サイエンス

2026.04.28 07:00

トランプ政権、全米科学委員会の全委員を解任 米国の科学の未来はどうなる?

全米科学財団(NSF)の助成金で米ニューメキシコ州ソコロに建設された電波望遠鏡VLA(カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群)の可動式アンテナ(Joe McNally/Getty Images)

全米科学財団(NSF)の助成金で米ニューメキシコ州ソコロに建設された電波望遠鏡VLA(カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群)の可動式アンテナ(Joe McNally/Getty Images)

米ホワイトハウスは2026年4月24日、全米科学財団(NSF)の監督機関である全米科学委員会(National Science Board:NSB)の委員24人全員を解任した。米国の基礎研究や学術研究活動を支援する中心的な連邦政府機関であるNSFのウェブサイトによると、NSBの次回会合は5月5日に予定されている。

研究者や学術関係者でもなければ、NSFやNSBという組織の名称に馴染みはないだろう。1950年の国立科学財団法(National Science Foundation Act of 1950)により設立されたNSFは、理事長と委員会(NSB)の二頭体制で運営されている。両者は共同で、年間約90億ドル(約1兆4300億円)に上る連邦政府の研究資金を配分するNSFの戦略的方向性を定め、予算案を承認し、新たな研究プログラムを認可している。

NSBを構成する24人の委員は、科学、工学、教育、公共政策の各分野での卓越した実績に基づいて推薦され、産業界や学術機関から選出される。任期は6年間で、各委員の任期は重ならないよう設定されている。これにより、科学研究の優先順位が委員の選出タイミングに左右されず、科学の進歩という長期的な視点に立って決定できるよう工夫されているのだ。国立科学財団法では、委員を「確立された実績のある卓越した功績のみを根拠として」選出することを定めている。

筆者は今、この最後の一文を繰り返し思い返している。

米国の科学的優位性は、あたかも才能や資金の産物であるかのように語られることが多い。しかし、実際にはそれは制度の結晶であり、戦後世代が意図的に築き上げた、委員会、定款、任期、査読、そして法律で保障された独立性といった、華やかさとは無縁の仕組みの賜物である。

この構造は、フランクリン・ルーズベルト政権で科学顧問を務めたバネバー・ブッシュ博士が1945年にまとめた報告書『Science, the Endless Frontier(科学、果てなきフロンティア)』に端を発する。この報告書では、連邦政府の科学研究に必要なのは、政治的圧力から隔離されたガバナンスと単一の予算サイクルを超えた支援の安定性だと論じていた。

次ページ > 問題は、次に誰が委員を務めるのかではない

翻訳・編集=荻原藤緒

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2026.04.24 16:00

Ferrari Tech Talent:フェラーリのCEOが、整備士志望の若者に会いに来た日

フェラーリのCEOが、整備士を目指す若者たちに会いに来た。場所は、駐日イタリア大使館。質問を持って集まった若者たちに、ベネディット・ヴィーニャは1時間、正面から向き合った。


港区の一角に立つ駐日イタリア大使館に、制服姿の学生や専門学校のロゴが入ったジャージを着た若者たちが集まってきた。3月10日の午後のことだ。フェラーリの整備士育成プログラム「Ferrari Tech Talent」の、特別な回が開かれる日だった。

2025年夏から国内のサーキットや各地のフェラーリ正規ディーラーで順次開催されてきたこのプログラムに参加した若者たちが、この日のために呼び戻された。目的は一つ。フェラーリの最高経営責任者、ベネディット・ヴィーニャと直接話すためだ。

駐日イタリア大使館一等参事官のステファノ・ストゥッチ氏は、学生たちにこう語りかけた。

「イタリアと日本には、一つ大切な共通点があります。どちらの国も天然資源に恵まれていない。だから私たちは、知識と、知恵と、手仕事で価値をつくってきた。その伝統が、両国の土台なのです」

クルマをめぐる対話が、イタリア大使館で行われた

「AIでは置き換えられない仕事が、この部屋にはある」

ヴィーニャがステージから語りかけると、会場の空気が変わった。爽やかなネイビーのスーツに、白いシャツ、落ち着いた物腰。だが言葉は、ためらいがなかった。「未来は、新しい世代のものです」と若者たちに語りかける。

べネディット・ヴィーニャ:ピサ大学で物理学を修めた後、STマイクロエレクトロニクスに入社。MEMSモーションセンサーの開発を牽引し、iPhoneやゲーム機への採用に貢献。自動車業界未経験ながら2021年にフェラーリCEOに就任。電動化とヘリテージの両立を推進する。
べネディット・ヴィーニャ:ピサ大学で物理学を修めた後、STマイクロエレクトロニクスに入社。MEMSモーションセンサーの開発を牽引し、iPhoneやゲーム機への採用に貢献。自動車業界未経験ながら2021年にフェラーリCEOに就任。電動化とヘリテージの両立を推進する。

