積み上がる出荷停止のファクス イラン情勢、中小企業の悲鳴が噴出
米国とイスラエルによるイラン攻撃をきっかけとした資材不足が、中小企業を直撃している。原材料がない、工事ができない、ものがつくれない――。そんな悲鳴が噴き出している。
都内のある塗料商社には、ファクスの束が高さ20センチほど積み上がっていた。
「一時的に出荷を見合わせます」「出荷を停止します」。塗料メーカーから連日のように届く。社長は「何枚きたのか数えると苦しくなるので、数えていません」と話す。
この商社では、石油からできるナフサを原料にした塗料、シンナー、防水剤などをメーカーから仕入れ、住宅の建設現場へと送っている。
最初のファクスは金曜の夕方
仕入れが滞ると分かったのは、3月13日だった。金曜の午後5時を過ぎたころ、あるメーカーから届いたファクスに「シンナーの出荷を制限し、価格を75%値上げします」とあったのだ。
土日をはさんで、週明けから適用される。社長は「恐れていたことが始まるかもしれないと思った」と振り返る。
そして、次々に出荷停止を知らせるファクスが届くようになった。
2月末にイラン攻撃がはじまったころ、石油会社にいる知人から「情勢は悪化するかもしれない。備えた方がいい」と言われ、財務に支障がない範囲で仕入れを増やしていた。
ものが少なすぎて、限界
だが、その在庫は減る一方だった。社員とともにホームセンターをめぐったこともあった。だが、日曜大工用の商品ばかりで、住宅の資材としては使えない。
トラックに乗り、塗料メーカーの工場に何度も向かった。メーカーの輸送の手間を少しでも省き、その分、生産を進めてもらえたらと考えた。製品を融通してくれるかもしれないという淡い期待もあった。「空振りでもいいんです。いてもたってもいられない」
16リットル入りの缶を4リットルずつに小分けし、すこしでも多くの現場へと届けてきた。だが、「もはや、ものが少なすぎて効果はのぞめません。限界です」という。
政府の説明「悪いのは民間?」
塗料を送っている現場からは、マンションの大規模修繕工事がストップした、住宅を建てられない、といった声が寄せられる。
22日、仕入れは完全にゼロになった。
相次ぐ受注停止や値上げの動きについて、政府は「供給の目詰まりだ」といい、「必要な(ナフサの)量は確保している」とする。社長は反論する。「買い占めるな、悪いのは民間だ。そう言っていませんか? 生き残るために在庫を確保しようと、私たちは必死です。追い詰められています」
供給不安が広がるなか、とくに懸念されるのが、多くの石油化学製品の原料となる「ナフサ」の不足だ。
帝国データバンクが17日に公表した「ナフサ関連製品」をめぐる動向分析調査によると、集計対象の製造業約15万社の3割にあたる約4万7千社が、ナフサ関連製品の「調達リスク」に直面する恐れがあるという。事業規模別でみると、中小企業が約9割を占めている。
進むも地獄、止まるも地獄
エアコンや風呂、キッチンなどの配水管工事を手がける「サークルテクノス」(東京都杉並区)社長の田崎和人さん(56)は「進むも地獄、止まるも地獄です」と、うめく。
今年1月に契約して施工中だった物件は、配水管が足りずストップしている。ビニールテープやブルーシートなど、あらゆる石油製品が発注先の卸業者から消えているため、注文しても「在庫がない」という返事が返ってくるだけだという。
もともと苦しい判断を迫られていた。物価高のなか、どこまで価格に転嫁していいのか。金利の上昇局面では借り入れもためらわれた。
そこに、イラン情勢の悪化が追い打ちとなった。先の見通しも立たない。「いつまで待ってくださいと、お客様に言えない。このままでは、わたしたちは身動きできぬまま、少しずつ沈んでいくだけです」
経営計画「立てようがない」
印刷会社向けのインク計量装置をつくる「芝橋」(大田区)では、工業用シンナーの不足が深刻だ。
1905年創業の同社は、設計・開発から納入後のメンテナンスまで一貫して手がけるのが強みだ。部品についたインクを洗い流すためにはシンナーが欠かせない。社長の渡辺大さん(52)は「2、3週間前に急に入ってこなくなった」といい、いまある在庫は6月ごろに底をつく見通しだという。
さらに、装置の塗装を発注している協力会社からは、塗料用のシンナーがないため新規受注を止めるという通知があった。同社は4月末に決算期を迎える。渡辺さんは「このままでは新年度の経営計画を立てようがない」と嘆く。
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