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高岡弁 | 富山県の方言を考察する 方言を堂々と使おうよ!

記事の推敲・構成にlupusÆternusさんの協力をいただきました。深く感謝いたします。

いっちょめ『なんがあったがけ、朝っぱらから』

「おいおい、あんた、急にどしたがよ、そん顔色、なんま(ほんま)悪そやちゃ」
「いやいや、聞いてま。朝、表出たらな、うちん前んとこで、〇〇(誰とは言わんが)のおやっさんが、
“うっちゃくって(転んで)ぶっ倒れたんか思たら”
実はただ…あれやちゃ、長ぐつ逆さ履いとっただけながいぜ」
「はぁ~~なんちゅうこっちゃの。この時期、みんなもう頭まわっとらんがやろ。ほれで、誰も呼ばなんだが?」
「いや、呼ばんだ。呼ばんでもええちゃ。おやっさん、逆さに履いとることにも気づかんと、“なんや今日、地面しっくい(ぬかるみ)やな~”言うて歩いとるんがいそ。わし、腹いてなるくらい笑えてきて、言えんだがやぜ」
「おまん、そういうとこやぞ。言うたらええがに。ほれ言わんと、またあとで“おい、なんで言わんだ!”て逆ギレされるがいちゃ」
「されても知らんわい。あんな朝っぱらから、わしもまだ目ぇしあがっとらん(覚めてない)んやちゃ。ほれよりの、見たけ?裏ん田んとこ」
「なんがあったん?」
「さっきな、カラスらがな、一匹のネズミ引っぱって、“ギャッギャ鳴らしながら空中戦”しとったがい。わし、ほれ見て“今日ぜって、なんか起こる日ぞ”思たがや」
「なんやそれ、縁起悪いがいちゃ。
でも、おまん、そういう日って意外となんも起こんないとき多いがいそ?」
「いやいや、起きるちゃ。
さっきも、〇〇ん子ども
学校行く途中で“わしの手袋、手袋ちゃうやんな?”言い出してな、
見たら両手とも軍手の左手やったがいぜ」
「なんでそんなことなっとるがよ」
「知らんわい。
家ん中、朝から“左手どこいった~!”ゆーて大騒ぎしとったらしいわ。
右手失踪事件ながいぜ」
「なんちゅう町やちゃ、ここはもう…」
「ほれでもの、こういう朝っての、なんか嫌いやないがよ。
みんなアホみたいなっとって、逆に安心するやろ?」
「たしかにの。
“みんな完璧”ゆー日んほうが、なんか気味悪いわい」
「そう、そういうことやちゃ。高岡いうんはの、“ちょいズレとるほうがちょうどええ街”ながいぜ」


にちょめ『朝っぱらから、なんちゅうガッタガタな日やったがよ』

 きょーの朝な、わし、まだ布団ん中でぬくとーしとったんに、外から「ガッタンゴットン!」ゆーてやかましい音するもんやから、「なんや、どっかの家ォ屋根でも落ちたんけ?」思て、しぶしぶ起きたがんて。

 カーテン開けたらよ、向かいの家ん前で、お隣のじいちゃんが雪かきしとる…と思いきや、スコップ折れとんがいぜ。折れたスコップ握って“勝負終わったあとの侍みたいな顔”しとるが。わし思わず「なんがあったんや、朝から武者修行け?」って呟いたわ。

 ほいで玄関出たらよ、車の上に積もっとった雪が
まるで生き物みたいにズルズル落ちてきて、
わしの頭にべっちゃー!とのし掛かってきたが。
冷たいどころの話やないちゃ。“魂までひんやり持ってかれた” って、ああいうこと言うがやわ。

 その音聞いて、隣のばーちゃんがドアから顔出して、
「おまん、大丈夫け?」ゆーて聞いてきたがやけど、その顔がまた真剣なんか笑っとるんか分からん絶妙な顔しとるが。

 わし「だいじょぶやちゃ…今ちょっと生まれ変わっただけや」言うたら、
ばーちゃん
「ほうけ~、ほんなら今日はええ日なるわい」って、わけ分からん励ましかまして引っ込んでったがいね。

 ほんで職場行こ思て車乗り込んだら、座席までしっけしけで、なんや冷蔵庫の中みたいな匂い立っとるし、エンジンかけたらかけたで
「ブゥウウウウ……ん?」って変な声出すし、
「今日こいつ、働く気ないがか?」って本気で車に問いかけたが。

 結局、出発するまでに30分かかって、わしの中じゃ
「雪とスコップと車との三つ巴ん大戦」
みたいな朝やったがよ。

 でもな、空見上げたら、
雲の切れ間からちょっとだけ日が差しとって、
その瞬間だけ妙にきれいで、
「ま、なんやかんや言うても高岡の冬も悪ないの」思えたがやちゃ。


さんちょめ 『コンビニ行っただけやのに、なんか色々あったがいぜ』

 きのうの晩、なんや腹へってきて、「ほれ、なんか買うてこよ~か」と思て、家の近くのコンビニ行ったがいぜ。
 外出た瞬間、風がビュービュー吹いとって、「はぁ、こりゃ絶対雪来るわぁ」と、空見上げてため息ついたが。

 ほいで歩いとったら、向こうから高校生らしき若い衆が
「さぶっ!さぶっ!!」言いながら走ってきて、わしの横すれ違うときに雪の粒ぽちっと当たってきたがいちゃ。
「ほれ見ろ、やっぱ降ってきたがいけ~」って、小声でひとり突っ込んどったわ。

 コンビニ着いて、あったかいもん買おう思て、おでんのコーナー行ったら、店員さんがちょうど具入れ替えとって、
「あ、今あんま無いがですけど、どれします?」って、
富山弁まじりで聞いてきてほっこりしたちゃ。都会のコンビニじゃ、こんな距離感ないがいぜ。

 結局、肉まんとホットコーヒー買って店出たんやけど、もう雪が横なぐりで降っとって、顔にバチバチ当たってきて痛いくらいやったちゃ。
「コンビニ行くだけで修行やんけ…」って思いながら帰ったら、玄関の前で滑って尻もちつくし、ほんならコーヒーちょっとこぼれるし、もう散々やったが。

 でも、肉まんかじった瞬間、
「はぁ~、これやこれ。冬はこれないと始まらんちゃ」って、
ちょっと幸せ感じたんや。なんか富山の冬って、厳しいわりに、こういう小っちゃい“救い”をくれる気がするがいね。


よんちょめ『雪道の歩き方』

 朝っぱら、布団ん中でゴロゴロしとったら、外の明るさが妙~に白んどっちゃ感じして、
「ほれ、また性悪い雪ん日んなっとらんけ?」って胸ん奥がズクズクしたがいね。

 玄関ガラッ開けたら案の定やちゃ。道路が テッカテカのツルンツルン なっとって、
「あ~ほれやほれや、今日一日ぜんぶ終わっとるわいね…」って誰に向かってでもなく呟いてしもたわ。

 ほんなもんでも外出らんなんが大人の辛さやちゃ。渋々靴はいて外出たんやけど、踏み出した瞬間から身体が勝手に“あのフォーム”になっとるが。

 ――富山県民の雪道歩きの謎フォーム――
 ・足ちょこちょこ
 ・つま先ちょい内め
 ・腕ぷらぷら
 ・眉間だけやたらキュッと寄っとる

 誰教えたんや?昔の庄屋なが?遺伝なが? ほんにようわからんけど、高岡のもんは全員これ出来とるがや。

 わし二歩目で、

「うわっ、ちょちょちょッ……!!」

 って変な声出て、足だけスイ~ッて前に行って、身体は後ろ置いてかれそうなって、なんとか復帰したけど心臓バクバクやったわ。
 向こうから来とるおばちゃんもおんなじフォームで歩いとって、すれ違う瞬間だけニヤァ~ッと笑うが。
「おまんも苦労しとらんね」って言っとるような目やちゃ。

 雪道の日は高岡ぜんぶに妙な仲間意識生まれるがい。ほんで少し行ったとこで、高校生の若い衆三人おったんやけど、一人が調子乗って、
「こんなん余裕なが!ほんな急に転ばんちゃ!」ってスイスイ歩き始めたんよ。数秒後、

ズベシャーーーン!!!

