出発前の車の中で、大好きな人と2人きり。夜に視覚が奪われた分、他の感覚が鋭くなって、優しい声音、肌寒さと大きな手の温もり、そして──安心する甘い匂いが、いつもより染みた。
だから、つい。なんの含みもなく。
「Pたんってさぁ、香水とか使ってたりする?」
ちょっと勇気をだして、重ねていた大きな手を握る。魔除として着けてもらってるペアリングが冷たくて、安心する。
あなたが好き、あなたの匂いが好き、もし、あなたをいつでも感じられるようになったらどれだけ幸せなんだろうって……この欲張りを、察してくれないままで受け入れてほしいって思っちゃった。
「ああ、使ってるよ」
「そっかー……いやぁ、最近は男の人も日常的に香水使うって聞いてさ?Pたんもそうなのかなって、急に気になっちゃって」
いい匂いだから気になった、なんて言ったら、察されちゃうかもでしょ。
「もしかしたら、握手会の話題になるかもなーって」
「なるほど……結華は勉強熱心でえらいな」
繋がっていない方の手で、髪が崩れないように優しく頭を撫でられた。甘い匂いがふわりと寄ってきて、心臓が大きく鳴ってしまう。
「……えへへ、ありがと。──ね、男の人ってどんな香水使ってるの?Pたんからお勉強させてほしいなぁ」
「落ち着いた匂いの香水を使ってる人が多い……らしいぞ。俺もあまり詳しくないんだが、最近仕事で御一緒させてもらってる方がこう言ってた」
「……へぇ」
最近、283プロで香水に関するお仕事してる子っていたっけ?少なくとも、アンティーカにはいないけど……。
「もうすぐある例のライブの打ち合わせで御一緒させてもらってる方なんだが……ああ、結華たちは会ったことなかったかな。メイクを担当されているから、まだ会う機会はないか」
甘い匂いがする。落ち着かない。
「今つけてる香水も、その人からの貰い物なんだ。女性物だけどよければって勧められてさ──これなんだが、結華は読み方わかるか……?」
握っていた手で見せられたスマホには、女性用ブランドの香水。初見では読めないブランド名も商品名も、女性用ブランドのお決まり。
──女の子なら誰でも知ってる高級ブランドの香水を、男の人にプレゼントする仕事相手って、何?何のための魔除だと思ってるの?
「…………んー、わかんないなぁ。しかしこれ、めーっちゃお高いやつだねぇ?」
「そ、そうだよな……申し訳ないから何度も断ったんだが、どうしてもって言われて……やっぱり、今からでも返した方が──」
「いや、それ逆に迷惑だから」
あー、そういうのダメだって。三峰ってば、不機嫌出さないでよ。いい彼女でいたいんでしょ?仕事の付き合いを受け入れられないような彼女、捨てられちゃうかもよ。
「──善意は素直に受けとっておくべきなのですよーっ?……Pたんのそういうところ、三峰はあんま好きじゃないなぁ?」
「う……わかった、素直に受けとっておくよ」
「うんうん、それでよいのですっ」
好きじゃないって言葉に落ち込むなら、ちゃんと断ってよ。
「さ、世間話はこれくらいにして、そろそろ帰りましょーっ!」
ありがとう