公務員の離職に関する分析
ご覧いただきありがとうございます。某情(@3xqeTWA_BOJO)と申します。私はとある基礎自治体で14年間地方公務員として働いていましたが、2026年3月末をもって退職し、民間へ転職します。
転職にあたり、先日界隈の皆様に壮行会を開いていただき、温かい言葉と共に非常に盛大に送り出していただきました。特に直接ご報告をしていなかった皆様、大変申し訳ありませんでした。。。ちょっと個人的に趣味に走った予定を詰めまくってしまい、ちゃんとご挨拶できずにいました(という言い訳)。
その壮行会で、「公務員を退職する理由についてLT(ライトニングトーク)せよ」と1週間前にご指示いただきまして、東京の一流企業・団体でご活躍されているお歴々を前に、非常に拙いLTを行いました。そこで発表した内容を、今回はせっかくなのでnote記事にさせていただきます。
「せっかくなので」というのは、自分がnote記事を書いている理由「アウトプット練習」の良い機会になると考えたこと、退職理由について、自身の状況から地方公務員という組織の構造や仕組みにまで迫って考え抜いた結果を言語化しようとした、ということです。
結論をいうと、自身の状況から整理した結果、問題の根本は「管理職のマネジメント不足」ではないかと考えました。念のために補足すると、管理職のいち個人を「能力不足だ!」と責めるのではありません。地方公共団体という組織においては、構造的にそうならざるを得ないのではないか、ということです。また、僕にはマネジメント経験がありません。その程度の解像度の人間が書いていることをご了承ください。
それを「若い人の価値観」で片づけるのは、たぶん雑なんだと思う
最近、公務員の退職者が多いな、と思います。
こういう書き出しをすると、
「いや昔から一定数はいたでしょ」
と言われそうです。
たしかにそうだと思います。昔から辞める人はいました。
ただ、ここ数年のそれは、もう少し別の手触りがある気がしています。
たまたま誰かが辞めた、ではなくて、じわじわと、でも確実に「このままでは続けられない」と判断する人が増えている感じ。
もちろん理由はいろいろあると思います。
転職市場が広がったとか。
民間の方が福利厚生の面で有利な場面が増えたとか。
リモートやフレックスなど働き方の選択肢が見えやすくなったとか。
そのあたりは、たぶん全部本当です。
でも、それだけで説明しきるのは少し無理がある気がしています。
最近はむしろ、別のことを考えるようになりました。
公務員の退職者が増えているのは、もしかすると、かなりの部分で
上司のマネジメント力不足が原因なのではないか。
……いや、もう少し丁寧に言った方がいいですね。
上司個人の資質の問題というより、地方公務員組織ではマネジメントが育ちにくく、機能しにくく、しかも報われにくい。
その結果として、職場が持続可能でなくなっているのではないか。
色々と考えた結果、そう思うようになりました。
こういう話を書くと、どうしても誰かを雑に悪者にしているように見えやすいのですが、そうしたいわけではありません。
むしろ逆です。個人攻撃ではなくて、構造の話です。
直接的な退職理由を一本の線でつなぐと「マネジメント」に行き着く気がした
自分が辞める理由を考えたとき、もちろん個人的な事情はいろいろありました。
家族のこと。
働き方のこと。
この先も同じやり方で働き続けるイメージが持てなかったこと。
責任感のある人に仕事が偏りやすい環境に、人生を預け続ける合理性が見えなくなったこと。
この辺は、こちらの記事で詳しく触れています。
どれも間違いではありません。
ただ、後から振り返ると、それらをばらばらの事情として整理するのが、だんだんしっくりこなくなってきました。全部の根っこに、同じ問題がある気がしたんです。
それが、マネジメント不全です。
誰に負荷が偏っているのか。
誰が毎回、落ちる仕事を拾っているのか。
どの業務が実質的に破綻しかけているのか。
家庭事情や生活上の制約を、個人の都合として片づけるのではなく、組織設計の条件としてどう扱うのか。
問題のある仕事の進め方や、曖昧な役割分担をどう是正するのか。
本来(非常に難しいと思いますが)こういうことを調整するのが管理職の役割のはずです。
でも、そこがうまく働かない。すると何が起きるかというと、結局同じ人が何とかしなくてはならないんですよね。
落ちるボールを拾う人。
断れない人。
責任感のある人。
あるいは、目の前の混乱を見過ごせない人。