って見事な転び方しとって、倒れた瞬間だけめちゃくちゃ標準語で、

「えっ……やば……めっちゃ痛い……」って言っとったわいね。転んだ瞬間だけカッコつける富山県民の謎、今年も発動しとったちゃ。地獄はここからなが。

 ――横断歩道の白線――

 あそこだけ別世界やちゃ。氷の厚みが違うんか知らんけど、一歩踏み込んだら問答無用で滑らされるが。
 富山ん人は全員わかっとって、白いとこ避けて黒いとこだけチョコチョコ渡るがい。遠目で見たら完全に“渡り切るための儀式”やちゃ。
 前のおっちゃんが

「ひゅえぇぇーー!!」
って声裏返しながら滑っとったけど、最後の最後でスッ…と立て直して、「危なかったわい……」

 ってボソッと言うたんがなんや可愛かった。

 しばらく歩いとったら、雪の上に足跡いっぱい残っとって、
よう見たら真っ直ぐなもんもあれば、急に方向変えとるやつもあって、
尻の跡ベタッとついとる“未遂で終わらんかった人”の痕跡もあるがや。

 それ眺めとったら、なんか知らんけど急に人生思い出されるが。

 まっすぐ歩けん日もあるし、調子こいて転ぶ日もあるし、思わん方向に進まされることもある。でも全部、自分の足でつけてった跡やちゃ。人生もそんなもんかもしれんと思うたが。コンビニ着いて、外の死ぬほど冷たい空気から店ん中のぬくい風あたった瞬間、

 「助かったぁ~~……」って遭難者みたいな声漏れたわ。
 あったかい缶コーヒー握ったら、手ぇから心までゆるゆる溶けてく感じして、雪の恨みも仕事のダルさも、なんもかんもいっときどっか消えてったがい。帰り、空パッと見上げたら、曇天ん隙間から、ほや~っと薄い青の空覗いとったが。
「あぁ、まだ大丈夫なが。今日もなんとかやっとるがいね」そう思わせてくれる雪の日って、ほんま人生の縮図まいけ。


ごちょめ『家のこたつ』

 冬の夕方、「ちょっとだけ休んまいけ」思て、こたつに脚つっこんだ瞬間や。おわの全細胞が“ほれ、今日はもう終わりやちゃ~”って勝手にシャットダウンしたがいぜ。
 なんでこたつちゃ、人間をあんな破壊的にダメにしてくるがか。ほんま、こたつの魔力には一生適われんね。中でぬくぬくしとるうちに、おわの足、なんも言うこと聞かん。
「抜けん……全然抜けん……」って毎回なる。

 こたつ布団のあの重み、富山の冬の雲と似とるんや。どっちも押しつけてくるがに、なぜか妙に安心する。ほんで横見たら、テーブルの上にみかん一個転がっとって、皮ちょっと黒いとこあるから
「食べんまいか……どうするっけ……」ちゃ数分悩む。

 みかんの選び方ひとつで、人間性全部出るがいちゃ。

 母ちゃんは絶対、“ちょっと悪なっとるやつから先に食べんなん”って言うてくるタイプやけど、おわはそんな立派なこと言われんから、結局いちばん丸くて色いいやつ取ってまう。で、食べながら
「おわ、人生でも“腐る前に手ぇつける”勇気ないまんまここまで来たんやろか」って余計な哲学始まってしまう。

 こたつってほんま、身体ぬくめる装置やなくて、思考のガードゆるめてくる“人生トラップ”やちゃ。さらに最悪なんが、寝転んでスマホ見始めたら最後や。

 1分でいいはずがに、気づいたら30分経っとる。30分で済んだと思ったら次は1時間や。気づいたらYouTubeで「雪道で転ぶ人ランキング」みたいな意味不明な動画見とる。なにけ、あの“抜け出せん力”は。こたつは富山の冬のダークマターやちゃ。
 ほれにな、外から帰ってきた家族が「寒かったの~」言いながらこたつにもぐりこんでくると、急にあったかい空気ぐいっと広がるんよ。

 おわ、あれ見るたびに思う。
――人間ちゃ結局、あったかい場所探して生きとるだけながいねって。

 昔から富山の冬は暗いし、風は湿っとっし、雪はどかんと積っし、心までだやいなる日多いがやけど、こたつだけは
「ほれ、ここおられま」って何も言わんと受け止めてくれる。
 こたつ入っとると、外の世界が全部どうでもよくなるぶん、その“どうでもよさ”の中にほんのちょっこだけ希望みたいなん混ざっとる気する。おわ結局、その日は、夜中になっても抜けられんで、布団行く気力ゼロのまま「こたつの中で生き終わってもええわ」って思いながら目ぇ閉じっしもたわ。こたつってほんま、人間をダメにする最強の装置やけど、ダメにしてくれることで人生の疲れちょっこし受け止めてくれとる気もするがいちゃ。


ろくちょめ『雨の能町商店街』

 朝からじとじと降っとった雨が、昼なっても全然やむ気配のうて、能町の商店街んとこ歩いとったら、なんかもう、空気そのもんが「ほれ、今日も湿っとっちゃ」とか言うとるみたいやったが。アーケードの屋根がバラバラ鳴らしとって、昔のスピーカーみたいな音しとる。ほれ聴いとるだけで、なんか胸んとこまでじんわり重なってくるがいちゃ。
 で、ちょっと行った先で、閉まりかけの八百屋の前に、おばちゃん一人ぽつんと立っとってぇ、あれ、店の中で誰か待っとんがけ思たら、ただ店内の電気がチカチカしとるの見とるだけやったらしい。雨の反射で顔濡れとんのか、涙やら汗やら混ざっとるんか、ようわからんけど、とにかく“立っとる理由”が不明やったが。

 ほんなとき、うちの脳みそが勝手に動くがや。

――ああ、あのおばちゃん、もしかして今日の晩ご飯決めれんがやろか。
――いや、ほんとは誰か待っとったがに、待っとる理由、もう忘れたんかもしれん。
――それとも雨の日だけ思い出す昔のなんかあるんかいや?

 能町の雨って、こういう“勝手に物語つけてまう”湿度あるがいちゃ。自分で笑えてくる。で、横通り過ぎようとした瞬間、
「あんた、今日ブロッコリー高いが知っとっけ?」って、知らんおばちゃんから急に直球とんでくるがや。

いや知らんちゃ。誰ね、あんた。
でも高岡の商店街じゃ、この唐突さが普通やがいちゃ。なんか言われても、「ああ、また始まったぞ」くらいにしか思わんが。ちょうどそのとき、向こうからおっちゃんがギコギコ自転車こいでくる。ブレーキの音がもう“人生ギリギリで踏みとどまっとる音”みたいなんや。

ギイイーーー……ガガガ……

雨で濡れた道に響いて、ほんま高岡の冬の心臓みたいな音やった。おっちゃん、わざわざ避けて通っていくのかと思ったら、「あれぇ、雨ひどいが。なんしとられ?」って、おばちゃんに聞いとる。ほしたらおばちゃん、
「店、閉まるがか閉まらんがかわからんで待っとるがいちゃ」って、哲学的なんか生活的なんかわからん返答。店、閉まるは閉まるがいろ。なんで“わからん”がで立っとるがか。
 でも、この“わからんまま立っとる時間”が、能町の雨の日には妙に似合うがや。
  高岡って、待つことそのものが生活の一部みたいな土地やからなあ。そこに、遠くから豆腐屋のラッパが鳴ってきたが。

 ポー……ポー……

 あれ、雨の日に聞くと、なんか胸の奥ぎゅっと掴まれるような感じするがいちゃ。別に豆腐に思い入れあるわけでもないのに、「ああ、今日もちゃんと誰かの生活は続いとるんやな」って、ほっとする音色や。おばちゃんもラッパ聞いたとたん、ふっと肩の力抜けて、
「ほれ聞くと落ち着くなあ。昔から変わらんが」って呟いた。
 ほれ聴いた瞬間、うちもなんか泣けてきそうになったがや。別に悲しいことあったわけでもないのに。雨とラッパは、心ん中の余計なもん全部ほどいてまう魔法みたいなとこある。

 そんで、店の中から若い兄ちゃんが顔出して、
「あ、すんません、今日もう閉めとるんですわ」って、申し訳なさそうに言うとった。
  おばちゃん、「やっぱ閉まっとったがけ」って、なんか安心したような悲しいような顔して笑っとる。

 ほれ見たとき、「ああ、わかるわ」って思ったが。

“閉まっとった”って事実で、なんか自分の今日がやっと決まることってあるがいちゃ。行けるか行けんかわからん曖昧な世界に立っとる時間の方が、しんどいことあるしな。
 わし、なんとなくおばちゃんに、「ほれなら八百屋の向こうの店まだ開いとるかもしれんちゃ」って言うたら、
「ほんがけ、行ってみるわ」って、小走りで行ってまった。
 雨ん中、小走りする後ろ姿って、なんか“人生まだ続いとる背中”みたいで、じんと来るがいちゃ。通りの先でまたブレーキのギイーーー……が鳴って、遠くでラッパがポー……って続いて、雨の音と混ざって、商店街全体がひとつの呼吸しとるみたいな時間やった。

