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メジロアルダンとトレーナーが恋人になる話/Novel by 照り焼き

メジロアルダンとトレーナーが恋人になる話

7,907 character(s)15 mins

トレーナー視点。
アルダンとトレーナーの甘ったるいお話。苦しい環境を努力で乗り越えた女の子には、思いっきり甘えてほしいマン。

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 トゥインクル・シリーズを無事駆け抜け、URAファイナルズでは惜しくも最優秀賞は取れなかったものの人々の記憶にその軌跡をしかと刻みつけた。デビュー前はレースに耐えられるものではないと止められ、誰もがすぐに壊れてしまうと思ったそのガラスの足は、怪我で苦しむ人々の心に決して忘れることの出来ない光を運んだ。

 暫くはメディア対応やメジロ家主催のパーティーへと忙しない日々を過ごしたが、それもようやく落ち着き始め学園での生活が戻って来ていた。

「お疲れ様。今日はこのくらいにしとこうか。体調は大丈夫そうかな」
「はい。ありがとうございます。体も問題ありません」

 自分からタオルとドリンクを受け取り汗を拭う。暫くはレースへの出走予定がない為、体調を考慮して軽めのトレーニングに抑えている。とはいえまだ2月、彼女の体からは湯気が昇っている。

「そういえばこの前デビューした子の中に病院通いだった子がいるみたいでね、その子のトレーナーから相談受けてるんだよ」

 手元のタブレットにその子の情報を映す。

「あら、ふふっ、流石ですねトレーナーさん。」

 横から覗き込むように側に寄ってくる。肩と肩が触れ甘い香りが鼻をくすぐる。前かがみで少し垂れた髪を耳にかけ、その頬を汗が伝う。その仕草は今まで何度も見てきているが、やはり慣れない。

「彼らを見てるとデビューした頃を思い出すね」
「ええ、ですが少し危うくも見えますね」
「大丈夫だよ、彼女にもトレーナーがいる。彼が何とかするさ」
「ふふっ、そうですね……彼女には彼女のトレーナーさんがいますからね。私にも支えてくださる殿方がいらっしゃいますし♡」
「……こら、外ではやめてくれ。ほら後輩の子達も見てるでしょ?」
「あら、もう周囲の目は気になされていないものかと。あれだけメディアにも一緒に出でいましたのに」

 すっと自分の腕に絡みつき誘うように微笑む。この目だ、この目は非常によろしくない。この蠱惑的な瞳に見つめられると理性が飛びそうになる。更に彼女は今走ったあとだ。甘く湿った香りと腕に当たる柔らかな感触で更に脳内が一色で染まる。いや耐えろ、耐えるんだ。せめてトレーナー室まで耐えよう。うんそこから先は一旦置いておこう。

「理事長からも一言言われてるんだ。何にせよ学生とトレーナーがひっついてるのは世間体がよろしくな」ギュッ

 腕に当たるっているものがより密着し汗ばんだ香りがより濃く鼻に届く。

「ア、アルダンっ?!」
「この前の雑誌の特集でどんなタイトルが付いていたか覚えていますか?」
「……覚えてな」ギュッ「覚えてますはい」

 以前受けた雑誌の特集では、担当とトレーナーの出会いから契約、デビューへとどのように進んでいったかを詳しく聞かれた。活躍したウマ娘のストーリーは書籍化やドラマ化されたり、歴史に残るレベルのものは映画化されたりなんかもする。それくらい人気なものなのだ。
 問題なのは、その取材でアルダンが自分たちの物語をありのまま全て話してしまったのだ。ウッキウキで。取材中に何度も記者の方から黄色い声が上がっていた。確かに自分が言ったこととはいえ、それを晒されるのは非常に恥ずかしい。そしてそれは無事に記事として世に放たれた。楽しそうに話すアルダンと耳を赤くし頭を抱える自分の写真付きで。そしてその記事のタイトルが『偕老同穴の契』である。流石にメジロ家からもツッコミが入った。『まだ』であるとの文字も入れて。
 このこともあり、理事長からは落ち着くまでは学園内での過度な接触は控えるように言われている。同感だ。絶対真似する娘が出てくし教育にも悪い。現に先程桜色のウマ娘にそのトレーナーが連れて行かれるのが見えた。なんかリード持ってたな。気にしないでおこう。

