少し前の話になる。8月23日の広島ー阪神戦。毎日放送ラジオ中継の解説はカープ監督を務め、阪神でもバッテリーコーチ経験を持つ達川光男さんだった。というより、昨年来の達川さんといえば「阪神・門別を酷評した」という妙な評判のほうが先行していた。その達川さんが、実況アナから「明日の阪神の先発は門別です。非常に楽しみです」と話題を振られると…
「いやぁ、楽しみです。私、たまたま彼のデビュー戦と、彼の先発した試合を解説したんですが、(中略)少し言葉がうまく言えなくて、彼にご迷惑をかけたんです。ご両親にも、この場を借りてお詫びしなくてはいけないです」
謝罪したのだ。
まず先に、個人的意見を言わせてもらえれば、全く謝罪する必要はないと思っている。なのに、マイクの前で謝った達川さんは偉い。騒動の発端は昨年9月30日の広島ー阪神戦。阪神の18年ぶり優勝が決まり、〝消化試合〟でルーキー・門別が先発した。阪神ファンはよく知っているが、全国的知名度はまだまだ。そんな若き期待の星が5回無失点と数字上では好投した。が、達川さんの解説は厳しかった。
「お父さん、お母さん、どこかで見てるんでしょうけど、1年生にしてはよく投げてますけど、来年、戦力になるかといえば、まだまだ無理ですよ」
この試合、阪神の戦いぶりに辛辣な評価を続けていた中での、門別発言が、ネット上で大騒ぎになってしまった。1つ1つ内容を書くのも面倒だが、要するに「失礼だ!」というのだ。さらに、今季に入って、岡田監督が門別を大絶賛。「オープン戦では同一リーグには投げさせない」と特別扱いする方針まで打ち出し、連覇の秘密兵器に位置付けたものだから、再び「達川発言」がクローズアップされてしまった。
そんな達川さんが電波を通じて、謝ったので、騒いだ世間の動向を見守ってきた。ほとんどこの事実を誰も伝えない。責めるだけ責めて、謝罪に対しては沈黙。これは〝不公平〟なので、せめてこの欄で紹介しておく。
お父さん、お母さんに呼びかける必要があるのかどうかは賛否両論あるのだろう。でも、そういう評価の仕方があってもいい。解説者が新しい選手の、その時点での判断をして、何が悪いんだろうか。
どんな時も、選手の悪い点を指摘したがらない解説者、ゴマばかりする解説者が出現する中で、ズバズバ切り込む球界OBのほうが、はるかに楽しい。そして、何よりも達川さんが言っていた内容が、正解だった。「来年、戦力になるかといえば、まだまだ無理ですよ」は、ほぼ100%的中している。
門別のブルペンを見たことがある。すごい球を投げる。未来のエースという、岡田監督の評価はたぶん、当たっているだろうし、当たっていてほしい。けれど、現実のプロ2シーズン目成績は達川さんが1年前に評価した通りになってしまった。たぶん、達川さんも当たってしまって残念に思っているはず。
達川さんは中継中の謝罪と同時に、しっかりと期待も話している。
「しっかり練習して、戦力になって欲しい。投げっぷりもいいですしね。マツダのマウンドにも合っている」
そして、こう付け加えたのだ。
「あしたは、6時から家で正座して門別の投球を見ます」
そのあした(8月24日)。門別は5回2失点で敗戦投手に。プロの世界は甘くない。厳しいのだ。この世の中、賛否はある。バッシングなど気にせず、どんどん切り込む解説者が増えてもらいたいもの。謝る必要もない。
ちなみに、達川さんの解説の中で最近の口癖を発見した。
「たぶんお叱り受けるけれど…」
前置きをして、ズバズバ言っていた。この先も楽しませてください。
■上田 雅昭(うえだ・まさあき)1962(昭和37)年8月24日生まれ、京都市生まれ。86年入社。近鉄、オリックス、阪神を担当。30年近くプロ野球を見てきたが、担当球団が一度も優勝していないのが自慢(?)