指定校推薦枠の公表、限定する理由は? 一般選抜こそ「王道」という意識が根強く
私立大入学者の3割を占める指定校推薦。福岡県内の公立高を今春卒業した生徒の保護者から「志望校を伝えた後にしか、指定校推薦枠があると教えてもらえなかった。なぜ全体に公表しないのか」という疑問が、本紙「あなたの特命取材班(あな特)」に届いた。取材から見えてきたのは、一般選抜で国公立大受験に臨むことが「王道」とする意識の根強さだった。 ■あな特調査依頼のアンケートに届いた指定校推薦を巡る意見【写真】 保護者の疑問は、本紙と西日本新聞meで公表して読者から意見を募った。
高校教員の福岡市の男性(48)によると、全て公表した高校で生徒が自分の枠を確保しようと他の生徒に圧力をかけたことがあったという。そもそも推薦枠は「校長がふさわしい生徒を大学に推薦する制度であり、生徒がメニューから選べるようなものではない」と説明する。 受験勉強という努力を積み重ね、難易度が高い大学を目指すことが学生の本分。一般選抜を避ける生徒は怠けている-。こんな考えも透けて見えた。 公立高教員で福岡市の男性(45)は、生徒が本来の学力より見劣りする大学への推薦を選ぶなど「易きに流れ」、「長期的に見て生徒の利益にならない」と校長が判断すれば、枠を公表しない選択もあるという。 同様の価値観は保護者からも垣間見える。福岡市の自営業女性(49)は「ほとんど受験勉強をせずに大学まで行くのはどうか」。北九州市の女性会社員(54)も「推薦で入ってあぐらをかく人もいる」との声を寄せた。
公立高で教員をする熊本市の60代女性は、同僚教員がわが子の受験についてこう語っていたのが印象に残っている。「大学入学共通テストまで受けないと根性が育たない」 私立高では、難関国立大の志望を条件に奨学金を支給しているケースもある。福岡市の女性教員(45)は、成績優秀者が集まるクラスは国公立大の一般受験を基本とし、他のクラスに推薦枠を割り振っている状況があるという。「学力が高い生徒が“損”をする」と疑問を抱く。 指定校推薦の運用は、福岡県内の複数の公立高を経て私立高に勤める60代女性によるとこんな流れだ。 1学期のうちに、各大学から指定校推薦枠の情報が届く。公表の仕方は高校ごとに異なり、夏休み明けの9月に一覧表を張り出す高校もあれば、その大学を志望した生徒にだけ教える高校もあったという。 推薦枠を超える生徒が志望した場合は調整が必要になる。最初は「何となく選んだ」という生徒も多いため、志望理由書を書かせて自分の胸の内と向き合うよう促す。最終的には校内選考で決まる。 教員側には「自分の学力を超える大学に進学したら、授業についていくのが大変で結局困るのは生徒」という懸念がある。入学後も「高校の看板」が付いて回るという認識で、卒業生が大学を中退したときには進路指導の責任者が大学に出向き、謝罪をしていた。 推薦枠は前年通りとは限らない。卒業生が成績不良なら、翌年度は推薦枠がなくなる-。「大学は因果関係を説明しないが、実際にそんなこともあった」と女性。ただし、近年は立場が逆転したかのような出来事も。ある生徒が志望した学科には推薦枠がなかったが、大学側に相談すると枠を確保してくれた。 「かつては絶対に考えられなかった。学生の確保に苦労しているんだろう」 指定校推薦を得る条件についての意見も届いた。 公立高の元教員で、県内の50代女性は「高い評定を取るために重要なのは定期テスト、提出物、授業態度。それで生徒を縛ることが妥当なのだろうか」と話す。教員の指示通りに勉強する生徒の評価が高くなる仕組みで、それは学習指導要領が求める主体的に学ぶ生徒像とは必ずしも重ならないのではと疑問を抱く。 最近は、何でも人工知能(AI)に尋ね、自分で考えることを放棄しているような学生の存在も聞く。指定校推薦の進学者に限った課題ではないという。 生徒の進路実現、学力アップ、主体的な学び…。さまざまな点を考慮しながら高校の試行錯誤は続く。(編集委員・四宮淳平)
西日本新聞