(AIの時代)AIが設計、菌を殺すウイルス 医療へ期待、危険生む懸念も
米シリコンバレーのパロアルトにある「アーク研究所」。先端バイオテクノロジーの研究拠点として2021年に設立され、近くのスタンフォード大やカリフォルニア大バークリー校からえりすぐりの研究者が集う。
「これほどうまく機能するとは、私たちも驚きました」
生物工学が専門のサミュエル・キング氏が、大腸菌で満たされ、全体が白っぽいシャーレを見せてくれた。ところどころに見える透明な円が、大腸菌のいない場所だ。細菌に感染するウイルス「ファージ」が大腸菌に感染して殺し、増殖を抑えた証拠だという。
このファージは自然界には存在しない、世界で初めてAI(人工知能)が設計して機能したウイルスだ。昨年9月に査読前論文で発表し、研究者の間で衝撃が走った。
ファージは単純な構造で、DNAがたんぱく質の殻に入っている。DNA次第で異なる性質のたんぱく質ができ、それがウイルスの機能につながる。
チームはAIからDNAの設計の提案を受け、約300種類のファージを作成。うち16種類で大腸菌に感染して殺す機能を確認した。
期待されるのは医療への利用だ。ファージは、抗生物質などの薬剤が効かなくなった「薬剤耐性菌」も攻撃できる。AIで多様なファージを組み合わせれば、菌が耐性を獲得するリスクを下げることにもつながる。
一方、懸念されるのは、危険なウイルスを生み出すリスクだ。
アーク研究所のチームをまとめたスタンフォード大のブライアン・ハイ助教授は、ファージは人に感染しないと説明。チームは安全対策として、人への感染につながるデータはAIの学習から除外したという。
それでも、生物学のシステムを大量に学習することに成功すれば「ファージより複雑な設計もできるかもしれない」とし、こう懸念を示した。
「国や組織によって、ルールの外で活動する人が存在する可能性があることは否定できない」(パロアルト=市野塊)
(2面に続く)
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