 能町の雨って、ほんま不思議なもんや。

 ただ濡らすだけやのうて、人の心の底に沈んどった何かを、そっと浮かせてくる。笑えることも、しんどかった昔のことも、なんとなく全部。
 そして、ほんな混ざった気持ちをそのまま抱えて帰っても、誰も何も言わん街や。 
 “濡れて帰る自由”がちゃんと残っとる土地やと思うとる。




高岡弁についての解説

① 『なんがあったがけ、朝っぱらから』

なんがあったがけ – 標準語の「何があったの?」に当たる表現です。文末の「〜がけ」は富山の方言で、柔らかく疑問を呈する語尾です(「〜なの?」に近いニュアンス) 。高岡(富山)では疑問形の語尾として「〜け?」が広く使われます 。例えば「そうなんけ?」(そうなの?)のように用い、会話を少し柔らかい調子にします。

おまん – 「あなた」「お前」を指す二人称の方言表現です。親しい間柄で使われ、「お前さん」よりもくだけた呼びかけになります。高岡弁では年配の方や砕けた会話で自分の配偶者や友人にも「おまん」と言うことがあります。

そん顔色、なんま悪そやちゃ – 「その顔色、ほんま(本当に)悪そうだよ」の意味です。「そん」は「その」、「なんま」は「ほんま」(「本当に」の訛った形)で「とても」を表します。「〜やちゃ」は富山弁独特の断定の語尾で「〜だよ」に当たります 。したがって「悪そやちゃ」は「悪そうだよ」と顔色の悪さを指摘する表現になります。

聞いてま – 「聞いてよ」「聞いてちょうだい」という意味で、人に強く働きかける言い方です。「〜ま」は富山の方言で命令や依頼を強める終助詞です。「〜しなよ」「〜してください」といったニュアンスを添えます。ここでは相手に「聞いてくれ」と念押ししています。

うちん前んとこ – 「うち(家)の前のところ」という意味です。富山では「○○ん△△」の形で「○○の△△」を表すことが多く、所有や場所をくだけて言う言い回しです(例:「俺んち」(おれんち)=「俺の家」)。「前んとこ」で「前のところ(前のあたり)」を指しています。

〇〇のおやっさん – 「〇〇さんのお父さん」ほどの意味で使われています。「おやっさん」は年配の男性や父親を指す砕けた表現で、「親父さん(おやじさん)」がなまった言い方です。ここでは仮名の〇〇さんのお父さん、あるいは近所の年配男性を指しています。

うっちゃくって – 文脈では「(ひっくり返って)転んでしまって」の意味で使われています。富山の言葉で「うっちゃる」は本来「放っておく、投げ捨てる」の意味ですが、この場合「勢いよくひっくり返る様子」を表現していると考えられます。「うっちゃくってぶっ倒れた」で「ひっくり返って倒れた」といったニュアンスになります。

あれやちゃ – 「あれだったんだよ」という意味の断定表現です。「やちゃ」は「〜だよ」に当たる語尾なので、「あれやちゃ」で「(それが)あれだったんだよ」となります。つまり「実はあれ(例のもの)だったんだよ」という含みで、拍子抜けするオチを示唆しています。

長ぐつ逆さ履いとった – 「長靴を逆に(左右を逆に)履いていた」の意味です。「履いとった」は標準語の「履いていた」に当たります。富山では動詞の進行形・状態に「〜とる(〜とん)」を用い、「〜しとった」で「〜していた」と過去の状態を表します。ここでは「逆さ履いとった」=「逆に履いていた」と間抜けな状態を伝えています。

〜だけながいぜ – 「〜だけなんだぜ」という意味です。「〜ながいぜ」は富山弁で「〜なんだよ」を表す語尾表現です (「〜ながいちゃ」「〜ながいね」と語尾が変わることもあります)。ここでは「…だけながいぜ」=「…だけなんだよ」と念押ししています。「〜ぜ」は富山弁では終助詞の「よ」に当たる言い方で、相手に念を押したり同意を求める調子になります 。高岡など呉西(ごせい)地域では「〜ちゃ」とほぼ同じ意味ですが、「〜ぜ」の方が若干相手に同意を促すニュアンスがあります 。

はぁ~~なんちゅうこっちゃ – 「はぁ〜、なんということだ」の意味で、驚きや呆れを表す感嘆表現です。「なんちゅうこっちゃ」は砕けた言い方で「なんてこった」といった意味合いになります。高岡の会話にも登場しており、驚きつつ呆れている様子を表現しています。

頭まわっとらん – 「頭が回っていない(思考が働いていない)」という意味です。「〜とらん」は「〜ていない」の否定表現で、富山では進行形「〜とる(〜しとる)」を否定するとき「〜とらん」と言います(例:「分かっとらん」=「分かっていない」)。「頭まわっとらん」は「頭が働いていない(ぼーっとしている)」状態を示します。

〜がやろ – 「〜だろ?」に相当する表現です。語尾の「〜やろ」は「〜だろう」に近いですが、間に「が」を挟むことで説明調の語感になります。例えば「〜がやろ?」は「〜だろう?」と確認するような言い方です。「頭まわっとらんがやろ」は「頭が回ってないだろ?」と相手に確認しつつ同意を求める言い回しになっています。

呼ばなんだ – 「呼ばなかった」の意味です。「〜なんだ」は「〜なかった」を表す富山の言い回しです(例:「知らんなんだ」=「知らなかった」)。少し古風な否定過去形ですが、富山では日常的にも使われます。「〜しなんだ」「〜せなんだ」のように活用し、「〜しなかった」という意味を持ちます。

呼ばんでもええちゃ – 「呼ばなくても大丈夫だよ(構わないよ)」という意味です。「ええちゃ」は「いいよ」「問題ないよ」を表す肯定表現で、「ええ」(良い)に断定の「ちゃ」が付いた形です。従って「〜せんでもええちゃ」で「〜しなくてもかまわないよ」となります。「○○でもええちゃ」と許容を示す言い方は富山の日常会話でよく耳にします。

気づかんと – 「気づかないで」「気づかずに」の意味です。「〜かんと」は「〜しないで(〜せずに)」を表します。富山では「〜かんと」「〜んと」といった形で否定の状態や動作の未遂を表現します(例:「言わんといて」=「言わないでいて」〈関西にも類似表現あり〉)。ここでは「気づかんと」で「気づかないで/気づかずに」となります。

地面しっくい – 「地面が(泥で)しっくりしている」の意味で使われています。文中では(ぬかるみ)と注釈があります。「しっくい」はこの文脈では地面が泥でぐちゃぐちゃな様子を指す富山の言い回しです。「しっくい(湿っ喰い)」は土が水分を含んで粘土のようにねっとりしている状態を表現し、特に田畑の泥やぬかるみを指して言います。

〜んがいそ – 「〜んだとさ」「〜なんだって」といったニュアンスの語尾です。会話の中で伝聞や推量の調子を加える表現で、「〜がいそ」は「〜がやぞ(〜なんだよ)」が変化した形とも考えられます。「歩いとるんがいそ」は「歩いているんだとさ(歩いているみたい)」という意味合いになります。断定しきらずどこか他人事のようなニュアンスを漂わせる語尾です。

腹いてなる – 「腹が痛くなる」、つまり「お腹がよじれるほど可笑しくなる」という意味です。笑いすぎて「腹が痛いわ〜」というような状況を表しています。「腹いて(え)なる」は富山・石川など北陸で「腹が痛くなる」ほど笑うことを言う表現です。

言えんだがやぜ – 「言えなかったんだよ(言えなかったってば)」という意味です。「言えん」は「言えない」の富山的な言い方で、語尾の「〜がやぜ」は強調を伴う断定表現です。「〜がや」は「〜なのだ」の意味を持ち、「〜ぜ」は「〜だよ」と念を押す感じの語尾なので、「〜がやぜ」を付けると「〜なんだよ、まったく」といった強い語調になります。ここでは「(冗談が面白すぎて)言えなかったんだよ、本当にもう」と笑いながら嘆いているニュアンスです。

〜わい – 文末に付く「〜わい(〜わ)」は感嘆や断定を表す語尾で、「〜だよ」「〜だなあ」に当たります。砕けた男性語調で使われ、「知らんわい」=「知らないよ/知るもんか」のように使用されます。年配男性の話し言葉にしばしば登場し、どこか古風で飄々とした印象を与えます。

