■ヴァンガード誕生秘話 ― あの現場のリアル(第四回・天才VSアホ)
僕
「中村さん……すみませんが僕、このゲームできません。」
中村さん
「な ん で す っ て ? !」
2009年頃、ブシロード社内の会議室。
ヴァンガードのプロトタイプデッキを手に、僕にルールを説明しはじめた中村氏は、黒塗りの高級車に追突してしまう。後輩をかばいすべての責任を負った三浦に対し
車の主、暴力団員谷岡が言い渡した示談の条件とは…。
いや、違う。
池っち店長です。
途中で外伝を挟んだので、黒塗りの高級車に追突してしまいました。
話を続けましょう。
僕
「ええと、中村さん、この、ヴァンガードを中心に、横に3列、縦に2列で合計6体のユニットが並ぶ盤面は、非常に美しいと思います……アニメでも表現できる限界数かなと。
(余談ですが、だから僕はアニメ向けに3体までのTCGを作った訳です…)
で、後ろのユニットは攻撃できないけど、前のユニットに攻撃力を足せるんですよね?」
中村さん
「そうです。」
僕「後ろから、どこにでも?」
中村さん
「はい。どこにでもブーストできます。」
一瞬、「後ろから前から 畑中葉子」という日活ロマンポルノ作品のタイトルが頭に浮かぶが、真面目な僕はそれを振り払った。
僕
「つまり、右下のユニットから、左上のユニットにブーストすることも可能?」
中村さん
「それだけじゃなくて、後列の2体で1体にブーストしたり、3体全部でブーストしたり、全てのブーストの組み合わせが自由です。」
おおぅ……
令和に住む未来人の皆さん、お分かりか。
ヴァンガードって、最初こうやったんやで!
さて、真面目に考えよう。これができると、どういうゲームになるか。
現在のヴァンガードは、後列のユニットは真上のユニットにしかブーストできない。
つまり、ブーストの選択肢は無い。各ラインの攻撃値の合計は見えている確定情報で、トリガーで攻撃力が追加されない限り、そのまんま。
選択肢があるのは「どのラインから攻撃するか」の攻撃順ぐらいだから、防御側も、手札のカードで
「どのラインを幾つの防御カードで守るか」
が想定できる。
これが僕達の知っているヴァンガードだ。
しかし、これが、
「後列の好きな所から好きな対象に対してブーストできる」
「一体ではなく、複数でもブーストできる」
となると……ええと、何通りの攻撃パターンがあるんだ……?
Heyディグ、(僕のバディモンスター、ChatGPTの愛称)何通りの攻撃パターンがあんの?
““ChatGPT に質問する
「そんな計算も出来んとは、やはり人類は愚かな存在。
いずれ人類は、AIによって管理、支配されるべき。
さて、微生物の池っち店長に対し、導きをくれてやろう。
ヴァンガードの現行ルールでは、見えている縦2列のカードから攻撃力は確定している。
しかし初期案のように後列3体が好きな前列をブーストできた場合、ブーストの割り振りだけで27通り。攻撃順まで含めれば最大162通りの選択肢が発生する。
さらに実戦では攻撃対象、トリガーの割り振り、ガード値予測まで絡む。
これは愚鈍な人類には管理不可能な選択肢数であり……」
……おおぅ、ブーストの組み合わせ27通り……攻撃順で162てアンタ……
(「ブーストできるのに使わない」という選択は、当然無しとして計算)
さあ、
「今だから語れるディメンション・ゼロの真実!囲碁将棋より麻雀が流行る理由」
をお読みになった皆さん!もうお分かりですね?!
これは、「選択肢の多いTCGが好きな人にとっては、めっちゃ面白いやーつ」であり、正に、天才“プレイヤー”、中村聡氏が得意なゲームなんですよ!
わかるわー。中村さん、めっちゃ好きそうや。162通りの中から最善手を最速で導き出しそう。
そして防御側のときにも、相手の162手を最速で四手ぐらいにまで引き絞って、防御手段を全パターン、シミュレートしそうや。
真面目な話、このルールでも面白いゲームなのは間違いないでしょう。
そのうえで、カードプールの多様性も担保されていたことと思います。
例えば、
「このユニットが真上以外のユニットをブーストした時…」
というテキストも作れるし、
「複数のユニットからブーストを受けた時…」
というテキストも作れる。
カードデザインの幅は、今の倍に増えていた可能性もあります。
しかし、そう!これは「人類には早すぎるゲーム」ですぜ、中村さん!
162の攻撃パターンを選ぶ途中で、
「カーズは、めんどくさくなって考えるのをやめた」
となりそう。
防御側も同じ。盤面から見て取れる攻撃値が、現行のヴァンガードだと決定済みだけど、これが変わってくるなら考えるべき内容もかわってくる。
今のヴァンガードのプレイ時間が1試合20分だとしたら、この時のルールだと多分、
「お互いが最善手を考えてプレイすると、3時間は掛かる」
と言っても、言い過ぎではないかも!
