サイエンス

2026.04.28 07:00

トランプ政権、全米科学委員会の全委員を解任 米国の科学の未来はどうなる?

全米科学財団(NSF)の助成金で米ニューメキシコ州ソコロに建設された電波望遠鏡VLA(カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群)の可動式アンテナ(Joe McNally/Getty Images)

ブッシュのビジョンを法律に落とし込む闘いは5年にわたり、主に独立性と説明責任の問題に焦点が当てられた。その結果の妥協の一環として、6年の任期をずらして設定する方式が採用された。任期が6年であることにも、任期がずれていることにも、それぞれ理由がある。「卓越した功績のみを根拠として」という文言が設立規定に盛り込まれているのにも、理由がある。

NSBの機能をめぐっては以前から議論があったが、それは常に現行の条件下で争われてきた。2022年にもNSBの役割を近代化すべきだとの議論が巻き起こり、委員会の管理業務を縮小してNSFのあり方を他の連邦機関に近づけるよう提案があった。だが、他の連邦機関とは、まさに政治的支配に最もさらされている存在だ。すなわちトップの任用は大統領の意のままで、政権ごとに優先すべき方針が変わる。

NSFの構造が特異である根本的な理由は、第2次世界大戦後に組織設計を行った人々が、時の大統領や政権の意向で科学予算の配分が左右されることを望まなかったからだ。これまでは、改革を志す者たちでさえこの点を認識していた。NSBの交替制の任期と法的な独立性については、維持を提案していたのだ。

こうした構造は、政権をまたぎ党派を超えた共通の理解に拠っている。つまり、たとえ制約を受けるとしても守るべき価値のある制度が存在するという理解だ。この理解が失われれば、構造そのものも長くは存続しない。

来たる5月5日にNSBの会合が予定されている。議題は決まっておらず、現時点では委員会そのものも存在しない。この空白こそ、委員の解任というニュース以上に注目すべきポイントだ。

問題は、次に誰が委員を務めるのかではない。国立科学財団法で構想された委員会が、今でも実態として存在しているのかどうか、そして、もはや存在していないのだとしたら、米国の科学のあり方はどうなるのか、ということだ。

forbes.com原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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2026.04.10 16:00

脳科学がクルマを進化させる時代へ――佐藤琢磨×デロイト トーマツが語るニューロテック社会実装の最前線

デロイト トーマツは、2022年からレーシングドライバーの佐藤琢磨とテクニカルパートナーシップを締結し、脳科学とモビリティを掛け合わせた研究プロジェクトを推進してきた。
“次の飯のタネ”のひとつとして国家的に重点領域とされるブレイン・ニューロテック領域において、モータースポーツという「走る実験場」で磨かれた知見は、いかにして社会実装され、日本の新たな勝ち筋となるのか。佐藤琢磨とプロジェクトチームが語り合った。


ーーデロイト トーマツは、2022年から佐藤琢磨選手とテクニカルパートナーシップを開始し、脳研究プロジェクトに取り組んでいます。ニューロテクノロジーとモビリティのクロス領域を手がける理由についてお教えください。

雪野:現在の日本の産業政策において、ブレイン・ニューロテクノロジーは2040年以降を見据えたフロンティア領域として、国家的な重点施策のひとつに位置づけられています。CAGR(年平均成長率)は約15%と試算されており、実際に、25年7月にはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の懸賞金活用型プログラムとして公募もされています。

竹井:背景にあるのは、20年代後半に予測されているAI学習用データの枯渇です。そこで次なる資源として、人間の生体データが注目されています。デバイスの進化によりイヤホン型などで日常的に計測できる環境も整いつつあり、AIが賢くなった先に残る最後の不確実性である人を理解する技術こそが、次の競争軸になると考えています。

そのうえで、デロイト トーマツがモータースポーツを支援する理由は3点あります。

第一に、モビリティ産業の構造変化です。近年、自動運転やSDV(Software Defined Vehicle)の進展によって、モビリティは単なる製造業ではなく、通信やデータ、コンテンツなど多様な産業と交差する領域へと広がっています。そうしたなかで私たちは、技術交流が図れるモータースポーツを、さまざまな業界をつなぐハブ、あるいは架け橋の象徴として位置づけています。