そういう人が、制度の足りない部分を埋める側に回る。
外から見ると、組織は一応動いています。
手続も進む。締切も何とか守る。大きな事故も表面化しない。
だから、問題がないように見える。
でも実際には、組織が強いのではなく、誰かが下で踏ん張っているだけだったりする。
あれ、橋が丈夫なんじゃないんですよね。
橋脚のかわりに、人が入ってるだけなんです。
見た目はインフラ。中身は根性。それで長持ちするなら誰も苦労しないってか。
ただ「上司が悪い」で止めると、たぶん話が浅くなる
ここで話を止めると、単なる恨み言になります。でも、自分の見てきた範囲では、そんな単純な話でもないと思っています。マネジメントが弱いのは、管理職が怠けているからとか、能力が低いからとか、そういうことではないと思います。もう少し構造的です。少なくとも、地方公務員組織では、マネジメントが弱くなりやすい理由が三つあるように思います。
1. そもそも、マネジメントを学ぶ機会がかなり少ない
地方公務員は、業務知識を学びます。
法令も(ちゃんと学ぶ人は)学びます。
制度改正も(ちゃんと追う人は)追います。
通知文の読み方も、嫌でも覚えます。
住民対応も、現場でかなり鍛えられます。…多分。
でも、マネジメントそのものを体系立てて学ぶ機会は、少ないんじゃないでしょうか。
気づいたら主任になっていて、
気づいたら係長になって議会対応とかしなくちゃいけなくなって、
気づいたら部下を見る立場になっている。
それ自体は人事制度として珍しくないのかもしれません。
ただ、多くの場合は「過去に見てきた上司のやり方を参考にする」
になりがちなのではないでしょうか。要するに、見よう見まねです。
もちろん、経験から学ぶこと自体は悪くありません。
ただ、最近読んだモノの本によると、マネジメントって、本来もう少し技術的なものだというんですよね。
誰がボトルネックになっているのかを把握する。
業務量の偏りを可視化する。
配分を変える。
曖昧な役割を明確にする。
必要な是正を行う。
責任感のある人材が壊れないように育てる。
こういうのは、気合いでも善意でもなく、かなり技術に近い。
なのに、それを正式に学ばないまま管理職になる。
結果として、どうなるか。
話は聞く。
気持ちは受け止める。
共感もする。
励ましもする。
でも、業務設計そのものには踏み込まない。
いや、踏み込めないのかもしれません。
ここ、わりと大きな違いだと思っています。
優しい上司はいます。
飲みに誘ってくれて、愚痴を聞いてくれて、誰それが仕事をしない!なんとかしてください!という話を受け止めてくれる。
でも、優しいだけでは仕事は減らない。
受け止めてもらって少し楽になることはあっても、構造が変わらなければ、また同じことが起きます。
傘を差してくれる人はありがたい。
でも、欲しいのは傘だけじゃなくて、雨漏りしている天井の修理なんですよね。
この違いを曖昧にしたまま、「うちの上司は話を聞いてくれるから良い上司」で終わると、たぶん現場はじわじわ削れます。静かに削れる職場って、なんかやだなぁ。
2. 近年は、必要なマネジメントまでやりにくくなっている
これは少し慎重に書かないといけない話だと思っています。
まず前提として、本物のパワハラは論外です。
それは厳しく是正されるべきですし、そこを曖昧にするつもりはありません。そのうえで、現場感覚として思うのは、近年は本来必要なマネジメント行為まで、かなりやりにくくなっているのではないかということです。
注意する。
期待値を明確に伝える。
役割分担を見直す。
問題のある対応を改めてもらう。
便利な人に仕事が集まる構造を止める。
できていないことを、できていないと言う。
本来なら、どれも管理職に必要な行為のはずです。
でも、それをやるたびに、
言い方は大丈夫だったか。
受け止められ方は問題ないか。
自分が強く出たと見なされないか。
トラブル化しないか。
そういうことを、常に気にしながら進めることになる。
もちろん、配慮は必要です。
言い方も大事です。
記録も必要でしょう。
ただ、その慎重さが行き過ぎると、最終的には触れない方が安全という学習が起きる気がします。これが地味に怖い。
管理職が怒鳴らない・責めない・強く言わない。
表面上は穏やかです。
でもそのかわり、
言うべきことが言えない。
止めるべきことも止められない。
是正すべきことも、できるだけ曖昧にする。
そうなると、職場は一見すると平和です。
でも実際には、必要な調整が先送りされているだけだったりする。
