マレーシア沖に違法な洋上給油所、「影の船団」によるイラン産原油の取引・貯蔵拠点
「貨物ロンダリング・ビジネス」の仕組み
合法的な長距離貨物輸送でも、寄港せずに効率を上げる手法として、船舶間積み替えがよく用いられる。
大型の原油タンカーは喫水が深すぎて一般的な港湾に入れないため、小さい船に積み荷を移すことが多い。だがこの手法は安全面、環境面のリスクを伴うことから規制が厳しく、徹底した書類作成と届け出が義務付けられている。
一方、影の船団は積載された原油の産地を隠す目的で、夜間にAISを切ったり信号を偽装したりして、ひそかに積み荷を載せ替える。
ケプラーの原油市場アナリスト、イン・コン・ロー氏によると、中国はイランからの原油輸入を公表せず、マレーシア産と偽装することが多い。
UANIの上級顧問、チャーリー・ブラウン氏によれば、イランの原油をアジアへ運ぶ船はほとんどが米国の制裁リストに載っている。一方、そこから中国まで運ぶ船の大半はまだ制裁対象になっていない。
影の船団が書類を偽造し、偽の旗(船籍)を掲げたり、船籍をたびたび変更したりすることも珍しくない。
ワシントン研究所のナディミ氏は、乗組員が船体にペンキで新たな国旗を描くケースもあると述べ、「これは貨物ロンダリング・ビジネスだ」と断じた。
EOPLでの違法行為は海運業界で公然の秘密とされてきた。ブラウン氏の推計によると、この海域で貨物を積み替える船の95%が、イラン産かロシア産の原油を中国に運ぶ密輸船だという。
中国に近い戦略備蓄拠点の役割も
米軍の攻撃が行われる前のカーグ島=3月11日/Airbus
ナディミ氏によると、EOPLはイランにとって、ペルシャ湾の航行停止に備えて原油を貯蔵する拠点の役割も果たしてきた。
「ホルムズ海峡で戦闘が起きるリスクを念頭に、できるだけ多くの原油を買い手の近くまで運んでおきたいというのがイランの考えだ」と、同氏は語る。
ケプラーによれば、イランが2月時点で海上に備蓄していた原油は過去最大量の1億9100万バレルに上り、その大半を東アジアが占めた。
UANIによると、イランではEOPLでの備蓄が功を奏し、米国とイスラエルの攻撃が続いた3月も日量平均110万バレルの対中輸出を維持した。通常の輸出量に比べれば減少したものの、イラン政権にとっては原油価格の高騰がその埋め合わせとなった。
米軍に拿捕されたティファニも、EOPLで積み荷を載せ替える予定だったとみられる。
マリントラフィックによると、ティファニは拿捕されるまでの1カ月間、ホルムズ海峡やペルシャ湾付近を航行していた。AISは切ってあったが、CNNが入手した今月6日の衛星画像には、カーグ島に停泊する同タンカーが写っていた。
AISの信号は10日、オマーン湾を南東へ進んでいる時に復活した。マリントラフィックのデータは、同タンカーがシンガポールへ向かっていることを示した。
ティファニはスリランカを通過した後、21日に突然、方向を90度変えて南へ向かい、さらに90度曲がって東向きに戻った。その直後に米軍が拿捕を発表した。
同タンカーはその後も同じ海域にとどまっている。