第二に、モータースポーツは機械を操るスポーツの頂点であり、最先端技術を試すことができる「走る実験場」であるという点です。極限環境のなかで、人とマシンの関係を検証できる場として大きな価値があります。

そして第三が環境面です。カーボンニュートラルや生物由来燃料などの技術開発をモータースポーツで実証し、その成果を社会へ還元していきたいと考えています。

今回のプロジェクトの起点となったのは、佐藤琢磨選手のような熟練者と私のような素人で、運転中の脳にどのような違いがあるのかという問いでした。これを解明できれば、より安全な移動の実現や加齢による機能低下を緩やかにするヒントも見つかるかもしれない。ビジネスの枠を超え、世の中のためという社会アジェンダにつながる取り組みだと確信し、佐藤さんとプロジェクトを推進してきました。

佐藤:資金提供に留まらない「テクニカルパートナーシップ」に強い意義を感じています。レースの現場でエンジニアと共にデータを効率的に整理・分析するツールを提供いただき、戦略立案の精度が向上しました。

モータースポーツにおける脳科学研究は、F1を頂点に欧州が先行しています。私としても、今回の研究成果を社会還元に加えて、次世代の育成につなげたいという思いがありました。私がプリンシパルを務めるホンダレーシングスクール鈴鹿でも、デロイト トーマツと構築したタレントマネジメントシステムを導入しており、脳科学を教育に応用する試みに可能性を感じていますね。

佐藤琢磨 プロレーシングドライバー、デロイト トーマツ Executive Evangelist
佐藤琢磨 プロレーシングドライバー、デロイト トーマツ Executive Evangelist

「究極の安全」と「居住空間」AIが先回りするクルマの未来

ーーモビリティ領域において、ニューロテクノロジーはユーザーへの価値をどのように変えるのでしょうか?

平井:現在、モビリティとニューロテクノロジーのかけ合わせは基礎研究から応用への移行期ですが、この技術を応用する方向としては大きく2つあると考えています。ひとつは「究極の安全」です。高速で動く巨大な車体は一歩間違えば命に関わります。事故ゼロを目指すうえで、脳科学は不可欠な技術です。

もうひとつは「移動空間の価値向上」です。自動運転化で車が「居住空間」になれば、そこでの居心地の良さが重要になります。今の車でもスケジュール連携や適温設定などのデジタルな快適さは実現されつつありますが、さらに発展させるには「凄く急いでいる」「落ち込んでいる」といった、本人が言語化できていない本質的な感覚を読み解く必要があります。こうした生体データを車側が先回りしてセンシングし、最適な状態を提供する。そんなデジタルを超えた人間中心の新しい価値提供が可能になると考えています。

平井 学 デロイト トーマツ パートナー、コンサルティングAutomotive Unit Leader
平井 学 デロイト トーマツ パートナー、コンサルティングAutomotive Unit Leader

佐藤:安全面でいうと、ロボティクスによるフィードフォワード制御技術など、ドライバーの意思を先読みする試みも進んでいます。ドライバーが何をしたいのかをシステム側が深く理解し、本人が気づかないレベルで微細にサポートしてあげる。この技術が進んでいけば、誰もが自分の運転が上手くなったように感じられて快適に運転できる時代が訪れることが期待できます。

ただ、現代の電子制御は極めて安定しているものの、私たちプロのドライバーからするとまだその制御は雑に感じる部分もあります。ドライバーは常に車と対話をしていますが、電子制御のない車のほうが一対一で対話できている感触があるのも事実です。

竹井:今後の車は、嗜好品として楽しむものと安全な移動手段としての道具、その両極端な方向に分かれていくと考えています。車を走らせる喜びも大事にする一方で、移動手段としては「動くリビングルーム」としていかに楽しめるかが重要になってくる。そして、脳科学の知見はその快適さと安全面のどちらにも活かせるはずです。

