CF実績の推移
全国の医療機関で、医療機器や施設改修の費用集めにクラウドファンディング(CF)を活用する動きが広がっている。あるCF運営会社の実績では、2025年の調達資金は過去最高の10億円を超え、5年前の3倍に増えた。物価高などの影響で、国公立や民間を問わず約6割の病院が赤字経営に陥る中、地域に支えを求める動きが顕著になっている。
北九州地区の小児救急の中核を担う北九州市立八幡病院(八幡東区)は昨年10月、老朽化した病院救急車を更新するため2千万円を目標にCFを始め、2カ月余りで約760人から約4750万円が寄せられた。
市によると、同院の24年度の経常収支は約15億1千万円の赤字で、地方独立行政法人化した19年度以降で最大だった。新型コロナウイルス対応の補助金減少に加え、医療資材や人件費の高騰が経営を圧迫。設備更新を自力で賄う余力が乏しく、CFに取り組んだ。
寄付には子どもや元患者の高齢者も名を連ねた。岡本好司院長は「心のこもった寄付をもらった。地域とのつながりが、さらに密になった」と感謝する。
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同院を含め病院のCFの大半を手がける運営大手「READYFOR(レディーフォー)」(東京)によると、医療機関のCF活用は10年ほど前に始まった。地震などの災害や新型コロナの支援策として注目を集め、増加傾向という。
ここ数年は資金確保の一手として導入が広がる。厚生労働省によると、24年度は一般病院の63・3%が赤字。同社の17~25年の支援件数は252件、支援総額は約39億5千万円に上り、担当者は「活用事例が増え、各病院が参考にしやすくなった」と分析する。
25年の目標額の達成率は95%を誇る。担当者によると、寄付者は病院の利用者ら地元住民が大半を占めるという。医療機関は同社から助言を受けて寄付の到達状況や資金の使い道を分かりやすく“見える化”。ホームページの情報を小まめに更新したり、施設の受付窓口にチラシを置いたりと工夫を凝らす。
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資金の使途は多岐にわたる。同社によると、福岡県飯塚市の済生会飯塚嘉穂病院は緩和ケア病棟の庭園を改修し、大雨で浸水被害に遭った同県久留米市の田主丸中央病院は防水壁を新設した。滋賀県の甲賀病院は入院患者から要望があった無料のWi-Fi環境を設ける。同院は「医療機器の購入に予算を優先し、療養環境の整備が後回しになっていた」と明かす。
診療報酬は国で定められ、医療機関は物価高騰に応じて診療費を上げることはできない。26年度の診療報酬改定では、本体部分が3・09%の引き上げと30年ぶりに3%台を超える高水準となったが、中東情勢の緊迫化も資材高騰に拍車をかけており、八幡病院の岡本院長は「改定を上回るペースで物価高が進み、経営の厳しさは変わらない」。
医療政策に詳しい千葉大病院の吉村健佑特任教授は「公的財源は限られており、CFなどの経営努力は積極的にすべきだが、自助努力には限界がある」と指摘。その上で「物価変動を適切に反映する診療報酬制度への見直しや、医療機関の役割に応じた財源配分の最適化が必要だ」と説く。
(梅本邦明)