Blog建築家が考える
プレミアムリフォーム・リノベーション

Architects think of Premium Reform & Renovation

高級マンションリフォーム・リノベーションの設計とデザインについて。
そのプロセスとノウハウを余すところなく公開しています。

神間という空間_マンションリノベーションでの和室の設計

渋谷区L邸

渋谷区L邸のLさまご家族にとって特別な意味を持つ和室「神間(かみま)」と呼ばれることになった部屋の設計と施工の記録をご紹介します。
リノベーション前のこの場所は、ダイニングテーブルが置かれ、その奥には大型ワインセラーが格子の引き違い扉の中に納められた、いわば「ワインコーナー」となっていました。ワイン好きなご夫妻がお客さまとゆっくりとした時間を楽しむ空間となっていました。

今回のリノベーションでは、住戸全体の用途と使い勝手を見直す中で、この場所の役割を大きく転換することになりました。神棚と仏壇を据えた「神間」として再構成するという方針です。

設計が動き始めた段階で、僕ら設計側が色々な和室のイメージ写真を集めて、お二人の好みを伺っていきました。お茶をたしなみ、和服もお好きな奥さまは、お茶室にも使える和室というイメージもあったようですが、ご仏壇と神棚の神間ということで、方向性を確認していきました。

事務所での打ち合わせでは、参考イメージ画像と、実際の畳・木材(まだこの時点ではシートで色味の確認です)・和紙壁紙のサンプルを並べて確認していきました。和室の設計は、洋室以上に素材そのものが空間の質を決定づけます。畳の種類、天井板の樹種、壁の塗り、長押の意匠、どこまで本格的な和室にするのか、簡易的なものにするのかを一緒に悩みながら考えていた段階です。

見積りの為の図面は、平面図・天井伏図・仕上げ表を一枚にまとめ、各部の寸法と仮の素材を一目で確認できるようになっています。カガミ建築計画の設計補助で入ってくれたハク・アーキテクツスタジオの後藤さんと関さんは、最近お茶室や和室を設計する機会が多く、僕、各務より余程和室に詳しいので、とても頼りになりました。

和室には和室ならではのルールがあるのですが、またそのルールからどうやって逸脱するかもまた設計者の腕の見せ所で、長押の高さ、天井の段差から畳の割付まで、すべてを設計者側で決定し、図面化していくのです。特に苦心したのが、神棚と仏壇まわりのディテールです。神棚は天井に近い高い位置に、仏壇はその下方に配置する。この2つの「祈りの場」が同じ壁面に並ぶ構成は、中々に複雑なのです。

寸法と仮の素材が固まった段階で、神間のCGパースを作成し、Lさまご夫妻に確認していただきました。図面と素材サンプルだけでは、最終的にどんな空間になるかは設計者にしか想像できない部分があります。CGで空間を立体的にお見せすることで、お客さまにも同じ視線で空間を考えて貰うことができるのです。

工事は、既存の壁・天井をすべて解体して、コンクリート躯体まで戻すスケルトン状態からスタートしました。LGS(軽量鉄骨)で新しい間仕切り壁の骨組みを組んでいく段階です。この時点では、まだ「この部屋が和室になる」という気配は全くありませんね…。

LGS下地に石膏ボードを貼り進めていきます。和室では、柱を見せる真壁(シンカベ)という納まりを使うのですが、今回はマンションリノベーションなので、柱は付け柱という形で施工して貰っています。

押し入れの造作と天井が張られてきました。当初は予算を考えてプリント石膏ボードも検討しましたが、最終的には超高級品の杉の杢目板となりました。良い素材を使うと、良い空気が漂ってくるのです。

ここから一気に「和室」の表情が現れてきます。杉杢目板の天井に、杉無垢の竿縁を一定間隔で並べます。垂木は単なる装飾ではなく、天井の構造的なリズムを生み出し、空間の縦横比を整える役割も果たしています。マンション内の和室で、エアコン吹き出し口や自火報が入ってくるので、それらを垂木リズムに合わせてレイアウトすることがポイントとなります。