沈む船って、いつも派手な音を立てるわけじゃないんですよね。
どこかの継ぎ目から、静かに水が入ってくる。
誰かはたぶん気づいている。
でも、見ない方が面倒が少ない。
そうしているうちに、足元が冷たくなってくる。
そういうことなんだと思います。
でもマネジメント未経験の自分からすると、この辺本当に難しいんじゃないかと思います。自分は絶対やりたくないとまで思ってしまう。
3. ちゃんとマネジメントしても、正直報われない
これがいちばん根本にある問題で、かつ深刻かもしれません。
仮にある管理職が、本気でマネジメントをやったとします。
仕事の偏りを見える化する。
便利な人に負荷が集中するのを止める。
曖昧な役割分担を整理する。
問題のある職員に、期限や期待値を明確に伝える。
「これはこのままでは回らない」と言う。
受けすぎている仕事を止める。
正しいことだと思います。
少なくとも、持続可能性を考えるなら必要なことです。
ただ、こういうことをやると、だいたい波風は立ちます。
今まで曖昧さの中で済んでいた人は、居心地が悪くなる。
仕事を拾ってもらっていた人も困る。
その場しのぎで何とかしていた仕組みは、見直されると少し痛む。
つまり、ちゃんとやるほど摩擦が生まれやすい。ところが、その摩擦が、必ずしも評価されるわけではない。むしろ、地方公務員組織ではときどき、
「大きな揉め事を起こさないこと」
「表面的に穏便であること」
「波風を立てないこと」
が、良い上司・評価の高い上司の条件になっていないか、と思うことがあります。いわゆる減点方式です。
マネジメントって、本来はどうしても波が立つものだと思うんです。
配分を変えるんだから。
是正を求めるんだから。
今までの曖昧な均衡を崩すんだから。
水路の詰まりを本気で直すのに、水が一滴も跳ねないわけがない。
なのに、
静かだったから優秀。
揉めたから未熟。
みたいな評価軸になると、管理職は何を学ぶか。
たぶん、何もしないのが最適解になります。
僕もどちらかというと波風立てたくない派なので、結局この選択をしてしまったのではないかと思います。だからとても責める気になはれません。
その選択は合理的です。でも、組織としてはかなり不合理です。
制度上は管理職がいる。
でも実際には、厄介な調整には踏み込まない。
誰かの負荷が偏っていても、大きな事故になるまでは手を入れない。
そのかわり、空気だけは悪くしない。
場の空気を整えること自体は大事なんですけどね…配管が詰まったまま空気だけきれいでも、長くはもたない気もします。
辞める側の問題に寄せすぎてません?
ここまで考えると、公務員の退職者が増えている理由を
「最近は転職しやすいから」
「若い人は価値観が違うから」
だけで説明するのは、やっぱり少し雑だと思います。
それも理由の一つではある。
でも、もっと手前に、職場の持続可能性を左右する問題がある。
マネジメントが弱い。
そしてその弱さは、単なる個人の能力不足ではなくて、
学ぶ機会が少ない
実践しづらい
実践しても報われにくい
という構造から生まれている。
そう考えると、なんだか自分にはしっくりきました。
責任感のある人に負荷が偏ること。
善意依存の運用になること。
危機のときに、組織ではなく個人が前面に立たされやすいこと。
家庭事情や生活制約が、組織条件ではなく「本人の都合」として処理されがちなこと。
そして、残ってほしい人ほど、自分の人生を守るために辞めていくこと。
全部つながっている気がするんですよね。
辞める人が弱いのではなく、辞めたくなる組織の条件が揃ってしまっている。少なくとも、自分にはそう見えました。
では、上司を責めれば済むのかというと、たぶんそうでもない
再三繰り返してますが、個々の上司を責めれば解決する、とも思っていません。
管理職も大変です。業務は多い。説明責任は増える。人は減る。火消し案件は絶えない。ガバクラのような専門知識が必要な案件が増えている。
そのうえで、マネジメントを体系的に学ぶ機会も十分ではない。
しかも、踏み込むと自分が損をすることもある。
そんな環境で、理想的なマネージャー像だけ求めるのは、だいぶ酷です。
ただ、酷だからといって放置していい話でもない。
実際に人が辞めているので。
しかも、辞めなくていい人から辞めていく。
残っているべき人から、静かに見切りをつけていく。
これは職員個人の問題というより、もう組織運営の問題なんだと思います。
管理職の仕事を機能で語ると、ムズイ