ほれ – 「それ」「ほら」に当たる指示詞・間投詞です。富山では物事を指す「それ」を「ほれ」と言うことが多く、会話のつなぎにも使われます(例:「ほれで?」=「それで?」、「ほれ見ろ」=「ほら見ろ」)。ここでも「ほれで、誰も呼ばなんだが?」のように接続詞的に使われ、「それで(結局)、誰も呼ばなかったのか?」と話を受けています。


② 『朝っぱらから、なんちゅうガッタガタな日やったがよ』

きょーの朝な – 「今日の朝はね」の意味です。「きょー」は「今日(きょう)」が訛った発音で、富山でも日常的に使われます。語尾の「〜な」は会話の文頭につける「〜ね、〜さ」といった語感で、話の切り出しや前置きをする働きがあります(「昨日な…」「ちょっとな…」のような用法)。

布団ん中でぬくとーしとった – 「布団の中でぬくぬくしていた」という意味です。「ぬくとい」は富山の方言で「暖かい、心地よく暖かい」を指し、「ぬくとーしとった」で「暖かくして(ぬくぬくと)していた」となります。「〜ん中」は「〜の中」なので、「布団ん中」=「布団の中」です。寒い朝、布団の中で暖を取っていた様子を表します。

なんや – 「何だ?/なんだか」の意味で使われるくだけた表現です。驚きや疑問の間投詞として使われ、富山の会話にも「なんやそれ」「なんや知らんけど」のように登場します。ここでは独り言のように「なんや、どっかの家ォ屋根でも落ちたんけ?」と続いており、「なんだ、どこかの家の屋根でも落ちたのか?」というニュアンスになります。

家ォ屋根 – 「家の屋根」の意味です。「家ォ(いえお)」は「家の」を指す言い方で、「家の」が素早く発音された際に「いえお」のように聞こえるものです。富山では「〜の」を省略または短縮して発音することがあり、「どっかの家ォ屋根」=「どこかの家の屋根」となります。

思て – 「思って」の訛った形です。富山では「〜て」が「〜てぇ」あるいは「〜て」と短くなることが多く、「思て」は「思って」になります(例:「やってま」=「やって(ください)よ」)。「〜てぇ」の形がさらに縮まって「〜て」になるパターンで、関西にも似た音変化が見られます。

しぶしぶ起きたがんて – 「しぶしぶ起きたんだって(さ)」という意味の表現です。語尾の「〜がんて」は、自分の行動を後から述懐したり伝聞的に語るニュアンスがあります。「〜したがんて」は「〜したんだよねぇ」といった感じで、自分に言い聞かせるような調子になります。ここでは「しぶしぶ起きたんだよなあ」と自分の行為を振り返って述べています。

スコップ折れとんがいぜ – 「スコップが折れているんだよ」の意味です。「折れとん」は「折れている」で、進行形「〜とる(〜ている)」に由来します。「〜がいぜ」は「〜なんだよ」を表す語尾(断定の強調)なので、「折れとんがいぜ」で「折れているんだよ」と状況を説明しています。「〜がいぜ」は富山弁の終助詞「〜ぜ」の一種で、上記①の解説にあるように「〜だよ」に当たりますが、少し相手に念を押すような語感があります 。

勝負終わったあとの侍みたいな顔しとるが – 「勝負を終えたあとの侍のような顔をしているよ」という意味です。文末の「〜が」は富山の断定表現で、「〜だよ」「〜なのだ」に当たります。ここではお隣のじいちゃん(おじいさん)の様子をユーモラスに描写して「侍みたいな顔をしているんだ」と伝えています。「〜しとる」は「〜している」で、「顔しとる」は「顔をしている(表情をしている)」という意味です。

武者修行け? – 「武者修行か?」という意味の問いかけです。語尾の「〜け?」は上記の通り疑問を表す終助詞で、フランクな調子の「〜か?」に当たります。朝から雪と格闘して泥だらけになった隣人の姿を見て、冗談交じりに「武者修行でもしてきたのか?」と笑って尋ねている場面です。

ほいで – 「それで」「そして」という意味の接続詞です。富山では会話のつなぎに「ほいで」や「ほんで」をよく使います(例:「ほいでから何したが?」=「それでから何をしたの?」)。話の流れをつなぐ口語表現として日常的に登場します。関西弁の「ほんで」にも近い感覚です。

〜どころの話やないちゃ – 「〜どころの話じゃないよ」という意味の表現です。「〜やない」は「〜じゃない(否定)」、語尾の「ちゃ」は断定の「〜だよ」に当たるため、「〜どころではないよ」と同義になります。例えば「冷たいどころの話やないちゃ」は「冷たいなんてもんじゃないよ(それ以上に冷たい)」という強調になります。

〜がやわ – 「〜なんだよねぇ」という柔らかな断定表現です。「〜がや」は「〜なのだ」に近い説明語尾、「〜わ」は語調を和らげる終助詞です。組み合わさることで「〜なんだよね、ほんとに」と共感混じりに述べるニュアンスになります(例:「魂までひんやり持ってかれたって、ああいうこと言うがやわ」=「“魂まで冷える”って、そういうことなんだよねぇ」)。男性的な「〜がやぜ」に比べ、「〜がやわ」は柔らかく相手に同意を求めるような響きになります。

大丈夫け? – 「大丈夫かい?」という意味です。語尾の「〜け?」は親しみのある疑問表現で、目上にも使える柔らかい問いかけです。「〜か?」よりも穏やかな響きで、相手を気遣う場面でも「〜け?」が用いられます。ここでは心配そうに「大丈夫け?」と隣人に声をかけています。

〜がやけど – 「〜なんだけどね」という意味になります。「〜がや」は「〜なのだ」の意で、「けど」と繋がって「〜がやけど」と言うと「〜なんだけど(〜なのだけど)」と逆接のニュアンスを持たせます(例:「すまんがやけど今は無理やちゃ」=「すまないけど、今は無理なんだよ」)。文中では「聞いてきたがやけど」(尋ねてきたんだけど)と使われ、やや婉曲に話を切り出す感じを出しています。

ほうけ~ – 「そうけ~」とも発音され、「そうかいね~」に相当する相槌表現です。相手の話に対し「へえ、そうかい」と軽く驚いたり感心したりするニュアンスで使われます。婆ちゃん(おばあさん)の「ほうけ~」は標準語の「そうかいね~(へぇ、そうなの)」に当たります。驚きと共感が混じった響きで、柔らかい印象を与えます。

ええ日なるわい – 「良い日になるよ/なるだろうよ」という意味です。「ええ」は「良い」、「〜なる」は「〜になる」の助詞「に」が省略された形です。語尾の「わい」は断定の語気を強める表現で、「〜だよ」「〜だろうね」といった感じになります。婆ちゃんのセリフ「今日はええ日なるわい」は「今日は良い日になるよ、きっと」と根拠はないけど励ますような言い方です。

引っ込んでったがいね – 「引っ込んでいったんだね」という意味です。「〜がいね」は「〜なんだねぇ」と相手に同意を求めたり自分に言い聞かせるような語尾です。ここでは婆ちゃんが自宅に引っ込んでいった様子を指し、「(家に)引っ込んで行ったんだねぇ」と語り手がしみじみ述べています。


③ 『コンビニ行っただけやのに、なんか色々あったがいぜ』

行ったがいぜ – 「行ったんだよ」の意味です。「〜がいぜ」は前述のとおり「〜なんだよ」を表す断定の語尾 で、過去形の動詞にも付きます。したがって「行ったがいぜ」は「行ったんだよ(行ってきたんだよ)」と出来事を強調する言い方です。高岡弁では過去の出来事を語るときにも終助詞を付けて臨場感を出すことが多く、この「〜がいぜ」もその一例です。

雪の粒ぽちっと当たってきたがいちゃ – 「雪の粒がぽちっと(小さく)当たってきたんだよ」という意味です。「ぽちっと」は小さな粒が当たる擬音語で、「ポツッと」よりも軽い当たり方を表現しています。「〜がいちゃ」は「〜なんだよ」の断定(念押し)で、「当たってきたがいちゃ」で「当たってきたじゃないか」と状況を述べています。「〜がいちゃ」は「〜がやちゃ」とほぼ同じく富山弁の語尾で、驚きや強調を込めつつ相手(または自分)に語りかける感じを出します。

ほれ見ろ – 「ほら見たことか」の意味の決まり文句です。自分の予想通りになった時に、「案の定だろう」と得意がったり呆れたりして使います。ここでは「ほれ見ろ、やっぱ降ってきたがいけ〜」と独りごち、「ほら見なさい、やっぱり降ってきたじゃないか〜」と自分にツッコミを入れています。

