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彼女の浮気疑惑で爆発1秒前になる彼氏の話【リド監】/Novel by まろうず

彼女の浮気疑惑で爆発1秒前になる彼氏の話【リド監】

9,112 character(s)18 mins

弱気に振り切ってもおいしい、強気に振り切ってもおいしい。今回は強気メーターマックスです。

誤字脱字を修正しつつ、あとは気ままに書きます。拙作を読んでくださってありがとうございます。励みになります!

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リドル・ローズハートの辞書に油断の文字はない。同じように負けの文字もない、と思っている。しかしこのところ彼は惨敗続きだった。正直に言おう。イライラしている。何に?彼自身でもわからない。彼の豊富な語彙を以てしても言語化できないことだってあるのだ。
その証拠に、ハーツラビュルの談話室には誰もいない。別に彼自身は何もしていないのに、あまりにもぴりぴりした雰囲気を醸し出しているから。寮生たちは逃げたわけではない。リスクヘッジという。わざわざ藪を突いて蛇を出す者など──

「あれ、寮長じゃん」
「休みの日の昼間に談話室にいるの、珍しいですね」

いた。ここに。2人も。
片やにこにこ、もといにやにやしながら面白がっている様がありありと見て取れるトランプ兵。片や、本当に何もわかっていないトランプ兵。

「失礼だね。ボクだってここでお茶くらいするよ」
「あー、いや、そうじゃなくって」

先程の言葉は訂正すべきだ。2人とも、何もわかっていなかった。

「監督生がめちゃ嬉しそうに「今度の土曜日は買い物に行くんだー」とか言ってたから、てっきり寮長とのデートだと思ってた」
「確かにあんな顔をするときは寮長のことを話しているときのこと……が……」

リドルが持つ白いティーカップが、ぺきっという不吉な音を立てた。そのまま折れた取っ手と、美しい琥珀色の紅茶と、カップ本体が床にあえなく落下する。
やべ、と2人が慌てだしたときにはもう遅かった。覆水盆に返らず。カーペットに染みこんだ紅茶も、出た言葉も、戻ることはない。

「ヴォーパルの、世話を、してくるよ。いいかい、よくお聞き。ボクは別に連敗などしていないのだからね」
「っす……」
「はーい……」

いや、自分で白状しちゃってるじゃん。ハートのトランプ兵がようやくその言葉を吐けたのはリドルが部屋を出てたっぷり10分は経った後だった。


3度。3度目である。リドルが彼の唯一を──恋人である監督生をデートに誘って、断られた回数だ。しかも連続。通算記録と連敗記録が並び立つ。今まで断られたことなんてなかったのに。リドルが踏みしめた勢いで芝生も枯れそうである。

「恋人であるボクの誘いを断って──買い物だって?そんなの、そんなのボクと行けばいいじゃないか!」

どうして、どうして、とリドルは繰り返す。買い物なんて、基本的に購買で事足りる。麓の町まで行って買い物というのは、「特別なこと」なのだ。しっかり品物を吟味したい場合。様々な国のものを見比べたい場合。買い物という行為自体を楽しみたい場合。リドルは監督生と付き合い始めてから、その楽しさを知った。

「あの子が何を買うにしても、一番似合うものを選んであげられるのはボクだ」

ヴォーパルが鼻でリドルの背中を押す。

「折角ボクに用事がない日で、あの子も休みで。会えるのを楽しみにしていたのに。ボクを放って買い物?どうしてボクと行こうと思わなかったの」

ここにいない監督生の代わりにヴォーパルが返事をしてくれた。実際には早く掃除をしろという催促なのだが。

「そもそも何を買うの。ボクに言えないもの?」

強めに突かれたので、リドルはハッとして手を動かし始めた。
基本的に監督生は生活必需品しか買わない。節約節制に努める(そうせざるを得ない背景もあるが)姿勢はリドルにとって大変好ましかった。別に贅沢が敵だなんて思ってはいないけれど、必要のないものを購入しまくるのは違う。彼のお金の使い方と監督生のそれは似通っている。
だからこそ、監督生は本当に欲しいものができた時、必ず相談に行くのだ。最初の頃はエースたちに。次第にケイトに。そして、彼と恋人になってからは必ずリドルに。

§

「どっちが似合うと思いますか?」

麓の町のブティックで、2着のワンピースのどちらを買うか長考していたことは記憶に新しい。切り返しがあって、回ると花のように広がりそうな黒のワンピースと、ややタイトでシルエットが美しいグレーのワンピース。

(それくらいボクが買ってあげるのにな)