竹井昭人 デロイト トーマツ マネージングディレクター
竹井昭人 デロイト トーマツ マネージングディレクター

平井:脳科学とモビリティのかけ合わせは、人と乗り物が一体化する「人馬一体」をよりシームレスにしやすくする技術だと思っています。

クルマが完全自動運転になっていくと「モビリティは公共財化=皆で共有する」方向になるのではないかと言われますが、人間には自分の空間や物をコントロールしたいという欲求が本能レベルで刻まれているのだと思います。だからこそ、移動手段としてのモビリティをみんなでシェアする世界が広がったとしても、究極までカスタマイズされた「自分専用のモビリティをもつ喜び」という価値観はなくならないと考えています。

佐藤:今年2月に、フランスの「ラリー・モンテカルロ・ヒストリック」に参加しましたが、半世紀前の車が地域に愛され、文化として後世に伝えられている姿を目の当たりにしました。人間には面白みや目標が必要であり、車という大切な文化を環境やテクノロジーとうまく共存させていくべきだと改めて実感しました。今回のプロジェクトを通じて、完全自動運転だけでは得られない価値をデータとして示せたら嬉しいですね。

信頼をどう得るか?ニューロテクノロジーの社会実装のためのガバナンス設計

ーーニューロテクノロジーを社会実装し、ビジネスとして社会に浸透させていくために、解決すべき最大の論点はどこにあるのでしょう?

雪野:最大の壁は「解釈」と「倫理」の問題です。例えば脳波データが取得できたとしても、それをどう読み解くかという「解釈」には非常に高いハードルが存在します。そこでデロイト トーマツが取り組んでいるのが「もっともらしい推定アルゴリズム」の構築です。

車を運転していて「今、自分は注意散漫だった」とか「今はリラックスしていた」といった感覚は皆さんがもっています。この主観的な感覚とニューロテクノロジーが推定するアルゴリズムが合致するようになれば、安全安心という状態を客観的に立証することが可能ということになります。そのアルゴリズムの構築は時間をかけて進めているところです。

もうひとつ、重要なのが倫理的の問題です。やはり人のデータを扱うという点において、技術の難しさ以上に「どれだけ信頼を得られるか」という非常に高いハードルがあります。データを扱ううえで活用するAIには状況を誤って推定したり、人に対して過介入したりするリスクを孕んでいるからです。

だからこそ、私たちは社会実装のためのガバナンス設計を重視し、4つの原則を掲げています。

1つ目は「目的の限定」、2つ目は必要な特徴量・適切な範囲のデータのみを使用する「最小化」、3つ目はAIがすべてを決めつけない「段階的な介入」、そして4つ目が制御の理由を明示する「説明可能性」です。あくまで人間中心(ヒューマン・センタード)であり、私たちは「ヒューマン・アダプティブAI」として提唱しています。監視ではなく、その人の状態に応じて適切な環境を提供し続ける、という優先順位を間違えないことが重要です。

雪野皐月 デロイト トーマツ シニアマネジャー
雪野皐月 デロイト トーマツ シニアマネジャー

竹井:歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリが警告するように、車に自分の全情報を分析されてしまうと、システムによって人間がハックされたり、常に監視されたりするという懸念が付きまといます。車が「運転者の調子がいつもと違う」と気づきケアにつなげられれば素晴らしいですが、一歩間違えれば、本人の意図しない方向に感情や行動を操作されてしまう。だからこそ、ガバナンスとその用途はセットで定めていく必要があります。

佐藤:市販車と違って、モータースポーツは人間同士の技術の争いなので、運転支援技術を禁止しています。しかし、モータースポーツも安全第一です。例えば、運転中に意識を喪失した際には、技術で感知をしてフェイルセーフとして車を停止させられるかもしれません。それは安全の観点からも非常に歓迎すべき未来です。

雪野:ニューロテクノロジーが進展すればするほど、人の負担は限りなく減らせる可能性に満ちています。一方で、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)が実装され、念じるだけで車を操作できるようになれば、今のお任せの自動運転とは真逆の、より能動的に車を自分の一部として操る「物の所有化」を体験できるようになるかもしれませんね。

日本の勝ち筋として、クルマに「和の心」を

ーー佐藤選手というプロフェッショナルの知見とデロイト トーマツの分析力を掛け合わせた今回のプロジェクトを通じて、日本の産業界が目指すべき未来像についてお聞かせください。

竹井:私たちは、ビジネスを加速させる「アクセル」と、リスクを管理しガバナンスを守る「ブレーキ」の両輪を担います。一歩使い方を間違えればリスクになる領域だからこそ、自動車業界などの命に関わる現場で培った知見を、他の業種にも還元していきたいと考えています。