〜がいけ〜 – 「〜じゃないか〜」という意味合いの語尾です。「〜がいけ」は「〜がやけ(〜なんだがね)」が変化したものとも考えられ、「〜だろ〜」「〜じゃんか〜」といった不満交じりの語感になります。文中「降ってきたがいけ〜」は「降ってきたじゃないか〜」と予想が当たったことへの呆れ混じりの独白です。「〜け〜」の伸ばしで嘆きのニュアンスが強調されています。

あんま無いがですけど – 「あまり無いんですけど」の意味です。店員さんの丁寧な言い方ですが、富山らしく「〜がです」という表現を使っています。「〜がです」は「〜なんです」の意味で、丁寧語に方言アクセントが混ざった形です(例:「置いてないがです」=「置いてないんです」)。ここでは「あんま無いがですけど…」と遠慮がちに在庫が少ないことを伝えています。

ほっこりしたちゃ – 「ほっこりしたよ(心が温まったよ)」という意味です。都会のコンビニでは味わえない距離感の接客に、思わず心が和んだ様子を表現しています。「〜したちゃ」は「〜したよね」という断定で、「ほっこりしたちゃ」で「ほっと心が温まったよ」となります。「〜ちゃ」は終助詞「〜だよ」に当たり 、ここでは独り言で感想を噛みしめるニュアンスです。

〜やったちゃ – 「〜だったよ」という意味です。これは過去の断定「〜やった」(〜だった)に、終助詞「ちゃ」(〜だよ)が付いた形です。文中「痛いくらいやったちゃ」は「痛いくらいだったよ」と寒さの厳しさを振り返っています。富山弁では過去形でも語尾に「ちゃ」を付けて柔らかく断定することがあり、聞き手に共感を促す調子になります。

修行やんけ – 「修行じゃないか!」という意味の強い言い方です。「〜やんけ」は荒っぽい男性の語尾で、「〜じゃないかよ!」に相当します。関西の影響も感じられる表現で、富山の若者や男性も砕けた場面で使うことがあります。ここでは「コンビニ行くだけで修行やんけ…」と自嘲気味に使われ、「コンビニに行くだけでまるで修行だなあ」とツッコミを入れています。

散々やったが – 「散々だったよ」という意味です。「〜やった」は「〜だった」、「〜が」は断定の終助詞「〜だよ」です。「〜が」の形で説明口調になり、「散々やったが」は「散々だったよ、本当に」とぼやいています。高岡弁の「〜が」は文末で独白的に用いると、少し呆れや諦めが混じった響きになります。

始まらんちゃ – 「始まらないよ(始まらないんだ)」という意味です。否定形に「〜ちゃ」を付けることで「〜ないよ」という断定表現になります(例:「話にならんちゃ」=「話にならないよ」)。文中「冬はこれないと始まらんちゃ」は「冬はこれ(肉まん)が無いと始まらないよ」と冬の定番に対する断言になっています。**「〜せんと始まらんちゃ」**の形で「〜しないと話が始まらない=必須だ」という意味合いを強めます。

〜がいね – 「〜なんだねぇ」という意味合いの語尾です。文末に付けて、自分の感じたことへの相手への同意や余韻を表します。ここでは「富山の冬って…気がするがいね」のように使われ、「…な気がするよねぇ」と読者に語りかけるような締めになっています。「〜がいね」は「〜がやね」とも言い換えられ、「〜だよねぇ」と共感を求める形です。


④ 『雪道の歩き方』

妙~に白んどっちゃ感じ – 「妙に外が白んでる感じ」の意味です。朝、雪が積もって外がぼんやり明るくなっている様子を言っています。「白んどっちゃ」は「白くなっとるちゃ」と同じで、「白くなっているよ(白々と明るいよ)」というニュアンスです。「〜どっちゃ」は「〜とるちゃ」が音変化した形で、柔らかい断定を含みます。

性悪い雪ん日んなっとらんけ? – 「性(しょう)悪い雪の日になってないか?」という意味です。**性悪い(しょうわるい)**は「性質が悪い、意地が悪い」で、転じて「たちの悪い・ひどい」という意味の方言表現です。「雪ん日」は「雪の日」で、「〜とらんけ?」は「〜ていないか?」と疑問を呈しています。つまり「また意地の悪い雪の日になってるんじゃないか?」と嫌な予感を口にしています。

胸ん奥がズクズクしたがいね – 「胸の奥がざわざわしたんだよね」という意味です。「ズクズク」は胸の内が落ち着かず疼くような感覚を表す擬態語で、独特の表現です。「〜がいね」は「〜なんだねぇ」と共感を込めた語尾なので、「胸の奥がなんだかざわつくんだよねえ」と雪の予感に不安を覚えた様子を表現しています。

案の定やちゃ – 「案の定だよ」と独り言のように断定する言い方です。予想通りの展開に対して、「ほれ見たことか」と自分に言い聞かせるニュアンスがあります。「〜やちゃ」は富山弁の代表的な断定表現で、「〜だよ」に当たります。ここでは「案の定やちゃ…」と呟き、「やっぱりな…」というニュアンスを含みます。

道路がテッカテカのツルンツルン – 道路がテカテカに光り、ツルツルに滑るさまを表現しています。どちらも共通語でも通じる擬態語ですが、重ねて強調することで視覚的・触覚的にどれほど滑りやすいかをコミカルに伝えています。「テッカテカ」は表面が光っている様、「ツルンツルン」は滑らかで滑りやすい様子を示します。漫画的なオノマトペの重ねがユーモアを添えています。

終わっとるわいね… – 「終わってるよねえ…」という意味です。絶望感を込めた言い方で、「〜とる」は「〜ている」、「わいね」は「〜だよねぇ」を表す語尾です。「今日一日ぜんぶ終わっとるわいね」は「今日は一日もう終わったようなもんだよなあ」と諦めの気持ちを表現しています。「〜わいね」は年配男性を思わせる語感で、自嘲気味のニュアンスがあります。

ほんなもんでも – 「そんなものでも(それでも)」という意味の接続表現です。「ほんな」は「そんな」、「もん」は「もの」、「でも」は逆接の「〜だけれども」に当たります。「ほんなもんでも外に出らんなんが大人の辛さやちゃ」と続いており、「そうは言っても外に出なくちゃならないのが大人のつらいところだよ」と訳せます。

外出らんなん – 「外に出なくてはならない」の意味です。「〜せんなん/〜らんなん」は富山の方言で義務を表す表現で、「〜しなければならない」「〜しなくちゃならない」に相当します(例:「早く行かんなん」=「早く行かなきゃ」)。ここでは「出らんなん」=「出なければならない」です。「〜なんなん」という独特の音で義務を表現するのが特徴です。

身体が勝手に“あのフォーム”になっとるが – 「身体が勝手にあのフォームになっているよ」という意味です。雪道用の独特の歩き方のフォームを指しています。「〜しとる」は「〜している」、「〜が」は「〜だ」の説明調です。話者は外に出た瞬間、無意識にその歩き方になってしまったことを述べています。「〜が」は断定の助動詞「や」が変化した形で、説明や感慨を表す語尾です。

庄屋なが? – 「庄屋なのか?」という意味の疑問表現です。「〜なが」は「〜なんが(〜なのが)」が短くなった形で、疑問に用いると「〜ながけ?」=「〜なの?」となります。ここでは「誰が教えたんだ? 庄屋なのか?」と冗談めかしています。あり得ない突飛な推測をあえて口にして笑いを誘う場面です。

ほんにようわからん – 「本当に良くわからないなあ」の意味です。「ほんに」は古風あるいは砕けた「本当に」に当たり、「よう」は「よく」、「わからん」は「わからない」です。ここでは「いやはや、本当に分からないなあ」と首をかしげている語り手の独白です。「ほんに」は年配層が使う印象の強い表現で、味わいを出しています。

高岡のもん – 「高岡の者(人)」という意味です。「〜のもん」は「〜の者・物」を指す砕けた言い方で、「地元のもん」=「地元の人」のように使います。「高岡のもんは全員これ出来とるがや」とあり、「高岡の人間は全員これ(雪道歩き)ができているんだよなあ」と感心しています。「もん」は若者も使う口語ですが、「〜のもんは…」という言い方に地元愛がにじんでいます。

全員これ出来とるがや – 「全員これが出来ているんだよ」の意味です。「出来とる」は「できている」、「〜がや」は「〜なのだよ」という断定表現です。富山では「〜がや」を語尾に付けて説明口調にすることがあり(例:「あるがや」=「あるんだよ」)、ここでは驚き交じりに「できてるんだよなあ」と述べています。「〜がや」は「〜なのだ」の意味で、人に説明したり自分で納得したりするときに使います。

