‘’へぇ〜そーなんだ〜!‘’
‘’でも結局は―――‘’
‘’あー、うんうん〜‘’
「よしっと…珈琲でも淹れようかな」
時計の針は3時をさし仕事の方もちょうど一区切り着きそうな頃。ふと視線を上げるとめぐると智代子、それと樹里がなんだか盛り上がっているようだった。
「3人も珈琲とか…あ、紅茶とかのがいいか?」
空になってしまっていたカップを片手に一言かけると
「あ!じゃー私も珈琲!」
「砂糖多めなら私も〜」
「ん、アタシ手伝うぜプロデューサー」
3人とも珈琲でいいらしい。
手伝ってくれると言う樹里にありがとうと言いつつキッチンへ。連れ立って私も手伝うと言う2人を別にいいってと制しながら樹里は隣へ来た。
「ごめんな。話、邪魔しちゃったか?」
「ん?いやあんま会話入れてなかったし別に気にすんなよ」
…ちょっと驚きだ。
見た目は少しキツめだが樹里は誰とでも打ち解けられる人柄だと感じていたし実際にそうである。が意外と繊細な感じだったのか?と訝しんでいると
「なんだよ、アタシだってあんま得意じゃねー話題とかあるんだよ」
噛みつくような視線に「わ、話題か〜…はは」と障りない相槌をうつと樹里は顎でクイッとソファにいる2人をさした。
まぁ盗み聞きとは言うまいが耳をそばだてると―――
「もう昨日で5人目で〜」
「あはは、まぁ嬉しい事だけど困っちゃうというか、ね」
「う〜…そうなんだよね〜…」
何の話だ…?5人目?
「特に人がいる所でされるとね…」
「うんうん、言葉に詰まっちゃうよね」
「 「告白されるのって」 」
…あぁ、なるほど
まぁめぐるも智代子もアイドル。
…まぁそういった贔屓目なしでも男達からしたら放っておけないだろうしなぁ…というか俺もそうであったからプロデューサーとしてだが声をかけたわけだし
…っていうか5人目!?まだ週の半分といった所なのに5人目!?
すごいな…と感嘆の息を漏らすと樹里が同意を求めるように肘で小突いてくる。
「な!」
「はは、確かにちょっと入りづらい話題かも―――…」
「…?んだよ」
「いや別に樹里も入れる話じゃないかなって」
「あ?」
「樹里も学校で告白されたりーみたいの、あるだろ?」
思えばうちの事務所の子はそこら辺皆凄そうだな。流石にめぐると智代子以上の子はいないか?咲耶は男女問わずだったらそれよりあったりするのかもしれないが…
「…アタシはそんなだよ、てかない…」
…ない?
そんな樹里の消え入りそうな返答はまさに予想外な事でその拍子に手が滑り巨大な砂糖の塊が珈琲の中へドボンっと消えていった。
これはー…智代子の分にするか…
「な、ないってないのか!?」
「ないったらないんだよ!ほら見た目こんなだしよ…」
まぁ確かにちょっとキツめなルックスであるのかもしれないが流石にそれは…
「それは…樹里の良さが分かってないんだよ」
「ぁー…ッは、あ゛!?」
今度は樹里の手元が狂いまたしても巨大な砂糖の塊が珈琲に消えていった。
あれはー…めぐるの分にしよう…
「ア、アンタ何言ってんだよ…!」
鯉のようにパクパクと口をわななかせる樹里。
「何言ってるって樹里の周りの奴らは節穴だって」
「………ぉぃ」
「確かに樹里はちょっとキツめなとこもあるけどすごいかわいいし」
「……おい」
「俺がもし学生だったら告白してたかm
「…お゛い゛!」
もういいから!と樹里の肘鉄が脇腹に突き刺さった拍子にまたまた砂糖が消えていった。
それ樹里の分だからな…
少しばかりのフォローのつもりが勢い余ったようで樹里は顔を赤くしていた。でも流石に樹里が告白されないってのは何かしら思い違い等があるんだろうとは思う。だって…
だって俺ですら学生時代の頃は週2ペースで告白されていたのだから
今は褪せた青春時代に思いを馳せつつ珈琲へミルクを注いでいく。ぐるぐると渦巻く白と黒は混ざり合いそれこそ褪せた色となった。
「よし、手伝ってくれてありがとうな樹里」
「あ!?いや別に…それよりさっきの…告白がどうのこうのってアンタ本気で―――…
4つのカップをおぼんにのせよろよろと珈琲を運ぶのに注進する俺の背中に何か樹里がごにょごにょと話しかけるがよく聞き取れなかった。
まぁ、後で聞いてみれば良いか。
□ □ □
「ねーねー、そー言えばプロデューサーは何かそういう話ってないの?」
ほぼカフェオレになった珈琲に頬を綻ばせながらめぐるが先程の話題の矛先をこちらへ向ける。
智代子も興味があるのかふすふすと頷く。
樹里はまだごにょごにょと何か言っていたがめぐると智代子のはきはきとした声量にかき消されてしまった。
うん、後で聞くから許してくれ樹里…!
