号外速報(2月18日 15:00)
2026年5月号 BUSINESS
KDDIグループの未曽有の架空取引事件を報ずるNHKニュース
KDDI傘下のビッグローブとジー・プランを舞台に行われた巨額の不正取引――。
何ら成果物がないにもかかわらず、形式的な証憑類を整えた上、多数の会社間で資金を還流させることにより正常な商行為を装う典型的な架空循環取引が行われていたと見られる。ウェブ広告代理事業において水増しされた売り上げは総額約2460億円にも上り、一連の取引に介在していた複数の会社には約330億円の資金が外部流出したとされる。
古くは2004年に摘発されたメディア・リンクス事件や2007年のIXI事件など、IT業界ではこれまで同様の不正取引が幾度となく明るみに出ているが、それらと比較しても今回の事案は未曾有の規模だ。
取材を進めていくと、史上最大級の架空循環取引に介在していた企業群の一端が見えてきた。
「社長は出張中でおりません」
東京・西日暮里駅近くのオフィスビル7階、ウェブ広告運用代行業の「TY」を訪ねたところ、応対した女性従業員は3日前と同じくそう答えるのみだ。
殺風景な受付と仕切りを挟んで向こう側にあるであろうオフィスからは物音ひとつ聞こえてこず、むしろしんと静まりかえっている。
取材の趣旨を改めて伝えると、奥に引っ込んだ女性社員にかわってカジュアルな出で立ちの男性が出てきた。差し出された名刺はこちらの意表を衝くものだった。
「東京大手法律事務所 弁護士 藤井夏輝」
長年の取材経験を振り返っても、前触れなくいきなり弁護士だけが応対に出て来たケースは記憶にない。同社を巡って何らかの法的トラブルが進行中であることは、どうやら間違いなさそうだ。
信用調査会社などの間において、ジー・プランやビッグローブとの取引額がこのところ突出して多い会社として注目されているのが、このTYだ。
設立は2020年3月。資本金は当初10万円だったが、3年前に850万円へと増資された。取締役は代表の高橋卓人氏のみで、同姓の監査役が1人いる。一昨年に会計監査人を登記しており、同様に沖縄県那覇市にも支店を出したとされる。
会社のホームページを見ると、美容・健康業界の広告運用に特化していることが強みらしく、転職サイトに掲載された求人広告によれば、昨年11月時点で従業員数は16人だという。
肝心の業績については不明だ。
TYは昨年3月、東証グロースに上場する乗り換え案内サービス会社、駅探からスマホ広告システム開発子会社「サークア」を買収している。
だが、その際の適時開示においてはTYに関する株主や経営成績、財政状態が非開示とされていた。理由は「相手先(=TY)の意向」である。買収額も同様だ。
ただし、一連の取引の一端と見られる形跡は金額とともに確認することができる。
2023年11月に東証グロース市場へと上場したウェブマーケティング会社、バリュークリエーションが提出した有価証券報告書における記載がそれだ。
「事業等のリスク」を列挙する中、同社は会社規模などから見て特異と言わざるを得ない取引をその1つに掲げている。
それによれば、取引は主力のマーケティングDX事業の一環として継続的に行われているもので、アフィリエイト広告を受注した後、アフィリエイト運用業者へと外注しているものだという。
その販売先(発注者)こそがジー・プランであり、仕入先(外注業者)がTYだ。実態としてバリュークリエーションは仲介業者ということになるが、なぜそのような中間業者として入る必要性があるのかは有報の記載から読み取ることができない。
では、金額はどれほどなのか。
この取引に関し単なる仲介役に過ぎないバリュークリエーションは受注額から仕入額を差し引いた純額(つまりは手数料や口銭)のみを売り上げ計上してきた。
その額は2023年2月期が3億円、2024年2月期が2億8300万円、2025年2月期が3億4200万円である。ただし、同社にとってこの金額は小さくない。というのも、売り上げの性質上、販売額はほぼそのまま粗利益に相当するからだ。
