元ソニーCTOの北野教授は「私たちは科学が得意なのだろうか」と問いかけた。“AIドリブン科学”時代に日本で起こること
AIはノーベル賞級の発見ができるだろう
北野氏の「Future of AI(AIの未来)」をめぐる主張は、「単に科学者のツールとしてのAI」に挑むのではなく、AIを「科学者」として作り出すことが必要というものだ。 AI科学者の必要性について北野氏は、iPS細胞を発見した山中伸弥氏の発見プロセスを引き合いに出して説明する。北野氏によると、山中氏は最初24個の遺伝子のリストから始め、最終的に4つの「山中因子」(2006年発表)に絞り込み、iPS細胞の作り方を見つけ出した。これは典型的な「探索と最適化」のプロセスだという。 「(iPS細胞の発見について)興味深いのは、24個の遺伝子から4つを絞り込む前に、山中氏がコレステロール低減の研究に取り組んでいたという話だ。彼はコレステロールの低減に成功されたが、(その過程で)『NAT-1』を過剰発現するマウスが肝臓がんを持っていることに気付き、NAT-1という遺伝子に明確なターゲットがあるはずだと気づいた」 さらにこう続ける。 「(そして)NAT-1のような遺伝子で細胞を変化させるアイデアを思いついた。これは、点と点をつなぐこと(connecting a dots)だ。だから問題は、『AIが点をつなぐことができるか』ということ」 AI科学者を作り出す ── そのためには、一見無関係に思える“気付き”をつなぎ、ノーベル賞級の発見へと「点と点をつなげられるか」という能力の実現が焦点だ。 「膨大な仮説空間で点をつなぎ、ブレイクスルーを生み出せるか。複数のパスを通して複数の発見にたどり着けるか。それが今日のAIにとって最大のチャレンジ。 私たちがやろうとしているのは、大量の知識抽出と、大量の仮説生成だ。1つや2つではなく、何百もの仮説、おそらく何千もの仮説を生成し、それらをすべて検証すること」
AIとロボットに24時間365日、メタゲノム解析をさせる
北野氏がいま、沖縄科学技術大学院大学で取り組んでいることの1つが、まさにこの大量仮説と大量検証を前進させるための研究だ。「MANTA Project」という。 「実験プロセスの完全自動化を実現している。これはメタゲノム・シーケンス、メタゲノム解析の例だ。地下鉄マップのような図(上)は、メタゲノム解析の処理プロセス全体を表している。 私たちは実験に関わったひとりひとりの作業を特定し、作業を最適化し、ロボティクス化した。サンプルをベルトコンベアに置けば、サンプル準備、DNA抽出、すべて自動で進む。(中略)鍵は、『人間の介入がないこと』だ」 人間の介入がなく動きつづける分析環境を作る意義は、休むことなく、分析者(人)の技能差がない結果を大量に生み出せることだ。 そして何よりコストを投じて並列化するほどに、探索のスピードも上げられる。
伊藤 有/Tamotsu Ito