスターの顔立ち。
そして、重力を無視するかのような豊かな胸元。
全身に熱が宿る。
スーツの生地が弾け飛び、骨格が軋む感覚。
筋肉がしなやかに作り替えられ、肌の質感が陶器のように滑らかに変わっていく。
それは痛みを伴う改造ではなく、まるで心地よい熱波に包まれるような、禁断の変身。
――ふわりと、聖なる衣の重みが肩に乗った。
鏡なんてなくてもわかる。
今、俺はあの中年のおじさんから、あの銀髪のシスターへと完全に塗り替わった。
「ふう……」
口から漏れたのは、低い男の声ではなく、どこか儚げな女性の声だった。
ヴェールを整え、鏡を見る。
そこには、昨夜と同じ、いや、昨夜よりも少しだけ自信に満ちた、完璧なシスターが立っていた。
「さあ、帰ろうか」
俺は、いや、シスターの姿をした俺は、迷いのない足取りで公園を出た。
この格好で深夜の街を歩くのは、もはやただのストレス解消ではない。
理不尽な現実を突きつけられたサラリーマンという檻から、俺自身が作り出した「理想の存在」へと脱皮する儀式なのだ。
夜風が銀髪を揺らす。
シスターの歩みが、アスファルトを聖域へと変えていくような錯覚。
明日の朝には、またしがない中年として会議に出席しなければならない。
だが、今この瞬間だけは、俺は俺自身の支配者だ。
「さぁ、今夜はどんな『懺悔』を聞いてやろうかしら」
銀髪をなびかせ、私は街の闇へと消えていった。
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深夜の公園には、昨夜と同じ冷たい空気が漂っていた。
街灯の光がブランコを照らし、そこに座り込んでいた若い男性が、私の足音に気づいて顔を上げる。
昨夜、胸を揉ませてあげた彼だ。
彼は私を見ると、弾かれたように立ち上がった。
「あ……シスター。また、会えるなんて」
「こんばんは、迷える子羊さん」
私は昨夜と同じように、優雅に微笑んでみせた。
銀髪が夜風になびく。
彼はどこか縋るような目で私を見つめ、少し震える声で言った。
「あの……昨日はありがとうございました。でも、どうしても、今日のうちに誰かに話さないと苦しくて……懺悔をしたいんです」
「ええ、いいですよ」
私はブランコの横のベンチに腰を下ろした。
彼もまた、恐る恐るその隣に座る。
シスターの服がかすかに擦れる音が、深夜の静寂に響く。
「聞きましょう。あなたの罪を、あなたの悩みを。神はいつも見ていますわ……私も見ています」
私は手元でヴェールの端をいじりながら、シスターらしい、けれどどこか温かみのある声で促した。
昨夜の彼とは少し様子が違う。
今日はどこか、追い詰められたような切実さが漂っている。
彼は俯いたまま、口を開いた。
「実は……会社で、大きなミスをしてしまったんです。顧客の大事なデータが入ったサーバーを、自分の不注意で消してしまって……。でも、怖くて、誰にも言えなくて。今は『原因不明のシステムエラー』ってことにして、ごまかしているんです」
彼は肩を震わせた。
……なるほど。
ミスを隠蔽し、言い逃れをする。
社会人の誰もが一度は経験する、胃の痛くなるような修羅場だ。
私は「中年のおじさん」として、その苦しみが痛いほどよくわかった。
冷や汗が出るようなあの感覚、眠れない夜、責任の重圧。
私は聖職者のような慈愛に満ちた表情を作りつつ、心の中では(うわぁ、それは死ぬほど胃が痛いな……お前、心中お察しするよ)と共感していた。
「そうですか。それは、大変な重荷を背負ってしまいましたね」
私は彼の肩に、そっと手を置いた。
華奢なシスターの指先は、今の私の精神年齢からすれば、なんだか不思議な距離感だ。
「誰にも言えない秘密を抱えるのは、砂利を靴に入れたまま歩くようなもの。苦しくて、足が進まなくなりますわ」
「はい……本当に、夜も眠れなくて。僕、どうしたらいいんでしょうか」
彼はすがるような目で私を見る。
私の頭の中では、サラリーマンとしての「処世術」がいくつか浮かぶ。正直に謝るべきか、それともバックアップを探すべきか。
だが、今の私の姿はシスターだ。
聖女として、この子羊にどんな言葉をかけてやるべきか。
私は少しだけ微笑み、彼を見つめた。
「正直になるのは、とても勇気がいることです。でも、そのままで一生を終えるつもりですか? あなたの人生を、その小さな嘘で塗りつぶすのですか?」
彼はハッとした表情で私を見た。
私の言葉は、シスターとしての慈愛と、長年社会の荒波に揉まれてきた「おじさん」としての現実味が混ざり合っていた。
「怖いんです。怒られるのが、クビになるのが」
「ええ、怖いでしょう。でも、その恐怖を抱えたまま、あなたは今日まで生きてきた。……では、もう一つだけ。あなたの本当の気持ちを教えてくれませんか?」
私は少し声を潜め、彼に顔を近づけた。
シスターの香水と、深夜の公園の匂いが混ざり合う。
「そのミスを報告したら……あなたは、本当に終わってしまうと思いますか?」
私は静かに、彼の言葉を待った。