『ずさん』と書かれた知床、書かれなかった辺野古 マスコミ評価語の非対称をデータで検証
同じ「船の事故」でも、報道のされ方はこれほど違うのか——。本稿はその素朴な疑問から始まった。
マスコミ各社は、自社のWeb記事を公開すると同時に、Xにも記事見出しをほぼそのままの形で投稿している。つまりXのタイムラインを追えば、各社が「何を取り上げ、どう評価したか」のあらましを横並びで観察できる。本稿では、辺野古沖抗議船転覆事故と知床遊覧船沈没事故という二つの海難事故を題材に、主要マスコミ各社のXでの投稿を収集・比較し、各社が何について言及し、何について沈黙したのかを定量的に検証する。
なお、辺野古沖抗議船転覆事故では2名、知床遊覧船沈没事故では26名の方が亡くなった。亡くなられた皆様のご冥福を心よりお祈りいたします。
以下ではまず調査概要を示した上で、各社の「報道量」と、その中で用いられた「評価語」の分布を二つの事故ごとに見ていき、最後に両者を横並びにして浮かび上がる報道姿勢の違いをまとめる。
調査概要
注記:本稿の方法と限界
本稿の分析には、一部で生成AI(Claude code)を活用した。ツイートの評価語分類は著者がサンプルを与えてAIに実施させた。分析結果の一部も記事に反映している。ただし、論旨の構成および結論の判断は著者が行った。
また、本稿はマスコミ各社のXへの投稿を収集対象としているため、以下の点に限界がある。収集漏れが生じている可能性は否定できない。加えて、各社が全記事をXに投稿しているわけではないため、X上に現れない報道は本稿の分析対象外となっている。
本稿では、以下の要領で各社のX投稿を収集した。
調査日:2026/04/28
共通項目
データ収集元ニュースアカウント
NHKニュース(@nhk_news)
朝日新聞(asahi shimbun)(@asahi)
朝日新聞デジタル編成席(@asahicom)
読売新聞オンライン(@Yomiuri_Online)
共同通信公式(@kyodo_official)
日本経済新聞 電子版(日経電子版)(@nikkei)
産経ニュース(@Sankei_news)
時事ドットコム(時事通信ニュース)(@jijicom)
毎日新聞(@mainichi)
毎日新聞ニュース(@mainichijpnews)
Yahoo!ニュース(@YahooNewsTopics)
J-CASTニュース(@jcast_news)
Business Insider Japan(@BIJapan)
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SAKISIRU 〜サキシル〜【公式X】(@sakisiru)
ハフポスト日本版(@HuffPostJapan)
弁護士ドットコムニュース(@bengo4topics)
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テレ朝NEWS(@tv_asahi_news)
MBSニュース(@MBS_NEWS)
辺野古沖抗議船転覆事故(474件)
取得期間 2026/03/16-2026/04/28
検索キーワード : 辺野古 OR 同志社国際 OR 沈没 OR 転覆
収集した無関係なツイートを目視にて除外
知床遊覧船沈没事故(2019件)
取得期間 2022/04/22-2022/06/05
検索キーワード : 知床 OR 沈没 OR 転覆 OR カズワン OR カズ1 OR カズ1 OR カズONE OR KAZONE OR KAZONE
収集した無関係なツイートを目視にて除外
報道量比較:産経のみ突出
辺野古沖抗議船転覆事故(以下、辺野古)と知床遊覧船沈没事故(以下、知床)について、マスコミ各社のX上での言及数を比較した。グラフは知床での言及数で降順ソートしている。
各社とも、知床に比べて辺野古への関心は薄く、言及数は20~30件にとどまった。一方、産経ニュースのみ149件と突出しており、知床に対する自社の投稿件数すら上回っている。
評価語に注目する
ここまでは報道量を見てきた。次に、報道の中身、とくに「評価語」の使われ方に踏み込む。報道機関は事実を伝えるだけでなく、その事実に対する評価を言葉の選び方に滲ませる。たとえば毎日新聞の以下の投稿は、「捜査長期化が否定できない」と書けば事足りるところを、あえて「ずさん」という評価語を添えて読者に印象付けている。