雪道の日は高岡ぜんぶに妙な仲間意識生まれるがい – 「雪の日には高岡全体に妙な仲間意識が生まれるんだよ」の意味です。「〜ぜんぶに」は「〜全体に」のくだけた言い方で、「町ぜんぶに」=「町全体に」となります。語尾の「〜がい」は「〜なんだよ」の断定で、「生まれるがい」で「生まれるのだ」と断言しています。「〜がい」は「〜がや」が音便化した形とも言われ、感嘆や断定の終わりに使われます。

地獄はここからなが。 – 「地獄はここからだよ(ここからが本番だ)」という意味です。「〜なが」は富山の断定表現で、「〜なんだ」に相当します。少し古めかしい言い方ですが、「〜なが。」とピリオドを打つことで、「〜なのだ。」と独り言のように言い切っています。「〜なが」は前項の「庄屋なが?」にも出てきましたが、疑問でなく断言するときは「〜なんが」→「〜なが」となるイメージです(例:「終わりなんが」→「終わりなが」)。

ひゅえぇぇーー!! – 驚いたり滑りそうになったときに思わず出る声を表現しています。「ひゅえー!」は声が裏返ったような驚きの声で、寒さや恐怖で息が漏れたような響きです。標準語の決まった表現ではありませんが、年配の方などが思わず発する声をカナで表記しています。おじちゃんが滑りそうになって発した声を臨場感たっぷりに再現しています。

…声裏返しながら滑っとったけど – 「…声を裏返しながら滑っていたけど」の意味です。「〜とった」は「〜ていた」の過去進行形です。前の台詞「ひゅえぇーー!」と声を上げながら滑りかけた情景を描いています。富山弁というより語りの描写ですが、「滑っとった」は「滑っていた」となります。

最後の最後でスッ…と立て直して – これは標準語と同じ表現です。転倒しそうになってもギリギリ踏ん張った様子を描写しています。「スッ…と立て直して」で、危機一髪体勢を立て直したことを表現しています。擬音の「スッ…」が効いており、漫画のコマのような光景が浮かびます。

「危なかったわい……」ってボソッと言うたんが可愛かった – 「『危なかったわい…』ってボソッと言ったのが可愛かった」の意味です。「〜んが」は動詞に付き「〜のが」と同じ役割をします。「言うたんが」は「言ったのが」です。年配のおっちゃんが滑りかけて最後に小声で「危なかったわい……(危なかったよ)」と呟いたのが何だか可愛らしかった、という場面です。「〜わい」は感嘆・断定の語尾、「…わい…」と余韻を残した言い方がほほえましさを引き立てています。

ほんま人生の縮図まいけ – 「ほんと人生の縮図じゃないか?」というニュアンスです。「〜まいけ」は本来、勧誘の表現で「〜しましょうか/〜しませんか」に当たります(例:「行こまいけ」=「行きましょうよ」) 。しかしここでは疑問調で使われ、「〜じゃないか」と同意を求めるような意味になっています。「雪の日ってほんま人生の縮図やよなぁ」と言いたいところを、あえて富山流に「縮図まいけ?」と締めることで、読者に「そうだよね?」と語りかけています。


⑤ 『家のこたつ』

おわ – 話し手自身(筆者)が自分を指す一人称です。「おわ」は「おら(俺)」が訛ったものとも考えられ、富山の年配者や砕けた場面で使われることがあります。ここでは語り手が一貫して自分のことを「おわ」(=私/俺)と呼んでいます。朴訥とした自己表現で、エッセイ全体に素朴な味わいを与えています。

なんの呪いやちゃ – 「何の呪いなんだよ」という意味です。こたつに入った瞬間に全身の力が抜けてしまう様子を「呪い」に例えて表現しています。「〜やちゃ」は「〜だよ」の断定なので、「なんの呪いやちゃ」は「一体何の呪いなんだよ」と感嘆・疑問を込めた言い方です。コミカルな誇張表現で、こたつの魔力に屈する自分を嘆いています。

ちょっとだけ休んまいけ – 「ちょっとだけ休もうよ/休みましょうよ」という意味です。これは自分自身への誘いかけで、「〜まいけ」は相手に提案・勧誘するときの表現です(例:「〜せんまいけ」=「〜しましょうか」) 。**「〜まいけ」**は富山弁を代表する言い回しの一つで、親しい間柄で「一緒に〜しよう」と誘うときに使われます。「休んまいけ」で「(自分に向かって)休もうか」とこたつの誘惑に負ける心の声を表現しています。

ほれ、今日はもう終わりやちゃ~ – 「ほら、今日はもう終わりだよ~」という意味です。こたつに入った瞬間に聞こえてくる心の声(悪魔の囁き)を表現しています。「ほれ」は「ほら」、「〜やちゃ」は「〜だよ」です。「今日はもう終わりやちゃ~」は「今日はもう(何もかも)終わりだよ~」と諦めと誘惑が入り混じった言い方です。

適われんね – 「敵(かな)わないよね」の意味です。「かなわない」を富山の発音で「かなわん」と言い、「かなわんね」が少し変化して「適われんね」と表記されています。つまり「敵わない(太刀打ちできない)よね」とこたつの魔力に降参しています。「適われん」は当て字で、「かなわん(適わん)」と同音です。

抜けん……全然抜けん…… – 「(足が)抜けない…全然抜けない…」という意味です。こたつから足を抜こうとしても抜けなくなる様子を、そのまま独り言で表現しています。「〜ん」は否定の助動詞で、「抜けん」は「抜けない」です。繰り返しによって、脱出しようとしてもがく様子と諦めが伝わってきます。

〜がに – 「〜のに」を意味する表現です。文中では「どっちも押しつけてくるがに、なぜか妙に安心する」と使われており、「どっちも押し付けてくるのに、なぜか妙に安心する」という訳になります。富山では逆接の「〜のに」を「〜がに」と言うことがあります 。これは「〜が」と理由を示す助詞「に」が結びついた形で、口語的な表現です 。

食べんまいか…… – 「食べようか……」という独り言です。「〜んまいか」は「〜しませんか?」に当たる表現で、富山県東部で特によく使われます(例:「行かんまいか」=「行きませんか?」)。ここでは自分に対して「食べようかな…どうしようかな…」と迷っているニュアンスです。「〜まいか」は勧誘ですが、自問自答の場面では「〜かな?」程度の独り言になります。

…ちゃ数分悩む – 「…って数分悩む」という意味です。文中では「皮ちょっと黒いとこあるから『食べんまいか……どうするっけ……』ちゃ数分悩む」とあり、「『食べようか…どうしよう…』って数分間悩む」という描写になります。このように「〜ちゃ」は引用の「〜って」に近い働きをすることがあります。話し言葉的な表現で、考えた内容や会話内容を間接引用するときに用います。

みかんの選び方ひとつで人間性全部出るがいちゃ – 「みかんの選び方一つで人間性が全部出るんだよね」という意味です。語尾の「〜がいちゃ」は「〜なんだよ」の断定で、「〜だよねぇ」と読者に語りかける調子を含みます。「〜がいちゃ」は上記③でも出たように「〜だよ」に相当し 、ここでは冗談交じりに「些細な行動で人間性が表れるものだ」と断言しています。笑いを誘いつつ、妙に納得させる一節です。

食べんなん – 「食べなければならない/食べなきゃ」の意味です。富山弁の義務表現で、母親の教え「ちょっと悪くなったのから先に食べんなん」は「少し傷んだものから先に食べないといけない」という意味になります。「〜せんなん」は動詞の未然形に付けて「〜しなきゃいけない」を表します。先述④の「出らんなん」同様、「〜なんなん」という形で義務を表現しています。

何け – 「何か?/何だ?」に相当する砕けた言い方です。文中「なにけ、あの“抜け出せん力”は。」は「何なの、あの抜け出せない力は。」という意味になります。「〜け?」は疑問の終助詞ですが、「何け」は感嘆混じりに「何だ?」と問いかける表現です。呆れや不思議さを込めた独り言として使われています。

外から帰ってきた家族がおられま – 外から帰ってきた家族に「ほれ、ここおられま」(ほら、ここにおいで/入りなさい)というニュアンスで呼びかける場面です。「おられ」は「居る(おる)」の命令形に近い丁寧表現で、「〜ま」は勧誘・命令の終助詞です 。**「〜られ」**の命令形は古語由来で、江戸時代まで全国で使われたものが富山県などに残っていると言われます 。ここでは「おいでやす」のような柔らかい命令で、「中に入っておいでよ」と家族を受け入れる気持ちを示しています(「おられ」=「いなさい/いなさって」)。富山では親しい人に対して「〜られ」と命令すると、親愛や優しさが込もった響きになります 。