雪野:ブレイン・ニューロテクノロジーはあくまでも人を理解するための手段であり、その知見は医療、エンタメ、教育、製造業など、あらゆる産業で活用の可能性があります。私たちデロイト トーマツとしては、ブレイン・ニューロテクノロジーを経営のなかにどう位置づけるかという構想策定から、現場のオペレーションまで一貫して支援できるのが強みです。

また、2026年2月に広告も発出されました「NEDO懸賞金活用型プログラム(脳由来信号を活用した新システムの開発)」も現在デロイト トーマツが事務局を担い進めています。国家として、日本発のニューロテック産業の“芽”を発見し、将来的な国際競争力につながる基盤を育てることを目的に事業推進しています。今後の本領域の指針を示す非常に大きなプロジェクトと思うので、是非その動向もウォッチしていただきたいです。

平井:私は、日本の自動車産業がかつてのパソコン、白物家電と同じ轍を踏むことに強い危機感をもっています。人的リソースの物量では中国やアメリカ、今後のインドには太刀打ちできないからこそ、日本の限られた資本を日本の強みとする領域に注力していかなければなりません。

日本の強みは、2000年以上の歴史で培ってきた「匠・オタクの文化」、「和の心」、「信頼」にあると考えています。この暗黙知をニューロサイエンスという新たな技術も用いながら言語化・パッケージ化し、車という「器」に実装する。海外の人が感じる「日本ならではの価値」をテクノロジーと掛け合わせ、唯一無二の価値としてグローバルに提案・提供していくことで新たな発展と成長の道を切り開くのではないかと期待しています。

佐藤:テクノロジーは、人間の可能性を奪うものではなく、心を豊かにし、人をより人間らしくするためにあるべきです。この「和の心」を宿した未来のモビリティをデロイト トーマツの皆さんと共に実現し、世界をリードしていきたいですね。

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デロイト トーマツ Emerging Technology はこちら


さとう・たくま◎プロレーシングドライバー、デロイト トーマツ Executive Evangelist。20歳で鈴鹿サーキットレーシングスクールに入り、モータースポーツの世界へ。2002年F1デビュー。17年と20年に世界三大レースのひとつ「インディ500」を制した唯一の日本人。19年よりHonda Racing School Suzukaのプリンシパルとして次世代育成に尽力。デロイト トーマツとは22年からパートナーシップを締結し、データに基づく競技力向上や社会課題解決を推進している。

ひらい・まなぶ◎デロイト トーマツ パートナー、コンサルティングAutomotive Unit Leader。デジタルを活用したビジネス企画構想、業務改革・改善、システム導入まで幅広い知見、経験をもつ。業務・システムの企画・構想だけでなく、それを現場に体現する実行力に強み。自動車OEM、自動車部品サプライヤー向けDXプロジェクト実績多数。

たけい・あきと◎デロイト トーマツ マネージングディレクター。主にモータースポーツ領域におけるスポーツ支援を専門とし、佐藤琢磨選手が出場するIndycarシリーズや、国内の別カテゴリのレースに参戦するチームに対して、データ分析を中心とした現場支援を行っている。

ゆきの・さつき◎デロイト トーマツ シニアマネジャー。DeepTechチームのNeuroscience(神経科学)領域をリード。最先端の脳科学・神経科学の知見とデジタル技術を活用し、企業のイノベーション創出や新規事業開発、ヘルスケア分野での課題解決に広く取り組んでいる。特に自動車業界向けには、Neuroscienceを活用した次世代車両の機能開発支援や車室空間の最適化などのプロジェクトを推進。

promoted by デロイト トーマツ / text by Michi Sugawara / photographs by Shuji Goto / edited by Akio Takashiro

サイエンス

2025.05.15 12:30

米科学界に広がる政治的混乱、解体に近いNSFの改革は経済にも広範な影響

米国立電波天文台が運営するカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群。NSFの助成金によって設置・運営されている。Greenson / Shutterstock

米国立電波天文台が運営するカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群。NSFの助成金によって設置・運営されている。Greenson / Shutterstock