すいません、色々言っておいて結局、課題の解決方法は出せませんでした。「ここのとこって、難しいですよね〜」で終わってしまっています。
「マネジメントってなんだ?どうあるべきだ?」を勉強するようになって、本来はもっと機能で見るべきなんだ、と思うようになりました。
組織全体の業務量や、誰が詰まっているかを把握する。
仕事の偏りを配分し直す。
問題を放置せず是正する。
業務が継続できるように、後進を育成する。
たぶん、軸はこのあたりです。
逆に言うと、この機能が働いていないなら、どれだけ人当たりが良くても、マネジメントとしては弱いままなのかもしれません。
ここを曖昧にしたまま「いい人なんだけどね」で済ませてしまうのが、たぶん一番危ない。いい人であることと、機能する上司であることは、重なる部分もあるけれど、多分同じではないので。ムズイ。めっちゃムズイよ。。。
注:公共の仕事そのものを否定したいわけではない
最後に、ここはちゃんと書いておきたいです。
自分は、公務そのものが嫌いになったわけではありません。
公共の仕事は本当に大事だと思っています。
誰かの暮らしを支える。
地域を回す。
見えにくいところで、社会を今日も成立させる。
あれは明らかに価値のある仕事です。
だからこそ思うんです。そんな大事な仕事を、個人の善意と自己犠牲と、波風を立てない配慮だけに寄りかかって回すのは、もう限界なのではないかと。
最近の公務員退職者増加の原因は何か、と聞かれたら、現時点で自分はたぶんこう答えます。
「上司のマネジメント力不足。ただしそれは、上司個人の力量だけの問題ではなく、マネジメントを学ばせず、やりにくくし、やっても報われにくい地方公務員組織の構造問題だと思う」
このあたりに目を向けないまま、「最近の若い人は」とか「民間の方が魅力的だから」みたいな話だけで済ませるのは、やや丁寧さが足りない気がします。
辞める人の側を分析するより先に、辞めたくなる組織の側を見た方がいい。少なくとも自分は、最近そう思っています。たぶん、そこを見ない限り、次の誰かもまた静かに辞めます。
そしてそのたびに、組織は少しずつ「なぜか人が定着しない場所」になっていく。
静かな劣化って、だいたいそうやって進むんじゃないでしょうか。



はじめまして!私も3月末に地方公務員を退職しました。 「欲しいのは傘だけじゃなくて、雨漏りしている天井の修理」に、とても共感しました。 色々な課題の大元に、マネジメント不足があるというのも納得です。 だからって、「じゃあマネジメント研修をしよう!」ってなったとしても、研修だけでど…
はじめまして、コメントありがとうございます。「負担になっているあたりまえのようにしている事」を変えるのって多分すごくパワーが要ることですし、現状から変えたくない抵抗勢力がいるのでなかなか難しいんだと思います。それでも、少しでもいい方に代わってくれたらと思いますね。。。
公務員の離職に関する分析、データに基づいた視点がとても参考になります。なぜ公務員が離職するのか、その構造的な要因を理解することは、転職を考える公務員の方にとっても重要な視点ですね。私も元小学校教師として転職を経験した立場から、「安定」の裏にある課題と向き合うことの大切さを感じます…
コメントありがとうございます😊 元先生の方でしたか!学校現場にも通じるものがあったでしょうか。 こういうことは一度言語化すると自分も腑落ちするので、おすすめですね(^^)
非常に鋭い分析で 読んでて心地が良かったです。 「優しい上司は傘を差してくれるが、本当に必要なのは天井の修理」という言葉に、現場のリアルが凝縮されています。 個人の善意や責任感に依存する(=属人化する)組織は、一見回っているように見えても、実は「静かな劣化」が進行している。この…
コメントありがとうございます。 組織の持続可能性、大事だと思って書きましたので届いて嬉しいです。 もう辞めた職場ですが、公共ですので住民、納税者みんなに影響ある話です。人がやめない職場になると良いなと思います。
同世代地ハム(残留組)です。 論理的に本質を言語化しつつも、読ませる文章表現が素敵で、大変共感しました。 「落ちるボールを拾う人」「柱脚の代わりに人が入っている」「その場しのぎで何とかしていた仕組みは、見直されると少し痛む」「マネジメントは本来波が立つもの」等々。
コメントありがとうございました! 自分は断ることができない性格で、余計なものも安請け合いしてしまう悪い癖があり、そのためよく「落ちるボール」を拾い「柱脚」になっていたなぁと思い、書きました。共感いただけて嬉しいです😃