非課税で贈与できる資産は祖父と孫、父と子といった個人間で2500万円に過ぎず、しかも、贈与する側の相続が発生した時にはその分も相続財産に加算される。さらに、ある税理士は「贈与税の時効は通常6年だが、相続時精算課税制度を使うことでそれが10年、15年と見なされる恐れもある」と指摘する。

「租税負担の公平性を確保するため」と言えば聞こえはいいが、やっていることは節税策を封じるイタチごっこのような改正ラッシュ。金融機関の富裕層ビジネス担当者は「所得税も含めた近年の富裕層への課税強化により、資産防衛のために相続税のないシンガポールやオセアニアへの移住を検討する顧客が増えている」と話す。

 富裕層の海外への流出は現行税制下では大幅な税収減を意味する。相続税廃止は飛躍としても、今求められているのは締め付けるだけではなく、基礎控除の拡大や目的税化の検討といった富裕層にとって納得感のある制度への改正ではないだろうか。

かつて相続税と無縁だった“庶民層”にも納税義務

 例えば、米国の遺産税には26年時点で1500万ドル(約23億9000万円)もの基礎控除があり、相続財産がその範囲内なら課税されない(別途、州の遺産税はかかる)。英国の相続税率は一律40%と高水準だが、32万5000ポンド(約7000万円)の基礎控除が受けられ、子どもや孫に自宅を相続させる場合はさらに最大17万5000ポンド(約3800万円)の加算があるという。

 これに対し、日本の相続税の基礎控除は15年に4割縮小されて「3000万円+600万円×法定相続人の数」となり、インフレで地価や株価が大きく上昇しているにもかかわらず10年以上そのままだ。その結果、平成時代には4%台だった相続税の課税割合は10%を超え、かつては相続税と無縁だった“庶民層”にも納税義務が生じている。

 アメリカのように基礎控除をインフレ調整の対象とするのも1つの方法だろう。さらに、経済のグローバル化によって富裕層が海外に不動産などの資産を持つケースや、中山さんのように相続人、あるいは被相続人自身が海外居住者というケースも増えており、調書制度の拡充や諸外国との租税条約締結の推進も急務となっている。