それなりに裕福な家の出である上に、彼自身参考書以外にほとんど出費をしない。だからそれくらいで懐が痛むなんてことは全くないのだけれど。

次は黒いワンピースを着ているキミと。その次はグレーのワンピースを着ているキミとデートがしたいよ。だからどちらも買おう

あの時そう言えたらよかったのだけれど。彼女はリドルが必要以上に金額を負担することをとても嫌がる。もちろん相手にお金を出させるのを良しとしない気持ちはわかる。けれど、リドルはそのガードが崩れないかな、なんて思っていた。

(もう少し甘えてほしいのに。キミを甘やかす権利を持っているのはボクなんだよ)

マイ・フェア・レディなんて面と向かって言えないけれど、リドルは少し、ほんの少し不服でもあった。それでも彼女が恐縮するのはかわいそうだったので、仕方なく彼も一生懸命悩んで、黒のワンピースを選んであげた。
ファッションセンスにはそんなに自身がないけれど、彼女に関することなら間違えない自信はあった。実際、試着した時の裾の広がりや少女らしさを際立たせる切り返しが随分と魅力的に映ったのだから。

「ありがとうございます、リドル先輩」
「もう一着は、いいの?」
「あれも可愛かったけれど、学園内でワンピースなんて着ることほとんどないし、一着で十分です。それに、先輩が選んでくれたから」
「……そう。いつでも相談においで。いつだって、なんだってボクが選んであげる。キミに一番合うものを」

あの時のはにかんだ笑顔が何とも言えず可愛くて、少しだけ目を逸らした。


監督生は特別な買い物をするとき、必ず相談に来る。そのたびにリドルは全力で選ぶ。オンボロ寮に置く花瓶。新しいクッション。ワンピースに合わせたローファー。自分へのご褒美として、オルゴールか、ジェリーボックスを買うか。

そんなことが、ケイト曰く「お買い物デートだね」──が何度かあって。そして一度、リドルは決心したことがある。

グレーのワンピースを、彼女に贈った。

別に彼女を哀れんだわけではない。施しを与えたかったわけでも、優位性を示したかったわけでもない。ただ、本当に、心から、似合うと思ったからだ。着てほしかったからだ。喜んでほしかったからだ。

「別に変な意味じゃないよ。ただ、僕自身が忘れられなくて」
「忘れられない?先輩が?」
「この前行ったブティックで試着していたこのワンピース。普段の君とは雰囲気ががらりと変わって、本当によく似合っていたから。あの大人っぽいキミをもう見られないのは、なんだかいやだなって。ボクが、そう思ったんだ」

こうしてリドルはなんでもない日の贈り物に成功した。


§

リドルから言わせたら「それなのに」である。彼女と買い物をするのは好きだ。選ぶのも、選んでもらうのも好きだ。一緒にいられたら正直どこだって満足なのだけれど、買い物をするときはあの子の目がきらきら輝くから、好きだ。
それなのに。
ヴォーパルが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
リドルはもっと不機嫌に眉間に皺を寄せる。

貴重なデートのチャンスを3回も断られた。一日会えなかっただけで心が急速に乾いていくのに、どうやら彼女はそうではないらしい。
しかも彼女は今買い物に行っているらしい。リドルを置いて。それどころか何も言わず。相談もなく。

「そもそも麓の町なんて、この世界のことを全然知らないあの子が1人で行く場所じゃない」

魔法を使えない人も一定数いるから、危ないことはないと思うのだけれど。そもそも彼女はこの世界のルールも、当たり前も、届かない場所から来たのに。

「1人じゃ……危ない……か、ら…………」

いやな汗をかく。1人では危ない。彼女はそれをわかっている。だから必ず誰かと一緒に行く。でも彼女の悪友は寮にいた。監督生と同じくよくわかっていないグリムが同行者であるはずもない。