AIが多くの仕事を変えようとしているこの時代に、整備士という職種はどうなるのか。そのことを気にしている学生がこの場に何人かいることは、誰の目にも明らかだった。ヴィーニャは、その問いに真正面から答えた。

「フェラーリの車を整備できる人とは、問題を発見して創造的な解決策を提案できる人。そうした仕事は、AIでは簡単に置き換えられないと私は考えています」(ヴィーニャ)

一段落おいて、彼はマルコという人物の話をした。数年前までマラネッロの生産ラインで働いていた彼は、今シリコンバレーのディーラーでメカニックとして現場に立っている。「私は彼に、先月会いました。仕事ぶりをオーナーに認められて信頼を得て、とても満足そうでした」とヴィーニャは言った。

CEOが元同僚の名前を覚えていて、現場まで会いに行く。その一事で、フェラーリがどんな会社かは伝わる。

現場の人間が、現実を知っている

Q&Aが始まると、学生たちは準備してきた質問を次々に投げかけた。「AIの時代にフェラーリが守るべき価値とは何ですか」「メカニックとして一人前になるために、今のうちやっておくべきことは何ですか」。どれも、フェラーリという会社の現実に踏み込んだ問いだった。

将来自動車整備士を志す15歳から25歳の若者を対象に行われた「フェラーリ・テック・タレント・プログラム」。フェラーリが各国のディーラーで展開する「アプレンティスシップ・プログラム(訓練生制度)」にも連動する。
将来自動車整備士を志す15歳から25歳の若者を対象に行われた「フェラーリ・テック・タレント・プログラム」。フェラーリが各国のディーラーで展開する「アプレンティスシップ・プログラム(訓練生制度)」にも連動する。

「自分の経験をどうやって評価してもらってきたか」という質問には、ノーベル賞物理学者リチャード・ファインマンの話をひいて答える。

1986年のスペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故の原因究明に呼ばれたファインマンは、会議室のVIPたちに混じらず、自費でワシントンに乗り込み、メカニックたちに直接話を聞いた。それで原因が判明した。

「現場を知っているのは、現場の人間です。私がファインマンに惹かれたのは、その姿勢でした。だから私も物理学を学びました」(ヴィーニャ)

メカニックを目指す学生たちへのエールとして、これ以上の話はなかなかない。さらに「CEOになるにはどうすればいいですか」という趣旨の問いには、こう返した。

「それは間違った問いです。何を目指すかより、今していることに喜びを見つけてほしい。その仕事が好きで働いている人のほうが、結局うまくいく。私自身がそうでした」(ヴィーニャ)

キャリアの話になると、ヴィーニャは五つのポイントを挙げた。学び続けること。失敗を恐れないこと。自分の才能に投資すること。スクリーン越しでなく直接人と会うこと。そして、物事を深刻に考えすぎないこと。最後の一つをユーモラスに話すと、会場には笑い声が響いた。

「真剣にやりすぎると、幸せになれない。幸せでなければ、いい仕事もできない」(ヴィーニャ)

「直接人と会う」という話には、ヴィーニャのエピソードが続いた。ある日、東京で新しい拠点の候補物件をいくつか視察していた。ある建物を見に立ち寄ったとき、そこにいた日本人オーナーに何気なく話しかけた。すると、その人物がちょうど検討中の2拠点の両方に店を構えていることがわかった。

揃いのブルゾンを着た整備士志望の若者たちは、フェラーリの公募に申し込む際に簡単な試験を受け、選考されている。さまざまなプロフェッショナルとの出合いを通じて職業としての魅力を知り、その誇りを肌で感じる機会を体験した。
揃いのブルゾンを着た整備士志望の若者たちは、フェラーリの公募に申し込む際に簡単な試験を受け、選考されている。さまざまなプロフェッショナルとの出合いを通じて職業としての魅力を知り、その誇りを肌で感じる機会を体験した。

「インターネットで調べても、AIに聞いても、出てこなかった情報です。目を開けて、耳を開けて、人と話す。正しい情報に出会うための大切な姿勢だと、私は思っています」(ヴィーニャ)

「若者の車離れをどう見ているか」という質問には、少し笑ってからこう答えた。「実は私の娘も、なかなか免許を取らないんです」。

日本のフェラーリ顧客の平均年齢は、世界平均より高い。それは認識している。若い世代との接点を大切にしながら、この日のように既存の顧客の子ども世代を招いたり、メカニック志望の若者と直接対話する場をつくることが、長期的なアプローチだと語った。まさに、対話を重ねるうちに、場には打ち解けた空気が流れていた。

