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カスハラ防止 介護現場取り組み…職員守りケアの質高める
介護職員が利用者や家族から暴言を浴びせられるといった、カスタマーハラスメント(カスハラ)を受ける例が後を絶ちません。今年10月からは、介護施設を含め、すべての業種の事業所でカスハラ対策を講じることが義務化されます。安心して働ける環境をどう整えていけばよいのでしょうか。(編集委員 大津和夫)
判断の目安作り
カスハラ対策について職員らと話し合うメグラスの飛田さん(右)(3月6日、名古屋市の介護施設「めぐらす瑞穂公園」で)
名古屋市の有料老人ホーム「めぐらす葵」で介護福祉士の大野愛理さん(31)は数年前、トイレ介助の際、利用者に蹴られて腕や脚にあざができた。上司に報告すると、会社側が再発防止に向けて対応してくれた。
同ホームをはじめ愛知県内9か所で介護施設を運営する「メグラス」(名古屋市)は2021年、ハラスメントに当たるかどうかの判断の目安を作り、被害を報告しやすくしている。
大野さんは「以前なら、自分のケアの仕方が悪いのかと思い、我慢していたが、今は抱え込むことはない」と話す。
介護職員は利用者から声を荒らげられたり、たたかれたりすることがある。不自由な体というストレスや認知症が原因のこともあり、ハラスメントなのか、線引きが難しく、声を上げにくい。
メグラスでは、厚生労働省のマニュアルや社員の体験談を基に、暴言や性的な嫌がらせなどの頻度や程度に応じて、ハラスメントに当たる可能性の高い順に「赤」「黄」「青」に分類。バカといった暴言が週4回以上あり、業務に支障が出る場合は「赤」、週3回程度で支障がない場合は「黄」、それ以外は「青」とした。
報告を受けると、社内の担当チームが当事者に話を聞くなどして状況を把握し、分類を判断。認知症や精神疾患が影響している場合、医師に相談して薬を見直すなど医療面でのケアを行う。担当職員を代え、様子を見ることもある。
「赤」のケースで、改善に向けて家族に協力を求めても状況が変わらない場合、契約書に基づき解約する。これまでに12人が退去した。一方、被害を受けた職員には産業カウンセラーが面談し、心のケアに当たる。従業員に占める休職者の割合は制度導入時に10%だったが、今は1%以下に減った。
医師で代表取締役の飛田拓哉さん(49)は「利用者の病状に配慮しつつ、組織として職員を守る姿勢が離職を防ぎ、質の高いケアにつながる」と話す。
対策、10月から義務
カスハラは、様々な業種で起きている。被害者は働く意欲を失い、休職や退職をすることもある。そこで、国は今年10月、改正労働施策総合推進法に基づき、すべての事業者にカスハラ対策を講じるよう義務付ける。相談体制を整える、発生時の対処の仕方を従業員に周知する――などだ。介護施設に対しては、職員研修や弁護士相談にかかる費用への補助制度を周知し、取り組みを促す。
厚労省の20年度の委託調査では、9割近くの介護施設が対策に取り組んでいた。ただ、中身は「被害を受けた職員への面談」(60%)が最多で、「行為を行った当事者への対応策を検討する」は36%、「発生後の報告ルールを全職員に周知」「弁護士の助言を受けられる」は各2割台にとどまり、実効性に乏しい。首都圏のある介護職員は「事を荒立てて、利用者との関係や施設への評判を悪くしたくない」と明かす。
事業者には本来、職員が安全に働けるよう配慮する法的な義務がある。一方、利用者側から、契約の解除が不当だと訴えられるリスクも抱える。介護現場のトラブルに詳しい外岡潤弁護士は「従来の表面上の対策では、乗り切るのは難しい」として対策強化を求める。
ただ、施設の利用を解約されると家族は介護の負担に悩むことになる。公益社団法人「認知症の人と家族の会」(京都)の和田誠代表理事は「取り組みの結果、家族が困ることのないよう専門職として丁寧に対応してほしい」と話す。
関西医科大の三木明子教授(精神保健看護学)によると、例えば、利用者が怒って興奮している時は、職員が視界から外れると穏やかになるという。「こうした手立てを学ぶ機会を増やすなど、事業所は職員、利用者双方を守る具体策を練る必要がある」と指摘する。
「過去2年以内に被害」27%
労働組合「日本介護クラフトユニオン」(東京)が2024年に行った調査で、正社員として働く組合員の27%が、過去2年以内に利用者や家族からハラスメントを受けたと回答した。「正座をさせられた」「胸元をつかまれた」といった内容で、被害者の4割が離職を考えていた。
介護人材が不足する中、ハラスメントを放置すれば、人手不足に拍車がかかりかねない。村上久美子副会長は「被害にあっても相談できない職員は多い。事業者は職員が相談しやすい職場風土作りにも力を注いでほしい」と話した。
(2026年4月18日付の読売新聞朝刊に掲載された記事です)
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