「誰かと、一緒にいる……?」

リドルが握っているモップが、ちりりと焦げた。


§


「おい人間」
「なに?」
「漠然としすぎだ。せめてジャンルを絞れ」

いやしかし大きいな。監督生は麓の町の雑貨屋で、同行者を見上げた。普段は意識することなどあまりないが、こうして長い時間一緒にいると彼の背の高さがより実感できる。

「セベクは、なにがいいと思う?」
「それを選ぶのが僕であっていいはずがないだろう!!!この会の趣旨を考えろ!!!」

これが漫画の世界なら、間違いなく監督生の髪はセベクと反対側になびいていただろう。その声量によって。

「私が言い出したこととはいえ、難易度高すぎる……」

事の顛末はこうだ。

先日、監督生はリドルからワンピースを贈られた。彼女にとって非常に見覚えのある、すごく気になっていた一着。2択まで絞ってリドルに選んでもらったものとは違う方。
嬉しかった。もちろん誕生日でもないのにものを受け取るというのは抵抗があったが、嬉しかった。リドルが覚えてくれていたことが。似合うと言ってくれたことが。彼自身の意思で彼女に合うと思ってくれたことが。
しかし監督生はこうも思った。何か、返さなければ。
義務感ではない。彼女も、リドルに同じ気持ちになってほしい。恋人のためを思って選んだもの。時間を割いたもの。彼に合うと思ったもの。それを受け取るあの得も言われぬ嬉しさを。

そのためにまずはモストロラウンジでアルバイトをした。一日飛び込みでも雇ってくれる慈悲深い寮長に感謝だ。休みの日に2回ほど働いて目標金額に到達したので満を持してものを選びに来た、というわけだった。
別段そこまで余裕がないわけでもないのだが、折角ものを贈るならなるべく妥協はしたくない。モストロラウンジには絶対リドルは来ないので(監督生がバイトしてました、と告げ口する勇気がある人もいない)、こそこそお金を稼ぐにはもってこいなのだ。

「ちなみに、なんで人選が僕なんだ。いつもつるんでいるクラスメイトがいるだろう」
「んー……。別にあの2人でもいいんだけど、デュースは絶対リドル先輩に秘密にしておけないでしょ。睨まれただけで私の作戦全部喋っちゃいそう。あとエースは絶対揶揄ってくるもん」
「そう……なのか」
「そうなの。エペルとかジャックに来てもらおうかなって思ったけど、あの2人、あんまりリドル先輩と交流ないでしょう。そしたら、声をかけやすくて、リドル先輩のことわかってそうな人っていったら、同じ部活のセベクかな、って」

一応納得したようだ。背の高さと体格の良さと、険しい顔のわりに素直で、監督生はこの気難しい同級生が嫌いではない。リドルについていってたまに見学する馬術部員でもあるので、そこそこ馴染みもある。

「贈り物はしっかり吟味しなければならない、付き添ってやれ、という若様のご命令でもあるからな。請け負ったからには、リドル先輩に献上する贈り物探しとやら、しっかり務めよう」
「ふうん。ほんと、若様のこと好きだね」
「無論だ!!!」

今度こそ監督生の髪はセベクと反対側になびいた。


「やはり本に関するものがいいのではないか?長く使えて、実用性もある。勉強家であるリドル先輩にはこの大判のブックカバーなどはどうだろう。基本的にはどの参考書もこのサイズだからな」
「かの寮が敬愛するハートの女王をあしらった雑貨もあるぞ。このカトラリーセットなんかは茶会に合うだろう。もちろん最も偉大なのは茨の魔女であることに変わりはないが」
「逆に普段あまり使っていないようなもの、という選択肢もあるな。リラクゼーションオイルなんかはどうだ?表示によると、この銀のマッサージャーと一緒に使うといいらしい」

監督生は素直に感心していた。真面目に選んでくれる。想像の100倍は真面目に。
いい人だな。知ってたけど。
セベクの提示する選択肢がどれも「アリ」で、監督生は迷子になったような気分になる。さて、どうしよう。とりあえずいったん休憩しようということになり、遅めの昼食をとることにした。

「随分かわいいもの食べるんだね、セベクは」
「何を言う。別にカルパッチョは可愛くない」

その体躯で何を。とは言え次々と料理が運ばれてくるので、確かに量だけ見たら可愛いとは言えない。チョイスが意外だっただけで。
やたらとおしゃれなカフェでアップルパイをつつきながら、監督生はため息を吐いた。目の前から「食事中だぞ」という声が降ってくる。

「迷う。人にプレゼントするってこんなに難しいんだ……」
「当たり前だ」
「当たり前なの?」
「貴様はリドル先輩に喜んでほしいのだろう。ならば長考し、逡巡し、最善を探ろうとするのは当然だ」

そういうものかあ。監督生は紅茶を啜る。美味しいはずなのに、なんだか味がしないのはなぜだろう。

(そういえば、私この作戦に必死で、最近リドル先輩に会えてないなあ。お出かけのお誘いも断っちゃったし)

先輩が淹れた紅茶が飲みたい。

監督生はカップを置いた。テーブルが片づけられるまで、そのカップがソーサーから離れることはなかった。


「監督生は、普段はそんな恰好をするのか」
「このワンピースのこと?」
「タイトだと、足の可動域が狭まるだろう。動きにくくないか。有事の際はどうする」
「普通の女子高生は有事の際とかで服を考えないの」
「そういうものか」
「そういうもの」