「契りを結んだ2人が寄り添うのに問題があるんですか?」
「『まだ』って訂正が入ったでしょ」
「ではいつかは、期待してもよろしいのですか?」

 こてんと首を傾け誂うようにこちらを見上げる。こちらも観念して手を挙げる。

「……その時にちゃんと格好つけさせてくれ」
「───。では、楽しみにしていますね♡」

 そう言うと彼女は腕を離し、尻尾を揺らしながらトレーニングの片付けを始める。腕にはまだ湿った香りと柔らかな温かさが染み付いている。なんとか耐えた、耐えたが…いつまで保つやら…。俺も当然だが彼女のことが好きだ。だが、彼女はまだ学生でありメディアへの露出もある。表立ってそういうことは避けた方がいいし、何より……こちらに準備もさせて欲しい。

「まあ……アルダンが楽しいそうならいいか……」
「?…何か仰っしゃりましたか?」
「いや、何でもないよ」

 小さく呟いたがウマ娘の耳なら聞こえているだろう。どうやら聞いていないことにしたようだ。尻尾が少し揺れている。
 俺はアルダンのトレーナーであり、彼女を支え永遠を刻むと誓ったのだ。多少の問題など些事だろう。最後の一線だけは守ればいい。メジロ家から話が来ていることだし、そろそろ正式にことを進めたほうがお互いのためにもいいだろう。帰ったらばあやさんに連絡を取ろう。ご両親にはまた泣かれるかもしれないな……。
 
 コース外周ではまだトレーニングに勤しむ娘達の姿が見える。寒空の下日が傾いてきているが、コースは熱気に包まれている。春のG1はすぐそこまで迫ってきている。2人で片付けを終えトレーナー室へと向かうためコースを出る。空は少し淡い雲が広がっており空と雲の輪郭をぼやかす。まだ冷たい風も火照った体には心地よい。なんとかこの頭も冷やしてほしいものだ。

〜〜〜

 鍵を開け彼女を先に通す。器具は彼女が持っているため、というのもあるがまあこれは癖に近い。トレーニング器具を運ぶ時、必ず彼女は自分で運ぶと譲らない。
「どうぞ」
「ありがとうございます♪失礼しますね」
 これまた少し楽しそうに微笑む。恐らくトレーニング後の小さな楽しみなのだろう。まあこれも理事長から控えるように言われているのだが、エスコートをするなというのは無理だろう。だってこんなにいい顔で笑うんだぞ?無理だってやらないのは。
 
 最近はそういったお嬢様と執事然とした振る舞いを真似する娘達も増えてきている。この前パーマーがそのトレーナーにエスコートされてドギマギしていたのを思い出す。あそこのトレーナーも大概格好つけたがりだからなぁ。トレーナーとヘリオスとに挟まれて、ギャルとお嬢様を行ったり来たりで目を回していた。

「その辺に置いといていいから先にシャワー浴びておいで。そしたらミーティングしようか」
「はい。ありがとうございます。では失礼しますね」

 トレーナー室にはシャワールームが設置されている。もちろん学園には寮にもトレーニング場横にもシャワー設備が備え付けられており、基本的にはそこで皆泥や汗を落とすようにしている。え?トレーナー室にもある理由?……トレーナーが業務に集中出来るように…かな…。実際寝泊まりセットも配備済みだ。何度もお世話になったからな…。この仕事は基本ブラックなのだ。致し方ない。
 シャワールームがトレーナー室にあるのをいいことに、最近アルダンは基本ここでシャワーを浴びる。以前共有のシャワールームは使わないのか?と尋ねたら、何やら意味ありげな表情でじっとこちらを見つめられてこちらから引き下がってしまった。シャワーを浴びたあとわざと髪を少し濡らして出てくることとは関係ないだろう、うんそうに違いない。

