読書ノート|「オブジェクト」はわれわれが思う以上に面白いエリー・デューリング(哲学)+清水高志(哲学)+柄沢祐輔(建築家)|10+1 website(LIXIL出版)
対象:10+1 websiteの鼎談4本(2016/8公開)と森美術館ニュース(2018/2/14)、併読資料として『Jodo Journal 3[小特集:プロトタイプとは何か?]』(2022/4/10)。
方法:10+1の本文を最優先に、森美術館記事と『Jodo Journal 3』の邦訳原資料で横断照合。**「要約→論点整理→用語解説→批判分析」**の順に、初学者向けの平易な日本語で整理します。
0) 口上(短く)
レタッチ是非論の熱気を横目に、ここでは視点をずらして「オブジェクトの面白さ」=プロトタイプ的な作品観をめぐる鼎談を丁寧にまとめます。デューリングは「プロジェクトはオブジェクトの外ではなく、中に折りたたまれている」という転換を提示し、作品=プロトタイプという中間形式からアート/建築を読み替えます。これは2016年の10+1鼎談で集中的に語られ、2018年の森美術館トークでも実例を伴って補強されています。(テンプラスワン)
1) 要約(未読者向け・やさしめ)
1-1.
オブジェクトの中のプロジェクト──反プロセスとしてのプロトタイプ論
背景:ラトゥール以降の「ネットワーク」志向と、作品を持たない(あるいはプロセス偏重の)実践への違和感。デューリングは**“ロマン主義への逆戻り”と批判し、作品(オブジェクト)を捨てないために「プロトタイプ」概念を導入する。これは観念性と実験性を同時に保持**する“途中の完成”で、次の展開(未来)を内部に抱える。(テンプラスワン)
核心の言明:「プロジェクトはオブジェクトのなかにある」「オブジェクトは未来との関係を自身の内部にもつ」。デューリングはこれを**“未来的オブジェクト”**と呼ぶ。(テンプラスワン)
1-2.
プロトタイプ、オブジェクト指向哲学、幹-形而上学──ロマン主義批判としての
OOO(オブジェクト指向存在論)、準—客体、アクター・ネットワークなどを横断。“関係のイデオロギー”(関係そのものの無限拡張が目的化すること)を避け、オブジェクトの切断点=査定可能な枠をつくる必要が語られる。(テンプラスワン)
1-3.
新しいパースペクティヴィズムへ──連動と断絶のトポロジー的探求/個に内在する複数の存在論
清水氏の自邸《s-house》を手がかりに、複数視点が単一の“全体視座”に包摂されない空間・時間観を議論。ベルクソンや道元(同時性/持続)を引きながら、ローカルな視野の網が断続的に連動する世界像を描く。(テンプラスワン)
1-4.
「関係」のイデオロギーとハイブリッドの「切断」──アーキテクチャーのプロトタイプ/メタ・スタビリティと結晶化の萌芽/21世紀のアート、建築、哲学が向かっている方向
シモンドンのメタスタビリティを鍵に、小さな差異が相転移の“芽”を生む状態を説明。プロトタイプ=結晶化の芽を抱えた“敏感帯”として機能し、アート/建築/哲学を多極的世界観へ開く、と結ぶ。(テンプラスワン)
1-5. 参考:森美術館(2018/1/20、レポ2018/2/14)
**「プロトタイプとしてのアート」**というテーマで、デューリング×柄沢×椿玲子(学芸員)×レアンドロ・エルリッヒのトーク。鼎談での理論を、具体的作品の読解(エルリッヒ作)に接続している。(森美術館)
1-6. 併読補助:『Jodo Journal 3』小特集(邦訳原資料)
デューリング論考は、「プロトタイプが成功すれば生産プロセスに“静止/切断”を生む」、「作品の“理念”ではなく、“実行可能性と利害”の物証**を与える最小安定点」**と定式化。失敗は本質的だが、**プロトタイプ自体が立たない“しくじり”**とは区別される。
2) 論点整理(骨子)
プロセス礼賛への批判と“中間形式”の擁護
「作品か/プロセスか」の対立をほどき、プロトタイプという**途中の完成(観念×実験の結節)**を重視。(テンプラスワン)
オブジェクトの内在的未来
プロジェクトは外部ではなく内部に。オブジェクトは未来を内包する起点=未来的オブジェクト。(テンプラスワン)
切断と査定の装置としてのプロトタイプ
無限の関係をいったん止め、評価可能な枠をつくる=プロセスに“切断”を入れる。展示・審査・契約など次の手を可能にする。
トポロジー/パースペクティヴィズム
多視点が共在し、連動と断絶を繰り返す空間・時間観(《s-house》の読解)。(テンプラスワン)
メタスタビリティと“結晶化の芽”
多安定の潜在帯にある微細な差異が相転移を誘発。プロトタイプはその敏感帯を可視化する。(テンプラスワン)
3) 用語解説(初学者向け・平易)
プロトタイプ(prototype)
未完成の「試作」ではなく、“途中の完成”。観念(アイデア)と実験(フィジカル)が結びついた“切断面”で、次の展開を内蔵する。成功すれば生産プロセスに静止/切断を生む。未来的オブジェクト
プロジェクトを自らの内部に折りたたむオブジェクト。未来(派生)が外部でなく内部に宿る。(テンプラスワン)切断(section/disconnection)
無限に拡張する関係の流れをいったん止める操作。査定可能な枠をつくる。パースペクティヴィズム
複数の視点が単一の全体へ還元されず共在する世界観。(テンプラスワン)メタスタビリティ(Simondon)