セベクは全身黒だった。黒のシャツ、黒のパンツ、黒い革靴。190センチ近いとそれでも様になるのだから、恵まれた体格というのはうらやましい。多分本人はそこまでおしゃれに気を遣うタイプだとも思えないが、シンプルイズベストというやつなのだろう。

「これ、すっごく大切なワンピースなの。大切な人からの、大切な贈り物なの。乙女の最強装備ってやつだよ」
「そうか」
「そうだよ」

あの人が忘れられなかったといったこのワンピースは、彼の瞳と同じ色だ。大好きな色だ。きっと彼はそんなことまで考えていないだろうけれど。監督生にとっては、全部全部嬉しさで出来ている、特別な服なのだ。だから今日この服を選んだ。彼への贈り物を選ぶためにふさわしいと思って。

「そんなに大切というなら……。贈り物には、あれなんてどうだ」

セベクはブティックのショーウィンドウを指さした。監督生は目線をやって、目を見張る。

パールグレーのサマーニット。監督生のワンピースと、同じ色。そしてそこは、このワンピースが売られていたブティックだった。


§


行動には悩まない。リドル・ローズハートの信条である。
気になったらとことん調べつくす。リドル・ローズハートの性格である。
それらが合わさるとどうなるのか。

「覚悟するんだね。ボクから逃げられるとお思い?もし他の男があの子を誑かしているのだとしたら……」

その男の首を刎ねて、灰にして、海に撒いてやる

麓の町に降り立った彼の、両のこぶしは、真っ白になるくらい強く強く握られている。リドルは絶対零度の灼熱を撒き散らしながら歩き始めた。ささっと通行人がよけていく。

革靴だと石畳の音が美しい。美しいはずだ。リドルの耳はそんなことは拾わない。
日も落ちかけてきて、ほんの少しの哀愁を漂わせた町並みは美しい。美しいはずだ。リドルの目はそんなものは映さない。

──あれはあの子と行ったカフェ。その隣はボクのお気に入りの本屋。あそこにもあの子を連れて行った。あそこはあの子がボクとお揃いの万年筆を買った文具店。インクの色はボクがブラウンで、あの子がボルドー。
全部全部、詳細に、昨日のことのように思い出せるのに。どうして今、ボクの隣にあの子がいないんだろう。いったい今、誰といるんだろう。絶対に探し出して、あの子を腕に閉じ込めてから理由を聞いて、しばらくは出してやらない。そうして、やっぱり相手は首を刎ねた後炭にしてしまおう。灰より形が残るからまだいいだろう。

まるで飢餓状態の猛禽類が空を旋回するように、リドルは町の大通りを歩く。

──もしあの子が、悪い男に良いようにだまされていたら?アズールくらい頭が回って、見た目もよくて、0,1秒程度の会話なら品行方正に見えるような男が、あの子を甘言に乗せてしまったら?NRCでの日々を送ってきた監督生だから滅多なことはないだろうけれど、あの子の身が危ないことに変わりはない。何せ魔法が使えない。体格に恵まれていない方であるボクでも、雰囲気が整えばいとも簡単に組み敷けてしまうのに──

リドルは頭を振った。違う、自分は何を考えているんだろう。もう思考がぐちゃぐちゃだ。複雑すぎて何も解けないのに、いやに冷静ですっきりしている。

そんな時、あのブティックが目に入った。思い出深い、あのブティック。
そして、そのショーウィンドウの内側に、リドルは、見た。

リドルが愛してやまないあの笑顔で笑い、彼が贈ったワンピースを着て、誰かの身頃に服をあてている監督生の姿を。


§


「ちょっとセベク、かがんでくれない?160センチくらいに」
「無茶言うな」

パールグレーのサマーセーターをセベクの体にあてて、監督生は思わず笑った。あまりにも体格が違うから、何の参考にもならない。けれど多少大きくてもいいだろう。オーバーサイズは小柄なものの特権だ。

「セベク、いいセンスしてるね」
「もしかして今僕は貶されているのか?」
「なんでそうなるの。褒めてるよ。うん、いい買い物ができたよ」
「へえ、それは明らかにメンズのセーターだよね。一体、誰に、贈るんだい?」
「誰ってもちろん……って、え、あ……まさか」

