元ソニーCTOの北野教授は「私たちは科学が得意なのだろうか」と問いかけた。“AIドリブン科学”時代に日本で起こること
東京都が中心となって開催するアジア最大級のイノベーションカンファレンス「SusHi Tech Tokyo 2026」が4月27日、開幕した。 【全画像をみる】元ソニーCTOの北野教授は「私たちは科学が得意なのだろうか」と問いかけた。“AIドリブン科学”時代に日本で起こること AIを軸に都市とそこに暮らす人の未来を提示する数多くのセッションのなかで初日、コンピューティングとサイエンスに精通した視点から「AI時代の科学の未来像」を示したのが、ソニーグループの元CTOで、沖縄科学技術大学院大学(OIST)教授の北野宏明氏のセッションだった。 北野氏は、いま、未来の文明の進路を決定づけるターニングポイントに私たちがいる、として、「AIは明らかにその最大の駆動力の1つだ」と言う。 ノーベル賞級の偉大な発見が生まれた近年の研究過程と、現代の研究論文の世界で起こっていることを俯瞰しながら、エモーショナルな独特の口ぶりで力説していった。
なぜ「人間の科学」は限界に達しているのか
北野氏がステージで語った問いかけは、実にシンプルなものだ。「私たちは、科学が得意なのか?」だ。 北野氏は、「おそらく人間は科学が得意ではないのではないか」という興味深い視点で、スピーチを展開していく。 「私たちは偉大な科学を作り上げ、文明の基盤を築いてきた。しかし、いかに注意深く科学を行っているかを考えると、それは非常に機会主義的で、体系的かつ産業的な形で行われているとは言えない」 根拠として北野氏が挙げるのは、人間の認知能力の物理的な限界だ。北野氏は生物医学(biomedical)分野だけで年間200〜300万本の論文が発表されているとし、神経科学や免疫学のような特定領域に絞っても、1日に数百本規模が登場する論文すべてに目を通すことはもはや不可能だと言う。 象徴的な例として北野氏が示したのは、酵母細胞のごく一部について作成した分子地図だ。例えば、ワインを醸造するときのように、酵母がアルコールを生み出す、といった仕組みそのものが、このマップに描かれているという。同マップは15年前に数千本の論文を何カ月もかけて読み込んで完成させたもので、現在も十分に高い信頼性がある論文からなる。 「このマップの内容は今でもゴールドスタンダードだ。精密なものだが、ただ、こうした作業を(人間が)続けることはできない。心理的にも精神的にも、これだけの論文を読み続けることは不可能だ」(北野氏) さらに自然科学領域における研究の構造的問題として北野氏が一例を挙げて指摘するのは、研究の対象が、極端に偏っていることだ。 例えばヒトゲノムには約2万の遺伝子が存在することが知られているが、北野氏によると、論文の97%はわずか10%の遺伝子に集中しているという。それ以外は、論文が1本もないか、論文があったとしても1本のみという遺伝子が多いという。 こうした事態が発生するのは、科学者が人間だからだ、と北野氏は言う。 「なぜこのようなことが起こるのかといえば、科学は人間によって行われるもので、成功したい、貢献したいと考えるからだ。だから、すでに重要だと知られている遺伝子に焦点を当てる。 もしポスドクや学生に『ランダムに選んだ5つの遺伝子で博士の研究として調査しなさい』と言えば、彼らは『私の人生、キャリアはどうなるんだ』と絶望するだろう」 「研究が進んでいない領域は、不要だから研究されていないのでは?」という問いに対しても反証する。 北野氏は、神経変性疾患や神経炎症の鍵を握り、アルツハイマーの発症リスクを高めるとして注目される重要遺伝子「TREM2遺伝子」の研究を挙げて説明した。北野氏によると、現在は年間2万本もの論文が出ている一方、2000年時点では関連論文はほぼ確認できないという。比較的近年、極めて重要な遺伝子であることが「発見」されたからだ。 「今日は1つだけお見せするが、こうした(TREM2のグラフのように近年の重要な発見の)例で1日中話し続けても尽きないほどだ。人間が探せない領域をどう探索できるかということが、問題なのだ」 問題を紐解く鍵について、北野氏は「AIとロボティクスが鍵になると思う」と言う。それは次の通りだ。