本稿ではこうした評価語に焦点を当て、両事故での使われ方を比較していく。
知床遊覧船沈没事故での報道評価語調査
知床に関するツイート2,019件のうち、評価語を含む投稿は526件、全体の26%だった。
報道機関別の評価語ツイート数
毎日・朝日・時事の3社で全体の 49.6% を占める。特に毎日(96件)・朝日(88件)が突出している。
評価語カテゴリ別件数
『運営批判系』が290件で圧倒的に多い。単語レベルでは『社長』(217件)が抜きん出ており、社長個人の言動・会見・安全管理責任に焦点を当てた報道が中心だったことが分かる。『感情訴え系』『責任系』がこれに続き、被害者への共感と法的責任追及が並行して展開された。
評価語別件数(上位20)
『社長』が217件で断トツ。出航判断、会見、謝罪、その後の逃避的行動など、人物に焦点を絞った報道が多かったことを示す。『ずさん』(26件)など断定的な評価語が多用された点も特徴である。
報道機関×カテゴリ別の特徴
評価語を用いた投稿の多かった、毎日、朝日、時事について特徴を述べる。
毎日(96件)
運営批判系が58件(60.4%)と最多。「社長」関連報道・「出航」判断を批判する記事が中心。
「感情訴え系」(18件)・「断定評価系」(15件)・「要求・問い直し系」(11件)も多い。
安全管理制度の見直しを求める論調(要求・問い直し系)が他紙より多い。
朝日(88件)
運営批判系が41件(46.6%)と最多。「感情訴え系」(21件)が2位で、被害者の心情に寄り添う報道も充実。
「その他評価的表現」(13件)・「断定評価系」(14件)も多く、「なぜ」「信じられない」など感情的問いかけも多用。
「犠牲」「奪われた」「後悔」など感情訴え型の語彙使用が毎日・時事より多い。
時事(77件)
運営批判系が34件(44.2%)と最多。
責任系(25件)が2位で、「業務上過失」「家宅捜索」など法的手続きに関する報道を積極展開。
断定評価系(7件)・要求系(5件)も安定的。事実報道と批判的論調のバランスがとれている。
その他知床報道での、評価語の特徴
毎日・朝日が感情訴えと批判を並行展開:毎日・朝日は運営批判に加え、感情訴え系(遺族・犠牲者報道)を充実させ、「人道的悲劇」と「経営者責任」の両面から報道。時事は法的責任追及に特化する傾向。
「ずさん」など断定評価語の多用:「ずさん」(26件)「不備」(13件)など、事実認定に踏み込む強い評価語が広く使われた。
産経の特異性なし:知床では産経34件で5位(6.5%)。辺野古と異なり、知床では政治的争点がないため産経も他媒体と近い論調で報道している。
辺野古沖抗議船転覆事故 での報道評価語調査
辺野古に関するツイートのうち、評価語を含むものは49%を占めた。
報道機関別の評価語ツイート数
産経が単独で全評価語ツイートの 44.2% を占める。産経を除いた他媒体合計は130件(55.8%)。産経・J-CAST・SAKISIRUなど右派系・保守系メディアで全体の約半数(50.6%)に達する。
評価語カテゴリ別件数
「批判・非難系」が最多(98件)。次いで「責任系」(68件)、「運営批判系」(59件)と、運航団体(ヘリ基地反対協議会)および関係者への批判・責任追及が中心。「感情訴え系」は31件と相対的に少ない。
評価語別件数(上位20)
「抗議」が76件と断トツの最多。ただし「抗議」という語は主に抗議活動・団体を指して用いられており、批判的文脈を持つ。「犠牲」は9件と、知床の25件に比べて少ない。被害者への感情的な共感より、批判と責任追及に報道の比重が置かれている。
評価語別件数_産経除く(上位20)
辺野古は産経の報道量が突出しており、他媒体の傾向が見えにくい。そこで産経を除外して評価語の使われ方を調べた。
「抗議」が産経除外で76件→26件と3分の1以下に急減。「過失」も17件→5件と大幅減。一方「どうして」は6件のまま変化なし(産経はこの語を使っていなかった)。「憤り」の減少幅が小さい(12件→10件)のは、J-CASTや他媒体でも使われていたためである。
報道機関×カテゴリ別の特徴
産経(103件)