振り向けば狂気。長い睫毛と大きな瞳と。悠然と、そして同時に一切の余裕を捨て去った、赤い暴君。
ごめんセベク。彼女は、強盗に脅されているかのように(実際にマジカルペンを向けられているので脅されているという表現で相違ない)両手を挙げている同級生に心の中で頭を下げた。

「帰るよ、監督生。……ボクの可愛い恋人」
「……はい、寮長」

リドル・ローズハートの辞書に油断の文字はない。同じように負けの文字もない。


§

監督生は過去こんなにも、リドルの部屋から出たいと思ったことはない。せめて談話室にしてくれ。その願いもむなしく、リドルはマジカルペンの一振りで部屋にカギをかけた。

「それで?」
「だから、これで全部ですって……。セベクはただついてきてくれただけで……」
「確かに理由は納得できるよ。でも。さっきからやけに、彼を庇うね?」
「先輩が疑うから……」

この繰り返しである。

確かに軽率だった、と監督生は思う。彼が本当に彼女とセベクの浮気を疑っているわけではないのも分かっている。なぜ確信できるか?あの場で、そして今ここで、セベクも監督生も無事だからだ。リドルが本当に「浮気だ」と断定していたらきっと無事では済まなかっただろう。監督生の彼氏は、導火線に着火した1秒後に爆発するのだ。

「ボクがどんな気持ちだったか、お分かりかい?キミは「ちょっと週末立て込んでるんで!」の一言でボクの至福のひとときを簡単に奪った。キミと過ごすというボクの大切な時間を。しかも3回もだよ。重罪だ」
「はい……」
「さらに理由が理由とは言え、他の男を伴って麓の町に出かけていった。ああ、キミ曰く、仲のいい2人が遊ぶのはデートと言うのだったね。本来ならいかなる場合でもキミの隣はボクのために空けられておくべきなのに。他の男とデート。しかも随分楽しそうに。余罪だらけだ」
「返す言葉もありません……」

いっそ正座させられていたらよかった。説教されていると分かるから。
しかし実際は監督生はリドルのやたら豪華なベッドに寝かされ、彼はと言えばベッドに腰かけたまま体をひねるようにして彼女の顔の横に手をつき、それはそれは満足げに微笑んでいる。

「先輩、とりあえずベッドから降ろしてくれませんか……。このまま横になってたら、ワンピースに皺がついちゃう」
「ダメだよ」
「う……」
「こうやって、キミを見下ろせるのは、結構好きなんだ」

この姿勢、いやだ。恥ずかしいにもほどがある。もちろんそんなことをいう権利は彼女にはない。まるで閉じ込められているようで、落ち着かない。いや、実際、「まるで」ではなかった。文字通り、閉じ込められている。リドル・ローズハートという檻に。

「喜んでほしかっただけなの」
「知っているよ。なんて可愛い動機だろう」

でもダメ。リドルは言った。
血が沸騰したあの瞬間、ユニーク魔法を使わなくてよかった。流石に彼女に嫌われてしまっていたかもしれない。それだけは、避けたい。仮にそうなっても逃がすつもりは毛頭ないのだけれど。

「ボクは、このワンピースを着たキミと、デートに行きたかったんだよ。それを先に他の男に見せてしまうだなんて。ああ、キミは、ボクの心を搔き乱す天才だね。誰がボクに魔法を使ってもこうはならないよ」
「だからそのワンピースが、皺になっちゃうから……」
「するよ」
「え?」

今なんて?監督生は耳を疑った。きちんと物を大切にするリドルが?

「セベクが先に、このワンピースを着た綺麗に装ったキミを見たんだろう。ならボクは、このワンピースを着てぐちゃぐちゃになったキミを見たい。ボクにはその権利があると思わない?」
「え、ちょっと待って。先輩、一回落ち着いて?」
「なぜ?ボクはいつだって冷静だよ」

なんという清々しいまでの虚偽申告。破綻している(少なくとも監督生にとっては)論理も、きっと今のリドルの中では筋が通っているのだろう。そして、彼は行動には悩まない。リドル・ローズハートの信条である。

彼の瞳に縫い付けられた彼女の目線は、悟った。自分が食べられる側であること。そして間違いなく、その予感は必中すること。

「大丈夫。もしこのワンピースがもう着られなくなってしまったら──きっとそうなるけれど──新しいものをキミに贈るよ。同じものとは言わず、キミに似合うものを何着でも。だから安心して?」

何一つ安心できない台詞を満足げに吐いて、リドルは赤い舌を小さく覗かせた。

Comments

  • sagamira

    March 21, 2025
  • 光里
    March 17, 2025
  • ももももも
    March 5, 2025
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