開口部の奥がリビングダイニングで、建具も入ってきていますね。建具のディテールについてはまた後程書きますが、モダンなリビングダイニングと和風な神間をどのような建具で仕切るかは、当初から悩みに悩んできた部分です。

こちらは、腰貼りに使う和紙選びです。手染の和紙を選んだので、色むらがあるのをどうバランスをとるかを設計&施工で集まって相談している様子です。

畳が入り、腰貼りと上部の仕上げが出来上がり、ほぼ完成状態となりました。壁仕上げは当初は左官仕上げとしていましたが、設計の途中でお子さまが生まれてくることが判ったので、和紙壁紙で仕上げることとなりました。

神棚が設置されていますね。位置と高さはLさまと一緒に現地で見ながら慎重に行いました。こちらも様々なルールがありますがが、絶対的な決まりは無いので参拝する際の視線の高さ、隣に来る仏壇とのバランスを、現場で実際にメジャーを当てながら最終確認して決めたものです。

仕上げがひと通り出来上がった神間の様子です。藍色の畳縁、杉の野地板天井に並ぶ化粧垂木で整えられた空間に神棚とご仏壇が並びました。床板のサイズをご仏壇に合わせて広くとっています。中々難しいバランスでしたが、全体として静かな調和を生み出しているのではないでしょうか…。

この神間には正式な床が無いのですが、窓側には一段床を上げた地板スペースを設けています。以前よりお手持ちの軸を飾りたいとのご希望でしたので、施工をお願いした三井デザインテックの武智さんと坂本さんに手伝ってもらって高さを確認しました。

ご仏壇から神棚、そして地板スペースと並んだ様子です。神棚とご仏壇が並ぶ壁面です。仏壇の扉を開いた状態でも、神棚とのラインが整っており、双方が干渉せずに「祈りの場」として成立しています。神棚の下方には以前よりお持ちのコンソールを経机として置いています。
右手の引き違いの押し入れの上部はエアコンの吸込み口となっています。

リビングから神間へと至る入口です。引込み戸を開けた奥に神間があり、(この写真時は夜ですが)右奥の床板の格子戸から光が差し込み、風も通せることはお客さまから依頼されていたことでした。

神間の入口に設けた引込み戸は、今回のプロジェクトの中でも特に悩んだ部分です。完全に閉じれば神間は独立した空間となり、開ければリビングと一体的に使えます。

上半分に入っているガラスは透明な板ガラスではなく、縦のリブが入ったモールガラスです。視線を程よく遮りながら、光と気配だけは通すという、和室の障子に古くから求められてきた性質を、現代の素材で再解釈した形です。フレームと面材はオーク材でそこに引手金物を埋め込みました。

リビングや寝室で作った建具と似たような寸法体系でデザインしたところ、モールガラスの重さに耐えられないのではとの指摘が施工側からあったので、枠材のデザインを工夫してより頑丈な作りとしています。

リビング側から見た神間の入口です。建具を閉じている状態では、神間の存在は壁面の一部として静かに溶け込んでくれています。

リビング側からみるとモダンなデザインに見えて、左側にあるメゾネット上階への階段入り口の扉デザインと合せています。
「神間」という呼び方は、Lさまご自身がこの部屋に与えてくださった名前です。設計者として、この名前にふさわしい空間をつくる責任は中々のものでした。しかし、完成した神間に立つと、空間そのものが持つ静けさが、これまでの労力を報いてくれるような気がします。

最後の写真は3月にご挨拶で伺った際の様子です。5段のお雛さま人形が飾られていました。この神間はLさまご家族にとって、家族の祈りの場でもありながら、季節の節目を祝い、ご家族の歴史を重ねていく場所でもあります。神棚と仏壇に手を合わせ、お子さまの成長を願う。リノベーションが完成して数ヶ月、この部屋がご家族の暮らしに静かに溶け込んでいる様子を拝見し、設計者として何より嬉しい時間でした。