その点、2025年2月期を例にとると、ジー・プラン向けの販売額は全社粗利益の3割超を占める。同期における営業利益は1億2100万円に過ぎなかったから、仮に件のジー・プラン絡みの取引がなければ、赤字に陥るレベルである。
当然のことながら取引自体はもっと大きな金額だ。
2025年2月末で同社が抱えるジー・プラン向け売掛金は23億6900万円。対してTY向け買掛金は23億800万円。おそらく1回あたりこれらと同程度の金額の取引が行われ、それは毎期複数回に上っていたと見られる。
上場直前期である2023年2月末のジー・プラン向け売掛金は18億5300万円、TY向け買掛金は11億5800万円だったから、1回あたりの取引額は増加傾向にあった可能性が高い。
これら取引額はバリュークリエーションにとって死活的な規模と言える。というのも、同社の2025年2月末における総資産は約43億円で、純資産は6億円弱。総資産に占めるジー・プラン向け売掛金の割合は5割を超え、純資産に対しては4倍近い額だ。
万が一、回収が滞った際のダメージは甚大で、だからこそリスクに掲げられてきたわけである。
取引を巡ってはジー・プランからの入金が滞った際に役務提供を中止する旨の覚書が交わされているという。それもあってか、会社側の認識としてはリスクが顕在化する可能性は「低」とされてきた。が、不正が発覚した今日、仮に売掛金を抱えたままなのであれば、リスクが現実のものとなる恐れは急速に高まっているはずだ。
JPタワー大阪に入居する広告代理店「KOTONA」のエントランス(同社の紹介動画より)
じつは信用調査会社などの間ではTYとともに注目されている会社がもう1社ある。
大阪市北区に本社を置く広告代理店の「KOTONA」(山崎晶久社長)がそれだ。
同社は昨年2月、本社オフィスを大阪駅前の新たなランドマークである「JP TOWER OSAKA」に移転し、商売の繁盛ぶりを見せつけているが、その際にはビッグローブとジー・プランからも祝いの胡蝶蘭が届けられていた。
阪神タイガースの糸井嘉男元選手を特別顧問に招くなど、同社は話題づくりにも事欠かない。
信用調査会社によれば、KOTONAの売り上げ拡大は驚異的だ。
2023年5月期に約4億円だった売上高が2025年5月期にはじつに約1800億円へと急増したと見られているのである。
官報に掲載された決算公告によれば、これはジー・プランの売上高・総資産の膨張ぶり(グラフ参照)とほぼ軌を一にする動きだ。
事実関係や取引を始めた経緯などについて件の3社にメールなどで質問を送った。
TY代理人の藤井弁護士はこう述べる。
「取材主体の身元確認が取れない状況では本件について応答することはできない。ただし事実関係の重大な誤解が拡散することを避けるため当社の認識を1点だけ述べる。当社としては取引の精査を進める過程で違和感を覚え、担当のジー・プラン社員との面談などを通じ把握した内容を踏まえ、関係先に対し問題提起・申告を行った経緯があり、本件に巻き込まれた側(被害者側)であるとの認識だ。記事が客観的事実に反する内容であったり公表済みの根拠に基づかない推測を含む場合、当社の信用・業務に具体的な支障が生じるなら名誉毀損・業務妨害などに基づく差し止めを含む法的措置を検討せざるを得ない」
他方、バリュークリエーションは「本件に関し適時開示するべき事項が生じたら速やかに適時開示する」と回答、KOTONAからは期限までに回答がなかった。
親会社であるKDDIの記者会見によれば、不正取引はビッグローブに出向していたジー・プランの社員2人が主導し、KDDI本体のグループファイナンス資金を投入して行っていたものとされる。
しかし、外部流出額が300億円超にも上ることを踏まえると、まだまだ不正の核心と言えるような事柄が背後に隠れている疑いは拭えない。
弁護士らによる特別調査委員会は3月末までに調査報告書をとりまとめる予定とされる。この先、刑事事件に発展する可能性もあるだけに、悪事の洗いざらいが解明されなければならないだろう。