インタビュー

「理想に傾きすぎず」4件の違憲判断 元最高裁判事が悩んだことは

米田優人

 最高裁の裁判官を4年余り務めた弁護士の岡正晶さん(70)が2月、判事を退官した。最高裁が戦後に法令の規定を違憲とした14件の判断のうち、岡さんは4件に関わった。「憲法の番人」と呼ばれる最高裁の職責に、どのように向き合ってきたのか。

 ――15人いる最高裁の裁判官は、検察官や弁護士、学者など多様なバックグラウンドの人が担います。

 それぞれ異なる経験に裏付けられた問題意識があり、質の高い議論ができたと思います。「この思いがなんであなたに届かないのか、大変残念だ」などと、やりとりが熱くなる場面もありました。議論を重ね、最終段階で反対意見を撤回したこともあります。

憲法判断は「現実に即して」

 ――最高裁は、法律などが憲法に違反しないかを最終的に判断する役割をもちます。15人全員で審理する大法廷で、岡さんは4件の違憲判断に関わりました。

 憲法判断は影響が大きく、極めて重要な権限であり、社会への責任を強く感じながら臨みました。理想論に傾きすぎることなく、現実に即した判断をするのが、最高裁裁判官の役割だと考えました。

 (戸籍上の性別を変える際は生殖機能をなくさなければならないとした)性同一性障害特例法の規定をめぐる2023年の決定で、15人全員一致の違憲判断になったのは驚きました。19年に小法廷が合憲と判断していたからです。時代の移り変わりが速いということでしょうか。

 成年後見制度を利用すると警備業の仕事に就けなくなる「欠格条項」が違憲かが争われた訴訟では、国の対応は違法と言えるか、賠償責任を認めるかどうかという点で悩みました。

 すでに欠格条項が削除されていたことなども考慮して「国家賠償法上、違法とまでは言えない」との結論に至りました。これは国会への遠慮や忖度(そんたく)という話ではありません。議論の一助になればとの思いから、私は「欠格条項が憲法違反であることが明白だったとはいえない」などとする補足意見を書きました。

 裁判官個人が意見を述べる「個別意見」は、最高裁裁判官だけに認められた特権といえます。私は議論を深めるために書いたり、ほかの裁判官の意見に応答する場合に書いたりしました。「意見の多様性が外に出ないのは良くない」という思いもありました。

国民審査の運用に「疑問」

 ――就任から2カ月弱で、最高裁裁判官をやめさせるかを有権者がチェックする「国民審査」を受けました。

 本来なら審査のために重要な情報となる、最高裁で関わった裁判例がゼロの状態でした。各世帯に配られる「審査公報」に略歴や心がまえ、趣味を詳しく書きましたが、こういう情報で国民は判断できるのだろうか、と疑問に思いました。

 憲法は「任命後初めて行われる衆院選の際」に審査を受けると定めていますが、「任命後1年を過ぎた後」などにするのも一案だと思います。

――岡さんが考える最高裁の役割は

 世の中にはどちらの結論もありうる難しい問題が、いっぱいあります。地裁や高裁の裁判官が心血を注いで判断していますが、それでも判断が分かれる法律問題があります。それらに対して最高裁が、遅滞なく決断することが大切です。

「法律審」の役割とは

 高裁の「著しい事実認定の誤り」を正す役割も重要です。当事者の多くはこの点を訴えますし、私も弁護士を長年やってきたので、当事者の不満は痛いほどわかります。権利を侵害され、救済を求める気持ちもよく理解できます。

 正直、高裁の事実認定より、地裁のほうが妥当だと思ったケースもありました。ですが法律上、高裁の認定が「明らかに誤っている」とまで言えないときには、最高裁は介入できないルールなのです。当事者は「最後のとりで」と思って最高裁に救済を求めるはずですが、「法律審」であり法解釈が主な役割である最高裁は、軽々しく事実認定を変えられない。この点が一番悩みました。

 最高裁での仕事を通じ、あらゆる種類のもめ事や事件の解決のため、裁判所のほか捜査機関や弁護士、福祉や医療などの関係者が懸命に働いていることを実感しました。社会の安心や安全、安定を支える司法の役割に、最高裁判事という立場で関われたことに誇りを持っています。

岡正晶氏の略歴

 おか・まさあき 香川県出身。1956年生まれ。東大法学部を卒業後、1980年に司法修習生になり、82年に弁護士登録。第一東京弁護士会長や大手生命保険会社・銀行の社外取締役などを経て、2021年9月~26年2月に最高裁判事を務めた。

Made with Flourish • Create a chart

「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験

この記事を書いた人
米田優人
東京社会部|最高裁
専門・関心分野
司法、刑事政策、消費者問題

関連トピック・ジャンル