旅先から保冷バッグで持ち帰った魚 食べた後のめまいや感覚異常の原因は
群馬県沼田市で暮らす田村香奈江さんは、沖縄旅行から帰宅。翌日、香奈江さんは夫にお弁当を置いて出勤。帰宅後、買っておいた魚をあら煮にして一人で食べた。
すると翌朝、香奈江さんには吐き気やめまいが。さらに水を飲もうとすると、まるで炭酸水のようにピリピリする感じがした。体調が優れないまま出勤したものの仕事は早退。旅行の疲れと思ったが、その翌朝も強いめまいが続いており、仕事を休んで近所の病院へ。
医師は、疲れなどにより胃腸の抵抗力が弱って脱水状態になり、めまいはそれによるものと診断。点滴を行い、整腸剤が処方された。
しかしその翌朝も強いめまいは治まらず、仕事を休むことに。あまりの違和感に、香奈江さんは自分の症状が当てはまる病気はないかと検索。すると、シガテラ中毒という症状にたどり着いた。
これは、熱帯や亜熱帯の海藻などに付着するごく小さな藻に含まれるシガテラ毒という毒素が原因の食中毒。その小さな藻を食べた巻貝やウニ、小魚などを長い間食べた魚が毒化することがあり、その魚を食べることで発症する。
香奈江さんが食べた魚は、沖縄旅行中に沖縄のスーパーで買ったものだったのだ。「ヨーローミーバイ」と呼ばれるアズキハタという魚で、それを保冷バッグに詰めて群馬まで持ち帰ってきたのだった。
香奈江さんは総合病院へ向かう。しかしシガテラ中毒のほとんどは熱帯・亜熱帯地域で起きるため、この病院では治療経験がなかった。通常、医師は経験のない症例を診る時、過去の文献などを参考に治療方針を決めていく。医師も過去の症例を確認、血液検査や心電図検査を行った上で「症状と経過から、シガテラ中毒の可能性が高い」と判断した。
シガテラ中毒の疑いがある場合保健所に連絡しなければならず、疑いのある魚が残っていれば、保健所へ届けて検査をする必要がある。香奈江さんは自宅に戻り、魚の骨や身の残りを持参した。
香奈江さんは入院。シガテラ毒は体内に入ると、神経の電気信号を送るスイッチとなるナトリウムチャネルと呼ばれる部分を攻撃する。その結果、神経の伝達に異常が起き、心臓まわりの神経が攻撃された場合には脈拍が低くなり、めまいや吐き気を引き起こす。さらに、シガテラ中毒にはドライアイスセンセーションと呼ばれる症状も。末梢神経が異常を起こすことで手足が金属や冷たい水などに触れた時に異常な痛みを感じたり、水を飲んだ時にピリピリ感を覚える症状。香奈江さんが感じた感覚異常もこれによるものだった。
シガテラ中毒に特効薬はなく、体から毒がなくなるまで待つしかなく、最悪の場合、長い間後遺症に苦しめられる可能性がある。
結局、香奈江さんが退院できたのは4日後。その後、保健所に提出した魚の残りからシガテラ毒が検出されたことも確認され、香奈江さんはシガテラ中毒と正式に診断。魚を販売した沖縄のスーパーには鮮魚コーナーの1日営業停止が下され、講習が行われた。香奈江さんには治療にかかった費用や慰謝料が支払われた。
シガテラ毒を持っているかどうかは見た目で判断することは困難だという。そのため、ごく稀にスーパーなどに流通してしまうことがある。自治体は、シガテラ毒によって毒化される可能性のある魚は食用としないように指導を出し、市場に出回らないよう働きかけている。
シガテラ毒は、一般的に個体が大型であるほど多く蓄積されている可能性がある。そのため沖縄県では、シガテラ魚として代表的なバラハタやバラフエダイなどについて特に気を付けるべき体重や大きさを明記して注意を呼びかけている。また近年では、シガテラ毒を持つ個体が本州の太平洋沿岸の海域でも報告されるようになっている。似たような症状を感じたら、すぐに病院へ向かうことが大切だ。
