「在庫」と「成約数」で東京都の中古マンション市場を読む|DailyProp#77
何かと騒がしい昨今の東京マンション事情。先行きを読むための評価軸は何が良いか考えてみたわ。
中古マンション市場動向は、成約件数だけではなく在庫件数を見るべき。
在庫増は価格にとって弱いシグナルになりやすい。
直近の東京市場は、2025年の強い需給から、2026年初に警戒すべき在庫増・成約減の局面へ移った可能性がある。
はじめに
中古マンションの市場を見る時によく注目されるのが成約件数だ。成約件数が増えれば市場が強い。成約件数が減れば市場は弱い。そういった分類もあるようだが、成約件数と共に在庫件数も考える必要があるのではないか。
例えば、成約件数が減って在庫が増えている場合と、成約件数が増えて在庫が減っている場合では市場の状態は違うと考えた方が良いように見える。成約件数が減って在庫が増えているなら、買い手が弱く売れ残りが増えている状態の可能性が高い。成約件数が減って在庫が減っているなら、売り物が枯れて需給が締まっている可能性もある。
そこで今回は東京都の中古マンション市場について、在庫件数、成約件数、成約平方メートル単価の関係を調べた。対象は大きく二つの時期に分けた。
2006年〜2012年
2019年〜2026年
価格については、成約平方メートル単価について、各時点から見た「12か月後の変化率」を使った。
在庫と価格変化の関係
最初に、横軸を「在庫件数前年比」、縦軸を「12か月後の価格変化率」とした。在庫が増えるほど、その後の価格は弱くなりやすい。
散布図を見ると、在庫件数前年比がマイナス、つまり在庫が前年より減っている局面では、12か月後の価格変化率はプラスに出やすい。一方で、在庫件数前年比が大きくプラス、在庫が大きく増えている局面では、12か月後の価格変化率はマイナスになりやすい。
特に2006年〜2012年のデータでは、この傾向が強く出ている。在庫が前年比で大きく増えた局面では、その後の価格変化率がマイナスになっていることが多い。
一方で2019年から2026年は全体として上昇基調が強く、12か月後の価格変化率がマイナスになる局面は限られていたが右下がりの緩やかな関係は見て取れる。
成約件数と価格変化の関係
次に、横軸を「成約件数前年比」、縦軸を「12か月後の価格変化率」とした。こちらは、在庫ほど明確な関係が出ていない。成約件数が増えているからといって、その後の価格が大きく上がるとは限らない。逆に、成約件数が減っていても、その後の価格が上がっている点もある。成約件数は、将来価格を読む指標としては、在庫ほど強くない。
在庫と成約で4つのレジームに分ける
ここで、在庫件数前年比と成約件数前年比のプラスとマイナスを組み合わせて、市場の状態を4つに分けた。この分類で、12か月後の価格変化率の平均を見る。
在庫増・成約増
在庫増・成約減
在庫減・成約増
在庫減・成約減
大きく見ると、どちらの時期でも、在庫減の局面のほうが、その後の価格変化率は高い。
特に注目したいのは、成約件数が減っている局面だ。成約件数が減っていても、在庫増と在庫減では、その後の価格変化率が違う。ただし、2006年〜2012年と2019〜2026年ではマクロ環境が大きく異なるため、同じレジームでも価格への効き方は単純には比較できない。
2006年〜2012年の東京中古マンション市場
2006年〜2012年は2008年までの不動産バブルとリーマンショックによる崩壊が含まれているので不動産市況の一サイクルを観察するにはちょうど良い期間であろう。
このグラフは、2006年〜2012年の成約平方メートル単価の推移を、在庫件数前年比で色分けしたものだ。価格は2006年から2008年初めにかけて大きく上昇している。この時期は、在庫減の青だけでなく、在庫増の赤も混じっている。ただし、2008年以降の動きは違う。2008年から2009年にかけて価格は大きく下落する。この局面では、在庫増を示す赤が多く出ている。在庫が積み上がる局面では、価格への下押し圧力が出やすい。一方、2009年以降、価格が底打ちして再び持ち直す局面では、青、つまり在庫減の期間が目立つ。在庫が減っている局面では、成約が必ずしも強くなくても、価格は支えられやすい。
直近の東京都中古マンション市場
直近1年を見ると、2025年中は非常に強い需給だった。在庫件数前年比はおおむねマイナスで、成約件数前年比は大幅なプラスが続いた。在庫が減りながら成約が増える「在庫減・成約増」の局面が中心だった。
しかし、2026年に入ると様子が変わる。1月から3月にかけて、在庫件数前年比はプラスに転じ、成約件数前年比はマイナスに落ち込んでいる。これは「在庫増・成約減」の局面である。過去の分析では、この局面はその後の価格にとって弱いシグナルになりやすい。直近の市場は、2025年の強い需給から、2026年初にやや警戒すべき局面へ移った可能性がある
まとめ
今回の分析で見えてきたのは、東京都の中古マンション価格を見るうえでは、成約件数だけでは不十分で、在庫件数との組み合わせを見る必要があるということだ。
今回のデータでは、在庫件数前年比と12か月後の価格変化率には、比較的はっきりした関係が見られた。在庫が減っている局面では、その後の価格変化率はプラスになりやすく、在庫が大きく増えている局面では、その後の価格は弱くなりやすい。一方、成約件数前年比と12か月後の価格変化率の関係は、在庫ほど明確ではなかった。
見るべきなのは「成約が増えたか減ったか」だけではない。在庫が増えている成約減なのか、在庫が減っている成約減なのかを分けて考える必要がある。
直近では、2025年中は在庫減・成約増が中心で、需給はかなり強かった。しかし2026年に入ると在庫増・成約減に変わり、過去の分析では価格にとって弱いシグナルになりえる局面である。
もちろん、直近3か月だけで価格下落を断定することはできない。少なくとも、2025年までの強い需給から、2026年初にやや警戒すべき局面へ移った可能性がある。今後見るべきポイントは在庫増・成約減が一時的なものなのか、それとも数か月続くのかだといえる。
中古マンション市場を見る時は、成約件数だけで判断しない。在庫と成約を組み合わせて、今の市場がどのレジームにいるのかを見る。そのほうが、価格の先行きを読みやすいのではないか。
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