深掘り

行進せず、公園で過ごす足元に訴え じわり広がる「ピクニックデモ」

武田肇

 行進はしない。スローガンを連呼することもない。主催団体もない。高市早苗首相が憲法改正に意欲を示し、武器輸出の拡大が進むなか、「戦争はしたくない」という思いを穏やかな形で伝えようとする新しい形の「デモ」が静かに広がりつつある。現場を訪ねた。

 4月25日昼、広島市中区の平和記念公園に、親子連れや若者ら約50人が集まった。世界遺産・原爆ドームを望む平和の時計塔前。サメの着ぐるみを着た主催者の女性の進行でビンゴゲームが始まった。

 SNSで呼びかけられた「ピクニックデモ@平和公園」に応じた人たちだ。松の木の下で弁当を広げる親子、シャボン玉を追いかけて走る子ども。ベンチで静かに見守る人もいた。

 一見、休日の公園のいつもの光景だが、それぞれの足元には手作りのプラカードが並んでいた。「NO WAR」「変えないで!憲法9条」「武器輸出反対!『平和国家』を捨てるな」。「安心して推し活したーい!」という言葉もあった。

始まりは「一人デモ」

 参加者は約2時間、思い思いに時間を過ごした。最後に一度だけ「改憲反対」「戦争反対」と声を上げたが、ごく小さな声の人も。互いに名乗り合うこともなく静かに解散した。参加者の7割は女性だった。

 「ピクニック」と名付けた同様のデモは4月に入って東京都内や名古屋市でも呼びかけられるなど、それぞれ個人の発案で自然発生的に広がっている。

 広島でのデモを呼びかけたのは、広島市中区のアルバイト、新井夏子さん(24)。大学で平和学を学んだ。2月の衆院選で改憲に賛成する議員が多く当選したことに強い危機感を覚えたという。

 選挙直後の2月9日、新井さんは一人で「戦争したくない 改憲反対」と書かれた紙を手に、JR横川駅前(西区)で座り込みをした。その様子をSNSに投稿すると、「私も同じ気持ち」という声が少しずつ集まった。

 2月末から、コンサートで使うペンライトや自作のプラカードを手に改憲反対や反戦を訴えるデモを呼びかけ、回を重ねるごとに参加者が増えた。自身の呼びかけで4月8日に広島市中心部であったデモには約300人が参加した。

 ピクニックデモは、自らが呼びかけた5回目の活動だ。これまでのデモは平日夕方だったが、幼い子どもを抱える親たちから「休日の昼にも開いてほしい」と要望があり、ピクニック形式を考えたという。

自作のプラカードやのぼりで主張

 広島市西区から長男(6)と長女(3)を連れて参加した主婦(35)は「同じ思いの人が目に見えて、安心しました。大きな声を上げなくていいので負担にならなかった」と話した。

 衆院選で改憲に賛成する国会議員が増え、「子どもの将来が急に心配になった」。米国のイラン攻撃を批判しない日本政府の対応にも失望感を抱いた。政治に関心がある方ではなかったがSNSで新井さんの呼びかけを見つけ、「これなら参加できそう」と感じた。デモは初めてで、来る前は緊張していたという。

 山口県岩国市から高校3年生の娘と訪れた会社員の女性(51)は、飼い猫の写真入りで「うちの猫を自慢するシモベの会」と書かれたのぼりを手にしていた。約1カ月前から改憲に反対するデモに参加しているが、その写真をSNSに上げると「誰かからお金をもらって参加している」と中傷された。自分だけののぼりを持つことで「これは私個人の意思です」と示したかったという。

 「自分が一番アガるファッション」として着物姿で参加し、「メンダコ」と名乗った女性(24)は、大学医学部6年で国家試験の勉強中だという。

 「もともと政治への意識は高くなかったけど、戦争が近づいているような国内外の情勢に、じっとしていられなくなった」。同じ思いの人と共に意見を表明できたことで「少し救われた気持ちになった。戦争反対と言うことができる社会は幸せ」と話した。

 新井さんはこう話す。「一人の行動が、ここまで広がるとは思わなかった。政治の流れを変えることができるかわからないけど、いま何もしなければ後悔する、という気持ちの人たちが集まっている。本当はこんなデモをしなくてもいい社会になることを望んでいます」

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この記事を書いた人
武田肇
広島総局員
専門・関心分野
原爆・平和、朝鮮半島、鉄道
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    富永京子
    立命館大学准教授=社会運動論
    視点

    今回のデモは首都圏や都市部だけでなく、これまで社会運動があまり見られなかった郊外や地方にも広がっています。広島のように従来から運動の土壌がある地域も含め、全国的な動きになっている点が特徴です。 今回の平和反戦デモはデモカレンダーやSNSによる参加の可視化が盛んですが、この「可視化」が良い影響を及ぼしているのではないかと思います。 古典的な研究でも指摘されていますが、参加者の多さが見えるほど、新たに社会運動に加わる心理的ハードルは下がります。「多くの人がさまざまな形で参加している」という情報が共有されることで、もともと関心を持っていた人も行動に移りやすくなります。 また、一度運動に参加した人は他の社会問題にも関心を広げ、より多様な形で政治に関わるようになります。さらに、そうした経験者とのつながりを通じて新たに声を上げる人も増えていくでしょう。今回の社会運動は、都市部に比べて社会運動が起こりにくいとされる地方にこそ、より長期的にポジティブな影響をもたらすのではないでしょうか。

    2026年5月3日 17:09

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