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未来への新たな一歩。サウジアラビアで世界初の水素燃料マシンによるレースが開催

水素燃料電池車によるレースシリーズ、エクストリームHの初のイベントが開催された。

Extreme H in action

Extreme H in action

写真:: Extreme H

 サウジアラビアの砂漠に聳え立つ、高さ約300mにも及ぶ中生代・ジュラ紀の地層を含む崖”トゥワイク断崖”。この絶景を背に、8台の水素燃料レースカーが並び、FIAエクストリームHワールドカップのグランドファイナルが開催された。

 このマシンは、水素燃料電池を搭載した車両。絶景を作り上げた地球の長い歴史と比べれば、ほんの一瞬の間に人類が築き上げた成果の決勝である。しかし、まだまだその技術は初期段階である。

 決勝は複数台のマシンによるレース方式で行なわれた。そのため、ただマシンのパフォーマンスを示せばいいというわけではない……レースならではの、未知の要素が様々盛り込まれていた。

 優勝したのは、開催国サウジアラビアのチームであるジャミール・モータースポーツ。ドライバーはモリー・テイラーとケビン・ハンセンであった。彼らの勝利は、歴史的にも非常に重要なもの。国民の誇りと高めるだけではなく、サウジアラビアのモータースポーツへの野望が、レースを開催するだけにとどまらず、自分たちが世界の舞台で競い、勝利することへと広がっていることを象徴する一例だと言えよう。

水素:レース界の新たな開拓者

 エクストリームHは、電気自動車によるオフロードレース”エクストリームE”の後継シリーズであり、水素をエネルギー源とするレース・シリーズの初期の一歩と言える。

 エクストリームEは、電動車が過酷なオフロード環境にも耐えられることを証明した。しかしポータブル充電ユニットに依存しなければならず、耐久レースにおけるバッテリー電源の限界を露呈させることにもなった。

 エクストリームHは、水素燃料電池を採用することにより、電気自動車での限界を克服できるかを検証することを目的としている。再生可能な方法で用意された水素を燃料として使用することで、ゼロエミッションという大前提を維持しながら、より迅速な燃料補給と耐久性を実現することを目指している。

 現時点でこのプロジェクトは、画期的な成果を目指すというよりも、”パイロット・プロジェクト”としての役割を担っている。エンジニアや統括団体が、レースのようなプレッシャーのかかる環境で、水素をいかに扱うことができるかを評価するという役目もある。

 このイベントは、モータースポーツと持続可能技術を融合させるという、アレハンドロ・アガクのビジョンの最新形態である。フォーミュラEやエクストリームEの創設者であるアガグは、エクストリームHをスポーツ、イノベーション、そして持続可能性をつなぐ架け橋になると常に位置付けてきた。

Alejandro Agag, Extreme H CEO

Alejandro Agag, Extreme H CEO

Photo by: Jack Hall / PA Media Assignments

 アガグは今回のイベントが終わった後、次のように語った。

「エクストリームHは、モーターレースの新たな開拓者だ。電気自動車、そして持続可能燃料に続き、水素技術に取り組む選手権が必要だった。エクストリームHはまさにその役割を担う、いわばモータースポーツにおける水素の実験場である」

「モータースポーツは水素関連技術の進歩と、水素を持続可能なモビリティ技術として活用することを可能にする役割を果たすことができる。そういうシリーズが必要だったのだ。誰かがそれを担う必要があった」

「我々は新たな挑戦が好き雨で、誰も試したことのないことに挑戦することも好きなのだ。そのためエクストリームHを選んだ。そして今回、初の水素レースが大成功を収めたことで、我々は大きな一歩を踏み出すことができたと確信している」

 このイベントは、世界的に著名な気候科学者であり、エクストリームEの主任科学者でもあるカルロス・ドゥアルテ教授の指導も受けている。持続可能なエネルギー源として水素を強く支持するドゥアルテ教授は、水素を「自然界のエネルギー通貨」であると表現している。彼が参加したことは、このエクストリームHが二酸化炭素排出量ゼロを推し進めていく実験場として、そしてより広範なエネルギー応用への可能性を示すものとして信頼している。

エンジニアリングの革新

 エクストリームHを走るスパーク・レーシング・テクノロジー製のマシン”パイオニア25”は、単なる再発明ではなく進化と言えるだろう。エクストリームEで使われていた”オデッセイ21”のシャシーをベースに、Symbio製燃料電池スタック、水素タンク、そしてオフロードを走るという過酷な環境にも耐えられるように設計された電動モーターを搭載している、ほぼ無音ながら約550馬力を発生。しかも排気ガスも出さない。そして運転席は、車体の中央にシングルシートが配置されている。

 エクストリームHのテクニカルディレクター、マーク・グレインによると、このシートは安全性を重視しており、横転したり衝突した際にも、ドライバーを適切に保護する。水素システムを守るために、この箇所専用のロールケージも備えられている。

 マシンの開発には12ヵ月が費やされ、開発ドライバーと緊密に連携することによって進められた。ドライバーは全員、ライブバルブを備えたツインFOXダンパーは、彼らのフィードバックに基づいて追加された、傑出した機能であると断言している。