見かけの安定の下に複数の相への移行可能性を潜在させる状態。結晶化の芽が走る。(テンプラスワン)準—客体/アクターネットワーク
人間/非人間の媒介として振る舞う間(あわい)のもの/行為者のネットワーク。関係のイデオロギーへの批判とセットで再検討。(テンプラスワン)
4) 批判分析(応用と留保)
4-1. 強み(なにが効くのか)
二分法の突破:「作品かプロセスか」という陳腐な対立を超え、“途中の完成”としての作品を評価可能にする。理論が**建築の実作(《s-house》)や美術作品(エルリッヒ)**へ橋渡しされている点は大きい。(テンプラスワン)
運用概念としての汎用性:展示設計、教育、R&D、写真のワークフロー(RAW→現像→プリント)まで、**“切断をどこに入れ、何を実証したか”で議論を具体化できる。『Jodo Journal 3』の「実行可能性と利害の物証」**という定義は運用の指針になる。
4-2. 盲点(どこが弱いか)
“切断”の権力論:誰がどの場面で「切断」を決め、何を査定するのか。**制度(市場・審査・学術・メディア)**への感度と設計が問われる。
文化翻訳の慎重さ:道元や日本庭の比喩は魅力的だが、一般化のリスクも。10+1ではバランスよく扱われているが、二次引用では注意がいる。(テンプラスワン)
4-3. 写真/メディア実践への示唆
レタッチ是非の二項対立を避け、プロトタイプ的査定(目的・段階・公開方法・鑑賞環境)を明示して運用する。ICCプロファイルや表示環境の共有まで含めて「結び目を強める」とき、第二段階のプロトタイピングが見えてくる(シリーズ化/展示化/出版)。『Jodo Journal 3』で言う**「プロセスに切断を入れ、次の手を動かす」**設計に相当。
付録:主要見出しの“対応マップ”(10+1 ⇄ 本ノートの章)
オブジェクトの中のプロジェクト──反プロセスとしてのプロトタイプ論 → §1-1, §2-1, §2-3(切断と査定)に対応。(テンプラスワン)
有限と無限──同時存在するパースペクティヴ → §1-3, §2-4(多視点/トポロジー)に対応。(テンプラスワン)
プロトタイプ・オブジェクトがつくる多極的な世界観 → §1-4, §2-5(メタスタビリティ)に対応。(テンプラスワン)
プロトタイプ、オブジェクト指向哲学、幹-形而上学──ロマン主義批判としての → §1-2(OOO/準—客体)、§2-1に対応。(テンプラスワン)
準-客体、アクター・ネットワーク、離接的綜合 → §1-2(関係のイデオロギーへの距離)に対応。(テンプラスワン)
動く身体の生態系としての建築──視覚のスピードと身体的なマテリアルの合流 → §1-3(《s-house》)に対応。(テンプラスワン)
新しいパースペクティヴィズムへ──連動と断絶のトポロジー的探求/個に内在する複数の存在論 → §1-3, §2-4に対応。(テンプラスワン)
「関係」のイデオロギーとハイブリッドの「切断」──アーキテクチャーのプロトタイプ → §2-3(切断と査定)に対応。(テンプラスワン)
メタ・スタビリティと結晶化の萌芽/21世紀のアート、建築、哲学が向かっている方向 → §1-4, §2-5, §4-1に対応。(テンプラスワン)
森美術館のトークレポ(2018/2/14) → §1-5, §4-1(実例)に対応。(森美術館)
参考文献(主要出典)
10+1 website(LIXIL出版)
「『オブジェクト』はわれわれが思う以上に面白い」第1回〜第4回(2016年8月)──
第1回「オブジェクトの中のプロジェクト──反プロセスとしてのプロトタイプ論」;第2回「プロトタイプ、オブジェクト指向哲学、幹-形而上学──ロマン主義批判としての」;第3回「新しいパースペクティヴィズムへ──連動と断絶のトポロジー的探求/個に内在する複数の存在論」;第4回「『関係』のイデオロギーとハイブリッドの『切断』──アーキテクチャーのプロトタイプ/メタ・スタビリティと結晶化の萌芽/21世紀のアート、建築、哲学が向かっている方向」。(テンプラスワン)森美術館ニュース
「哲学者エリー・デューリング氏が登壇した『トークセッション』を、建築家・柄沢祐輔氏がレポート」(2018/2/14)。(森美術館)『Jodo Journal 3[特集:距離と創造性]』(浄土複合, 2022/4/10)。小特集「プロトタイプとは何か?」に、
エリー・デューリング「プロジェクトからプロトタイプへ(あるいは、いかに作品にせずにすますか)」、
「プロトタイプ——エリー・デューリングのインタビュー」(邦訳)を収載。本文の該当箇所は、「プロトタイプ=生産プロセスの静止/切断」、「理念ではなく実行可能性と利害の物証」、**「失敗の区別」**の節。
ハッシュタグ(20個)
#10plus1 #エリーデューリング #清水高志 #柄沢祐輔 #プロトタイプ論 #未来的オブジェクト #プロジェクトは内部にある #切断と査定 #メタスタビリティ #シモンドン #OOO #準客体 #アクターネットワーク #パースペクティヴィズム #トポロジー #s_house #森美術館 #レアンドロエルリッヒ #現代美術思想 #建築思想
注:本文で「プロトタイプ=切断」「理念ではなく実行可能性の物証」「失敗の二重化」という核心は、『Jodo Journal 3』の邦訳本文から直接確認・引用しました。鼎談の細部の見出しと内容は10+1 websiteの該当ページで逐一照合済み。森美術館のレポは鼎談と同趣旨の応用例として参照しています。


コメント