一人ひとりに、直筆のサインを

Q&Aが終わると、最後のプログラムが始まった。

司会が一人ずつ名前を呼ぶ。呼ばれた学生が前に進むと、ヴィーニャが修了証を手渡す。サインは、その場で一枚ずつ直筆で書かれた。

サインを待つ若者たちの表情はさまざま。笑顔の若者もいれば、緊張した面持ちの者も。等しくヴィーニャは彼らに修了証を渡し、握手を交わす。
サインを待つ若者たちの表情はさまざま。笑顔の若者もいれば、緊張した面持ちの者も。等しくヴィーニャは彼らに修了証を渡し、握手を交わす。

ヴィーニャにはその儀式を急いで進めている様子はなかった。一人ひとりと向き合い、目を合わせ、手渡す。名前を呼ばれた学生の背筋が伸びる瞬間を、何度か見た。

修了証を受け取った学生たちが、一人ずつ会場を後にした。それぞれの手に、フェラーリのCEOのサインがあった。

揃いのブルゾンの胸には跳ね馬のシルエットがあった。フェラーリというブランドが大事にしてきた価値とともに、整備士の高い技術と精神を次世代へ伝えていく存在だ。
揃いのブルゾンの胸には跳ね馬のシルエットがあった。フェラーリというブランドが大事にしてきた価値とともに、整備士の高い技術と精神を次世代へ伝えていく存在だ。

フェラーリ テックタレントプログラム 特設サイトはこちら
https://forbesjapan.com/feat/ferrari_tech_talent/

Promoted by フェラーリ | text by Tsuzumi Aoyama | photographs by Naoto Hayasaka(Y's C)

サイエンス

2025.05.15 12:30

米科学界に広がる政治的混乱、解体に近いNSFの改革は経済にも広範な影響

米国立電波天文台が運営するカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群。NSFの助成金によって設置・運営されている。Greenson / Shutterstock

米国立電波天文台が運営するカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群。NSFの助成金によって設置・運営されている。Greenson / Shutterstock

『サイエンス』誌は2025年5月8日、米国の科学界に広がる政治的混乱の最新動向を報じた。米国立科学財団(NSF)が37の研究部門をすべて廃止し、助成金給付のプロセスを再編し、職員を解雇し、すでに交付された助成金約10億ドル(約1470億円)を取り消すことになったのだ。これらの変更は、NSFのセスラマン・パンチャナサン長官の辞任に続き、NSFの予算を55%削減するという提案と、時期が重なっている。

これは改革ではない。解体だ。

今回の再編は、米大統領府からの政治的圧力によるものと広く見られている。連邦政府の科学研究助成を、新たなイデオロギーに基づく優先事項と一致させるための広範な取り組みを反映するものだ。多様性に関する研究に加えて、気候科学、ワクチン、HIV/AIDS、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの分野も、大幅な予算削減に直面している。

こうした変化は科学界に、研究範囲が狭まる可能性と、学問の自由やイノベーションへの影響に関する懸念を引き起こしている。これほどの規模で科学研究を制限することの経済的影響は、極めて広範に及ぶ可能性がある。

米国の科学界を支える財団

NSFは75年にわたり、米国の科学的進歩を陰で支える縁の下の力持ちだった。連邦政府が支援する基礎研究の相当な部分がNSFの助成金で運営されており、気候科学、AI(人工知能)、サイバーセキュリティ、量子マテリアルなど、生物医学を除くさまざまな分野の発見を後押ししてきた。

その助成金は、大学院生の教育、若手研究者の支援、そして、米国の競争力の源となっているオープンで再現可能な研究に使われてきた。しかし、科学の重要性が増す一方で、基礎研究の費用を連邦政府が助成する割合は数十年にわたって減少傾向にある(民間部門の投資は着実に増加している)。

そのNSFが今、組織レベルで解体されようとしている。

NSFの部門を廃止すれば、助成金の給付プロセスから、専門家の監督という重要なレイヤーを取り払うことになる。現在ほぼすべての助成金を承認している、深い専門知識を持つ科学者である部門長は、その権限を失うことになる。代わりに、まだ名前のない当局が運営する新たなレイヤーが加わり、研究がイデオロギーと一致するかどうかを審査する可能性がある。

再編と称されているものの、部門長の廃止は事実上、助成金給付プロセスを中央集権化し、専門家の監督を排除する措置だ。

米海洋大気庁(NOAA)のハリケーン研究者だった経歴を持ち、気象予報サービス「Weather Underground(ウェザー・アンダーグラウンド)」を共同で立ち上げたジェフ・マスターズはソーシャルメディアプラットフォーム「Bluesky」で、「NSFが連邦予算に占める割合は極めて小さいため、これはメリットや予算の問題ではない。情報と知識のコントロールそのものだ」と断じている。

米国の科学に変化は必要ない、と言いたいわけではない。公的な研究は、国益にかなうものであるべきだ。透明性があり、オープンアクセスで、社会的ニーズと合致する必要がある。

次ページ > 迫り来る米国からの頭脳流出が、危機を深刻化させる

翻訳=米井香織/ガリレオ

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