元ソニーCTOの北野教授は「私たちは科学が得意なのだろうか」と問いかけた。“AIドリブン科学”時代に日本で起こること

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なぜ「人間の科学」は限界に達しているのか
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AIとロボットに24時間365日、メタゲノム解析をさせる

MANTA Project
北野氏が取り組むメタゲノム分析を自動化する「MANTA Project」。
撮影:Business Insider Japan

北野氏がいま、沖縄科学技術大学院大学で取り組んでいることの1つが、まさにこの大量仮説と大量検証を前進させるための研究だ。「MANTA Project」という。

「実験プロセスの完全自動化を実現している。これはメタゲノム・シーケンス、メタゲノム解析の例だ。地下鉄マップのような図(上)は、メタゲノム解析の処理プロセス全体を表している。

私たちは実験に関わったひとりひとりの作業を特定し、作業を最適化し、ロボティクス化した。サンプルをベルトコンベアに置けば、サンプル準備、DNA抽出、すべて自動で進む。(中略)鍵は、『人間の介入がないこと』だ」

メタゲノム解析の処理プロセスの様子
解析のプロセスを特定して最適化し、ロボティクス化し、人間の介入なしで24時間365日止まることなく進むようにする。
撮影:Business Insider Japan

人間の介入がなく動きつづける分析環境を作る意義は、休むことなく、分析者(人)の技能差がない結果を大量に生み出せることだ。

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そして何よりコストを投じて並列化するほどに、探索のスピードも上げられる。

「24時間365日稼働し、世界のどこでも信頼性が高く、類似の、あるいは同一の結果を出すことができる。実験手順における人間の変動性はない。将来のGPUクラスターは、(分析するための)データに飢えており、(このような)実験システムのクラスターを作る必要が出てくるはずだ」

サイエンスの根本的な「問いの立て方」が変わる

北野氏はAIドリブンのサイエンスにおいては、「問いの立て方」自体が変わると指摘する。

「ある人は『サイエンスにおいて正しい問いを立てることが最も重要だ』とたずねます。はい、人間がサイエンスを行うなら、それは事実だ。

なぜなら、一人の人間が科学者として活動できる時間は限られているから。アクティブでいられるのは30〜40年しかなく、その期間に成功するには、正しい問いを立てなければならない」

「SusHi Tech Tokyo 2026」会場内を視察した小池百合子東京都知事
「SusHi Tech Tokyo 2026」の初日、会場内を視察した小池百合子東京都知事。
撮影:Business Insider Japan

しかしAIの場合、大規模な仮説生成が行われるため(多少の制限はあるにせよ)、『たった一つの正しい問い』を立てる必要はない、と北野氏。AIは数多くの問いを立てることができ、そこに重要な答えがある。それを人は発見していくことになると語った。

「それは私たちの科学の進め方の完全な反転であり、非常に重要なことだ。これによって、発見のコストが劇的に下がり、スピードが加速する。つまり、発見そのものがボトルネックではなくなるということだ。

そうなると、本当の課題は(大量の仮説から)『解決すべき問題をどうやって特定するか』ということになる」

ボトルネックの説明
AIドリブン時代のサイエンスは「ボトルネックがシフトする」とする。多様性こそが、競争優位性のメインファクターになると、北野氏は語った。
撮影:Business Insider Japan

では、AIドリブンサイエンスのボトルネックとは何か? 北野氏は「どの問題を解決すべきかを、どうやって特定するか」がボトルネックになると見る。

AI時代のボトルネックを解消させる重要な要素として、北野氏は意外なキーワードを口にした。「多様性」が重要だと言う。それはこういうことだ。

「認識論的多様性が必要になる。それは、組織内の人々の多様性、経験の多様性、人間の能力の多様性に由来する、『アイデアの多様性』(が必要)」

AIを前提としたサイエンス研究の世界では、チームや組織、企業の「同質性」は不利になる、と北野氏は考えているようだ。

「異なる人々でつくられた組織は、異なるニーズ、異なる問題、異なる理解を持っている。私たちはこの多様性を活かして、同質的な人々のグループだけが会社を運営していたのでは、理解できないような問題を特定できるようになる」

AI時代のサイエンス分野の発見は、「今後数年で、まったく異なる種類のボトルネックが現れることになるだろう」と北野氏は話した。


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