「俺か?うーん…何かめぐる達の後だとちょっと見劣りするっていうかな…はは…」
「そんな事ないですよ!プロデューサーさんのきったはったの話聞きたいです!」
これ恋バナだよな?なんだきったはったの話って…
しかしこれはおだてられているのか…年長者の昔話ほど退屈なものもないというのに。
「うーん…でもなぁ…智代子達と比べたら週2〜3ペースだしそんなにすごいものじゃないしな…」
「…??…週2?3?とは…?」
「ん?告白されたって話じゃないのか?」
「 「 「…………」 」 」
3人とも独特な間と共に石像のようにピシリと固まってしまった。そしてゆっくりとテーブルへカップを置くとその後も押し黙ってしまう。
砂糖が溶けきってなかったのか?あれだけ塊で行ったからなぁ…ジャリっていっちゃったのかもしれない。
「ちょ、ちょっとタイム〜…」
めぐるは両手でTの形を作ると両隣の2人と身を寄せコショコショと内緒話の体勢に入った。
「ど、どう思うこれ…」
「どうって…プロデューサーさんは嘘つくような人じゃないし」
「え、じゃあマジってことかよ…」
「でも週2~3だよ!?」
「さっきチョコ5人目がどうとか言ってたよな…」
「いや私は一応アイドルってだけで…いやめぐるちゃんの方がすっごいんだよ!」
「マジかよ…」
「そんな事より!プロデューサーだよ!ぇ、え…!?」
コショコショと何やら盛り上がっている3人。
さっきは話に入りづらいだなんのと言っていたが…なんだ、樹里もやっぱり入れるじゃないか。なんて思いお邪魔虫は退散するかなと珈琲をクイッと飲み干した。
「っよし、じゃあ俺は仕事戻るから」
そんな調子に席を立とうとする俺に
「ちょ!ちょ〜っと待ってよプロデューサー!」
そう引き止めるのはめぐる。
「えーっと、その…あっ!プ、プロデューサーの話もっとキキタイナー!…なんてー…ダメ、かな?」
うるうると上目遣いにお願いしてくるめぐるに援護射撃をするように隣の2人も「うんうん!」と赤べこのように頭をぶんぶん振る。
う〜ん…こういったお世辞は躱すべきなのか…
「ね!ね!ほら座って座って〜」
頭を悩ませる間にめぐるに強引に椅子に戻される。
もしかしたら彼女らにとって男性側の知見というのは希少なのかもしれない…だったら語るに落ちる、なんてたまにはいいのかもな
「わ、わかった。…って言ってもなぁ…俺の話かぁ…」
いつの話をするべきか。どんな話をするべきか。薄っぺらとまで自虐はしないでもそんなに長く生きているわけでも面白いエピソードがあるわけでもないし
「え?うんうん。あー、なるほど」
何を話そうか迷ってる間に2回目のタイムがあったらしい。樹里と智代子がめぐるに何やら耳打ちしている。
直接言えばいいのになんでめぐる越し…
「あー、プ、プロデューサーはなんか、ほら、昔の写真とかないんですか??」
なぜインタビュー風…マイクをこちらに向けるジェスチャーのめぐる。
まぁいいけどさ…めぐるが敬語使ってくるとむず痒いな…いいんだけどさ…
「写真…写真かぁ…アルバムとかなら実家にはあるけど―――」
「 「 「 アルバム!!?」 」 」
…食いつき良いな
「じ、実家ならな!ほら、でも今はなんも…いやスマホなら多少は写真とかあるかもな」
