4回目の犯行に及んだのは、刑務所を出てわずか8日後だった。

 28日午後6時ごろ、広島市内の店舗や住宅が立ち並ぶ一角。立花勇作(65)=仮名=は出所後に身を寄せている更生保護施設に向かって歩いていた。この日の気温は氷点下。温暖な広島では珍しい大雪だった。足首まで埋まるほど積もった雪を踏みしめながら、ふと思った。「防寒具が欲しい」。吸い込まれるようにコンビニに入った。

2月8日、広島市内

 所持金は841円。出所時には8千円余りあったが、酒と菓子に消えていた。「万引しよう」。その考えにためらいはなかった。「どうせ盗むなら一番高価な物を」と思い、1998円の手袋を手に取った。防犯カメラの死角に移動し、ポケットに入れた。入店から3分足らずの犯行だった。

 「お金払ってませんよね」。店を出た直後に店員に呼び止められ、通報で駆け付けた警察官に逮捕された。更生保護施設まであと5分の距離。翌日には採用面接が控えていた。「なんでやってしまったんだろう」。自分でも分からなかった。

 立花が窃盗容疑で初めて逮捕されたのは2021年。それから約5年の間にさらに3回逮捕され、2回服役した。4回目となった今回の犯行は、常習的に窃盗を繰り返した人に適用される「常習累犯窃盗罪」に問われた。

■31歳で国家試験に合格 59歳で全国転々とする生活に

 なぜ窃盗を繰り返すようになったのか。今度こそ更生できるのか。それを知りたくて、記者は広島拘置所(広島市中区)にいる立花との面会を重ねた。

広島拘置所

 「実家は100年以上歴史がある歯科医院だった」

 立花は1960年、新潟県内の歯科医師の長男として生まれた。「親の顔に泥を塗れないと思い、悪いことは何一つできなかった」と幼少期を振り返る。家業を継ごうと歯科大に進学し、31歳で歯科医師の国家試験に合格。実家に戻ったが、治療方針を巡って院長の父親とぶつかり、1年余りで飛び出した。

 知人のつてを頼り、静岡市内の歯科医院で職を得た。98年に結婚し、99年に長男が生まれたのを機に浜松市へ。「収入が良かったし家族もいた。この頃が一番楽しかった」と遠くを見つめる。

 暗転したのは2019年。妻から「一緒に住めない」と離婚を切り出された。「朝ご飯でみそ汁を作れと怒った。ちょっと大声出しただけなのに冗談じゃない」。今も納得していない。同時期に歯科医院を解雇された。理由は聞いていない。家を出ると決め、荷物をまとめて車に乗り込んだ。59歳で全国を転々とする生活が始まった。