以下の告発状は案文です。
告 発 状
東京地方検察庁 殿
2026年 月 日
告発人 別紙目録記載の通り
告発人代理人 弁護士 澤藤統一郎
同 佐藤誠一
同 萩尾健太
同 久保木亮介
同 中川勝之
同 青龍美和子
外 別紙目録記載の通り
告発の趣旨
被告発人鶫(つぐみ)真衣(以下「被告発人鶫」という)、被告発人荒井正芳(以下「被告発人荒井」という)及び被告発人簗(やな)和生(以下「被告発人簗」という)の以下の各行為は、自衛隊法61条(政治的行為禁止)及び第119条(罰条)の共同正犯(刑法60条・65条1項)に該当するので、厳正な処罰を求めて本告発に及ぶ。
告発事実
1 被告発人鶫は、陸上自衛隊中央音楽隊に所属する現役の3等陸曹であるところ、2026年4月12日、東京都港区高輪3丁目所在のグランドプリンスホテル新高輪において開催された第93回自由民主党大会(以下「党大会」という)冒頭の式次第である「国歌斉唱」時に、党大会司会者から「陸自が誇るソプラノ歌手」と紹介されて音楽隊の制服である演奏服着用で登壇し、壇上でマイクを使い、会場の大型スクリーンに映し出された態様で「君が代」を歌唱し、
2 被告発人荒井は、陸上自衛隊の最高位者である陸上幕僚長として陸上自衛隊の部隊を管理し隊員の任務遂行状態を監督すべき立場にある者として、被告発人鶫の党大会における上記態様の「君が代」歌唱を指示し、
3 被告発人簗は、自由民主党の党員であり同党筆頭副幹事長兼広報本部長代理兼報道局長の任にあって党大会実行委員長としてその運営に責任を持つ立場にあるところ、党大会における被告発人鶫の上記態様における「君が代」を歌唱せしめて、
もって、被告発人3者共同して、自衛隊員が特定政党の党大会において自衛隊員であることを誇示する態様での「君が代」歌唱を実現し、特定の政党または特定の内閣を支持するという政治的目的のために被告発人鶫の官職および陸上自衛隊中央音楽隊員としての影響力を利用し、政権与党との癒着を促進する政治的目的のために、その影響力を利用して、自衛隊法第61条が禁じる政治的行為に及んだものである。
関係法令と罰条の引用
自衛隊法61条
隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。
自衛隊法施行令 第86条第1項(政治的目的の定義)
法第61条第1項に規定する政令で定める政治的目的は、次に掲げるものとする。
三号 特定の政党その他の政治的団体を支持し、又はこれに反対すること。
四号 特定の内閣を支持し、又はこれに反対すること。
自衛隊法施行令 第87条(政治的行為の定義)第1項
法第61条第1項に規定する政令で定める政治的行為は、次の各号に掲げるものとする。
一号 政治的目的のために官職、職権その他公私の影響力を利用すること。
同第2項
前項各号に掲げる行為は、次の各号に掲げる場合においても、法第61条第1項に規定する政治的行為となるものとする。
一号 公然又は内密に隊員以外の者と共同して行う場合
三号 勤務時間外において行う場合
自衛隊法第119条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の拘禁刑に処する。
一号 第61条第1項の規定に違反した者
刑法60条(共同正犯) 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
刑法65条1項(真正身分犯)犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功した場合、身分のない者であっても共犯とする。
告発の理由
1 自衛隊法及び同法施行令の規定とその法意
上記のとおり、自衛隊法61条は「隊員は政治的目的のために、選挙権の行使を除くほか、政治的行為をしてはならない」と定めている。
これは、大日本帝国において、旧軍が政治に介入し国を侵略戦争の泥沼に陥れ、破滅に導いた歴史の反省に立ってのものである。日本以外においても、時の政権が軍事力を利用し、あるいは軍が権力を握って軍事独裁政権となり人権を抑圧する例は枚挙にいとまがない。
武力を行使できる実力組織と特定の政党、とりわけ政権党との癒着は、民主主義国家に決してあってはならない。憲法66条2項が「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。」として文民統制を規定しているのも、その実態における軍事組織の政治介入を禁止し、政治的中立性を厳格に図る趣旨によるものである。
自衛隊法施行令(政令)86条は、法61条における「政治的目的」を定義し、その一つに「特定の政党その他の政治的団体を支持」することを挙げている。また、同87条は、禁止される「政治的行為」の一つとして「政治的目的のために官職、職権その他公私の影響力を利用すること」としている。
自衛隊・自衛隊員と政権与党との本件のごとき露骨な癒着が、法の禁じる政治的行為に該当することは自明というべきである。
2 被告発人鶫の責任について