人生の疲れちょっこし受け止めてくれとる気もするがいちゃ – 「人生の疲れを少し受け止めてくれている気もするんだよね」という意味です。「ちょっこし」は「少し」、「受け止めてくれとる」は「受け止めてくれている」です。語尾の「〜がいちゃ」で優しく断定し、「…気がするんだよねぇ」と締めています。「ちょっこし」は富山弁で「ちょっこし=ちょっくら=少し」の意で、年配の方言葉ですが親しみがあります。こたつに癒されている感じを表す一文です。


⑥ 『雨の能町商店街』

じとじと降っとった雨 – 「じとじと降っていた雨」の意味です。「〜とった」は「〜ていた」の過去進行形です。「朝からじとじと降っとった雨が…やむ気配のうて…」と始まり、朝からずっと雨が降り続いていた情景を描写しています。「じとじと」は絶え間なく湿っぽい雨の様子を表す擬態語です。

気配のうて – 「気配がなくて」という意味です。「〜のうて」は「〜なくて」に当たります(例:「金のうて困っとる」=「お金がなくて困っている」)。「全然やむ気配のうて」で「全然やむ気配がなくて」となります。「〜のうて」は少し古風な言い方ですが、富山では年配層を中心に今も使われます。

能町の商店街んとこ – 「能町の商店街のところ(あたり)」という意味です。「〜んとこ」は「〜のところ」を指すくだけた表現で、「学校んとこ」=「学校の所(付近)」のように使います。「商店街んとこ歩いとったら…」で「商店街のあたりを歩いていたら…」となります。高岡市能町は作中の舞台で、古い商店街がある地域です。

空気そのもんが – 「空気そのものが」の意味です。「〜もん」は「〜もの」が訛った形で、富山では「〜そのもん」(〜そのもの)という言い方をすることがあります。「空気そのもんが『今日も湿っとっちゃ』と言うとるみたいやった」は「空気そのものが『ほら、今日もしっとりしてるよ』と言っているみたいだった」と解釈できます。

湿っとっちゃ – 「湿っとるちゃ」の発音で、「湿っているよ」という意味です。「〜とるちゃ」は「〜しているよ」を表します。「しっとり湿っている様子」を示し、空気そのものが水分を含んで重たい感じを擬人化しています。「〜ちゃ」は断定の終助詞で、「〜だよ」に当たります 。ここでは空気が語りかけてくるような表現です。

じんわり重なってくるがいちゃ – 「じんわり重くのしかかってくるんだよね」という意味です。湿った空気が胸にじわっと染みて重苦しくなる感覚を言っています。「じんわり」はゆっくり染み込む様、「重なってくる」は重みが加わってくる様子です。語尾の「〜がいちゃ」は「〜なんだよねぇ」の語尾で、「重なってくるがいちゃ」で「(重苦しさが)じわっと胸に来るんだよね」となります。雨の日特有の憂鬱さを表現した一文です。

閉まりかけの八百屋の前 – 夕方近く、店じまいしかけている八百屋さんの前という情景描写です(方言ではありません)。能町商店街はシャッターが降り始めた店も多い時間帯で、少し寂れた雰囲気を醸し出しています。このフレーズは舞台設定を示すだけで特別な方言要素はありません。

待っとんがけ – 「待っとるんがけ?」=「待っているの?」という意味です。「〜とる」は進行形、「〜がけ?」は疑問の語尾です 。語り手は「誰か待っとんがけ(誰か待っているのかな)と思ったら…」と状況を推測しています。富山弁で「〜がけ?」は軽い疑問を示す表現で、語尾を上げて発音します 。

ほんなとき – 「そんな時」の意味です。「ほんな」は「そんな」、「とき」は「時」です。「ほんなときに、うちの脳みそが勝手に動くがや」と続き、「そんな時に、つい頭が勝手に働いてしまうんだ」と言っています。「ほんな」は砺波(となみ)方面でも「ほんな〜」と使われ、富山弁の一部です。

〜がや – 「〜のだよ/〜なんだよ」を表す語尾です。富山では独り言や説明で「〜がや」を使うことがあります(例:「困ったがや…」=「困ったものだよ」)。ここでも「動くがや」と語尾につけ、「動くんだよなあ(勝手に想像しちゃうんだよなあ)」と自分の性分を述べています。自嘲や諦めのニュアンスを込めることも多い表現です。

待っとったがに – 「待っとったのに」の意味です。「〜がに」は「〜のに」に相当します。文章では「あん人、誰か待っとったがに待っとる理由忘れたんかもしれん」と続き、「あのおばちゃん、誰か待ってたのに待ってる理由もう忘れちゃったのかもしれない」と想像しています。「〜がに」は前述⑤でも触れたように逆接の「〜のに」を表す表現です 。

あるんかいや? – 「あるのかい?」という意味です。「〜かいや?」は「〜かい?」に近い問いかけで、少し念押しする響きがあります。ここでは「昔の何かあるんかいや?」と、更に想像を巡らせて自問しています。「〜んかい?」は驚きや疑念を含んだ問いで、「もしかして〜なのかい?」というニュアンスです。

唐突さが普通やがいちゃ – 「唐突さが普通なんだよね」という意味です。高岡の商店街では見知らぬ人に急に話しかけられるのも日常茶飯事だ、という文脈です。「〜やがいちゃ」は「〜なんだよねぇ」のニュアンスで、「〜やが(〜なのだが)+いちゃ(〜だよ)」が組み合わさったような表現です。要は「〜なんだよ、これがまた」といった調子になります。地元では当たり前の光景であることを示しています。

ギコギコ自転車こいでくる – ブレーキやチェーンが錆びた自転車を漕ぐ音「ギコギコ」を用いた描写です。錆び付いた金属音を擬音語で表現し、昭和的な情景を思わせます。「ギコギコ」という繰り返し音から、古びた自転車が軋みながら近づいてくる様子が目に浮かびます。

なんしとられ? – 「何をしておられるの?」という丁寧な表現です。富山では目上の人や知らない人に対し「〜しとられる?」という形で丁寧に尋ねることがあります 。これは「〜しておられる?」(尊敬語+進行形)に当たります。ここではおっちゃんが「何をしていらっしゃるんですか?」と優しく声をかけています。

店、閉まるは閉まるがいろ – 「店ってのは閉まる時は閉まるだろうよ」のような意味合いです。やや独特な言い回しで、「〜がいろ」は「〜だろうよ」に近い推量・断定の表現です。「〜がやろ」が訛ったものとも考えられ、「〜だろうがね」くらいの感じで使われています。話者(おっちゃん)が独り言で「店は閉まる時は閉まるもんだろ」とぼやいている部分です。「がいろ」は若者はあまり使わない古風な言い回しですが、年配の男性には時折見られます。

わからんがで立っとる – 「わからないので立っている」という意味です。理由を表す「〜がで」は「〜ので」に当たります(例:「寒いがで家おる」=「寒いので家にいる」) 。「わからんがで待っとる」が直訳「分からないので待っている」となり、おばちゃんが理由も分からずただ突っ立っている様子を示しています。「〜がで」は「〜が」と「〜で」が結合した形で、砺波市などでも聞かれる表現です 。

ほれ聞くと落ち着くなあ – 「それ(そのラッパ)を聞くと落ち着くねえ」という意味です。「ほれ」は「それ」、「〜なあ」は感嘆の終助詞です。おばちゃんがラッパの音を聞いて肩の力を抜き、「昔から変わらんが」と懐かしそうに呟きます。「〜なあ」は標準語と同様、しみじみとした語尾で、心が安らぐ感じが伝わります。

やっぱ閉まっとったがけ – 「やっぱり閉まってたんだねえ」という意味です。語尾の「〜がけ」は確認するような独り言にも用いられます 。ここではおばちゃんが店先を見て戻り、「やっぱり閉まってたか…」と安心したような、残念なような表情で呟いています。「〜がけ」は独り言の終わりにもよく使われ、「〜なのか」と自問するような響きを持ちます。

“閉まっとった”って事実で… – 「“閉まっていた”という事実によって…」という意味です。曖昧だった状況に答え(店が閉まっていたという事実)が出て、おばちゃんの中で踏ん切りがつく心情を語っています。「閉まっとった」は「閉まっていた」で、富山弁の過去進行形(存続)表現です。引用符付きで事実を強調することで、その事実が心を動かした様子を描写しています。

ほれなら – 「それなら」の意味です。「ほれ」は「それ」、「なら」は「なら(ば)」です。「ほれなら八百屋の向こうの店まだ開いとるかもしれんちゃ」と続き、「それなら八百屋の向こうの店はまだ開いているかもしれないよ」と提案しています。「ほれなら」は砕けた接続詞で、「ならば」に相当します。