レース

 サウジアラビアでのエクストリームH初戦では、先代のエクストリームEで培われたインフラが活用された。イベントの準備には、様々な種目に対応する複数のコース建設、車両をチームに引き渡す前に行なわれた7日間のテスト走行などが含まれていた。

Extreme H in action

Extreme H in action

Photo by: Extreme H

 エクストリームHの持続可能性を考え、観戦客は著しく限定された。観戦できたのはイノベーションと持続可能なモビリティに強い関心を持つパートナー、投資家、そして主要なステークホルダーのみであった。レースの合間には、ホスピタリティテントである”エクスプローラー・ラウンジ”で、「ティッピングポイント」と題されたパネル討論会が開催され、レースカーの開発、水素推進のメカニズム、代替エネルギーに関する幅広い議論が行なわれた。

 サウジアラビアのキッディア市も、計画中のプロジェクトを展示するパビリオンを設置し、強い存在感を示した。

 レースは3日間にわたって行なわれた。1日目はタイムトライアル、2日目はドラッグレース方式の直接対決、そして3日目は複数台のマシンによるレースが行なわれた。この最終日のレースは、4台による予選レースが4回行なわれ、その後8台全てがグリッドに並ぶ、グランドファイナルが行なわれた。全種目にはそれぞれポイントが割り当てられ、この総合得点により最終順位が決定された。

 それぞれのレースは、いずれも異なる見どころがあったが、ドラッグレース方式での直接対決は、地元ファンの間で高い評価を得たようだ。一方で、複数台のマシンによるレースを推す声もあった。中には、イベントを3日から2日に短縮し、さらに複数台のマシンによるレースを増やすことで、レース観戦や試聴体験の両方が向上するのではという声もあった。

 この3日間で、マシンが横転するようなシーンが複数回あった。しかし車両に問題はなく、水素に関する問題にも繋がらなかった。このことは、チームと観客に、水素燃料車両が、レースという極限のストレスにも耐えられるということを印象付けた。

コラボレーションが鍵になる

 エクストリームHが始動したことは、国際的なモータースポーツ統治、現地の専門知識、そして戦略的パートナーシップを網羅したコラボレーションの成果と言える。その中心人物は前出のアガグであり、このミッションを支えたのはFIAであった。FIAはイベントを公認しただけでなく、水素技術がモータースポーツのエコシステムに安全かつ競争力のある形で統合されることを保証するための、規制の枠組みも提供した。

 開催パートナーであるキッディヤ市は、イベントの実現において中心的な役割を果たした。サウジアラビアの将来のエンターテインメント、スポーツ、文化の中心地になると位置付けられているキッディヤ市は、史上初の水素レースに、物理的にも象徴的な舞台を準備した。

Qiddiya City

Qiddiya City

Photo by: Qiddiya Grand Prix

 競技面では、サウジアラビアの自動車二輪車連盟(SAMF)が地元の統括団体として、イベントの調整を促進した。SAMFのハリド・ビン・スルタン・アル・アブドゥーラ・アル・ファイサル王子殿下は、優勝チームにトロフィーを手渡す前に、表彰台から次のように語った。

「キッディヤ市の中心から、我々は今日、世界のモータースポーツ界に新たな、そしてさらに野心的な一章を刻む。FIAエクストリームHワールドカップの開催は、レース界における変革の節目であり、競争、イノベーション、そして持続可能性がいかに手を取り合って前進できるかということを示している。水素を動力源とし、野心によって突き動かされ、未来を見据えた新たな時代を共に祝い、歓迎しようではないか」

今後はどうなる?

 エクストリームHは、まずは中東アフリカ地域での展開を進めていく。その後、中国、日本、韓国、ナミビア、ブラジル、チリ、カナダ、ドイツ、イギリスなど、水素技術が発展しつつある国に事業を拡大していく予定だ。水素に関するインフラに投資している地域に着目することで、エクストリームHは競争力のあるレースと水素技術のデモンストレーションを組み合わせることができる。

 エクストリームHを開催することで、世界のモータースポーツにおける中東地域の重要性がさらに高まるだろう。ジェッダではフォーミュラEが開催され、年明けにはダカール・ラリーも開催される。またバーレーン、サウジアラビア、カタール、アブダビでは、F1も開催されている。

 サウジアラビアにおいては、水素レースが追加されることで、スポーツ、持続可能性、そしてテクノロジーの戦略的融合を強化する。これらは石油依存からの脱却を目指した、同国の経済多様化と、より画期に満ちた野心的な国家の実現を目指す、ビジョン2030の重要な柱である。

 長い長い地球の歴史を刻んだ崖の下で、エクストリームHは人類の野望と自然史を並べ、先進的な工学技術が砂漠という過酷な環境下に耐えられるかどうかを試した。この初戦は、自然界の永続性と、人類のイノベーションの大胆な可能性という、興味深い対比を捉えていた。

 サウジアラビアの砂漠でこの実験を行なうことで、アガグ氏と彼のパートナーたちは、水素レースが単に実現可能なだけでなく、実用的で拡張することも可能であり、世界的に意義のあるものであることを実証した。

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