X民が勧める、FAエンジニアの独立について考える
Xでは独立を良しとする声が目立ちますが、本当に独立は良いことなのでしょうか。FAエンジニアの独立について考えてみたいと思います。
(今から書くことはあくまでも私個人の見解です。勿論、これに当てはまらない人もいます)
私もたまに「独立しないの?」と言われます。しかし私はFAの制御設計や機械設計の独立はあまりお勧めしません。
独立すると、安定収入が無くなる分「今できる仕事」で稼ぐ圧力が強くなります。「失敗できない」「納期を外せない」「収入を止められない」 この三重の圧力がある状態では、新しい技術を探索する仕事より、既に持っている技術を換金する仕事に寄りやすくなります。設計請負は価値ある仕事ですが、仕事の取り方を間違えると「エンジニアリング」ではなく「作業」に近づいていきます。
独立し、仕事の取り方を間違えると、技術成長の傾きが急激に落ちます。ここが1番怖いです。
■会社勤めの最大の強み
会社勤めの最大の強みは「失敗コストを会社が持つこと」だと思います。(勿論、そのコストを会社が持つ分、個人の収入としては減るのですが…) 会社の設備・予算・顧客基盤・チーム・信用を使い、個人では絶対に届かない規模の仕事に参加できます。これはかなり大きいです。
FAや製造業の仕事は、PCひとつで完結する世界ではありません。PLC・サーボ・ロボット・カメラ・照明・制御盤・搬送・治具・実ライン、これらが全部絡んできます。「PC一台あれば仕事ができる」Web系のエンジニアとは、そもそも学習コストの構造が違います。これらの環境を個人の財布で揃えるのは現実的に難しく、会社の資産を使えることは、技術成長において圧倒的に有利です。
また、企業勤めは役割分担があるため、エンジニアリングに専念しやすいです。チームで動くため、個人では到底できない規模のプロジェクトにも関われます。独立するとそうはいきません。技術的な仕事だけをやっていればいい、というわけにはいかなくなります。
営業、見積、契約、請求、回収、経理…… これらを全部自分でやることになります。
もちろん、これらも成長にはつながります。ただし、それは「技術者」としての成長ではなく「事業者」としての成長です。
そして、これこそが独立の本質だと思います。
■独立の本質
独立するということは、「エンジニア」から「事業者」になるということです。技術で食べるというより、技術を商品にして顧客を取り、利益を残す立場になります。それを望むなら独立は良い選択肢です。しかし、純粋に技術を伸ばしたいのであれば、独立が最適解とは限りません。「技術を伸ばしたいのか、事業をつくりたいのか」ここを混同すると、判断を誤ります。
■X民の収入アップ報告を鵜呑みにしてはいけない
独立後の収入アップについて、Xにはかなりのバイアスがあると思います。
うまくいっている人ほど発信します。大きい月ほど見せやすいです。一方で、案件が途切れた期間、営業に費やした時間、社会保険の負担増、機材への投資、未回収リスク、有給休暇がないこと、退職金がないこと…… こういったコストは発信されにくいです。
「独立して年収が会社員時代の1.5倍になった」という投稿を見たとき、額面だけで判断してはいけません。
独立して取り分が増えるのは当然です。会社が担っていた営業機能・信用・間接業務・リスク管理・設備投資、これらを全部自分で背負うからです。「会社にピンハネされていた分が戻ってくる」という感覚は少し違って、「会社がやっていたことを全部自分でやるようになっただけ」です。
■成長できない会社なら、独立より転職を
ここで一点、重要な前提を整理しておきたいです。
独立を勧める人はよく「会社員だと成長できない」「裁量がない」「収入が上がらない」と言います。しかし、それは多くの場合「今の会社が合っていない」という話であって、「会社員という選択肢が悪い」という話ではありません。
成長できない会社から抜け出す手段は、独立だけではありません。転職もあります。
成長できる会社に移れば、独立しなくても、会社の資産・予算・チームを使って大きな仕事に関われます。技術的なチャレンジも、安定収入がある状態で挑めます。「会社員が嫌なら独立」という二択の発想は、少し単純すぎると思います。
■結局、何が重要なのか
独立か会社員かという二項対立よりも、本質的に重要なのは以下の3点だと思います。
- 大きな挑戦に触れられるか
- 失敗コストを吸収できる環境があるか
- 個人では届かない仕事に関われるか
この条件を満たしているなら、会社員でも独立でも、技術者としての成長は続けられます。逆にこの条件を満たさないなら、会社員でも独立でも、成長の傾きは落ちていきます。
私は独立を否定したいわけではありません。
事業をつくることに面白さを感じる人、営業や顧客開拓を楽しめる人、自分の専門領域を絞り込んで高単価で売れる人にとっては、独立は非常に合理的な選択です。
ただ、「技術を極めたい」「より大きな仕事に関わりたい」「新しいことに会社の予算で挑戦したい」という志向があるなら、独立よりも良い環境への転職を先に検討すべきだと思います。
エンジニアとしての成長を最優先にするなら、「どこで独立するか」より「どの環境に乗るか」の方がはるかに重要です。
Want to publish your own Article?
Upgrade to Premium