批判・非難系が62件(60.2%)と圧倒的多数。「抗議」「批判」「非難」「問題ある」などを用いた批判的報道が中心。
「責任系」(31件)・「運営批判系」(28件)も多く、運航団体と学校・文科省への責任追及を強く展開。
他媒体と比べて、政治的・思想的観点から抗議活動を問題視する記事が目立つ(「偏向教育」「反政府一色」「選民意識」など)。
毎日(19件)
責任系が7件(36.8%)と最多。文科省・同志社国際高校の法的・行政的責任を追及する報道が中心。
「感情訴え系」(5件)が続き、遺族取材・被害者報道にも力を入れる。
「その他評価的表現」(4件:「どうして」「なぜ」)が多く、遺族や読者の疑問を代弁する報道スタイルが特徴的。
時事(17件)
責任系(7件)と運営批判系(5件)が上位。
捜査進展・法的責任に関する事実報道が中心で、感情的・批判的表現は少ない。
「断定評価系」(3件:「不備」「不十分」)も使用し、管理体制の問題点を客観的に指摘。
朝日(11件)
「批判・非難系」(4件)と「責任系」(4件)が並立。
「不備」(断定評価系)など安全管理の問題点を事実ベースで指摘。
感情的評価語は少なく、中立的な報道トーンであった。
その他辺野古報道での、評価語の特徴
「抗議」の激減:最多評価語「抗議」が76件→26件(66%減)。産経が「抗議」という語を批判的文脈で多用していたのに対し、他媒体は「抗議活動」そのものを問題化する語として頻用していなかった。
感情訴え系の少なさ:感情訴え系は16件(12.4%)にとどまる。知床(産経込みで89件・16.9%)と比較しても少なく、辺野古事故では他媒体全体として被害者への感情的寄り添いより責任追及・制度問題に軸足を置く傾向がある。
産経以外は「淡々」、評価語の偏り
辺野古事故では、産経を除く各社で、運航主体への感情訴え系の評価語が極めて少なく、『ずさん』のような断定的な評価語もほとんど使われていない。
知床に関する各社の投稿では、運航会社や桂田社長個人の責任論・印象批評を扱う記事が目立った。一方、辺野古に関しては、産経を除けば運航主体である『ヘリ基地反対協議会』への評価語はほとんど見られず、各社とも事実を淡々と並べるにとどまっている。ここでいう評価語とは、『悪びれ』『ずさん』『茶番』のように、書き手の価値判断が言葉そのものに織り込まれているものを指す。
毎日新聞の事例が象徴的だ。知床事故では、運航会社社長の会見について次のような見出しを並べていた。
「悪気なく人を逆なで」
「茶番」「遅すぎる」 乗客知人らは憤り 知床遊覧船社長会見
では、毎日新聞は辺野古の運航団体『ヘリ基地反対協議会』の会見について、何か言及しているのだろうか。X投稿を集計した限り、目立った言及は確認できなかった。X上では『謝罪会見なのに頭も下げず腕組みのままだった』との批判が相次いでいたにもかかわらず、知床のときとは扱いが大きく異なる。
毎日新聞は知床事故では、社長が会見で締めていた赤いネクタイすら批判の対象としていた。
一方、辺野古で転覆した抗議船の運航団体『ヘリ基地反対協議会』の会見については、こうした服装への言及は確認できなかった。会見の作法という観点だけ見れば、こちらの方が問題は大きいはずである。
まとめ
本稿では、辺野古沖抗議船転覆事故と知床遊覧船沈没事故について、主要マスコミ各社のX投稿を題材に報道量と評価語の両面から比較を行った。辺野古事故をめぐっては『報道量そのものが少ない』ことが従来から問題視されてきた(例:『放送回数少ないのでは』辺野古転覆事故巡り 3月のBPOに多くの指摘寄せられる)。だが今回の調査が浮き彫りにしたのは、件数以上に断定評価語と感情訴え系の語彙が乏しいという、報道の『質』の偏りである。
同種の記事紹介
晴川雨読氏の記事も、辺野古と知床の社説を比較した記事になっております。
毎日、朝日、時事は辺野古をどう伝えたか?
ここからは有料記事だ(マガジン定期購読 月500円で読める)。
知床で評価語ツイートが多かった毎日・朝日・時事の3社は、辺野古ではどのような言葉を使い、どのような姿勢で報じたのか。ここではこの3社に絞り、両事故での評価語の使われ方を比較する。
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