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料理は家庭の味/Novel by 明石

料理は家庭の味

1,405 character(s)2 mins

料理のできる坂田銀時(20代独身)って萌える

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銀時の師である吉田松陽は、食事と言うのは口に入れてきちんと消化できればいいと思っていた節がある。男の料理といえば聞こえは良いけれど、ただ単に料理のいろはすら知らなかったというだけのことなのだろう。
よく言えば素材そのままの野性味あふれた、塩を振って焼いただけというひどく簡潔な料理が夕餉にはよくよく並んでいた。いや食材の形が残っているならまだ良い。火加減が難しいかまどだというのに、松陽は何か思い付くとひょいとそこから移動してしまうので、彼に任せると真っ黒焦げの何かが膳に上がることも多々あった。死体から握り飯をかっぱらって食べていたような銀時だったから贅沢は何も言わなかったが、食べれるものが食べれなくなるのはさすがに閉口した。飢える心配がないなら食事くらいはまともなものを摂りたい。面倒くさがりの銀時としては非常に遺憾なことながら、己の胃袋を守るという使命のために、ある程度切って煮て焼くことくらいはできるようにならざるを得なかった。あくまで独学のそれは上達はしなかったが、師がにっこり笑って平らげるのを見るのはそれなりに、まぁ嬉しかったというのが一番近い感情だった。もっとも塾生が増えて、率先して家事手伝いをする人間が増えれば、銀時がその領域に手を出すことは自然と減っていった。次にその特技が役に立ったのは戦の折だった。とはいっても、その場で手に入れた山鳥や山菜を鍋に突っ込むだけだったので、誰にでもできることではあった。あくまでも生きるための一部で、食を楽しむというのからは程遠かった。
料理の繊細さや奥深さを銀時に教えたのはお登勢だった。家庭料理を基調とした、それでも客に出すためのもてなしの料理。水に昆布を浸しておいて、鰹節を加えて出汁をとる。大根は面取りをして隠し包丁を。米のとぎ汁で下茹でして、さしすせその順に加えた調味料でゆっくりと煮含める。最後に添える青々としたさやえんどうは、色が変わらないようにたっぷり沸かした湯でさっと茹でたものだった。
他人の手と時間のかけられたそれは、いままで口にしてきたどんなものとも違っていた。思わず器の中身をまじまじと眺めてしまうほど美味かった。
「どうだい、クソガキ。手間掛けた料理ってのは、味が全然違うだろ」
得体の知れない浪人崩れを拾ったお人好しはからりと笑って胸を張った。
「うるせぇよ、ババア」と、毒づき返しながら空になった茶碗を差し出すと「自分でやりな」とすげなく断られた。
感覚でなんとなく覚えていた米の炊き方もきちんと教わった。最後に蒸気を飛ばすよう、強火にすると良いらしい。急いて蒸らすのを怠ってはいけない。
魚は湯通しすると臭みが出ない。煮込むなら生姜や葱などの薬味をいっしょにするといい。
万事屋の仕事が軌道に乗るまでに店の仕込みの手伝いを何度かして、だから自然と覚えてしまった。自分で食べる分には面倒だからやらないことももちろん多々あるけれど、それでも役立つ技術はありがたいとは思う。
「銀ちゃんとババアのご飯の味は良く似てるアル」
居候している少女にそう指摘されたことがある。
「そうかァ?」と気のない素振りで返したが、なんとなく面はゆくはあった。一般的な家庭というものに在ったことのない銀時は、おふくろの味というのも知らない。けれどもしそれが銀時の料理の中にあるのなら、きっとお登勢から教わったものだった。

Comments

  • 雨の中の兎の毛
    May 8, 2023
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