小泉進次郎防衛相は、X(旧ツイッター)に党大会で撮影した自分と被告発人鶫とのツーショットの写真とともに「自民党にとって重要な場で国歌斉唱の大役を担ってくれた」と投稿した(現在は削除)。また、自民党の公式Xは今も、党大会の模様として写真付きで「陸上自衛隊中央音楽隊所属のソプラノ歌手鶫(つぐみ)真衣さんリードによる国歌斉唱です」と宣伝している。
これらの各投稿からも、被告発人鶫が君が代を歌ったことは、自民党の最高議決機関である党大会を成功させるための演出に一役買い、党の宣伝、党勢拡大に協力するものであり、自衛隊員として自民党を支持し、自民党が構成する現内閣を支持する目的をも持った「政治的行為」に当たるものである。
しかも、今回の大会は「自衛隊明記」の改憲方針を掲げたものであった。党大会出席の高市早苗総裁・首相は、「時は来た」として、来年の党大会までに国会での改憲発議のめどを立てたいと表明している。自衛隊員に党大会冒頭で出番を与え、「君が代」を歌唱させることの政治性は常にも増して濃厚で、自衛隊側と自民党側の双方に、自衛隊明記の改憲機運を盛り上げようという共通の意図が存在したことを推認せざるを得ない。
なお、高市早苗首相や小泉進次郎防衛相、被告発人荒井らは、被告発人鶫の自民党大会への参加は職務としてではなく、「私人」として依頼されたもので、自衛隊法にも違反しないと口をそろえている。
しかし、被告発人鶫には、上司である被告発人副隊長も同行していた。さらに、自民党大会の場で、自衛隊音楽隊制服を着用しており、陸上自衛隊中央音楽隊所属と紹介されているのだから、到底私人の資格での登壇・歌唱ではあり得ない。
また、前掲のとおり、自衛隊法施行令87条2項は、以下の通りの脱法防止規定となっている。
「前項各号に掲げる行為は、次の各号に掲げる場合においても、法第61条第1項に規定する政治的行為となるものとする。」
① 公然又は内密に隊員以外の者と共同して行う場合
③ 勤務時間外において行う場合
したがって、被告発人鶫が私人として隊員以外の自民党幹部らと勤務時間外において行動しても、61条1項違反は免れない。
3 被告発人荒井の責任について
自衛官服装規則第13条の2には以下の通り規定されている。
「音楽隊員である自衛官は、国際的儀礼、自衛隊の儀式その他の場合において、陸上自衛官にあつては陸上幕僚長が、海上自衛官にあつては海上幕僚長が、航空自衛官にあつては航空幕僚長が演奏のため特に必要があると認めて指示するとき、通常演奏服装をするものとする。」
小泉防衛大臣は、被告発人鶫の君が代斉唱は、被告発人イベント会社の出演依頼を受け、防衛省内で判断したと述べた。そのことからすれば、少なくとも陸上幕僚長である被告発人荒井が「演奏のため特に必要があると認めて指示」したものと考えられる。
この点について、被告発人荒井は、2026年4月3日に担当部署から報告があり被告発人鶫の出演を認める判断をした旨、同月14日の定例記者会見で説明した。その際、被告発人荒井は、被告発人鶫が演奏服を着用して出演することは自分の指示ではないと述べたが、その真偽は捜査される必要がある。
いずれにしても、被告発人鶫の自民党大会出演を承認した以上、被告発人荒井は、被告発人鶫と共同して特定の政党または特定の内閣を支持するという政治的目的のために3等陸曹の官職および陸上自衛隊中央音楽隊員としての影響力を利用したものである。
4 被告発人簗の責任について
2026年4月14日の自由民主党萩生田幹事長代行の記者会見での発言によれば、自民党大会における自衛隊員の歌唱については、党大会実行委員会において企画を進め、最終的には党大会運営委員会で協議をし決定をした、とのことである。
よって、党大会実行委員長である被告発人簗が、党大会の運営に責任をもつべき立場にある者として、被告発人鶫、同荒井らと共同して自民党大会における自衛隊員の君が代歌唱という政治的行為をなさしめた責任を免れない。
5 本件告発事件の全体像について
本件告発にかかる自衛隊法違反事件の本質は、事実上の軍事組織である自衛隊と政権与党である自民党との癒着にある。その癒着の全面に立つことを余儀なくされたのは被告発人鶫であるが、その舞台を整えたのは、自民党側においては被告発人簗であり、自衛隊側においては、被告発人鶫の直属上司として同被告発人に同行した音楽隊副隊長(氏名不詳)であり、最高幹部としての被告発人荒井である。
この癒着構造は、厳正な捜査によって、余すところなく明らかにされなければならない。そのことは、憲法と民主主義の要請でもある。
6 自民党ならびに防衛省幹部の責任について
本件被告発行為は、高市早苗首相や小泉進次郎防衛相をはじめとする多数の公務員の面前で行われた。被告発人簗も自民党公認の衆議院議員でもある。
刑事訴訟法第239条は、公務員に職務中に犯罪を発見した場合告発義務を課している。この告発義務は罰則の定めこそないものの、犯罪を防止するための重要な制度と心得なければならない。
にもかかわらず、告発義務を履行するどころか、弁明に終始する自民党ならびに防衛省幹部の姿勢は見苦しい。
告発人らは、本件の全容を明らかにし、事後の首相や防衛省幹部の弁明の失当までを含めた厳重な捜査を遂げられるよう期待する。
証拠方法 別紙のとおり
被告発人 別紙のとおり