 彼女がシャワーを浴びている間に片付けを終わらせ、ソファーに腰掛け手元に資料を用意する。トレーニングやレースの計画、あとはメディアからの依頼などなど、やることは尽きない。暫く書類と格闘していると、後ろから空色の湿った髪が柔らかな香りと共に頭の上から降りかかる。

「アルダン?風邪引くよ?」
「髪を乾かしていただこうかと♡」

 今日はずいぶんと甘えたさんだ。何か機嫌が良くなることでもあっただろうか…。

「……ここにおいで」
「はい♡」

 鏡台の前に椅子を引っ張ってきて彼女を座らせドライヤーを持ってくる。椅子に座りながら彼女は彼女で尻尾の手入れを始める。ドライヤーのスイッチを入れると、空色の髪がふわふわと風になびく。それと同時に広がる香りにふとあることに気づく。

「シャンプー新しいのに変えた?」
「はい♪この前遠出した際にトレーナーさんに選んでいただいたものに。香りもよくオーガニックですから髪にも良いみたいですよ」
「いいね。好きな匂いだ」
「────♡」

 自分で選んだ香りを好きな女性が付けているというのは、ある種の独占欲というか、1人の女性を自分色に染めているようで少し興奮してしまう。そしてその香りの間に覗く彼女特有の甘い匂いが更に神経を刺激する。一日の終わりに近づいているのもあり、トレーニングの時からずっとこの香りにさらされているのもあり、少し頭が鈍く回らなくなってきている。そういえば、いい匂いに感じる相手は遺伝子の相性がいいとかどっかで聞いたな……。
 ぼんやりとした頭でも慣れた手つきで風を送っていく。彼女の髪を乾かすのもこれが初めてではなく、今までにも何度かあった。初めは髪に触るのもガチガチに緊張してアルダンに笑われたものだ。女性の髪を触るのなんて彼女が初めてだったのだから仕方ない。それを言うとまた嬉しそうに彼女は笑うのだ。はぁ……アルダンに振り回されているのを理解しつつも、それを嬉しくも感じてしまう。全く……ここまでベタ惚れするとは……。

「ふ~ん♪ふん♪」
「何かいいことでもあった?」

 思わず気になって声をかける。最近は特別大きなこともなく、穏やかな日常が続いている。しいて言うなら最近自分へのアプローチが激しいくらいか……。

「……こういった何気ない日常をトレーナーさんと一緒にいられるのが嬉しくて。以前は病院通いでしたし、やりたいことをやるどころか使命を果たすことしか頭にありませんでしたから。」

 実際メジロ家の主治医からはもう体に以前のような弱さは見られないと言われており、レース生活を通して彼女の体は強くたくましくなったいた。このことを知ったアルダンのご両親から感謝を伝える手紙が届いていた。豪華な菓子折り付きで。それもとんでもない枚数で。

「アルダンが頑張ったからだよ」
「トレーナーさんがいてくれたからですよ」

 お互い目を合わせずに笑う。もはやこのやり取りも何度目だろうか。新人の自分でもここまで結果を残せたのは、彼女の意志の強さゆえだ。他の誰であってもここまでの結果を出せたとは思えない。自分だって彼女に感謝しきれない。

「はい、終わったよ」

 ドライヤーを止め片付ける。鏡台の横に仕舞おうと前に出ると、背中から彼女の手が伸びてくる。その両手はそのまま自分の腰にまとわりつき、背中にぬくもりと柔らかい感触が広がる。

「えっ?アルダン?」
「私もそうですが、トレーナーさんも真面目過ぎると思うんです。」

 腰に回した手に少し力が入っている。そのせいでより背中に当たっているのもが密着する。う~ん……これはよろしくない……。一旦落ち着くために、手元のドライヤーをそのまましまう。そして、彼女を剥がすために振り向きながら声をかける。

