■ヴァンガード誕生秘話 ― あの現場のリアル(第二回・ヴァンガード、ボツになる)
皆さん……
“ヴァンガード”って、別のタイトルが考えられないほど、“ヴァンガード”ってタイトルで本当に良かったと思いませんか?
「先導者」という意味であり、それまで受動的だった主人公が自らの意思で人生を切り拓いていく成長物語を、的確に表す言葉です。
同時に、ゲームのルールの基本。中心にヴァンガードカードを置き、ヴァンガードのドライブによってゲームが動く。
ヴァンガードは、ただの言葉ではなく、意味を持つ重要なタイトルです。
ですがこのタイトル、一度ボツになりかけたんですよ……!
ある時僕が、意見を言わなかったら、違うタイトルになっていた可能性がある。
作り話でも冗談でもなく、事実です。
という訳でこんにちは。池っち店長です。
僕が「カードファイト!! ヴァンガード」の企画に深く関わらせて頂いた時期の話を、ノンフィクション記事としてお送りする第二回。
第一回記事では、
「カードゲームアニメで新しいカードゲームIPを立ち上げるぞ!うぉおおお!」
となり、中心人物が集まったところで終わっていました。
第二回となる今回も、実際にヴァンガードが生み出される過程で、どのような出来事があったのかを語りましょう。
創造の中で起こる意見の相違や修正、変更、改善、完成の物語をお送りしたいと思います。
■ヴァンガード、ボツになる。
「タイトルは、“ヴァンガード”にしたいと考えています。」
第一回目の会議で伊藤彰氏が提案した瞬間を、僕は写真のように鮮明に覚えています。
この時の伊藤氏の態度は、原作者としては控えめなものでした。
なぜなら当時の伊藤氏は、遊戯王Rを完結させた実績があるとは言え、「オリジナル作品を数多く生み出した、実績豊富な原作者」という立場ではなく、特別に強いものでは無かったのです。
しかし逆に、ブシロード側から頭を下げて伊藤氏に原作をお願いした関係でもあり、双方共に気を遣う間柄のような、
「付き合い始めの、お互いに距離感を掴めてないカップル」
みたいな緊張感がありましたね。
こういう時、空気を読んだうえで、あえて破壊して話を動かすのが僕の役割です。
このタイトルに関しては、
「MTGに同名のゲームシステムがあるから如何なものか。」
「他社を刺激する可能性がある言葉は使いにくいですね。」
という意見で……
「では、“ヴァンガード”はボツで。伊藤先生、他のタイトル候補はありませんか?」
となってしまったのです!
マジで。
伊藤氏は、「他のタイトルは、ありません……」と呟いて静かになってしまいました。
僕は感じました。伊藤氏は、このタイトルに大きな思い入れがあったんだな、と。反対されたときの次善の案も考えられないほど、大事だったんだと。
しかし「他のTCGにある言葉だから」と反対された。
伊藤氏にとっては、それがどれぐらいのリスクなのか判断しにくい。だから強く押すことも出来ない。
かと言って、タイトルなんて大事なものを、他の会議参加者が勝手に提案できるはずもありません。
せいぜいそれが可能なのはトップの木谷社長ぐらいでしょうが、社長もそこには踏み込みませんでした。
一同は伊藤氏に、
「では、時間がかかっても良いので伊藤先生が代案を考えて下さい。」
と告げました。
それを聞いた伊藤先生の横顔を見て、僕は確信しました。
ああ、やっぱり、ヴァンガードは、ヴァンガードじゃないとダメなんだ。と。
僕も後年、アニメとゲームの原作者になるわけですが、思えばその時から「物語を作る原作者としてのシンパシー」があったのかも知れません。
『“ヴァンガード”という言葉には意味がある。物語の核に違いない。
このタイトルに込めたテーマがあって、このタイトルだからこそ語れるストーリーがある。
きっと主人公が自らの先導者を見つけ、やがて自ら先導者になっていく物語なんだ……』
嘘みたいですが――僕は一瞬でそこまで想像しました。それだけ“ヴァンガード”という言葉には、強い説得力を感じたんです。
伊藤氏の“イメージ”、良いじゃないか。
これは守らなければならない。
そこで僕は、
「ヴァンガードというタイトルは、一旦ボツで」
と決まってしまった、その場の空気を破壊することにしました。
僕
「ヴァンガード、良いじゃないですか。言いやすいし濁点の付いている文字も3つもある。子供は好きですよこの言葉。
それに伊藤先生にはきっと、このタイトルにイデオロギーとかテーマがあるんです。この言葉から逆算して物語がすでに作られてるんだと思います。
MTGで使われている言葉ではありますが、限定ルールの言葉ですし、一般的な単語ですから問題ない範囲だと思います。
僕は“ヴァンガード”に賛成です!」
この意見が通りました!
「カードショップで子供達と触れ合い続けている、子供とTCGの専門家である池っち店長の、『子供は好きですよ』という言葉には説得力があり、無視できない。」
と考えられたのは、少しあったと思います。
それをきっかけに、伊藤氏が、このタイトルに全てを掛けている様子が改めて顧みられたのかもしれません。
最初に懸念を示した方も、
「そういうことでしたら、ヴァンガードで良いと思います。」
とすぐに納得されていました。
ほんの3、4分の攻防でしたが、ここで未来が決定したような気がして、17年経った今もずっと覚えています。
さて。
この会議でタイトルが決定しました。
作品の中には、「タイトルが決まった所から動き出す」というタイプのものがあります。
ヴァンガードは正にそれでした。
「先導者」という言葉から、伊藤氏によって、その意味に相応しい物語が語られます。
強いリーダーと、それを目指す少年の物語。
これは恐らく、ブシロードという組織を率いる強力なリーダー、木谷社長にとっても、どこか共鳴する言葉だったのかもしれません。
木谷社長の一番の仕事は、
「今生まれたヴァンガードというIPを、どういう形で売っていくか?!」
です。
自身がヴァンガード(先導者)となって、このIPをどう導くか。
木谷社長は一貫して、そういった視点でこの企画の誕生を見守っていたのだと思います。
そしてこの時から、おそらくすでに、カードゲームデザイナー中村聡氏の頭の中にも……
「先導者」を核とするゲームデザインが生まれつつあったのかも知れない。
「中央に、ヴァンガードを置く所から始まるゲームシステム。」
――すべては、ここから始まる。
次回は、ヴァンガードのゲームシステムがどのように生まれたか、その辺りのエピソードについて語ります!
次回第3回、「ゴミ箱に叩き込まれる魔法カード!!」に続きます!
※本記事は当時の記憶に基づいており、表現には一部演出が含まれます。


ご意見、質問等頂ければ、シリーズの最終話に纏めてお答えしたいと思います。コメントよろしくお願い致します。