現場から

第6回「#選挙が盗まれた」SNSで広がった不正疑惑 票は水増しされたか

 再生回数がぐんと伸びていた。

 2月の衆院選の投開票から約2週間後。ユーチューブで「ファン(FAN)北海道」として活動する札幌市の男性(29)は、画面を見て息をのんだ。

 チームみらいの「不正選挙疑惑」を取り上げた自身の動画は、これまでの10倍以上となる36万回を超えて再生されていた。

 手応えを感じ、思った。

 「こんなに回るんだ。もっとやったろう」

 男性に会って話を聞くと、チームみらいに注目したのは投開票の数日後だったという。初挑戦の衆院選で、一気に11議席を獲得した。X(旧ツイッター)には、「票が書き換えられている」「ディープステート(影の政府)による選挙妨害」といった根拠のない投稿が相次いでいた。

 男性のスマートフォンにも、熊本県南阿蘇村で、チームみらいが有効投票5369票のうち257票(4.8%)を得たことを「高齢化が進んでいる地域なのにおかしい」とする投稿が流れてきた。男性は「最初は全然あやしいと思ってなかった」という。

 だが、動画に寄せられた「過疎地にインタビューして下さい」というコメントに、大量の「いいね」がついていた。「やる価値があるんじゃないか」。現地へ向かった。

 南阿蘇村を訪れた男性は衆院選で投票した人たちに投票先を尋ね、東京・八丈島や福岡県でも同様のインタビューをして動画を作り、投稿しました。この動画をきっかけに、東京・永田町の「不正選挙は許さない」と訴えるデモに参加した人も現れました。

 南阿蘇村で、衆院選で投票した21人に投票先を聞いた。チームみらいに投票したと答えた人は1人もいなかった。「疑惑の信憑(しんぴょう)性が増すような結果になりました」。そう語りかけた動画を、「これは闇かもしれません…」とXに投稿した。

 動画は瞬く間に広がった。「素晴らしい取材に感謝」。この動画を持ち上げたXの投稿の表示回数は400万回以上まで伸びた。一方、調査対象の人数が少なく、統計上の信頼度が低いとのコメントもあり、男性は「勉強不足だった」と認める。

 男性は、同様のインタビューを福岡県朝倉市や東京・八丈島などで続けた。そして動画を計5本投稿。総再生回数は100万回を超えた。

 「不正」の有無については「断定できない。世の中の声を取り上げて、インタビューしてるだけの人なんで」と語った。

「不正」の疑いを晴らす材料

 広く拡散した動画は、現実世界でも人々を動かす。

 2月下旬、東京・永田町。50人以上が集まったデモの輪の中で、東京都の男性会社員(42)が「不正選挙はやめろ」とこぶしを振り上げていた。きっかけの一つは、南阿蘇村の動画だった。

 衆院選後、男性のユーチューブやXには、チームみらいの得票が「不自然に多い」と訴えるコメントや動画が現れるようになった。動画を1本見ると、次々と似た動画を薦めてきた。自分の考えと似た情報ばかりがSNSに現れる「アルゴリズム」が原因だった。

 チームみらいは2月下旬、「そのような事実は一切ございません」と声明を出した。だが、男性は過去の選挙で白票が水増しされた事例があることを持ち出し、「今回の『不正』の疑いを晴らす材料は何もない」と主張した。

「陰謀論に加担するつもりはない」

 「『陰謀論』と言われることでも、事実として認められることもある」。東京都千代田区の司法記者クラブで、衆院選に落選した門脇翔平(41)が選挙の無効を訴える提訴を報告した。

 投開票後、Xで「#選挙が盗まれた」と繰り返し投稿してきた。2020年の米大統領選で敗れたトランプ氏が根拠なく使い、連邦議会議事堂の襲撃につながったフレーズでもある。

 「陰謀論に加担するつもりはない」とした上で、過去に起きた白票の水増しや投票用紙の二重交付などをあげて訴えた。「疑惑が出ているなら晴らして頂きたい」

 提訴の投稿は、約3万件の「いいね」が付き、訴訟費用などへの寄付は約750人から330万円以上が集まった。デモに参加した東京都の男性も1万円を寄付した。

 3月中旬、冒頭のユーチューバーの男性は、門脇との対談動画を公開した。コメント欄には2人を応援するコメントなどが300件以上並んだ。

 中にはこんな強い調子の書き込みもあった。

 「不正選挙の解明が全ての始まり‼ この国のデタラメを正そう‼」

 総務省選挙部管理課は2月の衆院選について、「現時点で不正があったとの認識はありません」としている。(敬称略)

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    津田正太郎
    慶応義塾大学教授・メディアコム研究所
    視点

    不正選挙疑惑というのは扱いが難しく、世界に目を向ければ、今年2月のミャンマーの総選挙のように、公正さを欠く選挙の例は実際にたくさんあります。 他方、選挙に負けた側が「不正選挙」だと主張し、政権を転覆させることで民主主義が崩壊するケースも数多く存在します。同じミャンマーで2021年に軍部のクーデターが発生し、政権が転覆させられたさい、その口実となったのも「不正選挙」でした。 そうした不正選挙疑惑が生じる理由の一つは、言うまでもなく負けた側の「敗北を認めたくない」という心理にあるわけです。実際、日本でも選挙で負けてばかりのリベラル政党の支持者に不正選挙陰謀論の広がりがみられるとの指摘もあります(秦正樹『陰謀論』中公新書)。加えて、社会制度全般に対する不信感の広がりが、不正選挙陰謀論の拡散を助長するとも考えられます。 この記事で興味深いのは、再生回数稼ぎを狙うユーチューバーと、政治的党派性や社会制度への不信感に基づいて選挙制度に疑念をもつ人びととのコラボレーションがみられる点です。不正が「起きていないこと」を証明するのはきわめて難しく、疑惑があると仄めかすだけなら誰でも簡単に再生回数稼ぎに使えてしまう。そこに政治的/社会的信条に基づく不正選挙陰謀論者が乗っかっていく感じでしょうか。 そうした動きが社会の片隅に留まっている分にはさほど大きな影響力はないかもしれません。しかし、何らかの契機にそれが拡散すれば、日本の民主主義にとっても重大な危機を生じさせることになるかもしれませんね。

    2026年5月1日 05:00
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    杉田俊介
    批評家
    視点

     少し前までは、「陰謀論と現実(エビデンスに基づいた事実)」の間には、はっきりと違いがあり、白黒があるように感じていました。  しかし、いわゆるポストトランプ以降の状況の中では、実際に、政治家や資産家、インフルエンサーたちが「陰謀的現実」に加担していることがわかってきました。たとえ陰謀論を除去しても、事実としての「陰謀的現実」(エプスタイン文書や旧統一教会がその象徴でしょう)が実在するわけです。  私たちは、正気を保って事実を見失わないためには、無数の「陰謀論」を批判しつつ「陰謀的現実」をも同時に批判しなければならない、という困難な状況の中に置かれています。現実の複雑さに耐えられない陰謀論的な思考を批判しつつ、「陰謀論なんてものはない」という現実主義的冷笑をも同時に批判しなければならないのです。  それはなかなかに困難なことだと感じます。私たちは、いえこの私は、何が事実であるかを見極めて、これからも正気を保ち続けることができるのでしょうか?いや、もしかしたらすでに…?

    2026年5月1日 05:00

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