「真面目でもいいんじゃないかな。面白みがないと言われてしまえばその通りだけど」
「そんなことはありません!」

 振り返った瞬間を逃がさずに今度は正面から抱き着かれる。さっき背中に当たっていたものが今度は前から力強く押し付けられる。何やら自分が面白みがないと言ったことに憤慨しており、色々と目下で熱弁しているが全く頭に入ってこない。自分も背はある方だが、彼女の頭が丁度鼻先をくすぐり五感の全てを彼女に支配される。練習後から彼女の熱にあてられており、多少の疲れで頭も鈍くなっている。普段ストッパーとなっている理性は、既にタイムカードを押して退勤済みだ。そんな状況で我慢というものが効くわけもなく。

 いやこれは無理だよ……。

 その瞬間声に力が入っていたアルダンの動きが止まり、目をぱちぱちさせている。そしてゆっくりとこちらの顔を覗き込んでくる。少し頬を赤くして、目を潤ませて。

「……。」
「……。」

 気まずい時間が流れる。思わず頭を抱えた状態で動きが止まる。しかし……、まあ耐えられるわけないよなぁ……。相手は学生とはいえ、好いた女性にここまで熱烈に密着されれば正常な男性ならばそうなってしまう。しかも連続攻撃だ。耐えれらえるわけがない。

 しかし、彼女は離れることなくむしろ嬉しそうに微笑み、先ほどとは変わって優しく自分の胸に頭を預けている。

「あの……、アルダンさん……?」
「トレーナーさんからはそういった目で見られたことがありませんでしたから、てっきり趣味ではないのかと……」
「そんなことはない!」

 思わず彼女の肩を掴み、正面から相対する。改めて顔を見合わせるが、ふと自分の状況を冷静に理解してしまい猛烈な羞恥心に駆られ、ため息とともにその場にしゃがみ込み頭を抱える。合わせて同じようにそばにアルダンがしゃがみ込む。

「でも、嬉しかったですよ?ちゃんとそういう目でも見てもらえているとわかりましたから」
「いや教育者としてはアウトだよ……」
「パートナーとして、でしたら何の問題もありませんよ?」
「……。」
「……♡。」

 彼女はそう言っていたずらっぽく微笑む。自分は一生アルダンには敵わない気がする。いや、もはや敵わなくてもいいとさえ思えてしまう。ここまで人から愛されることもそうそう無いだろう。そんな風に考えているうちに、大きくなっていたものも落ち着いていたことに気づく。少しだけ頭の中を整理して、ふっと息を吐いてゆっくりと立ち上がる。準備していたことを進めるために動き出す。鏡台前を片付けてテーブルに戻る。自分の机から淡いグリーンの柄があしらった封筒を取り出し、ソファに腰掛ける。次いでアルダンも付いてきて隣に腰を下ろす。

「その封筒は?」

 アルダンが気になって覗き込む。それはそうだろう。何せこれはメジロ家が公式の文書を送るときに使用する封筒だ。それが自分のトレーナーが持っているのだから気になるのは当然だろう。少し背を正して、軽く咳払いしてから口を開く。一旦さっきの情けない姿は置いておいて。

「おばあ様から直々にお話が来ていてね。自分がアルダンのトレーナーとして出した結果、最近のアルダンとの関係も考慮して、一度アルダンと相談してほしいと言われてね。」

 封筒から書類を取り出し、アルダンの手元に広げる。それを見たアルダンが口に手をあて、書類と自分の顔をと行ったり来たりさせている。また目を潤ませて、今度は耳も忙しなく動かして。

 広げた書類は、メジロ家の専属トレーナーとしての契約書だ。レースには耐えられないと言われたアルダンをここまで走らせ、ここまでの結果を残したことを評価され、先日メジロ家に赴いたときに話しをされこの書類を渡された。正直自分はアルダンのトレーナーであり、専属とかには興味があまりなかった。しかし、実際メジロ家にはお世話になっているし、アルダンが引退した後どうするのかと聞かれると、彼女を支えていきたい以外の感情が湧いてこない。

 そこで、メジロ家に籍を置いて活動するとなれば、アルダンと一緒にいられる。というかまあ……、アルダンには頃合いを見てプロポーズするつもりだし、結婚となれば婿入りとなるだろうからどのみち遅かれ早かれではある。ある意味その気持ちを示す契約書ともいえる。え?告白をすっ飛ばしていないかだって?いや……今更……?