『サイエンス』誌は2025年5月8日、米国の科学界に広がる政治的混乱の最新動向を報じた。米国立科学財団(NSF)が37の研究部門をすべて廃止し、助成金給付のプロセスを再編し、職員を解雇し、すでに交付された助成金約10億ドル(約1470億円)を取り消すことになったのだ。これらの変更は、NSFのセスラマン・パンチャナサン長官の辞任に続き、NSFの予算を55%削減するという提案と、時期が重なっている。

これは改革ではない。解体だ。

今回の再編は、米大統領府からの政治的圧力によるものと広く見られている。連邦政府の科学研究助成を、新たなイデオロギーに基づく優先事項と一致させるための広範な取り組みを反映するものだ。多様性に関する研究に加えて、気候科学、ワクチン、HIV/AIDS、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの分野も、大幅な予算削減に直面している。

こうした変化は科学界に、研究範囲が狭まる可能性と、学問の自由やイノベーションへの影響に関する懸念を引き起こしている。これほどの規模で科学研究を制限することの経済的影響は、極めて広範に及ぶ可能性がある。

米国の科学界を支える財団

NSFは75年にわたり、米国の科学的進歩を陰で支える縁の下の力持ちだった。連邦政府が支援する基礎研究の相当な部分がNSFの助成金で運営されており、気候科学、AI(人工知能)、サイバーセキュリティ、量子マテリアルなど、生物医学を除くさまざまな分野の発見を後押ししてきた。

その助成金は、大学院生の教育、若手研究者の支援、そして、米国の競争力の源となっているオープンで再現可能な研究に使われてきた。しかし、科学の重要性が増す一方で、基礎研究の費用を連邦政府が助成する割合は数十年にわたって減少傾向にある(民間部門の投資は着実に増加している)。

そのNSFが今、組織レベルで解体されようとしている。

NSFの部門を廃止すれば、助成金の給付プロセスから、専門家の監督という重要なレイヤーを取り払うことになる。現在ほぼすべての助成金を承認している、深い専門知識を持つ科学者である部門長は、その権限を失うことになる。代わりに、まだ名前のない当局が運営する新たなレイヤーが加わり、研究がイデオロギーと一致するかどうかを審査する可能性がある。

再編と称されているものの、部門長の廃止は事実上、助成金給付プロセスを中央集権化し、専門家の監督を排除する措置だ。

米海洋大気庁(NOAA)のハリケーン研究者だった経歴を持ち、気象予報サービス「Weather Underground(ウェザー・アンダーグラウンド)」を共同で立ち上げたジェフ・マスターズはソーシャルメディアプラットフォーム「Bluesky」で、「NSFが連邦予算に占める割合は極めて小さいため、これはメリットや予算の問題ではない。情報と知識のコントロールそのものだ」と断じている。

米国の科学に変化は必要ない、と言いたいわけではない。公的な研究は、国益にかなうものであるべきだ。透明性があり、オープンアクセスで、社会的ニーズと合致する必要がある。

次ページ > 迫り来る米国からの頭脳流出が、危機を深刻化させる

翻訳=米井香織/ガリレオ

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2026.01.25 14:13

トランプ政権の優先事項を反映、全米人文科学基金が助成方針を大転換

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全米人文科学基金(NEH)は先週、7510万ドルの新規助成金を発表した。総額84件の助成金のうち、その多くが保守系プロジェクトやトランプ政権が設定した優先事項に配分された。

最大規模の助成金を含むいくつかの助成金は、新設された市民センターや西洋文明・古典の教育を目的として大学に授与された。例えば、テキサス大学は、市民リーダーシップ学部に2つの新しい学部専攻を創設するため、1000万ドルを受け取った。この助成金は両専攻で16の新規教員ポストに充てられ、テキサス高等教育調整委員会の承認を経て、2027年秋に開講予定である。

大学の報道発表によると、「グレート・ブックス専攻は、古代から現代に至るまで西洋文明を形成してきたテキストに学生を没入させる」ものであり、「戦略・国政専攻は、国家安全保障や外交政策のキャリアに進む学生に人文科学に基づく訓練を提供する」ものである。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校の市民生活・リーダーシップ学部(SCiLL)は、「アメリカ政治思想、立憲主義、市民生活の古典的基盤に根ざした市民教育、学術研究、将来のリーダー育成を拡大する」ための大規模助成金を受け取った

