■ヴァンガード誕生秘話 ― あの現場のリアル(第三回・魔法カードなんていらない?)
「中村聡……天才め!!!」
思わず僕は、鎬昂昇になってしまった。
まだ中野坂上にブシロード本社があった時期。多分、2009年下旬か、2010年初頭。
中村聡氏が作ったヴァンガードTCG、プロトタイプの初テストプレイ。
僕は唸りました。
……上手い。このゲームシステム、率直に「ヴァンガード(先導者)」を表している。
中村氏に託された、ゲームシステムの条件は大きく3つ。
1・伊藤彰氏の想定する世界観を十全に表したゲームシステムであること。
2・魔法カードのない、全てがモンスターカードで構築されたゲームであること。
3・小学生にもプレイできる簡単なゲームであること。
でした。
中村さんがプロトタイプルールのデッキを手にし、ルールを淀みなく説明します。
「まず中央に、ヴァンガードを置きます。」
この時点で、条件の「1」をクリア。伊藤氏の思い描いた物語のテーマが表現されています。単純なことに見えますが、これが実はとても大事。
ゲームデザイナー、中村氏は、その時点ですでに、数社から依頼を受け、数多くのTCGを生み出していました。
「クライアントから求められているものを作る。」
これができて初めてプロです。
「自分の作りたいように作る」だけでは、芸術家気質が拭えません。中村氏はすでにゲームクリエイターとして「職人」であり、スポンサーや原作者など、プロジェクトに関わる人々の想いを具現化する、具現化系能力者……もとい、ゲームデザイナーとして完成していました。
ヴァンガードカードを中央に置く所から始まるゲームシステムは、伊藤氏が以前に関わっていた遊戯王とは、全く異なる盤面です。
遊戯王は、何も無い盤面に、どんなモンスターが召喚されるか分からないワクワクから始まる。
ヴァンガードは、「先導者」が立ち上がる所から始まる。
これは伊藤氏の物語の軸性に沿っており、漫画家としては「新しいものが描ける」と、モチベーションが上がったのではないでしょうか。
「うむ。俺の知る中村聡ならば、そこまで考えて作ったはずだ!流石である!」(どこから目線)
(注意:池っち店長と中村氏は、この時点でディメンション・ゼロやヴァイスシュヴァルツ他、発売されなかった幻のTCGも含めて、ゲーム開発で何度か関わっています。)
そして条件の「2」。
「魔法カードのない、全てがモンスターカードで構築されたゲームであること。」
これは、木谷社長からのお題でした。
ここまでに10年、木谷社長は、全国のカードショップを観察してきました。
特に、ブロッコリー時代のディメンション・ゼロの運営時などは、土日の子供でいっぱいのカードキングダム練馬春日店を何度か訪れ、遊戯王やデュエマを楽しむ小学生達をその目で見ています。
その中で、「子供達はTCGにどのような形で接しているか?」を観察していらしたんですね。
もちろん、観察の都度、思いついたことを僕(池っち店長)やスタッフに確認、質問したりして、情報の精度を高めていらっしゃいました。
そして「ヴァンガード」の企画。
木谷社長にとっても、
「小学生以下の子供向けカードゲームの開発・販売」
は、初めての挑戦であり、正にカードゲーム事業の本丸です。
この、「全てがモンスターカード」というアイディアは、木谷社長の核心的な狙いと言えました。
僕
「遊戯王の初期のころ、子供達はマジで魔法や罠カードを使ってませんでしたねー。モンスターカードにしか興味無かったんですね。
海外の話ですが、遊戯王のカードが母国語じゃないからテキストが読めなくても、とにかくモンスターは数字の大きい方が勝つのがわかると。だから、モンスターの数字の大きさ比べだけで、何となくゲームができたそうです。
なので、“聖なるバリア -ミラーフォース-”やら“サンダーボルト”がゴミ箱に捨てられてたとかいう、笑い話がありますね。」
木谷社長「なるほど。じゃあ、子供向けカードゲームってモンスターカードだけでいいんじゃないですか?」
僕
「極論そうですね。ぶっちゃけ仮面ライダースナックのカードと一緒で、怪人のカードを集めるのが楽しかったわけですから、キャラクターではないカードは子供にとってはハズレと見做されることがあったんですよね。」
木谷社長
「じゃあ、なんでどこのメーカーもモンスターだけにしないんでしょう?」
僕
「うーん。やっぱり魔法がないと、ゲームとして面白いものを作るのが難しいからじゃないでしょうか……そもそもMTGに魔法カードがあるから、一種の固定観念なのかも。」
木谷社長
「……なら、僕が子供向けカードゲームをやる時は、モンスターだけにするかな。」
こんな話をしたのは何年前だったか……
この、「子供にとって魔法カードっていらんのでは?」という木谷社長の発想は、既存の常識にとらわれず、不要なものをバッサリ切り取る木谷社長ならではの、革新的なアイディアであったと思います。
「常識破りとは、常識を知った上で、時代に合わせて改革すること」
とは、僕がどこかの太陽番長に与えた設定ですが、僕と木谷社長はこういう所が似ていて、気があったのだとおもいます。
何にしろ、子供向けTCGをモンスターカードだけで作ろう!と決めたのは木谷社長のアイディアで、かなり天才的だったと思いますね。
さて。木谷社長のアイディアを実現すべく、「モンスターカードだけでカードゲームを作れ」と命じられた中村聡氏!