 そのあたりは彼女もわかっているのだろう。だからこそ、こんなにも尻尾が揺れてさっきから自分の腰に毛先が触れている。シャワーを浴びた後のせいで、揺れる尻尾からシャンプーの香りがまた鼻をくすぐる……。今恰好を付けているからもうちょっとだけ本能にはじっとしていてもらいたい。

「トレーナーさん……よろしいのですか……?」
「正直メジロ家専属かどうかはどっちでもいいんだけどね、俺はアルダンのトレーナーだから」
「……っ!!」

 瞬間彼女の体が自分に覆いかぶさる。ソファの上で、寄りかかるように体重を預け、首に回した両腕は、強く、しかし優しく固まる。その両腕に応えるように、自分も腕を彼女の背中に回す。自分より小柄で儚くガラス細工のような、しかしやわらかくあたたかな彼女の体を優しく抱きしめる。いつの間にか隣にいた煩悩は気づかぬうちに帰ったようだ。今はただ彼女の温度が愛おしい。

「これからも一緒にいてくれるか?」

 彼女の耳元で、今まで直接言わないようにしていた言葉が思わず零れる。少しだけ彼女を抱きしめる腕に力が入る。それに合わせて彼女の耳がまた跳ねる。目下では尻尾が激しく揺れている。

 首元の腕がするりと降りてきて、肩で止まる。そのまま熱く火照った両手は自分の頬へと滑っていく。

「もちろんです。」

 ぎりぎりお互いの目の焦点が合う位置で顔が止まる。彼女の手から熱が伝わり、自分の頬を染めていく。自分の右手を、受け取った熱をまた彼女に返すように、彼女の頬に添える。

 二人の距離はそのまま近づき、0となり、少しして離れる。彼女の淡い唇が少し揺れる。そのまま何度かお互いの熱を交換する。窓の外では雪が降り始めおり、雑音のない部屋にお互いの心音が大きく響く。頬に触れる彼女の手から、彼女の頬に触れる自分の右手から、お互いの熱が行き渡り、淡い肌はすっかり少し早めの桜色。

 彼女の両手が頬から滑り落ちる。それと同時に自分の胸へと頭をのせる。いまだ跳ねる耳は染まり切っており、感情が露わに、背中が呼吸のたびに上下する。

「大丈夫?」

 体調の心配はしていないが、初めての体験でのキャパオーバーを気遣い、背中を優しくさする。自分も全くもって余裕はないが、必死に冷静を取り繕う。なんてったって自分も始めてだ。慣れてなんかいない。内心アルマゲドンの主題歌が爆音で流れている。エアロスミスも絶叫である。

「……たった少し…唇を重ねるだけで、ここまで胸がいっぱいになるなんて……」

 尻尾の揺れも落ち着いてきて、呼吸のリズムもいつものペースになってきた。彼女の後ろ髪を梳くように指を通す。自分の胸に彼女の頭が猫のように擦り付けられる。

「俺もだよ」
「随分余裕に見えますが?」

 少し頬を膨らませ、下から不満そうな目で見上げる。その表情もいじらしく、なんとも可愛らしく、胸が締め付けられる。

「ほら、そうでもないでしょ?」

 彼女の手を自分の手と重ねて、自分の心臓へと当てる。その鼓動を感じた彼女は嬉しそうに微笑み、耳を自分の胸へとぴったりとくっつけ心地よさそうに尻尾を揺らす。

 部屋には二人の熱と火照った香りが広がり、外の雪を感じさせないほど空気を染め上げる。2月には少し早い季節の変わり目が訪れる。窓枠を染める雪も、空を覆う分厚い雲も、置き去りにして。春でもない、新たな季節が。






 







Comments

  • ウニウニ
    November 5, 2024
  • R
    October 11, 2024
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