「 「 「 シャシン!!?」 」 」
…なんでだよ。…写真は別にビックリポイントじゃないだろ。
最早何を言ってもびっくりするらしい3人を他所にスマホを取り出しスイスイとフォルダをスクロールする。
一応写真系は全部引き継ぎしていってるはずだから昔の…流石に中学とかのはないか…あ、でも高校のとかはポツポツあるな
おぉー、懐かしいなこれ。って言ってもそんな昔のものじゃないけど…これはー…確か体育祭の時のだっけか
「あ!あ!これ!プロデューサーさんですよね!…わっ!体操着!レアですよ!これ!値打ちものですよ!」
いきなり真横から大きな声。というか智代子がもたれかかってくる。スマホの写真が気になっていつの間にか隣にまで来ていたらしい。
てか値打ちものってなんだよ…
「わ〜!これ高校生?くらいだよね!?今よりちょっと髪も短いんだ〜!」
更に逆サイドからも大きな声。もといめぐる。智代子同様気になって近づいてきたらしい。
ていうか近い…というより狭い…
……ってあれ樹里は?
頭をパッと上げるがそこに樹里の姿は無い。
「あでっ…!」
代わりに空から素っ頓狂な声。両サイドの質量になるべく刺激を加えないように首を捻ると
「い、いっつ〜…」
鼻を抑えた樹里がいた。樹里も気になって近くに来たはいいものの両サイドが埋まってたために後ろから覗き来むように見ていたらしい
「あ、わ、悪い樹里!平気か!?」
「な、なんとかな」
ちょっとばかし痛そうな様子だが好奇心よりは優先されないようだ、「んっ」っとスマホの方を顎で指す樹里。
「 「…………」 」
……?
一体全体どうしたもんか、さっきまで両隣で「こ、これは!」とか「わ!」と賑やかだった2人が今度はやけに静かになっている。
目線をスマホへ戻せば2人でいくつかスクロールしたりしていたのか写っている写真がさっきとは違っていた。
画面には高校生の自分、体操着、までは変わらないがその自分へダイブするように抱きつく女子の写真があった。
この子は確か隣の席だった―――
「ナ、ナニコレ、プロデューサー…」
ぷるぷると震える指で画面中央へ抱き合う男女をアップするめぐる
「…エ?エ?プロデューサーサンガ…エ?」
智代子にはがくがくと肩を揺すられる。
「っちょ、おい、チョコ、あんまプロデューサーの事揺するなって、画面見にくいだ…って…ぇ…」
そして今しがた背後からその画面を視界に収めたであろう樹里の息を飲むような声。
先程までのコーヒーブレイクのほっこりとした空気はもうそこになく、何故か見られたら不味いものを見られたという実感だけを感じていた。
そして3方向から感じる「セツメイシテヨ」のオーラ
「こ、これはー…高校生のやつだな、うん!あの…体育祭で、その、クラスリレーをだな…なんか、勝ってー……盛り上がってーー……だな…」
だなって多くない?自分でもそう思うほどだなだなと連呼し言い訳のようにつらつらと喋る。
「…ヘー…ソーナンダ。ちょ〜っとタイム〜…」
めぐるは先程より若干萎びたようなTサインを力なく作るとまたもや3人でコショコショと内緒の話をし始めた。
「どう思うこれ…」
「どうって…プロデューサーさんは嘘つくような人じゃないけどさ…」
「え、じゃあマジってことかよ…」