開いとるかもしれんちゃ – 「開いてるかもしれないよ」という意味です。「開いとる」は「開いている」、「かもしれん」は「かもしれない」、語尾の「ちゃ」は「〜だよ」です。丁寧に推測を述べつつ、「〜ちゃ」で優しく断定して安心感を与えています。「〜ちゃ」は富山弁の終助詞「〜だよ」で、ここでは励ますような口調になっています。

ほんがけ – 「本当け?」あるいは「そうけ?」に近い相槌です。「ほんがけ、行ってみるわ」とあり、おばちゃんは「本当かい、それなら行ってみるわ」と答えています。「ほんがけ」は富山の相槌で「そうかい?」に当たります。「ほんとかい?」→「ほんがけ?」という具合で、驚きと期待が込められています。



参考資料

言語学的研究

  • 小西いずみ (2016) 『富山県方言の文法』ひつじ書房 – 富山県の方言の文法特性と形成過程について総合的に記述した学術書です。富山県内の方言の文法体系を詳述しています。

  • 平山輝男 編 (1998) 『富山県のことば』明治書院 – 「日本のことば」シリーズ第16巻。富山県の方言について音声・文法・語彙の特色や地域差、歴史的背景を解説した包括的研究資料です。

  • 大田栄太郎 (1970) 『越中の方言』北日本新聞社 – 富山県(越中)方言の特徴を解説した書籍。語彙や表現についての考察や地域差の説明を含み、昭和期に刊行された富山方言研究の代表的著作です。

公的・地域発行資料

  • 高岡市教育委員会 編 (1985–1987) 『高岡の方言 第1集〜第3集』高岡市教育委員会 – 高岡市の婦人ボランティア方言調査コース受講生が編集した方言調査報告集です。第1集(昭和59年度)は語彙編、第2集(昭和60年度)は方言分布図、第3集(昭和61年度)は自由会話編となっており、高岡市周辺の方言の実態を詳細に記録しています。

  • 富山県教育会 編 (1975) 『富山県方言』(全国方言資料集成) 国書刊行会 – 富山県教育会が大正8年(1919年)にまとめた富山県方言の資料を復刻出版したものです。富山県内各地の方言語彙や用例を収録しており、全国方言資料集成の一巻として昭和50年に刊行されました。

富山方言の辞書・用語集

  • 大田栄太郎 (1975) 『とやま弁にしひがし』北日本新聞社 – 富山弁の語彙集で、富山県東部(呉東)と西部(呉西)の方言の違いをまとめた辞典形式の書籍です。五十音順の索引のほか、用例や意味を詳しく解説しています。

  • 簑島良二 (1992) 『おらっちゃらっちゃの富山弁』北日本新聞社 – 富山弁のユニークな表現を集めた方言辞典です。「おらっちゃらっちゃ(=私たちの)」というタイトル通り、日常生活で使われる富山弁の数々を平易な解説付きで紹介しています。

  • 簑島良二 (1994) 『富山弁またい抄』北日本新聞社 – 「またい」(富山弁で「とても」の意)という言葉を冠した富山弁エッセイ集・用語集です。富山弁の面白さやニュアンスをエピソードを交えて綴り、方言への理解を深める内容になっています。

  • 簑島良二 編著 (2001) 『日本のまんなか富山弁』北日本新聞社 – 富山弁辞典の最新版ともいえる一冊。分野別索引や豊富な用例を備え、富山県の方言を体系的にまとめています。「日本のまんなか」という副題が示すように、富山の方言を中央から見た位置付けで解説しています。

  • 佐伯安一 (1961) 『砺波民俗語彙―富山県砺波方言集』高志人社 – 砺波平野地域の方言語彙を民俗資料とともに収集・解説した労作です。日常生活の描写を通じて方言語彙を紹介しており、富山県西部(砺波地方)の方言を知る上で貴重な資料です(1976年に国書刊行会より復刻刊行 )。

  • 高木千恵 編 (2009) 『最古の富山県方言集―高岡新報掲載「越中の方言」(武内七郎)』桂書房 – 大正5年(1916年)に新聞「高岡新報」で連載された武内七郎による富山県方言集「越中の方言」を復刻・編纂したものです 。富山県最古級の方言記録であり、明治・大正期の越中方言の単語と用例を知ることができます。

  • 月刊タウン情報とやま編集部 (1989) 『とやま弁大語解』C.A.P. – 富山市のタウン情報誌に連載された富山弁コラムをまとめた方言解説書です(一種のユーモア方言辞典)。「大語解」は「大誤解」をもじったタイトルで、富山弁の誤解されやすい表現やユニークな言い回しを楽しく紹介しています。

  • 富山語探査班 編 (1992) 『富山語録辞(トヤマゴロジー)』シー・エー・ピー – 「富山語録辞」と書いて「トヤマゴロジー」と読ませるユニークなタイトルの方言集です。富山の若者言葉や古くからの方言などを幅広く集め、地元有志の「富山語探査班」によって編集されました 。日常会話で使われる富山弁の語彙を網羅し、語源や用例も掲載しています。

オンライン資料

  • 富山県教育委員会富山県方言収集緊急調査(デジタルアーカイブ)富山県が実施した昭和期の方言調査プロジェクト。地域別の会話データや録音リストが公開されています。(https://www.pref.toyama.jp/3009/miryokukankou/bunka/bunkazai/digital/03-event_001/hougen/index.html) 録音試聴コーナーもあり、実際の会話(MP3 音声) を聞くことも可能です。(https://www.pref.toyama.jp/3009/miryokukankou/bunka/bunkazai/digital/03-event_001/hougen/taiken/index.html)採録地・日時つきの一覧も公開されています。(https://www.pref.toyama.jp/3009/miryokukankou/bunka/bunkazai/digital/03-event_001/hougen/ichiran.html)

  • 富山市立図書館『方言について調べよう』(調べ方案内PDF) – 富山市立図書館が作成した方言学習ガイドです。富山弁を調べるためのキーワードや参考図書リストが掲載されており、富山弁の辞典や研究書の活用方法をわかりやすく紹介しています 。図書館の郷土資料を活用した学習に役立つ入門的リソースです。(https://www.pref.toyama.jp/documents/18558/manual-design_0315low.pdf)

方言語彙・用法まとめサイト(非公的)

  • とやまの方言集(語彙・会話例あり)→ https://www.kbd-p.com/1hogen.htm。 同シリーズの別ページ(語彙・会話例) https://www.kbd-p.com/2hogen.htm。 別ページ(会話例つき語彙)→ https://www.kbd-p.com/3hogen.htm。

  • 富山市立図書館「方言について調べよう」富山弁の研究・辞典・読み物の代表的な書籍リストが掲載された案内ページ。富山弁の辞書的書籍も紹介されています。→ https://www.library.toyama.toyama.jp/kodomo/pathfinder/hougen。

  • 富山弁・地域方言の紹介(氷見弁単語集)氷見地方の方言単語集。富山県内の方言語彙の用例として参考になります。→ https://www.kitokitohimi.com/site/chiiki/himiben-tango.html。

  • YouTube など。 富山弁フレーズ紹介(例)→ https://www.youtube.com/shorts/PIDDkC8nBrU。


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コメント

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初瀬川

コメントいただき、ありがとうございます。コント風にしているのも、受け入れてもらいにくくなってしまった箇所なのかもしれません。記事を書いてみて、富山の方言の奥深さに気づくことができました。

2
初瀬川 いいね
ナチュラルモモコのプロフィールへのリンク

富山県全体をバカにしてる感じがこのnote文章から感じられますよ。何処の国の言葉であれ作者の個性が現れます。構成を充分に考慮してからお書きになって下さいませ。

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初瀬川

コメントありがとうございます。高岡の方に読んでいただけて嬉しいです。 そうですね、これは現在の若い人には使われていない言葉だと思います。「しとらいね」は「しとらんね」に変更いたしました。ご指摘ありがとうございました。他にもおかしな点がございましたら、適宜修正いたします。ご指摘お…

yukarinのプロフィールへのリンク
yukarin

高岡在住のものですが、楽しく読ませて いただきました。しとらいね。 聞いたことも使ったこともありません笑 そして、こんなずいぶん昭和な高岡弁ラッシュ、コントの中か相当年配の男性しか使いません。と自分の思いです。 令和にいまでちゃそんなに いっつもつかわんがいちゃ。

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初瀬川 いいね
高岡弁 | 富山県の方言を考察する 方言を堂々と使おうよ!|初瀬川
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