この助成金は、基金のための1000万ドルのマッチング助成金と10万ドルの直接資金を含み、アメリカ政治思想と立憲主義、市民教育の古典的基盤、グレート・ブックス、リーダーシップに焦点を当てた8つの寄付講座の創設に使用される。

「NEHの支援により、SCiLLは多様な視点を持つ市民関連学術研究の全国的拠点となることができる」と、ノースカロライナ大学教授でSCiLLの教員開発・カリキュラム担当副学部長であるダン・ディサルボ氏は報道発表で述べた。「この投資により、市民教育に専念する次世代の学者や、全国のコミュニティに貢献するリーダーを育成する著名な教員を採用することができる。」

3つ目の1000万ドル助成金は、高等教育卓越性財団(FEHE)の「大学に奉仕する人文科学の回復」プロジェクトに授与された。FEHEは、十数校のエリート大学における人文科学プログラムのネットワークであり、長年にわたり多くの保守系寄付者から財政支援を受けてきた。同財団は報道発表で、新たなNEH助成金により「FEHEネットワーク内および他のエリート大学で古典人文科学の新プログラムを提供し、人文科学と市民、人文科学と経済学、知的友情と市民的対話などのテーマに焦点を当てたコース、セミナー、ワークショップ、フェローシップ、特別イニシアチブの開発のための助成金を提供できる」と述べた。

先週発表された他の大学向け助成金には、サウスカロライナ大学のアメリカ市民リーダーシップ・公共対話センターへの170万ドル、オハイオ州立大学のサーモン・P・チェース市民・文化・社会センターへの市民教育イニシアチブ支援のための500万ドル、プロビデンス・カレッジにおける西洋の伝統とカトリック思想を学ぶ学部生向けのセント・ドミニクス・フェローズ・プログラム、米国陸軍士官学校のアメリカ建国の理念プログラムへの560万ドルなどが含まれる。

博物館、学術プロジェクト、大学院フェローシップへの助成金も提供されたが、NEH自身によると、今年の特別な焦点は、2025年1月29日の大統領令「アメリカの誕生日を祝う」に応じて、「独立宣言署名250周年の全国的祝賀を強化するために設計された学術、教育、公共プログラム」であった。資金提供されたプロジェクトの完全なリストはこちらで確認できる。

新たな助成金は、その保守的傾向と、従来のピアレビューからの明らかな転換について、一部の教員から批判を集めている。

高等研究所の名誉教授で、米国大学教授協会(AAUP)の学問の自由・終身在職権委員会Aのメンバーであるジョーン・スコット氏は、インサイド・ハイヤー・エデュケーションに対し、「トランプ政権のイデオロギー部門が、彼らが承認する方法で知識の生産を支援するために資金を配分しているように思える」と語った。

ニューヨーク・タイムズが引用した2人の匿名情報源によると、FEHE、テキサス大学、ノースカロライナ大学への助成金は「非競争的であり、受給者が申請するよう選ばれた」という。さらに、共和党議員の要請により複数の大学が最近設立した市民思想学部は、政治的党派性と短絡的な創設プロセスの疑惑をめぐり、しばしば教員の反対を招いてきた。しかし、他の学者たちは新しい学部を擁護し、多くの大学のリベラルな偏向と彼らが認識するものに対する必要なバランスを提供すると主張している。

昨年、NEHは既存の助成金の多くを取り消し、複数の主要スタッフを解雇した。同機関は、トランプ大統領の政策課題を支援するために配分を振り向けると発表した。その資金の再配分の一環として、アメリカ独立250周年を祝うものとして、アメリカの英雄の彫刻を展示するトランプ大統領の優先事項である国立アメリカ英雄庭園に1700万ドルを提供すると述べた。

ほぼ同時期に、同機関のリーダーシップは急速な入れ替わりを見せ始めた。NEHの前議長であるシェリー・ロウ氏は、ドナルド・トランプ大統領の指示により3月に退任した。それ以来、政権の当初の意図と思われたNEHの資金削減ではなく、大統領が好む目的に資源を振り向けることが、ますます明確になってきた。

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