「でも抱き合ってるよ!?」
「盛り上がっただけで〜とか言ってたよな…」
「いや一応そういうテイってだけかもしれないじゃん!」
「マジかよ…」
「そんな事より…プロデューサーが…ぇ、え…!?」
3人はこちらをチラチラと見ながら作戦会議の様相だ。
「アレってやっぱり付き合っt」
「ま、待ってよ!まだ早いよ!まだ抱き合ってただけだしさ!」
「ううん、あれは愛情のハグだよ。私には分かる、親愛のハグとは違うヤツだよ!見てよ…ほら、胸が相手の顔にいくように抱きしめてるでしょ?」
「さ、流石めぐるちゃん…!」
あれ?いつの間にスマホを取られたのだろう。さっきまでは手元にあったのに…なんて思ったが3人はその間にもあーだこーだと画面を叩いている。
「体育祭で盛り上がってそのままー…ってことかよ…」
「くっ…ぅぅ…」
「…っき、聞くしかないよ、直接」
「め、めぐるちゃん…?」
「…ああ、聞こうぜ、ちゃんと」
「樹里ちゃんも…」
「だ、大丈夫!プロデューサーの事だから案外ー…みたいな、ね!」
「っ…うん。じゃあめぐるちゃん、聞いてみてくれないかな」
「え、えぇ!?わ、私が!?」
「こう、1番スパッと言ってくれそうだしさ…お願い!」
「ア、アタシからも頼む!」
「(こ、断りづらい〜…でも…私だって…!)」
そうして3人がこしょこしょと話す時間が暫く続き会議を終えたのか代表っぽいめぐるがコホンっと咳払いを1つ。そして3人で顔を見合って頷く。
「ソノー…ヤッタ…?」
「(っめ、めぐるちゃーん!スパッと聞きすぎだよー!!)」
「(ヤッ…///)」
「(ぇ…?あああああ〜っ…!!私今なんて…!?)」
静寂とは裏腹にその場の全員の心中にはそれぞれの心の叫びが嵐のように飛び交う。
そしてそれは勿論プロデューサーの心の中でも―――
…………ヤッ……??めぐ…っ今なんて…ヤッ…???
き、聞き間違えだよな…きっとそうだ、そうじゃなくても多分そうだ。
めぐるが―――あのめぐるがそんな事言うはずないし言ったとしても俺の脳裏に浮かんでしまった意味ではないはずだ。そうに違いない、うん。
これだから男は…やれやれ…全部が全部そういった意味で捉えてしまう、全くやれやれだ。
「ヤッタ。ッスー…あぁ、めちゃくちゃヤッターって感じ、だな」
これだ、きっとそうだ。そうだよな、そんないやらしい的なヤッタでなくて喜び的なヤッターなんだ。そうだよそうなんだよ。良かったなんとかすんでのところで上手く返せた…
「 「 「 (め、めちゃくちゃヤッタ!!?)」 」 」
その瞬間、3人は目の前で膝を折って地面に崩れた。
「ちょ!?おい!平気か皆!」
「う、嘘だよね?プロデューサー、そんな…」
「じょ、冗談だろ?なぁ…ヤッモニョモニョなんてよ…」
「めちゃくちゃ…?…………?」
皆目が虚ろだ…ていうか絵面もやばい。女子高生3人を地べたに転がしたようなこの絵面、万が一にでも人に見られたりなんかしたら―――
「こんにちはー」
噂をすれば影、のように間の悪いタイミング。そこに入ってきたのは
「…なにやってるんですかー?コレ」
ふわふわとした紫の髪を2つにまとめ、 ダボッとした袖を口元に、微笑を隠す摩美々だった。
この終わり方... 続きがあるっ...てコト!?