ぶっちゃけ僕は、
「うわぁ、こいつぁ、エグいぜ……中村さんよぉ、コイツはヤバいシノギですぜ?!」
とか思ってました。(再びの任侠)
だって魔法カードって、ゲームデザインの幅を広げてくれるんですよね。
「モンスターがバトルする」というカードゲームの基本に対して、ゲームに変化を与える重要な要素です。
それを無くしてTCGを作れってアンタ……理由は100パー正しくても、実際にゲームとして作る側にとっては相当な縛りですぜ。
一休さんが出題されるトンチ問題みたい。
しかし、中村氏はこれに応えました!
モンスターカードは場で戦うだけでなく、手札からの防御カードとしても機能するように作られ、魔法の代わりに手札から使えるカードとしてデザインされたのです!
「中村聡……天才め!!!」
再び僕は、鎬昂昇になってしまいました。(しつこい)
さて、次は条件「3」ですが……
中村さん
「……こうしてユニットを並べて、後列から任意の前列のユニットに対して、攻撃力をプラスすることができます。
これをブーストと言います。」
んん……?!
僕
「中村さん……すみませんが僕、このゲームできません。」
中村さん
「な ん で す っ て ? !」
なにが、起こったのか?!
さあ、中村さんと僕の会話を二度見しよう!賢明な読者ならお気づきになるかも?!?!
次回!第四回!「天才VSアホ」に続く!
……と言いたい所ですが、その前に!
次は、第3.5話を外伝として公開します。
それは、ヴァンガードで僕と中村さん、木谷社長が組む遥か以前の話……
初めての共同作業、「ディメンション・ゼロ」の話を、避けて通れないからです!
という訳で次回は、
■今だから語れるディメンション・ゼロの真実!
「囲碁や将棋より麻雀が流行る理由」
(ヴァンガード誕生秘話 ― あの現場のリアル・外伝・3.5話)
です。大丈夫!知らないカードゲームの話でも面白いから!
注釈1
「モンスターカードだけ」は、実際には初期カードダスのSDガンダムシリーズなどもそうでしたが、MTG以降のTCGという概念が生まれてからは、魔法カードがあるのが一般的でした。)
注釈2
捨てられていたカードの話ですが、「海外の話ですが」と書いている通り、さすがに日本では魔法カードだからって捨てられてるのは見たことはないです。
要は文字が母国語と違って読めなかった国での特殊事例でしょう。(英語版遊戯王は英語圏ではない国でも流通していたようです。)そりゃモンスターの数字しか解らないで遊んでいたら、魔法もトラップも使えないでしょうけど、もったいない話ですね。


魔法カード「オーダーカード」が、今は来ちゃいました…。 名前が違おうがターン1というとんでもない重いリスク背負いますが。
ブシロードの移転前の場所は東中野です。 現在の本社の場所が中野坂上です。
> 後列から任意の前列のユニットに対して、攻撃力をプラスすることができます これが製品版と違うところにヒントがありそう(製品版は自分の前にいるユニットしかブーストできない)