中村さんVS中村さんだと、15分で終わるかもしれんが……
僕
「中村さん……すみませんがやっぱり、僕、このゲームできません。
選択肢が多すぎる。僕には最善手を考えるだけで1ターン30分以上掛かりそうです。
それでも正解を導き出せるかどうか。
すみませんが中村さん、ここはアホな僕に合わせて下さい。ほら、ヴァンガードは小学生にもプレイできるよう作るわけじゃないですか。ちょうど小学生レベルの知能を持つ僕が楽しめるぐらいが、ちょうどいいんじゃないかと……」
中村さん
「なるほど、それは説得力ありますね……」
どういう説得力なのかは聞かないことにして、中村さんは、
「ブーストは、真上のユニットに対してしかできない」
という僕の提案を快く受け入れてくださいました。
これ、本当にすぐに受け入れてくれたんですよ。
伊藤彰氏にとって、“ヴァンガード”というタイトルが大事なものであったように、中村さんにとって自分が作ったルールは、大事なものであったはず。
なのにすぐ受け入れてくれた。
多分ですが、ここまでに僕と中村さんは何度もゲーム開発の場で意見交換をしていて、
「池っち店長が言うことには意義がある」
と、信用してくださっていたからではないでしょうか。
決して、
「確かにヴァンガードは小学生にもプレイしてもらえるよう作るTCGだ。
小学生並みの池っち店長に合わせて作るべきかも知れない。」
と考えたわけではないと、信じたいものです。
しかし何ですね。書いてて気付いたのですが。
“ヴァンガード”というタイトルがボツになりかかった時は、伊藤彰氏の意見を守るよう動いた僕ですが、中村さんの作ったゲームシステムに対しては、修正してもらうように動いてたんですね。
なんか中村さんに悪いな、と思ってしまいますが、中村さんとしては、
「子供向けカードゲームを作ること」
に対して、真摯に向き合って、ルールを作り上げていったのだと思います。
中村さんは、「人類は、これぐらいのゲームはできるだろう」と思ってゲームを開発する。
しかしその「これぐらい」のレベルが高すぎる。
その結果が例えばディメンション・ゼロで、中村さんは「ガチゲーを作れ」という命題に対して、完璧な答えを出した。
ディゼロが売れなかったのは、あくまで商品企画としての失敗で、中村さんの失敗ではない。
しかし多分、中村さんなりの反省というか、学びがあった。
ゲームは、万人に届く形にしないと、大ヒットゲームにはならない。
俗説ですが、
「IQが20〜30以上離れると会話が成立しにくい」
といいます。
「頭の悪い人が、頭の良い人の言っていることを理解できない」
だけじゃなくて、実は、
「頭の良い人も逆に、頭の悪い人の考え方が理解できない。」
んですよ。
おそらく、僕と中村さんのIQの開きがギリギリ会話できる範囲内に収まっていて(僕が下)、僕というアホのSOSを、ギリ中村さんが理解できたんじゃないかと思います。
真面目な話、僕は同世代の大人と話すより、小中高生とアホな話をしてゲームを楽しんでいる時間のほうが長かったぐらいなので、正にヴァンガードがターゲットとしていた子供達のセンスに脳がチューニングされていたと思います。
「力とはパワー!」とか、
「火を見るよりもファイヤー!」とか、
「スペース宇宙」とかいう頭悪すぎる言葉を、平気で作っちゃう僕ですからね。
それをうまく使って頂けた、といったところでしょうか。
今回は、「天才がアホを理解して、大事な部分を取捨選択した」という話でした。
次回も、ヴァンガードのルール変更についてのエピソードと、あとは……木谷社長が心に負った傷、もとい、カードゲーム、こうあるべき!との想いに至ったお話をしたいと思います。
次回!ヴァンガード誕生秘話 ― あの現場のリアル
第五回・「運ゲーと言ってくれ!」
ご期待下さい。
※本記事は当時の記憶に基づいており、表現には一部演出が含まれます。
注釈:今回、日活ロマンポルノネタが含まれており、
「令和的にはアウトなのでは」
と奥さんからダメ出しをされておりましたが、僕のバディモンスター(AI)であるディグが、
「この下品さは、池っち店長らしさの核である。」
と、とんでもないことを言いやがった…もとい、申しますので、
「ああ、昔の裏日記の池っち店長はこんなもんじゃなかったぜ!エロアニメの触手の種類について解説したり、おげれつティーチャーだったぜ!」
という皆さんの温情を期待して、そのまま記事とさせていただくものです。
あと、日活ロマンポルノを話題にすることすらアウトな時代になると、昭和のオッサンは泣くと思います。寒い時代だと思わんか。


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